無題
「ふぅ・・・」
か細い女性の声が深夜の海に響く。
足音を鳴らしながら女性は海岸沿いへと向かう。
その女性はおもむろに靴を脱ぐと、細い腕で靴を掴み、海へ投げ捨てた。
靴は暗い海に落ち、しぶきをあげる。そして、音も無く沈んでいく。
「ヒールなんて履いてくるんじゃなかったわ。」
また、女性の声。青白い腕には至急品の入っているカバンを持っている。
「歩きづらくてしょうがない・・・こっちのほうが落ち着くしね。」
裸足で二歩ほど歩くと、なにかに気づいたようにふいに立ち止まる。
・・・中島美嘉だ。
彼女はこのゲームが始まってから一回も表情を変えていない。ずっと・・・どこか冷ややかなポーカーフェイスだ。
「一応調べておこうかしら。」
彼女の目がその手に持ったカバンに向かう。そしてカバンを地面に置き、中身を探る。
「食料に・・・地図ね。そういえば武器も配られてたわね。なにかしら・・・」
白い包みを引っ張り出すと、彼女はそれを手に乗せて凝視している。
デーモンさんは本気なの?本当に私たちに殺し合いをさせる気?
まあそれがジョークでも本気でも・・・私には関係ない。ただ成り行きにまかせるだけ。
ただ、ジョークにしてはつまらなすぎる。もしジョークだとしたら・・・呆れたわ。
彼女は思考を巡らす。一つの結論にたどり着くと、彼女は包みを開いた。
そして、彼女はこれからパートナーとなる物体に触れる。
非日常的な物体。説明書がついていた。
カサッ
彼女は説明書を読む。
「ジグザウアー P229・・・9mmモデル・・・」
その物体は「銃」そのもの。模造品は触ったことがあるが、本物は初めてだ。
実弾が入れてある・・・プラスチックの玉なんかより重く、冷たい。鉄だ。
「ぷっ・・・アハハハハ!!」
ゲームが始まってから、彼女は初めて表情を崩した。
可笑しくてたまらない。冷たい笑い声が響く。
本気のようね、デーモンさん。
まぁこのままでもつまらないし、乗ってあげるわ。
でもそのかわり・・・楽しませて頂戴ね。
「ハハハ・・・ふー・・・」
やっと笑いがおさまると、彼女はカバンを担ぎ、歩き出す。
青白い足は一歩一歩確実に陸の方へと進む。
その手にはすっぽりと黒い銃が収まっている。
「さてと、まずは移動しましょうか、」
彼女の足取りは跳ねるようになっている。
表情も気のせいか満足気になっていた。
【場所/時間帯】
旗崎(エリア8)/深夜
【18番 中島美嘉】
[状態]:健康
[装備]:ジグザウアー P229 9mmモデル 装填弾13+1
[道具]:予備弾(28発)、支給品一式
[思考]:1.ゲームに参加
2.ゲームを楽しむ
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