無題
スタートしてから2時間が経過。日も西に沈んだころ、屋上から夕日を見る男がいる。
「こんなハッタリ、俺でも使えねぇな・・・」
ハッタリの使い手、平はここでも一人で嘯き、自らの気持ちを高めようとしていた。
第4ステージ、ビルの屋上に設けられた舞台で辺りを見回すが、一面には海しか見えない
「・・・っほんとに、洒落にならねぇよ。どうするかな…」
屋上から地面を見ると、飛び降りれば楽に死ねるであろう高さである。
「・・・一条は俺が殺したようなもんだからな。でもあの時、俺が油断していりゃ、
俺がああなっていたわけだし、俺は悪くないよな。」
まさか、自分が痛めつけた一条が、ある意味自分の身代わりになって殺される。
予想だにしていなかった展開に平は自己の責任、自己の正当化に揺れ続けていた。
そう思うと、自然とこのビルの屋上に足を運んでいたのだ。
「このまま、ここにいりゃ、みんな勝手に死んでいってくれねぇかな」
もはや無気力になってしまった平は、起きるはずのない奇跡に身を委ねようとした。
その時、階段をかけ上がってくる音が聞こえてきた。とっさに平は鉄パイプを手に取り、身構えた。
「・・・平か」
そう言葉を発したのは木下である。
「・・・なんだよ、えらくガッカリした様子だな。俺じゃ不満だってのか?」
「別に、そんなわけじゃねぇよ・・・」
ここで平はいつもの悪い癖が出てしまう。人を挑発するという癖が・・・
「何で、息が切れる程の勢いでかけあがってきたんだよ」
「・・・人影が見えたから来ただけだ。特別意味なんてない」
「まあ、お前は切れたら強暴だけど、普段は結構人に依存しているところもあるしな。」
「なんだと?」
「どうせ人影が見えた瞬間、お前の可愛い西村か沢口とでも思ったんだろ。
不安感を発散しようとあいつ等を探してたんだろ?」
その言葉を聞いた木下は、平を睨み付けた
「おい、いい加減にしゃべんのやめろ。殺すぞ。」
平は挑発に乗った木下を見て、笑みを浮かべながらもう一言発した
「・・・かかってこいよ。お前みたいに感情をコントロール出来ない餓鬼に俺は負けんぞ。」
「平ぁ!!調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
木下はチェーンを片手に平へと向かっていった。
平がわざわざ木下を挑発したのは、人を殺すことを自己防衛の為と正当化したかったからである。
木下は自分を殺す気で向かってきている。
自分は生きるためにこの危機を回避しなければならない。つまり木下を殺さざるを得ない。
自分が今から木下を殺す事は仕方のないことなのだ、平は自分にそう言い聞かせた
平は木下が振り回すチャーンを余裕を持ってかわす。
「おらおら、そんなんじゃ、あたんねぇぞ」
「うるせぇ!余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!」
そういって木下が振りかざしたチェーンは平の持つ鉄パイプに絡まった。
『チャンス!』と木下はチェーンを引っ張り平の手から鉄パイプを奪った。
その木下が相手の武器を取り上げ油断した一瞬、平が距離を詰める。
「勝負は頭を使わなきゃなぁ」
ポケットに忍ばせていたメリケンサックを右手にはめ、木下の顔面に強烈なパンチを食らわせた。
倒れた木下に平は馬乗りになり、メリケンサックをはめた右手で2、3度殴りつけた。
木下の鼻は折れてしまったのか、血が噴出して止まらない。
それを見た平は殴るのを躊躇した。
(…このままほっといても出血多量で死ぬんじゃないのか?)
平がそう躊躇った瞬間、木下は自分の側にある鉄パイプを拾い、力を振り絞って平を殴りつけた。
平は自分の側頭部を押さえながらしゃがみ込んでいる。
木下はゆっくり起き上がり、鉄パイプを持ったままへ平の傍へと歩き近づく。
「・・・ハァ、何、殺す、事にビビって、んだよ・・・ハァ、
俺は・・・俺は・・・俺はお前を殺すことになんてビビってねぇぞ!!」
木下はそう叫ぶと、平の背中に鉄パイプを叩き込む。
そしてうつ伏せになった平の背中と後頭部を何度も何度も殴りつけた。
数分後、屋上には平の血であるのか、木下の血であるのか、
とにかく夥しい鮮血がほどばしり、一面が赤く染まっていた
「ハァ・・・殴られたせいで、左目がよくみえねぇ・・・、鼻も・・・折れちまったみたいだし・・・やべぇな・・・クソ」
そういった後、木下は自然と笑みを浮かべていた。
「・・・もう俺は怖いもんねぇぞ・・・、殺してやるよ、全員。コイツと同じようにな」
木下は平の亡骸を抱え、屋上の柵の方へと近づいた。
「記念すべき、木下様の獲物一号だ・・・華々しく葬ってやるよ!」
そういい、木下は亡骸を空中へと投げた。
木下忠、凶暴であり、切れたら何をするかわからない男。
この生死を賭けた状況で、完全に切れてしまった彼がこれから行うことは単純明快。
自分以外の全員を殺す。狂戦士となった彼は次なる獲物を探すため
ひしゃげた音を聞き終えると、階段をゆっくりと降りていった
【平清文 死亡】
【残り14人】
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