女同士のバトルロワイアル
殺し合いの舞台であるこの索然とした街。日中は来客者で賑わっていたであろう、商店街。
江戸川コナンは他の参加者との接触を目的として歩を進めていた。
気配を、存在を殺すかのように、足音一つ立てずに。
(ったく、どうなってやがる?
ただの誘拐…にしちゃ大胆すぎる。あの部屋にゃ俺を含めざっと40人は居た。
あれだけの人数をいっぺんに拉致すれば、すぐに警察に気付かれる。んなことは主催側だって理解してるはずだ。
それとも、まさか警察が裏で絡んでいるのか?…くそ、考えるにも情報が少なすぎるぜ)
情報を集める。前途が当分の方針だ。
少しでも多く得た情報の断片を組み合わせ、主催側が見落とした穴を探し出す。
それが殺し合いから脱出する方法を見つける糸口になるはずだ。
しかし、そう悠長にもしていられない。何故なら今こうしている時にも、どこかでは残酷なゲームが進行されている可能性があるからだ。
犠牲者を最低限に収めるために、一刻も早くゲームを強制的に終了させなければ。
そう思った矢先のこと。
「きゃああああああああ!人殺しぃぃ!」
右手側のファーストフード店、二階。
そこを音源地として、女の甲高い声がコナンの鼓膜を震わせる。
(ヤベェ、早速乗ったやつが出てきやがったか!?)
状況把握を一秒の間に済ませ、コナンは強く大地を蹴り現場へと急ぐ。
一人でも多くの人の命を守るために。
一人でも多くの人を罪から守るために。
間に合ってくれ、と、強く願いながら。
二階へ続く、最後の一段をコナンは上りきる。
荒い呼吸を繰り返しながら声の出所を探し出すと、そこには二人の少女が対峙している光景があった。
一方はミルクティー色をしたロングヘアーの血まみれの日本刀を持った、女子高生くらいの少女。
もう一方は金髪のツインテールの、こちらも多分、もう一人と同い年くらいと思しき少女。手荷物はデイパックだけのようだ。
「違うってば!あたしは誰も殺したりなんかしてないし、する気もない!」
「嘘つき!じゃあその刀は何よ、アンタが人殺しだっていう証拠じゃない!!」
「これはここに置いてあったの、信じてよ!」
「苦しい言い訳ね。この期に及んで言い逃れする気?」
「っ…、だーかーらぁ、これは最初からこうなってたんだっつーの!!この状態で置いてあったの!
それともなに、あんたはあたしが人を殺してたところをその目で見たのかよ!?」
「お姉ちゃんたち落ち着いて。いったい何があったの?」
(やべーな、最初は一方が責め立てるだけだったみてーだが、片方もスイッチが入りやがったみてーだ)
正確な状況はまだ分からないが、ひとまず両者を落ち着かせるのが先決である。
特にロングヘアーの少女は武器を持っているのだから、あまり高揚させるのは危険だ。
「い、いつの間に。…危ないから離れてなさい!
この子、刀を使って人を殺してるんだから。何されるかわからないわ!」
「ちょ、ちょっと」
「はあああ!?子供になに吹き込んでんだよ!?
あたしがいつ、おまえの言うことを認めたんだよ!?いつ人殺しって認めた!?」
「あ、あの…」
駆け寄ってきたコナンを庇うようにして、ツインテールの少女が手を広げる。
自分の存在が原因で、更に拍車が掛かってしまったようだ。
小さく溜息を吐き出した後、現状を打破すべくコナンは思案を開始した。
「人殺しが自分のことを人殺しだなんて言うわけないじゃない。
でも残念だったわね。その刀が何よりの証拠。
アタシを騙して、隙をついて殺そうと思ったんだろうけど…そうはいかないわ」
「どんだけ妄想癖なわけ?まーじーで、的外れも良いところ!
なに?自分がいちばん正しいの?自分の言うことは絶対?私は何でもお見通しってわけ?
…ふざけんなっつーの、おまえの妄想で、他人を人殺しにしてんじゃねーよ!」
「妄想!?証拠があるから言ってるのよ!
アンタこそしつこく嘘ついてないで、潔く認めたら!?いい加減痛いわよ!」
「どっちだよ!痛いのはリボンに二つ結びのあんたの頭だっつーの!
流行んねーんだよ。今時小学生にも居ないっての!まじださすぎですから!!」
「なっ…!ア、アンタこそ何よその化粧!ケバいのよ!見苦しいのよ!
元がろくでもないから分厚い化粧で隠してるんでしょ!」
「これナチュラルメイクなんですけどぉ!?!!」
「ちょっとストップ!論点がずれてるどころの話じゃないよ!」
貶し合う二人の間に、もう一度介入を試みる。
「お姉ちゃん、あっちのお姉ちゃんは嘘なんてついてないよ」
そして、自らが見出した一つの結論を、ツインテールの少女に伝えていく。
「だってこの子は!!」
「お姉ちゃんは、このお姉ちゃんがその日本刀で誰かを殺したって言ってるよね。
だけどさ、日本刀だと銃器と違って至近距離でしか人を殺せない。
だとしたら、そのお姉ちゃんには返り血がついているはず。でも、そんなもの見当たらないよ?」
「…あ、洗い落とした…とか……」
「ゲームが始まってまだ15分前後しか経ってないのに、そんな時間あると思う?」
「そ、それは…」
「だいたい、もしも本当にこのお姉ちゃんがゲームに乗っていたとしたら、
お姉ちゃんのことだってすぐに殺害していたと思うよ」
「……」
的確な指摘に、気まずい沈黙だけが空間を支配した。
ロングヘアーの少女が、「ほうら見ろ」というようにツインテールの少女に冷めた眼差しを送っている。
しかし、コナンが二人の間に身を割り込ませることで、挑発めいた視線を遮断してみせた。
今度はロングヘアーの少女を仰いで、言葉を紡ぎだす。
「でもお姉ちゃんはお姉ちゃんで、ちょっと迂闊だったと思うなぁ。
血のついた刀なんて危ないもの、無闇に触っちゃ駄目だよ。
状況が状況なんだから、疑われたって文句は言えないんじゃないかな?」
「……」
「そうよ、紛らわしいのよまったく!」
すかさず、ツインテールの少女が追い討ちをかけた。
当然、それをスイッチとして、不毛な口論が再び始まる。
「だだだだって気になったんだもん!本物だなんて思わなかったし!」
「こんな時にそんなのん気なこと考えられるような脳みそは持ち合わせてないわね。
アンタわかってる?今アンタは、自分がノータリンだってこと自白したのよ」
「えっらそうに。ノータリンは勝手にカンチしてわめいてたおまえだっつーの。
こんなちっさい子供にも分かることを考えらんないって、どんな頭してんの?
まあ、今時そんなヘアスタイルを可愛いって思えるような脳みそじゃ無理もないか」
「ア、アンタだって人のこと言えた義理?
それとも、アンタの学校ではそのパッサパサに痛んだヘアスタイルが流行ってるわけ?」
「うるせえな!?明日美容室でトリートメントしてもらう予定だったんだっつーの!」
(…ハハ、駄目だこりゃ)
誤解を打ち消しても、相性の悪さは変わらない。
コナンはただ、頭を抱えるだけだった。
【C-3/商店街/一日目深夜】
【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:健康。
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考]
1:この二人を落ち着かせる?
2:殺し合いを止める。
3:そのためにもまずは情報収集。
【沢近愛理@スクールランブル】
[状態]:健康。
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考]
1:この女…!
2:殺し合いはしない。
【木原麻耶@とらドラ!】
[状態]:健康。
[装備]:日本刀@現実(血まみれ)
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考]
1:この女…!
2:殺し合いはしない。
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