人の不幸は蜜の味。人の幸福砒素の味
波打ち際に一人の少年がいた。
「……ハ……ハハ……」
その少年――仲丸由紀彦は殺し合いの場に呼び込まれ、ただ呆然と笑っていた。
「……ハ……ハハ……ハハハ……」
彼は葵学園二年B組に在籍する男子高校生である。
故にこのような状況に呼び込まれ平静でいられるはずがなかった。
「……ハハ……ハハハハハハハハハハハハ!!」
だから壊れたように笑う。
「俺の天下がキターーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
彼の叫びが辺りに木霊した。
仲丸は小鹿のように臆病に震えていたのではない。湧きでたチャンスを感じ取り、歓喜に打ち震えていたのだ。
凶暴な人物ならば息をするように人を殺すだろう。
正義感の強い人物ならば殺し合いを止めるだろう。
臆病な人物ならばひたすら死から逃げ惑うだろう。
だが、どの人物像も仲丸由紀彦には当て嵌まらなかった。
仲丸由紀彦はロクデナシ揃いの2-Bの中でもキワモノであり、その思考は一般の高校生のものとは多少逸脱している。
故にこの状況下の最大の利用方法を考え、結論を出した。
フィブリゾに取り入り自分だけおいしい思いをしようと。
無論自身はフィブリゾの情報など何一つ持ちあわせていない。
だが、あのフロアでのやり取りと強大な魔力から異世界の魔王かなにかだとは推測できた。
ならばフィブリゾに取り入り、配下になることが出来れば甘い汁を吸えるはずだ。うまくすれば自分だけの帝国を持つことも夢ではないだろう。
とはいえ、手下にして下さいといったところで相手にもされないことは簡単に予想できた。
ならば配下になるのに必要なことは何か?
それは優秀さを示すことである。
そのための手段としてもっとも分かりやすいことは果たしてなんだろうか?
盗聴器か何かが仕掛けられているであろう首輪に自己PRをすることか?
それほど簡単に信じては貰えないだろう。
ならば信じさせるにはどうすればいいか?
それは一番使える部下であることを示すことだ。
一番優秀な人材だと思わせるには?
もっとも分かりやすい手段は、優勝することだ。
(つーても、二人ぐらいになるまで隠れてるだけってわけにもいかんなぁ)
とはいえ逃げ回るだけの臆病者など必要だとは思えない。真に欲するは有能な手駒だ。
優勝するまで最後まで果敢に戦い、策謀を巡らす知恵を示せば配下として認められるはずだ。さらに自分から殺し合いを助長させれば完璧である。
フィブリゾは殺し合いをさせるためにこの場に数十人もの人間を呼び込んだのである。
殺し合いが加速することはフィブリゾにとっては喜ばしいことだろう。
さらに、あの女魔法使いの首を手土産に出来れば万々歳である。
自分の魔法の技術と身体能力ならば、ベヒーモスのような余程の相手でない限りは力ずくで勝つことは雑作でもなく
力を打ち破るための陰謀を巡らす知恵もある、やってやれないこともない。支給品のことも考えれば無敵と言ってもいいだろう。
「クックックッ、大当たりだぜ」
仲丸は正面を見る。そこには鋼の巨人が佇んでいた。
その2m半程の巨人はパワード・シンクロ・プロテクタと呼ばれ、搭乗者の動作を増幅し外骨格に伝え忠実にトレースする陸戦兵器である。
陸戦兵器故に、飛行能力こそないが大出力の推進装置があるために跳躍を行うことができ、
又背後にマウントされているPSP専用の長銃身ライフル『ドラゴンバスター』は単発式であるため速射性には欠けるが作動不良は少なく
人体ならば簡単に粉砕できるほどの威力が備わっており、強力な支給品を引き当てたと言えるだろう。とはいえ、完全にものにするのには練習が必要である。
なにせ車の運転すらしたことがないのだ。富野作品によく出てくるNTでもない以上はうまく動かせるとは思えない。
「とりあえずはのんびりやるとするか」
そう呟くと、仲丸由紀彦は高校生とは思えぬ邪悪な笑み浮かべながらPSPの前面ハッチを開け、中に乗り込んだ。
【F-1/一日目/朝】
【仲丸由紀彦@まぶらほ】
[状態]:健康
[装備]:PSP@ザ・サード、 ドラゴンバスター(20/20)@ザ・サード
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:優勝してフィブリゾに取り入る。
1:PSPの操縦に慣れる。
2:獲物を探す。
3:殺し合いを助長させる。
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