昼ねマスター動く?
猫背の長身痩躯。黒髪に黒の瞳。
一見何処にでも居そうな青年。
しかし彼の表情は、この殺し合いの場にあまりにもそぐわない。
緊張感も無ければ焦燥感も無い。かといって、悲壮感がある訳でもないし、殺人に走る狂気も見受けられない。
あくまでもだるく、面倒くさそうで、その上寝むそう。
そう彼の表情からはやる気がまったく感じられなかった。
そこにベットと枕さえあれば、何時でも夢の世界に旅立てる程に。
「・・・で、こんな物で俺に一体どうしろと・・・」
一人の青年――ライナは疲れた声で呟いた。
ライナはこの場所に送られてから、まず自分のザックの中身をあさった。
単純に眠いから、枕でも入ってないかと期待してのことだ。
・・・ある意味現実逃避でもあるが。
当然の如く、期待に反して枕など入っていなかった。
ただし、出て来たものは、ライナの想像を絶する物だった。
一つ目の支給品、それはかなりいや、確実に見覚えのあるものだった。
共に旅をしてきた、自分の相棒と呼べる剣士――フェリスの愛用していた茶道具一式。
二つ目の支給品もやはり見覚えがあった。
ライナ自身もフェリスによって、何度も買いに行かされた、ウィニットだんご店『おすすめ詰め合わせセット四番』だ。
それも一箱ではない、その数約百という、どうやってこのザックの中に入っていたのか不思議な程の量が入っていたのだ。
「・・・まあ、フェリスがいたら喜びそうだけどよ」
ライナは、黙々と嬉しそうにだんごを食べるフェリスの姿が、容易に想像できた。
「・・・で、こんな物で俺に一体どうしろと・・・」
自分の支給品に眼を移し呟く。
殺し合いの場に放り出されたのだから、剣なり毒薬なり戦闘に使えるものが支給されるのが普通だ。
しかし、ライナに支給されたのは、茶道具一式とだんごセット×100。
「ありえねぇぇ、まじでありえねぇぇぇぇぇぇぇ!! なんで殺し合いで武器が支給されないの? いや・・・真面目に支給されてもそれはそれで困るけど」
いわゆる外れ(誰かにとっては大当たり?)と言うやつである。
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「くそっ・・・フィブリゾだっけ、武器を支給する気がないなら、せめて高級ベッドと安眠枕
を支給しろよな。それならどこでもぐっすり眠れるのによぉ」
もともと少ないやる気が、急激に無くなっていくのをライナは感じた。
「寝るか・・・」
そう言うやいなや、ゴロンと横になり瞳を閉じる。
こんな時でも寝ようとする、彼の睡眠欲はある意味異常ともいえた。
瞳を閉じて1秒・・・2秒・・・
いつもならすぐさま夢の世界に旅立てるが、なぜか彼は眠る事が出来なかった。
「・・・だめだ、気になって眠れやしねぇ」
参加者に一堂に集まったあの場所には、シオンやフェリス、ミルクさえいた。
あと、見覚えのある赤毛の筋肉馬鹿もいた様な気がした。
四人とも、そう簡単に殺される様な人間ではない。
そんな事はとっくに判ってる。
それなのに不安が付きまとい、離れない。
仕方が無いのでザックをあさり、名簿を取り出す。
「大体、こんな殺し合いに本気で乗る様な馬鹿が・・・」
いた。
ライナは名簿の中から、その名前を見つけた。
ミラン・フロワードの名前を。
ミラン・フロワード。その男と出会ったのは、ネルファという国を訪れた時の事だ。
ちょっとした経緯から、この国の孤児院で世話になっていたある晩の事だ。
突如現れたミランは、その孤児院を仕切っている青年が邪魔になると言う理由で、青年を頼る子供達諸共、皆殺しにしようとしたのだ。
その時は、フェリスと二人がかりで何とか撃退したのだが・・・
次、戦う事になったら勝てる保障など何処にも無く、むしろ負ける確率の方が高い。
いや、フェリスの居ない現状では、勝ち目すらない。
当然、フェリス達が一人で戦っても勝てる相手ではない。
あの男なら、この殺し合いに乗るだろう。
もし、あいつとフェリス達が遭遇したら…
殺される
フェリスが、シオンが、ミルクがミラン・フロワードに殺される。
その光景をライナは簡単に想像でき・・・
それを、首を思いっきり横に振ることで打ち消した。
「えぇっと、もしかして島中歩き回ってフェリス達を探す、そんな面倒臭い事しなきゃなんないの? ただでさえ、シオンの馬鹿に付き合わされて、5日間徹夜で事務仕事した後なのに?」
面倒臭い事は嫌いだ。
できればこのまま昼寝でもしていたい。
でも
フェリスが死ぬ。
シオンが死ぬ。
ミルクが死ぬ。
それは面倒臭い事よりも、もっと嫌だった。
ザックから地図を取り出し、広げる。
現在地を確認して、人の集まりそうな所を探す。
一番近いのはG−5の町。
先に見える森の、さらに向こう側だ。
「俺が行くまで死なないでくれよ・・・」
そしてライナは歩き出した。
ライナは知らない。
ミランがシオンの部下である事を。
すでに、ミランがシオンを生き残らせる為に、行動を開始している事を。
【E‐5/平原/一日目/朝】
【ライナ・リュート@伝説の勇者の伝説】
[状態]:睡眠不足、疲労、眠い、ダルイ、面倒臭い
[装備]:なし。
[道具]:支給品一式。だんごセット(100/100) @伝説の勇者の伝説
茶道具一式@伝説の勇者の伝説
[思考]:
基本:シオン達に探し出す。
1:シオン達を探しだして合流する。
2:ミランを警戒する。
3:安眠枕と高給ベットで眠りたい。
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