無題






溜息しか出なかった、どうしてここに居るんだろうという声の代わりに溜息を量産していたようにも見えた。
集められたアーティストのほとんどは大ヒットしたりTVにもたくさん出演してシングルも常にTOP10ないし20に入っているアーティスト。
…自分は自らTV出演も断ってきたし、売れたといえば目覚ましテレビのチャンスぐらい。
今はシングルの売上も四桁後半行けば良いと言う所、そんな自分を連れてきて殺し合いをさせてなんになるのだろうか?
有名アーティストを葬り去る為?単なる気まぐれ?
「…はぁ、なんで私なんだろう?」
考えれば考えるほど閣下の考えが分からなくなってくる。
「考えても仕方ないかぁ…そういえば、何が入っているんだろう?」
自分のデイパックはやたら大きく、重かった。
ひょっとすると人が簡単に殺せる兵器でも入ってるかもしれない、恐る恐るその中身を見る。
細長いケース、兵器でも入っているかもしれないという考えが再び過ぎる。
ゆっくりと取り出し、唾を飲み込みながらケースを開ける。
中にはまったく人殺しとは関係ない、寧ろ音楽を続けろといわんばかりのものだった。

「シン…セサイザー?」
規則正しく並ぶ白と黒の鍵盤を見つめる、目を擦ってみるがどうやら幻ではないようだ。
詳しく探せば、フットスイッチや電源アダプターまで入っている。
…電気が無いので音は出ないが。その場に座り込み、鍵盤を弾きながら小さく歌った。
「変わり続ける都会の喧騒に 足を取られてまた一つ諦めた
 住み辛くしたのは 自分たちの責任…」
ふと、歌うのをやめる。自然ともう一つ溜息が出る。
「住み辛くしたのは自分たちの責任、かぁ…」
デーモンにとって今の邦楽界は腐った邦楽なのである、彼にとって住み辛かった場所。
ならば、その責任がある邦楽界に生きる者が今回の殺し合いに参加しなければならないのかもしれない。
…当然のことが、今繰り広げられているのかもしれない。

「…間違ってる、やっぱり間違ってる。責任はあるかもしれない。
 でもたとえ売れなかったとしても。腐っていたとしても。ずっと歌手として生きていきたい。
 こんなところで死にたくは…ない!」
キーボードをケースに仕舞い、立ちあがる。
「…証明しよう、まだ歌える、まだ書ける事を。
 そして、ここから逃げて大阪に…GIZAに帰ろう」
決めた、自分の中でたった一つ。それでも大きな事を一つ決めた。
できるだけ多くの人間と、この場所を抜け出し。歌手活動を続ける。
それが、彼女の願い。否、彼女のすることだった。
「…歌を作れることを証明するには楽譜が欲しい…かな?
 あとキーボードの音を出すために発電機も欲しいしアンプも…。
 とりあえず人が居そうな場所を目指そっか」
僅かな希望と、大きな決意を抱いて。彼女は生き残ることを選んだ。
それだけ、たったそれだけだが。大きく、堅い決意。

【13番 小松未歩】
[現在地]:立島海岸
[状態]:健康
[装備]:ヤマハ S03 SL(シンセサイザー ハードケース、スタンド、アダプタ付き)
[道具]:フットスイッチ、フットコントローラー、支給品一式
[思考]:1.ゲームからの脱出するため協力者を探す、他の参加者に会う為移動
     2.キーボードアンプ、発電機、白紙の楽譜が欲しい
     3.まだ歌を作れることを証明したい

ヤマハ S03 SLについて。
Sシリーズのプロクオリティサウンドを継承しながらもハイコストパフォーマンスを実現したS03のシルバーカラーモデル。
初心者にも判りやすい、機能満載の61鍵モデル。
スペック
■シンセサイザー、色:シルバー
■鍵盤:61鍵(イニシャルタッチ)
■音源方式:AWM2
■最大同時発音数:64音
■マルチティンバー数:16パート
■エフェクト:リバーブ×11/コーラス×11/バリエーション×42
■コントローラー:ピッチベンドホイール、モジュレーションホイール、オクターブアップ/ダウン
■接続端子:標準フォーンアウトプット(L/R)、ヘッドフォン(標準ステレオフォーン)、フットスイッチ、フットコントローラー、MIDI IN/OUT/THRU、TO HOST、DCイン
■寸法・重量:976W×87H×285Dmm、6kg



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