無題
「…何でオレが…。よくわかんねぇな。」
そう呟くと藤原基央は頭上にそびえる灯台を見た。
ここに閉じこもって禁止エリアで爆死するのも悪い物ではないかもしれない。
彼の手に握られた参加者名簿。親交のあるアーティストは誰一人としていない。
強いて言えば、レコード会社の先輩である桜井和寿のみか。
あの人のことだから何があっても生き残りたがっていそうだけど
手首には如何する事も出来ないため何となく付けてみた手錠がぶら下がってる
…寂しい。
さっきは爆死も考えてみたがこんな所で友人にも親戚にも会わず死ぬなんて真っ平だ。
やりたい事は山のように残ってるし、作ってたアルバムも完成していない。
だけど、俺には人を殺せないだろうな。武器に恵まれていたとしても。
それだけの精神力がないことなど彼は最初からわかってた。
どうせそれなら万が一生き残っても目を閉じればきっとこの戦場がよみがえってくる。
それによって狂って病院に運ばれてそのまま死ぬ。
……生き残ってもそんな未来しか想像できない。考えてみただけで背筋が凍る。
そんな状態じゃあ、やりたい事も出来ないし、友人や親戚には会えない。
ならば、どうする?
ここで、野垂れ死にする?
いっそ生き残りそうな人についていって、
俺のことを覚えていてもらう?
「どうしたのですか?」
独特の艶を含んだ声に彼は地面を見つめていた瞳を顔ごと上げる。
テレビや雑誌で見たことがある有名なシンガー。親交はないが、会釈くらいならした事がある…はず。
手には鎌みたいな物を握っている。椎名林檎だ。
「…無謀っすね。オレがやる気だったらどうするつもりだったんですか?」
「その時は藤原君には問答無用で死んでもらいます。」
首に少しの痛みと生暖かく冷たい感じが伝わる。刃でも当てられたのだろうか。
それよりも彼女が自分の名前を知ってた事に驚いた。
オレの知り合いにこの人の友達がいたからか、オレのバンド自体がかなり有名だからか。
「まあ、無駄な殺生はいたしませんけど。」その感触はすぐに離れた。
先輩とも言える彼女を見て彼はこれからの方針を固めつつあった。
「…あなたなら、生き残れるような気がする。」
「それは褒め言葉かしら?それにそう言うという事は貴方に生き残る意思は無いの?」
彼女の思考回路は完璧で、口調はそこらの殺人鬼より残酷で甘かった。
ふと椎名の目線が彼の手首に移る。銀色の鎖と輪が目に入る。
彼女は、妖しげに、笑った。
【26番 藤原基央(BUMP OF CHICKEN)】
[状態]:首から少量の出血
[装備]:特に無し
[道具]:手錠、荷物
[思考]:1. 生き残らない
2. 勝者になりうる人間についていく
【16番 椎名林檎(東京事変)】
[状態]:健康
[装備]:鎌
[道具]:荷物
[思考]:ゲームに乗る?
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