無題






「はぁ〜、わしも歳かのぉ・・・。まだ1時間も歩いとらんのにぶち疲れたわ。」
昭仁の声が静かな森に虚しく響いた。昔の自分なら1日中歩き回っても平気なだけの体力はあった気がする、と今の自分に多少の自己嫌悪を抱きつつ静かな森の中を歩く。
すると、自分の置かれている状況が嫌でも頭をよぎる・・・。(一刻も早く仲間を見付け、裏切り、武器を奪わなければ・・・このままでは自分の身を守れない・・・)
「とりあえず、森に入ってみたけども・・・わしにそんな事できるんかの〜・・・」
早朝だというのに薄暗い森の空気でネガティブになった昭仁の口からは弱音が漏れる。
「あ〜〜!!こんな事じゃ優勝するんは無理じゃ!!とりあえずひと休みして頭冷やすかのう・・・」

昭仁はふぅ、とため息を吐くと近くにあった大木の根元に座り、リュックから水を出し口に含んだ。
鼻歌を歌いながら地図を見ていると、ガサッ・・・と葉の擦れる音が聞こえた。


「・・・?」

ガサガサ!
風にしては音が大きい・・・。昭仁の顔からみるみる血の気が退く。
(やばい・・・今襲われたら何もできん・・・!)
昭仁はとりあえず近くに落ちていた木の棒を手に取り、警戒態勢に入る。
(相手が銃を持っていたらどうする・・・?こんな棒じゃ勝てるわけがない・・・!)
そう思った途端、昭仁の足がガクガクと震えはじめる。
(くそ・・・・・・恐い・・・・!)昭仁は初めて自分がどれだけ危険な状況下に居るかを悟った。


だが、次の瞬間木の影から出てきた物を見ると、昭仁は気の抜けたような声を上げた。
「なんじゃぁ〜!狸かぁ・・・驚かさんでよぉ〜〜〜!!!」
ヘラヘラと笑いながら狸に向かって手に持っていた木の棒を投げた。
「ビックリするけぇお前はどっか行っとれ」
足はまだ震えている。
「わしって結構ビビリなんかのぅ・・・」
先程驚いて落としてしまったリュックを拾い上げ、散らばっていた中身を一つずつその中に戻していると



ドスっ!


「!!?」


鈍い音が響く。次の瞬間昭仁の肩からは真っ赤な血が流れて始めていた。





「なんだ♪結構楽勝じゃん♪♪」
先程大塚愛の最後を見た桜井は、人を殺すことをゲームとでも考えているような口振りでいた。
「さて、次はどうしようかな・・・。そろそろ中ボスレベルと戦いたいんだけど♪」

森の中をすたすたと歩いていると、ガサガサと誰かが葉の中を歩く音が聞こえた。
「よっしゃ!次のターゲット発見♪」
音を立てないよう慎重に音のする方へ近づくと、そこにはポルノグラフィティヴォーカルの岡野昭仁がいた。
「なるほど・・・手強そうだな。」
しかし、しばらく様子を見ていた桜井は昭仁の警戒心のなさを見て逆に警戒していた。何か凄い武器を持っているのでは、という考えが抜けない。
(しかたない。もう少し様子を見るか・・・)
ある程度の距離を保ちながら後をつける。しばらくして、急に何か叫んだと思うと昭仁は大きな木の下に腰を下ろした。
(座ったのか・・・?ここからじゃ何してるかよく見えないな・・・)
桜井がもっと状況を把握しやすい場所に移動しようとしたその時、音を立てないように注意していたにもかかわらず、ガサッ!とかなり大きな音を立ててしまった。
その瞬間、昭仁の雰囲気が変わった。かなり警戒している。
しまった・・・気付かれたか・・・。

桜井が次の作戦を考えながら昭仁を見ていると、自分が居る方とは反対側の林から、小さな狸が飛び出してきた。
それを見た昭仁は驚いたのか手に持っていたリュックを落とした。開いていたのだろう。落ちた衝撃で中身がこぼれ落ちる。
(ん?あれは・・・レモン・・・?ぷぷっ!昭仁君の武器は檸檬だったわけね)
さらに都合のいいことに、昭仁は音の正体が狸とわかって安心したのか、持っていた木の棒を狸に投げ付けた。
ふふ・・・どうやら神は完全に僕に味方したらしい。





ドクドクと肩から血が流れる。

一瞬何が起こったかわからなかった昭仁は、目の前で笑っている人物の顔を見て自分の置かれている状況を理解すると同時に、言い表わせないほどのショックを受けていた。
「さっ桜井さん・・・!?」
桜井は完全に無視し、昭仁の首を掴んだかと思うと近くの木に押さえ付けた。
「ぐっ・・・」
(やばい・・・!やばいやばいやばい!!わしはここで死ぬんか・・・!?)
そう考えている間にも桜井の手は昭仁の首を締め付ける。
(嫌じゃ!!わしは優勝してまた音楽をするんじゃけぇ・・・!)
昭仁は右手に渾身の力を込めると、桜井の顔を思い切り殴った。
「ぐっ!!痛いなぁ♪さすが昭仁君♪」
渾身の力を込めた右ストレートのはずが、桜井にはあまり効いていないようだ。それもそのはず、とっさに利き腕を使った昭仁だったが、右肩には桜井のナイフが深く刺さっており、その痛みで威力は半減していた。
桜井は口だけで笑いながら、昭仁の肩に刺さっていたナイフを抜くと、とどめを刺そうと胸に狙いを定めた。「ごめんね♪桑田さん以外は殺すことに決めてるんだ♪」
「・・・っ!!」
(くそっ!)昭仁は何か無いかと辺りを見渡す。その時、自分の手元に転がっていたある物の存在に気付く。「・・・!!!!」
とっさにある物を掴んだ昭仁は精一杯の力をこめると、それに爪を立てた。
「うわっ!!!!」

役立たずだと思っていた檸檬は、立派に昭仁を救ってくれた。偶然にも檸檬の汁が桜井の目に入り、その動きを止めたのだ。
桜井を見ると、目に片手を当て藻掻いている。
(今じゃ!!)
昭仁は未だなお桜井の手に握られていたナイフを蹴り飛ばした。・・・と同時に後悔する。
「・・・あ!!ナイフを奪えば良かったんじゃ・・・!」
昭仁は自分の行動を恨んだ。
「くそっ・・・!どこじゃ・・・どこいったんじゃ!」
ナイフが落ちたであろう場所をくまなく探すがナイフが出てくる気配はない。必死で探していた昭仁は、後ろから近づいてきている黒い影に気付かなかった。
ドガッ!!

「うぅ・・・」(頭がくらくらする。)
そう思うと同時に、昭仁は地面に吸い込まれるように倒れこんでいた。
「あ〜ぁ。まだ目が痛いんだけど・・・でも、いいもの拾ったんだよねぇ♪」
どうやら桜井は、先程昭仁が狸に投げ付けた木の棒を発見したようだ。桜井はその棒で昭仁を殴り続ける。
今にも無くなりそうな意識の中、昭仁の頭に浮かぶのは、三人で音楽をしていた時のことだった。(あの時は、大変じゃったけど、本間楽しかったのぅ・・・また・・・三人で・・・やりたかったのぅ・・・・・・音楽)
昭仁の目から静かに涙が伝った。



・・・
パン!!
「ぐあっ!」
銃声と悲鳴が静かな森に響いた。
「立ってください!逃げますよ!!」
大きな声と共に昭仁は抱え起こされた。
「うぅ・・・誰?」
目が霞んで誰だかわからない。
「とりあえず走ってください!」
昭仁は必死でその人物の肩を借り走った。いや、歩いたという方が正しいのかもしれない。しばらく歩くとその人物は
「この辺までくれば大丈夫だろ・・・」と息をついた。
それを聞いた昭仁は、安心感からか、ゆっくりと意識を手放した。





「くそっ・・・!?撃たれた・・・!!」先程放たれた弾丸は、桜井の右足に命中していた。
(だれだ・・・僕を撃ったのは・・・!!?許せない・・・!捜し出して絶対に息の根を止めてやる・・・!ふふ・・・確か・・・白いスニーカーだったな・・・)
倒れる瞬間とっさに見た記憶を頼りに、桜井はその人物への復讐を誓った。

【粟島浦村付近の森(南部)[エリア13]/早朝】

【05番 岡野昭仁(ポルノグラフィティ)】
[状態]: 気絶、肩に深い傷、体中に打撲
[装備]: 檸檬(若干潰れ気味)
[道具]: そのまま
[思考]: 仲間を見付け、裏切り、武器を奪う

【粟島浦村付近の森(北部)[エリア14]/早朝】

【15番 桜井和寿(Mr.children)】
[状態]:右足に銃による傷、
[装備]:無し
[道具]:そのまま
[思考]:1.桑田以外の人間を殺す
    2.自分を撃った人間をけろす



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