ぶんぶ〜ん・ナノッ☆






あ…ありのまま 今 起こった事を話すぶ〜ん!

『ボクちゃん一期二期合計五十一話かけてようやく幸せになれたと
思ったら、いつのまにか殺しあいに巻き込まれていた』

な… 何を言ってるのか わからないと思うけど
ボクちゃんも何をされたのかわからなかったぶーん…

頭がどうにかなりそうだったぶーん…

催眠術だとか超スポードだとか そんなチャチな物じゃあ 断じてないぶーん

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぶーん……


って本気で納得できないぶ〜ん!!
なんだよなんだよ〜前の回で最終回じゃなかったの〜!?
二期だけでも二十五話もかけてようやくボクちゃん幸せになれたのに…
今までのシリーズ構成は一体何だったんだ!?
SF的な設定はどこ行っちゃったんだぁ〜!?

――――そんなメタメタな嘆きの声すらも、この残酷なゲームの舞台は飲み込んでいく。


※  ※  ※

目に優しい新緑の草木や、色とりどりに咲き誇る美しい花々が随所に見られる自然公園の中を、特徴的な羽音と共に飛行する影が一つ。
時折カチカチと開閉する緑色の牙、同じく緑色の頭に藍色の複眼を備え付け、時折虹色の光沢を見せるセロハンの様に透明の羽に六対の細い手足。
そして何よりも特徴的な黒と黄色のまだら模様をした下半身を見れば、誰でもこの存在をこう呼ぶだろう。
『あ、緑色のでっかいハチが飛んでる』と。
この巨大なスズメバチの名は、ワスピーターと言う。
一メートル半はあろうかと言うその大きさと色合いこそ異常ではあれど、大まかな外見自体は普通のハチのそれと変わらない彼だが、
その実『トランスフォーマー』と呼ばれる機械生命体の一体だ。
トランスフォーマー。銀河の遥か彼方、セイバートロン星にて生を受けた彼らは、二つの陣営に分かれて幾度となく戦争を繰り返している種族である。
一つは、宇宙の平和を目指し正義を志す組織『サイバトロン』。
一つは、宇宙の破壊と混沌、支配を望む悪の組織『デストロン』。
ワスピーターは、その二つの内の『デストロン』に所属し、ひょんな事から漂着した謎の惑星『エネルゴア』―――後に、その惑星は太古の地球であった事が判明する―――を舞台にして、
同じく漂着した『サイバトロン』と日夜戦いを繰り広げていた。
だが、それも今となっては昔の話である。

彼はデストロンでの生活に嫌気が差していた。
毎日毎日、横暴で乱暴な上司の命令で戦闘に出撃しては、サイバトロンの戦士達に「撃つべし!」と狙撃されて「ブ〜ンうわ〜やられた〜」。
それでも挫けずに再度出撃しては撃墜され「あ、やっぱりやられた〜」。
終いには同じ仲間であるはずのデストロンの戦士にすら「微塵切り、桂剥き〜!!」と襲いかかられ「うわ〜バラバラバラ、皆さん喜んでいただけました〜?」。
これだけ苦労を重ねても、上司の労いなどは無い。同僚からの励ましの言葉などあるはずもない。
向けられるのは「部下っつってもこいつじゃぁなぁ〜…」という上司からの諦観混じりの冷たい視線に「アイツは所詮『やられキャラ』だギッチョ〜ン」という同僚からの軽蔑の視線のみ。
こんな状況下で彼の中に延々と貯められた鬱屈とした感情は、エイリアンからの使者によって基地が破壊され、新たな拠点を探すよう上司からの命令を受けた処で爆発した。
地球に住まう原人たちの集落に目をつけ、彼らを無理やり追い出してこの場所を新たな拠点にしようと計画を練る同僚たちの前で、ワスピーターは力の限り叫んだ。

『もう悪役はいやだぶーん!!デストロンはいやだぶ〜ん!!』

同僚たちへの万感の思いを込めた脱退宣言に帰ってきた答えは容赦ない射撃という非情な物であったが、
だがそれでもこの瞬間にワスピーターは生まれ変わるための一歩を踏み出したのだ。

その後しばらくして、デストロンが海底深くから呼び出した巨大戦艦『ネメシス』が轟音と共に墜落していくのが見えた。
それはこの惑星でのサイバトロンとデストロンの戦争、『ビーストウォーズ』がサイバトロンの勝利という形で終わったということを示していたが、
ワスピーターにとってそんな事はどうでもよかった。
今、ワスピーターは玉座に座っている。石や木によってやや不格好に組み上げられたそれの上に悠然と座り、両サイドからは原人達が大きな葉を煽いで涼風を送りこんでくれる。
足元では別の原人が恭しく果物の入った皿をこちらへと掲げ、手元のグラスにあるのは喉越しのいい果実のエキスだ。
デストロンからの手痛い絶交を受けた後、原人達の集落を暗い影が覆った。先ほど挙げた戦艦ネメシスが、武力誇示及び武装の試運転のために、集落を焼き払おうとしたのだ。
その時ワスピーターは、未知の存在に怯える原人たちを安全な場所まで避難誘導してやったのだ。
別に深い考えがあった訳ではない。ただ、『もうボクちゃんデストロンはやめたんだし、ちょっとだけイイ事でもしてやるブ〜ン』と、ほんのちょっとした気まぐれを起こしただけだ。
だが、この行動は予想以上に原人たちの心に響いたらしく、あれよあれよと言う間に彼は原人たちの『王』として祭り上げられてしまった。
言うまでもなく、文化レベルの低い原人たちの生活が豊かな物ではとても無い。だが、ワスピーターは非常に満足していた。
この瞬間、自分に向けられているのは確かに尊敬と感謝の視線だ。今まで一度として誰かに褒められることのなかった自分が、原因相手にとは言えここまで求められている。
その事実にひどく満足しながらワスピーターはジュースを煽ると、呟いた。
『ボクちゃん、なんだかとっても幸せな気ブ〜ン。これでいいのだ』


ここまでが、この殺し合いの会場に呼び出される直前までのワスピーターの記憶である。
いい気分のまま原人にジュースのお代わりを頼もうとしたその瞬間に、彼はあの奇妙な空間へと飛ばされていた。

突然の事に全く理解が及ばないまま、あれよあれよという間に一人の少年が(そういえばこの少年、原人じゃなくて現代の地球人みたいだったブ〜ン)残酷なショーの犠牲になった。
目の前で起こったグロテスクな光景にも「え、番組の路線変更?プロデューサーさん降板しちゃった?」といういろいろな意味で危険な感想しか飛びださず、
結局頭の整理がついたのはあの部屋からこの自然公園に飛ばされたしばらく後であった。
とりあえず、最初にきれいな夜空を見上げながら叫んでおく。

「なんでボクちゃんって全然幸せになれないんだブ〜〜〜〜〜ン!?」

※  ※  ※

 しばらくの間は木の根っこにうずくまってメソメソと泣いていたワスピーターだったが、さすがにいつまでもそうしてはいられないと行動を開始することにした。
 とりあえず、すぐそばに落ちていた自分に支給された物らしいディパックを足に引っ掛け、ぶんぶんと飛びながらこれから先のことを考えてみる。
 あの謎の声の主いわく、自分たちはとりあえず『殺し合い』というのをしなくてはならないらしい。
 少し思い返してみると、あの部屋の中には三〜四十人ぐらいの人影があったように思う。常識的に考えれば、その人数がそのままこの殺し合いの参加者と言うことだろうか。
 幾らなんでもたった一人でそれを全滅させるのは無理だが、そこは主催者もしっかり考えているだろう。おそらく、殺し合いにのるのは一人や二人では無い。

  「………ワスピーター、変身〜」

 いつもの掛け声とともに、ワスピーターの体が変化していく。
 黒と黄色のマダラの腹がぱっくりと割れ、そこから二本の足が飛び出す。
 また、胸も観音開きの要領で二つに分かれると、そこから両手が飛び出し、その手には産卵管部分が変化したニードルガンが握られる。
 そして最後に頭部分が割れると、その中から元の頭とよく似た意匠の人間型の頭部が現れる。
 時間にしたら1秒ほどもかからない間に、ワスピーターは巨大な『スズメバチ』から人型の『ロボット』への変身を完了した。
 そしてワスピーターは、新たに現れた自分の首元へと手を伸ばす。

 「そりゃ、こんな怖いもの付けられたら誰だってやるしかないって思っちゃうブ〜ン…」

 こんこんと鉄製の指先が叩く先には、これまた鉄製で鈍色に輝く首輪の存在があった。
 あの少年に付けられていた爆弾は、しっかりと自分にも課せられていたのだ。

 「でもボクちゃんの首ってこっちのほうだったんだブ〜ン、これって53へぇぐらい?」

 今となってはほとんど死語でもある単語を呟きながら、ワスピーターは思考する。
 すなわち、この殺し合いに乗るか否かを。
 一番最初の場所で見かけた他の参加者達の中には、どう見ても戦いなどできないような女子供の姿もあった。少なくとも、全員が全員実力を持った強者と言うわけではないらしい。

幾らやられ役だなんだと罵られ、もう何度撃墜されたか知らない自分でも、そういった相手ならば十分に戦えるだろう。
多分。きっと。なんかやっぱりあっさりやられるのが見えるのは気のせいだぶーん。
しかし、それは―――――

 「…………ボクちゃん、また悪い事するぶーん?」

 ワスピーターがデストロン脱退を決めたのは、悪事に手を染めても何一つ自分に『良い事』が無かったからだ。
 いつもいつも正義の味方にとっちめられる、惨めな自分。そんな姿に何より嫌気がさしていたからだ。
 だから、反対に良い事をしてみれば自分に良い事が帰ってくるんじゃないかと考えた。
 結果はさっき体験した通りだ。自分が助けた原人たちは自分に敬意を払い、王として迎え入れてくれた。

  (だから、この先ボクちゃんは、お花の蜜食べて、お猿さん達と遊んで、ゆっくりお昼寝して、またお花の蜜たべて……ずっとずっとのんびり暮らせると思ったのに…)

途中まではそう確信していた。だが、最終的には御覧の有様だ。
今、ワスピーターはどこの馬の骨ともわからない輩に拉致され、『殺し合い』などと言う悪夢のような出し物に付き合わされている。
その首に自分の命を握られ、また他の参加者の陰に怯える今はまかり間違っても幸せではない。むしろ、デストロンの悪人だった頃のほうがマシに思えるぐらいだ。

 自分の手元に目を落とす。その手に握られた自分の武器であるニードルガンは、単発式な上威力も低いが、生身の人間を殺すこと位はできるだろう。
 もう一つの武器である目からの光線もまた同様だ。
 少なくとも、この手に武器はある。誰かを襲って殺すことも出来る。

 だが、本当にそれでいいのだろうか。

 「………うううう〜……」

 呻くような声をあげながら、ワスピーターはその場に座り込む。
 頭の中では色々な考えがぐるぐる回っている。正直、あまり頭を使う事は得意ではないワスピーターにとって長時間の思考はかなり苦しいものであった。

   「あーーーーーーーーーーーーもう!!結局ボクちゃんどうすればいいんだぶーーん!!」

 ついに我慢の限界に達したワスピーターは叫び声を上げる。

   「悪い事してても結局ボクちゃんになーんの得もないのはわかったぶーん!!でもだからって良い事してもボクちゃん酷い目にあってるブーン!!
  じゃあボクちゃんにどうしろって言うんだぶーん!!」

 座り込んだまま、まるでダダッ子のように両手を振りまわしてぐちゃぐちゃになった考えを叫び続ける。
 理不尽だ。理不尽すぎる。何をやってもダメなんて、そんなの酷過ぎるじゃないか。

 「ボクちゃんただ幸せになりたいだけなのに、こんなの嫌だぶーーん!!」
―――――――ガサガサッ

 有りっ丈の思いを込めた泣き声が、唐突に治まった。

 両手を中途半端に振り回した姿勢で固まったまま、ワスピーターは油が切れたロボットのように(実際にロボットだが)ぎこちなく横を向く。
 今、自分のすぐ傍の草むらで確かに物音がした。

 「………誰かそこにいるブーン?」

 恐る恐る声をかけた後で、しまったと思った。
 この会場で行われているのは言うまでもなく殺し合いだ。そして、今自分の傍に潜んでいる何かは、殺意を胸に秘めた参加者かもしれないじゃないか。
 固唾をのんで見守るワスピーターをあざ笑うかのように、再度目の前の草むらが揺れる。

―――――――ガサッ……ガサガサッ

 その音と揺れは、先ほどよりも明らかに大きい。
 間違いない。その中には何者かが潜んでいる。そして、その何物かは自分に気付いてそばに近寄ろうとしている。
 「ど……どちら様……ぶーん……?」

 再び声をかけても、それに答えるのはより大きくなった草むらの揺ればかり。
 年季の入ったやられロボ生のサガか、頭の中でどんどんと『草むらの中の何かに襲われてあ〜やっぱりやられた〜』という光景が組み合わさっていく。

―――――――ガサガサガサッ
 「………何がでるかな」
―――――――ガサガサガサガサッ
 「何が……出るかな?」
―――――――ガサ
 「草むらの中身は……」
―――――――ピョコンッ
 「なんだっブーーーーーーーーン!?」

 ワスピーターの奇妙なアドリブに合わせるかのように、ついにその存在は草むらの中から姿を現した!

 ひと抱え程の大きさ、全身が綺麗な水色に染まっているその姿。
 丸っこい頭に、ポンチョにもスカートにも見える何かをはおったような台形の体。
 その下には、これまた細長く丸っこい足のようなものが二つ。
 後ろには真っ黒い下地にまるで目のような物がついた、小さな尻尾。
 頭から耳のような、手のような細長い物を垂らし、オデコにはまるでちっちゃなリーゼントのようなコブが一つ。
 そしてその顔には、輝くような笑顔が浮かんでいる。

 驚きでのけぞっていたワスピーターをじっと眺めていた奇妙な生物は、まるで何かを伝えるかのようにひと際高く鳴き声を上げた。

 「ソーーーーーーーーーーーナノッ!!!」

 【あ! やせいのソーナノが とびだしてきた!】

 数分ほどの間、深い沈黙が場を支配する。
 ワスピーターが思考回路を取り戻したのは、目の前の謎の生物が「ナノッ?」と小首をかしげた頃だった。

  「……………え? え、何? 藤岡弘探検隊?」

相変わらずの奇妙な呟きを交えながら、ワスピーターは目の前でニコニコとしている謎の生物を観察する。
とりあえず笑顔だ。何においても笑顔だ。眩しいほどに笑顔だ。
思わずつられて笑いそうになってしまうような愛らしい笑顔であるが、しかしてここで行われているのは殺し合い。
この生物もこんなナリをして、その実恐ろしい肉食動物なのかも知れない……。
そこまで考えた処で、ワスピーターは思わずずりずりと後退して生物と距離をとる。

「お、お前、何物だぶーん? 新種の妖怪? あ、石ノ森先生じゃなくて水木先生のほうだったぶーん?」
「ソーナノ?」
「そーなの、ってこっちが聞かれても困るぶーん!」
「ソーナノー?」
「質問を質問で帰すのはやめるぶーん!!いくらボクちゃんでも怒る時は怒るんだぶーん!!」
「ナノッ?」
「……全然話にならないぶーん…」

何を聞いても同じ言葉しか返さないその生物に思わず頭を抱えた瞬間、唐突に生物がピョンと飛びはねワスピーターへと飛びついてきた。

「ソーナノッ!!」
「うっうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?やめるぶーん!!ボクちゃんこれでも機械だぶーん!食べてもゴリゴリして不味いだけだブーン!!」
「ナノッ、ナノッ、ソーナノー」

突然の行動に怯えて暴れるワスピーターを意に介する様子もなく、生物はずりずりとその体を這い上がっていく。

やがて、ワスピーターの顔面の辺りまで到達した生物は、満足げに「ナノッ!」と一声鳴くとじっと笑顔で彼の顔を見つめ始める。

「な、なんだブーン!!頭からパックリムシャラムシャラ食べる気かブーン!?い、痛いのはやだブーーーーン!!」

ワスピーターの恐怖の叫びにも満面の笑みで答えた生物は、ゆっくりと頭を振りかぶり――――――――

「ソーーーーーナノッ♪」

ぴたん、とその頬をワスピーターの顔面に擦りつけた。

「…………え? な、なんだブーン? 一体何がしたいんだブーン?」
「ナノッ!ナノ〜♪ソーナノ〜☆」

混乱している様子のワスピーターを無視して、生物はより一層その柔らかい頬を彼の顔面へと擦りつける。
さらには目のような模様があるしっぽまでピョコンピョコンとせわしなく振られており、まるで全身で喜びを表現しているかの様だ。

【やせいの ソーナノの あまえる こうげき!!】

ぬいぐるみのようなぷにぷにとした質感を顔面に感じて、なんというか闘争心だの戦闘意欲だのをゴリゴリと削られていくような心持ちのワスピーターだったが、
どうにか気を奮い立たせて纏わりつく生物を引き剥がす。

「お、お前急に何するんだぶーん!!ボクちゃんをどうする気だブーン!?」
「ナノ?ソ〜ナノ〜」

両手ですっぽりと生物を抱えたままで問い詰めてみるも、相も変わらず笑顔な上ヒラヒラと手とも耳とも知れない部分を振られるだけだ。
 建設的な話し合いなど望めるべくも無い。だが、一連の行動とその笑顔を見ていると、なんとなくこの生物に敵意や害意は無い様にも思えてきた。
 決して、先ほどの頬ずりに心打たれたからではない。

 「………お前、ボクちゃんを殺しに来たんじゃないブーン?」
 「ソーナノ!」
 「…誰かを襲おうと思ったわけじゃないブン?」
 「ソーナノ!」
 「古代中国に建国された国家で、唐の次に成立したのは?」
 「宋(そう)なの!」
 「お前、意外と頭良いブーン」

 一瞬に奇妙な漫才を繰り広げつつも、ワスピーターは手の中の生物をジッと見つめる。
 ………少なくとも、敵じゃない。自分にひどい事をしようとしてる訳じゃない。
 とりあえず、そう結論付けることにした。
 ずっと抱えあげていた生物をゆっくりと、地面に下ろしてやる。

 「ナノ〜?」
 「変なやつ、ぶーん。こんなのも殺し合いに参加させるなんて、何考えてるぶーん?」

 なんとなくニコニコ顔の生物を見詰めながらつぶやく。

 生物の首にあたる部分には、しっかりと首輪が嵌められていた。間違いなく、この謎の生物もこの殺し合いに巻き込まれた参加者という事だろう。
 でも、こいつに殺し合いなんかできるのだろうか?
 いきなり見知らぬロボット(それも結構ゴツくて怖い)に飛びついてきた挙句、する行動と言えばすりすりと頬ずりして甘えるだけ。
 それ自体も戦闘意欲を削ぐ一種の攻撃に見えないこともないが、少なくとも殺傷能力などかけらもあるはずもない。
 …参加者の中には、このように完全に無力な者たちもいるのだろうか?
 やられ役の自分でも殺せてしまうような、弱い参加者達が。

 「………ねぇ」
 「ナノ?」

 ワスピーターの声に、生物は小首をかしげながら答える。
 その仕草をなんとなく微笑ましく見つめながら、もう一つだけ質問してみる事にした。

 「……ボクちゃん、誰も襲わないで、悪い事しない方がいいブーン?」

 これは、ずるい質問だ。
 帰ってくる答えなどすでにわかりきっている。
 この生物がしゃべれる、というより鳴ける鳴き声は非常に限られているのだから。
 そして、生物はピンと背筋を伸ばし、笑顔を1.5倍程にしながらこう答えた。

 「ソーナノ!!」

 まるで、いつもと同じ鳴き声でありながら、いつも以上の肯定を示しているかの様に。

 「…お前がそういうんなら、考えてやらないでも無いぶーん」

 手でなんとなく生物を撫でてやりながら、ワスピーターは少し満足げにそう答えた。
 別に、どこぞのサイバトロンのように正義の心に完全に目覚めた訳じゃない。
 実際に、積極的に『いい事』をしてやる気になった訳でもない。
 ワスピーターの本質的な性格は、なまけ者でやる気なし、ついでにちょっとワガママととても正義の味方とは呼べない物のまま変わらない。
 ただ、デストロンに戻るのはもうちょっとだけ先に延ばそうと思っただけだ。
 少なくとも、今だけは『悪役』になるのはやめておこうかな、と笑顔の生物を見ながらそんな事を考えた。

 「そういえば、お前の名前ってなんだブーン?」
 「ソーナノ!」
 「…ものすごくわかりやすいブーン」


 【A-3/自然公園北東部/深夜】

 【ワスピーター@ビーストウォーズ】
 [状態]:健康
 [装備]:ピーターガン(ニードルガン)
 [道具]:デイパック、支給品一式
 [思考]:基本・とりあえず死にたくない。どうにかして脱出したいけど…
     1・しばらくの間はゲームに乗るのは保留。
     2・……なんかこいつに懐かれちゃった気がするぶーん。

 【ソーナノ@ポケットモンスター】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック、支給品一式
 [思考]:基本・誰かを襲う気はない。
     1・ワスピーターに懐いた。
 [備考]※どこかに生息していた野生のソーナノが呼び出されました。
      ※「あまえる」以外にどんな技を覚えているかは後の書き手さんにお任せします。
     ※ソーナノからソーナンスへと進化できるかどうかは不明です。



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