正義の焼野原






 剣崎天利の眼前には焼野原が広がっていて、その中心には魔王が斃れていた。
 天利――正義のヒーロー・ユースティティアとして活動する彼女は、姿こそ擦過傷程度なものの、
 いま身体の内部に重大なダメージを受け、その装束は破けて消し飛び、肩で息をしていた。

(つ……つよかった……魔王……)

 焼野原の中心にいる魔王は、天利の百パーセントの一撃を受けてなおその身体を大地に残していた。
 戦闘力1億と自己概算している天利よりも、もしかしたら強かったかもしれない。
 ギリギリの戦いで、ギリギリの勝利だった。
 力に目覚め、それを正義のために使ってきてから十数年、これほどの相手と戦ったのは初めてだった。
 魔王。
 焼野原塵。
 間違いなく、最強の敵であったと断言できる。

(――でも)

(これで、よかったの?)

 それでも、それなのに、天利は何かを間違えてしまったのではないかという気分だった。
 魔王がいて、相手は自分を魔王だと言って。
 一見すれば横暴にもみえる行動をとって他者を脅かしていた。
 だから天利は魔王を悪と断じ、戦った。
 闘ったが。
 天利の目は、愛を求める魔王のその意思には、最期まで「悪意」を見つけることができなかった。

(もしかしたら私は――倒してはいけない人を倒してしまったんじゃ――)

 あまりの威圧溢れるオーラに反射的に戦ってしまったと言ってもいい。
 思えば戦いの中、向こうは天利を殺そうとはしていなかった気もする。
 やはり間違えたのではないか。倒すべき敵を見誤ったのではないか。
 そう感じながらも天利の意識はゆっくりと沈んでいった。無敵のはずの彼女に限界がきたのだ。

 土に倒れるどさりという音と共に放送が流れる。

 その中で――ほとんど全裸といってもいい彼女に、コートをかぶせる男の姿があった。

「……レディーがこんなところで服もつけずにどうしたというんだい」

 いつものひょうきんさを失ったその男の目は、眼前で朽ちていく魔王に釘付けになっていた。

「塵……」

 魔界No.2の使い手、ゴルゴンさんはおちゃらけているようでいて頭もいい。
 人の実力を見極める力もあった。彼にはここで何が起きたのかを理解するのは容易かった。
 だからこそ信じられなかったし、彼らしくない声で呟きもしよう。
 しかし彼に感傷に浸る時間はあまりなかった。物語はすでにブレーキが壊れるほどに加速していた。
 コートに包んだ剣崎天利をゴルゴンが抱きかかえると同時に、背後からせっぱつまった美少女の声がした。
 ゴルゴンが振り向くと、そこには手負いのウサギがいた。

「――ねぇお願い! 止めて! 天地善次郎を……あいつを止めて!」


【右上エリア/1日目/真昼】

【剣崎天利@レディ・ジャスティス】
[状態]衣服3%、気絶中
[所持]ゴルゴンさんの上着に包まれている
[思考]正義を間違えた…?

【ゴルゴンさん@恋のキューピッド焼野原塵】
[状態]パンツのみ
[所持]基本支給品一式、塩おにぎり
[思考]塵…

【ユキ@アイアンナイト】
[状態]手負い
[所持]基本支給品一式、ハイファイラベル「RF」
[思考]天地善次郎を止めないと…



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