超のように舞い、蜂のように刺す






「ハッハッハ!どこへ行こうというのかね!」

どこかで聞いたようなセリフと共に、河原に爆音が鳴り響いた。
「くっ!」
爆音と共に怒った煙の中から、髪をシニョンで2つに纏めた中学生程度の少女が
飛び出してきた。
その体は土にまみれ、細かい擦り傷が目に見えた。さっきの爆発も、
直撃は避けたが飛散した石が彼女にダメージを与えていた。

そして、そんな少女を見下ろす者がいた。

「普通の人間が私の攻撃にここまで堪えたのは素直に凄かった、と言わせてもらうがねぇ。
 そろそろ限界というものだよ君ぃ?」

高圧的な言葉を放ったのは、少女より上空に位置し彼女を見下ろす異形の存在だった。
体全体が赤い蜂を模したような鎧のようなもので包まれている。
がっしりとした体躯に強靭そうな装甲、見るからに強者の姿だった。
蜂の頭をそのまま被ったようなその顔、黄色い複眼の向こうの目が少女を捉えている。
その向こう側の男の顔に笑みが浮かんでいるのは明らかだった。

「そうはいかないヨ。私にはやらなければならない計画がある。こんなところで殺される訳にはいかないネ」

対して少女は目の前の異形に対してひるまず独特のイントネーションでそう答えた。
その声に恐れはない。ただ、疲労による疲れが混じっているだけ。
それでも男を調子づかせるには充分だった。

「ほう? いつでもどこでも、女の子とはしつこいもんだねぇ……プリキュアどもといい、君といい
 と、普通に話を続ける振りをして攻撃ぃ!!」

男は突然話を打ちきり、左腕を少女に向けた。
突然襲ってきてから相手の攻撃をずっと受けてきた少女にとってそれは危険な予兆だった。
さっきまで相手の攻撃を避け続けてきた脚力で攻撃を避けようとする。だが
男の腕、その袖に当たる部分からいくつもの小さな針が発射される。
マシンガンのように放たれたそれは、ほとんどがさっきまで少女がいた地点に突き刺さり、そして2本が少女の足に突き刺さった。

「グッ!!」

苦痛、そして足の勢いが止められた事で少女が前に思い切り転倒した。
なんとか受身は取った、だがそんなことは慰めにもならない。

「フフフのフ♪ はい、終了」

男がおもむろに右手を倒れた少女に向ける。
その銃口のような腕を見て、少女は歯噛みした。
襲われてからこの男が行ってきた攻撃は2種類。
どちらも腕から放つ針による攻撃だが、射撃法が異なる。
一つは小さい針の連射攻撃、もう一つは大きな針を1発撃つ攻撃。
小さい針こそ威力は低いが、後者の大きな針はさっき河原の一部を抉った程の威力がある。
前者はマシンガン、後者はグレネードランチャーというのが少女の印象だ。
そして、今向けられているのは間違いなく一撃必殺のグレネードの方だ。
今までは避けられたが、この足と体勢ではソレも難しい。


「私とて生きてここから帰りたいのでね。
それには上の意向に素直に従うのが処世術というものだよ。
殺し合いを望むならしようとも。
遠慮なくやるのが私のモットーだ」
「……」


少女は苦痛に顔を歪ませながら、なんとか移動しようとする。
だが、男がそれを見逃すはずがない


「遅い遅い!これで一仕事終了だよ!」


男の必殺の針がまさに放たれる。少女に逃れる術はない。
男は勝った、と思った。
少女はなんとか針を避けよう、と思った。
少女にとってそれが間に合うかは一か八か、だった。

まさに紙一重が全てを決する。
そんな瞬間が




訪れなかった。



「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 ******


「…………なんだたのカ……あの男は」

数分後、先の河原で少女、超鈴音(ちゃお・りんしぇん)は川を見つめながら呟いた。
攻撃力は高く、飛行能力という破格の能力も持ち、おそらくは防御力もかなりの者。
魔法と科学に精通し、多数の猛者を知る彼女から見ても
それなりに力があると伺える存在だった。

(それでいて……あの最後はあまりにも情けなかたナ……いや、奴に追い詰められた私こそ情けないカ)
チャオは制服の一部を破ると、右足にそれを固く結び、とりあえずの止血を行った。
もちろん針はとっくに抜いてある。


「さて、これからどうするカ。なんとしても麻帆良学園に戻り、計画を実行せねばならないのは最優先事項として問題はどうやって戻るか、ネ」

彼女にはなさねばならない計画がある。
彼女は本来未来に生まれた人間であり、ある目的の為にこの現代へとやってきた。
その目的を果たす計画の実行中、彼女はこんなところに呼ばれてしまった。
だから、彼女はなんとしても戻らねばならないのだ。計画を成すために。

「あの男のように優勝を目指すのも手の一つではあるが……まだ早計ネ。
 そもそも、あの声の主。
殺し合いをしろ、とは言ったが……『生き残った者を帰す』とも『生き残るのは1人』とも言っていない。
それ以前に、一体いつまで殺しあうのか、終わりの基準が全く示されてないネ。

話にならないネ。正体もわからない以上、早々に殺し合いに乗るのは愚策でしかない。
このような事を開いた目的、声の主の正体。それだけでも掴めなければ、使い潰されるのがオチヨ」

チャオはあくまで慎重に事を進める。
彼女は北派小林拳という武術を会得し、また未来の知識は勿論だが、
機械工学に精通した頭脳も持ち合わせており、
さらには『超包子』という料理屋台も経営し、かなりの財を持っている。
『天才』『なんでも超人』という名称が洒落ではない人物なのだ。

だが、そんな彼女でも先の男には準備なし、装備不十分では勝てないと断じた。
となれば、他の参加者もあの男と同等か、それ以上の実力があると見ていいだろう。
そんな相手に今の段階で皆殺しを決意するのは、リスクが高い、彼女はそう判断した。
だが、それは彼女が人を殺せないほど甘いからというわけではない。
もしも打てる策が他者を殺すしかなくなったならば……。


『思いを通すは、いつも力ある者のみ』


それは彼女が自らの先祖であり、担任教師に向かって言った言葉だ。
彼女はその目的の為には妥協しない。
たとえ周りになんて思われようとも、目的を達成する。それが彼女の信念。


たとえ、元担任を拘束することになっても。
たとえ、自らの先祖を痛めつけることになっても。
たとえ、現代でであった全ての者に別れを告げても。
たとえ、世界中の者の思考を縛ることになっても。
たとえ、その後の混乱で悲しむ者が現れても。


「ま、1番はみんなで喜んで帰るというハッピーエンドだが。
そうなるよう、なんとかガンバるとしようカ。
 まずは地図にある施設でも回るとするカ。どこに手がかりがあるかわからんからネ」

極力犠牲は少なく、けれどそれでも第一は自らの目的。
世界を変えてでも目的を達成しようとした彼女の足取りは、確かな物だった。


【D-4/河原/一日目深夜】

【超鈴音@魔法先生ネギま】
[状態]:体中に痛み 右足に刺し傷2ヶ所(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考]
基本方針:なんとしても麻帆良学園に戻る。
1:主催者の正体と目的を探るべく、施設を回る。
2:今のところは殺し合いには乗らない。
[備考]
※参戦時期は、学園祭開始後、最終日に計画を阻止されるまでの間です。
※ 呪紋を開放する事で魔法を行使することができますが、
使用すればかなりの激痛が伴い命を削られます。制限が課されているかは不明。

 *****


「は、は、は……はっくしゅん、チクショー!」

チャオのいた河原からいくらか下流の方の河原、そこに先の襲撃者の男はいた。
もっとも、その容姿は大分変わっていたが。

「く、くそ……何がどうなっているんだ……なんであそこで突然こっちの姿になってしまったんだ?」

黒いスーツに金髪のオールバック、角ばった輪郭の顔をした
至ってその辺のサラリーマンにしか見えない男、ブンビーはびしょ濡れになったまま、
先の事を思い返していた。



「な、なにぃぃぃぃぃ!?」

チャオに向けて必殺の一撃を放とうとしたまさにその時、
彼の姿は突然こちらの人間にしか見えない姿となってしまった。
彼は普段から二つの姿を使い分けており、戦闘では先の蜂の姿となり戦うのだが、
それが彼の意志を無視して突然解除されてしまった。
その結果、どうなるかというと。

「のわああああああああああ!!」

飛行能力を失った彼は真っ逆さまに下へと落っこちた。
幸いだったのは、ちょうど彼が陣取っていたのが河の真上であり、
そこに落ちたブンビーはそのまま流されていったことだろう。
ちなみにチャオが河に落ちたブンビーに追撃をしなかったのは、足の傷が痛んだのと、
なによりあまりにアホみたいな結末に、やる気が削がれてしまったからだった。


「どうなっとるんだ…しかも、今も変化しようとしても何も起こらないじゃないか…
一体どうなってるんだ!
ていうか私さっきから『どうなってるんだ』しか言っていないじゃないか!?
あの小娘が何かしたのか? むむむ…やはりプリキュアといいあの小娘と言い、
最近の若者はなんと恐ろしい。あー、こわ!」

襲い掛かった自分の事は見事に棚に上げてブンビーは愚痴る。
デイパックを河に流さずに済んだのは幸いだった。
どうやらこちらの姿だと身体能力は常人程度になっているらしく、
瞬間移動なども実行できなくなっていた。
もっとも、戦闘状態でもいくらかの能力が使えなくはなっていたのだが。
だが、彼はそんなことは気にしない。
彼はナイトメアという組織に属する人間であり、その一員だ。
それはまるで会社員のように、出世を目指して任務を実行してきた。
故に、ここでもそのスタンスは変わらない。

「変化できないのは不便だが…まあ、大丈夫だろう。なにしろ私は優秀だからねぇ!
少しのハンデくらいなんともならんよ! 武器は会場のどこかにあるらしいしさぁ!
 こんな首輪が有る以上、乗らないでいたらいつ爆発させられるか溜まったものじゃない!
 ならせめて、ご機嫌をとる! 私はちゃんと殺し合いしてますよ、とアピールする!
 きっと1番多く参加者を倒した者を帰してくれるに違いない!
世の中全部ノルマだからねぇ!
 これで大丈夫!なによりプリキュアでない者たちなど、この私の敵じゃあない!
こんなところで、私の出世を終わらせてたまるものか!
第一こんなところで死にたくないしね!私は必ず帰る!
そうとも!がんばれー私!がんばれーブンビー!ハッハ!」

腕をぐっと握り締め、朗らかに笑いながら彼は決意する。
参加者を全て倒し、ナイトメアに戻り、
プリキュアたちからドリームコレットを奪い、出世を果たして見せると、そう決意を固め


「ぶぁっくしゅん!! ……まずは、服を乾かそう……あー、さぶさぶ!
 ねーちょっと、こたつないの!?こたつー!湯たんぽでもいいよ!?」


 かなりちっちゃい当座の目標を決めた。

【E-3/河原/一日目深夜】

【ブンビー@Yes!プリキュア5】
[状態]:健康、人間状態、変身不可<残り?時間>、服ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考]
基本方針:上(主催者)の機嫌を取る為他の参加者を倒しトップになる。
1:まずは服を乾かしたい。 あと武器が欲しい
[備考]
※怪人状態への変身には、制限時間があり、また変身解除後も一定時間変身不可能になります。
 それぞれの具体的時間は後続の書き手に任せます。



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