無題
「ほんまなんなん、これ…どういう事よ…」
細い身体に食い込むように重い支給されたナップザック。
「足いったいわぁ…こんなんうち絶対不利やんか…」
こんな事をさせられると分かってさえいれば
ちゃんとジーンズにスニーカーで来たのに。
今の彼女はこの状況に似つかわしく無い恰好だ。
惜しげも無く太ももを晒すミニスカートに破れた編み目のストッキング。
走る事が出来ずじれったくなり途中で脱いだピンヒールのサンダルを手に持ち
上はキャミソールとタンクトップを2枚重ねているだけ。
エロカッコイイ、エロカワイイと称された彼女…
“倖田來未”を象徴する服装は、今の状況ではなんの役にも立たない。
「あーあ…とりあえずスニーカーくらい欲しいわ…」
ここまで走ってくる途中、草か何かで切ったのだろうか。
來未の脚にはうっすらと切り傷が出来ていた。
周りに誰も居ない事を確認してその場にしゃがむ。
生温く頬を撫でる夜風は、ほんのりと潮の匂いがする。
波の音が静か過ぎて怖い…不安と恐怖で押しつぶされそうになる。
傷ついた脚を撫でながら、來未は脳裏にとある少女の顔を思い浮かべた。
「…misono……美苑…。どうしてるやろか…」
來未の実の妹、misonoもこのゲームに参加している。
ーーーそうや…こんな真夜中で、美苑はもっと怖い思いしてるんや。
ウチが見つけて助けな。
こんな事…こんなふざけた事…きっとみんなも間違ってるって思ってるやろ。
美苑探して、人集めて、絶対抜け出したる。
…ううん。抜け出すんと違うわ。
あの厚化粧のオッサンに一泡吹かせたろ。
それに厚化粧ならウチだって負けてへん。正しい化粧教えたるわ。ーーー
地面にグッと拳を突き立て、來未は意を決してナップザックを手に取る。
手渡された時からなんとなく正体は分かっていた。
ナップザックから長く突き出た、何かを包む黒い布。
マイクに代わる、來未の新たなパートナー。
布を縛っている紐を解き、スルリと布を取り去る。
「ーーー…!」
『ソレ』を持つ來未の細い手が、一瞬震えた。
本造りの日本刀だ。まぎれも無く。
黒く細長い鞘。時代劇で見た事の有る独特の持ち手。
「…これがウチと美苑の命を握るんやな。」
強がるように笑みを浮かべ、震えをとめようと持ち手を握り直した所で、フと気付く。
「…これ…邪魔やんな。上手く握れへん…」
つい昨日、いつも行くネイルサロンで綺麗に仕上げてもらった付け爪。
(店員さんには悪いけど、今はこんなん付けとる場合とちゃうねん)
左手から右手にかけてネイルチップを剥がしてその場に捨てる。
ベルトとスカートの間に日本刀を差すと、ナップザックを背負って立ち上がる。
「…お姉ちゃん、今、行くから…美苑…!」
綺麗なネイルに別れを告げ、サンダルの長いヒールを折って履き直し
スカートを翻すと、來未は森の方へと駆けて行った。
【場所/時間帯】
切石ヶ鼻(エリア19)/深夜
【12番/倖田來未】
[状態]:健康
[装備]:日本刀(本造り)
[道具]:刀手入れ道具一式、支給品一式
[思考]:1.misonoと合流、場合によっては救出
2.misonoと共に助かるため協力者を得る。
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