老人×武人×女子高生






「むう、支給品といってもたいしたものは無いのう」

デイパックの中身を見て老人がため息を吐く。
この男の名は武藤双六。
本来なら童実野町にある小さなゲームショップの店主である。

「しかしなんじゃこの街は。少なくとも童実野町じゃないのは確かじゃな」

暫らく歩き続けた彼は立ち止まり目の前の武家屋敷を見る。
これは昔の日本ではごく当たり前に有ったものらしいが、
見慣れないそれを見ているとまるで異国に迷い込んだような妙な感覚がする。
それは嘗てギャンブラーとして世界各国を旅した双六にとって懐かしい感覚だった。

「思えばわしも年を取った。高校生の孫が居るくらいじゃかのう」

遊戯。彼の孫の名である。
朝起きていきなり祖父が居なくなったと知ったらあの心優しい孫はどんな顔をするだろう。
少なくとも悲しんではくれるだろう。
絶対に生きて帰らなければ。そう誓い再び歩き出そうとした瞬間、

「痛っ!」

彼は何かに躓き転んでしまう。

「イタタ。なんじゃこれは?!」

彼の拾ったソレは明らかに人を殺す為に造られたものだった。
ある意味ではこの町の風景に最も合うものだろう。何となく彼はソレを拾い抜いて見る。
美しく輝くソレはある種の芸術品を思わせる。見る者が見れば、其の美しさに暫らく声を失っていたであろう。
しかし残念ながら彼にそのような知識など無く、時代劇などでよく見ていたソレに対する興味などなかった。

「なんでこんな物が道の真ん中に落ちているんだ!わしのようなか弱い老人が怪我でもしたらどうするんじゃ!まったく…、「あれ、おかしいな?」ん?いま声が聞こえてきたような…?」

彼が不審に思っていると目の前に女性の影が見えた。
大方このようなことに巻き込まれて途方にくれているのだろう。
そう判断した双六は影の方へと行ってみることにした。そして、

「お嬢ちゃんどうしたんじゃ?」



男は怒っていた。ただ戸惑うことしか出来なかった自分に。主催者の外道な行いに。
男は泣いていた。己の無力さに。そしてはかなく散った命に。
この男の名はリョウ・サカザキ。心優しき極限流空手の師範代である。
リョウは常日頃、武術とは己の心身を鍛え、大切なものを守ることの出来る力であると考えてきた。
そして厳しい修行に耐え、人を守るに足りうる強さを手にしていたとばかり思っていた。しかし、

「俺は助けられなかった!!」

あの少年の傍に居ながら!手の届く場所にいながら!
あの少年が殺されるのを黙って見ているだけだった!
思えば自分は慢心していたのかもしれない。
『無敵の龍』などと呼ばれ、KOF優勝候補と持て囃され、無意識のうちに油断していたのかも知れない。
なぜいつもの様に冷静でいられなかったのか。
暫らく泣いた後、リョウは自分の胴着が濡れているのに気づいた。

「これは…」

胴着の上半身部分の殆どはあの少年の血とリョウの涙で濡れていた。
顔についた血は涙で流れたが、髪にも多少血液が付いていた。
それに気づいたリョウは穴を掘り始める。
暫らくしてそれなりに深くなった穴を見てリョウは胴着を脱ぎ始めた。

「…俺は君の名前は知らないし、君が誰かも分からない。
 君も俺のことを知らないだろうが安らかに眠れるよう弔わせてくれ。
 もう二度と俺の目の前で君のような犠牲者を出さない、そして絶対に仇を取る、この二つの約束は決して破らないと君に誓おう。
 願わくば君が最初で最後の犠牲者であるように。
 最後に向こうで君に会うようなことがあったら謝らせてくれ」

リョウは脱いだ胴着を穴の中に放ると土を被せる。
作業を終えたリョウは墓の上に石を置き、両手を合わせ黙祷をする。
彼のような悲劇をもう二度と繰り返させまいと…。



山岸由花子は珍しく冷静に現状を把握し、考えをまとめようとしていた。

「えっと、たしか康一君とデートしてたら、暗くなって、わけわかんないところに居て、
 変なヤツが出てきて誰か殺されてるところまでは覚えてるんだけど、
 どうやって江戸時代に来たのかしら?まさか主催者はスタンド使い?
 まあ、あたしには関係ないけど。でも康一君以外皆殺しにするとしても何人居るのかしら」

どうやら彼女の考えはゲームに乗るということでまとまったらしい。

「暫らくは一人ずつ慎重に殺っていかなきゃ。
 少しでも早く康一君に会うために。
 あ、でも康一君いなかったら如何しよう。
 その時は優勝してデートの続きしなくちゃ♪」

恋する少女はその狂った瞳を輝かせ一人歩き出そうとした。
その時である、


「お嬢ちゃんどうしたんじゃ?」


「キャアーーーーーー!!」




その頃リョウは、髪についた血を洗い落とすべく川へ向かっていた。

「しかしまるで江戸時代にタイムスリップしたような気「キャアーーーーーー!!」悲鳴?!とにかく急がなくては!!」

彼は悲鳴のするほうへ走っていった。悲鳴の主の安全を祈りながら。

「アンタいきない後ろから話しかけるなんてッ!!ビックリして心臓が飛び出るところだっただろうがッー!!」
「驚かせてしまったか、すまんのう。わしの名前は武藤双六、見てのとおりただのか弱い老人じゃ」

(落ち着くのよ由花子。まずは康一君のことを聞かなきゃ。殺すのはその後よ!)

「…。あたしの名前は山岸由花子、見てのとおり女子高生よ。
 お爺さん、質問があ「顔が引きつっとるぞ。どこか痛いところでもあるのか」……」

(このジジイッ!!)

「あのね!お爺さん、質問が「なんじゃ?」…」

(返事のタイミングくらい読めよジジイッ!!)

「人を探しているんです!!」
「妙に不機嫌じゃな?あ、もしかしてあの日か!!すまんすまん、気づかなくて」

(……プッ…ツン…)

「オイジジイッ!質問に答えろッ!!」
「へ?」
「へ?じゃねえー!康一君のこと知ってんのか聞いてんだよッ!!」
「すまんのう、わしがここに来てからあった人は君が始めてじゃ」
「…そうか、じゃあもうアンタを殺していいんだな」
「…それは笑えない冗談じゃな。止めておきなさい、見てのとおりわしは武器を持っておるし、由花子ちゃんは素手だ。
 年老いたとはいえわしは男で由花子ちゃんは女の子じゃ。やったとしても目に見えておるじゃないか。
 大方先ほど名前の出たコーイチという男のためだろうが、そんな事をしても彼は喜ばんと思うぞ」

彼は考えていた。この少女の対処法についてある。
出来ればこのまま説得に応じてくれれば御の字、応じてくれなければどうするか。
下手を打って殺されてしまったら元も子もない。

(この娘は説得に応じてくれんじゃろう、どうする逃げるか?
 それとも力ずくで止めるか?考えなくとも決まっているな)

「由花子ちゃん、もし説得に応じてくれなければ「うるせえジジイッ!何様のつもりだッ!」由花子ちゃんやめるんじゃ!」

彼女はデイパックを投げつけてくる。とっさに避けた双六だったが何故か違和感を感じる。

(はて彼女の雰囲気が変わっているのか?)

双六が起き上がろうとした瞬間、起き上がれなかった。
彼の足はなにかに引っ張られた!

「な、何が起こっているんじゃ!助けてくれ!」
「ギャーギャーうるせえんだよッ!今ッ!ここでッ!すぐにッ!殺してやるんだからッ!!」

スルスルと音を立てながら足に巻きついていたなにかが、双六の首辺りまで上ってきた。
それは凄まじいまでの力で首を締め上げてきた。
以外ッ!それは髪ッ!由花子の髪の毛が束となって双六の首を締め上げていたッ!!
双六の意識が遠ざかりかけているとき、ふと声が聞こえた。

「おい爺さん!俺を抜けッ!!」
「な、なんじゃあ…。誰…だ…」
「あー、もう説明する時間なんかねーよッ!早くその右手で握っているものを抜けって言ってんだよッ!!」
「あ、ああ分かった」

双六は最後の力を振り絞り、握っていた刀を鞘から抜いた。
次の瞬間、首を締め付けていた圧迫感が消えていた。

「よっしゃッー!!アヌビス神完全復活ぅー!!大丈夫か爺さん!」
「ああ、わしは大丈夫じゃよ」
「よし!ここからは任せな!あのアマをぶった切って細切れにしてやるッ!!」
「いや、出来れば殺してほしくないんじゃが」
「注文の多い爺さんだぜ」

双六はため息を吐く。顔は動かせるようだが、体がいうことを利かない。
あのアヌビス神という刀に操られているのだろうか。
これは困ったことになった。この刀は堂々と由花子を殺すと言っている。
今は言うことを聞いてくれるらしいが、次は聞いてくれるのかさえ分からない。

「本当に困ったのう」

そう言った直後に体が勝手に由花子に襲い掛かっていた。

「なッ!このジジイッー!!!」

由花子は驚いていた。ただのジジイだと思っていたら、凄まじいまでに強いのだこれが。
三百六十度どこから攻撃してもすべて切り伏せられる。始めは自慢の髪を切られて怒っていた由花子も次第にうろたえ始めた。

「お前の攻撃はもう『覚えた』!降参したほうが身のためだぜ」
「アヌビスの言うとおりじゃ、もうこんなことはやめにして降参してくれんかね」
「…くそったれ」

もう駄目かと思っていたそのとき、

「虎煌拳!!!」
「ギャー!!」
「アヌビス?!!」

ジジイと刀が吹っ飛ぶ。攻撃の撃ってきた方向から上半身裸の金髪男がこちらに近づいて来た。

「君、大丈夫か?」
「え、ええ」(アホが、土臭いんじゃボケ)
「そこの老人説明してもらおうか。なぜこの娘を襲ったのかを」

双六は考える。

(アヌビスも吹っ飛んでいってしまったわい。これ以上戦うこともままならんのう。
 おまけにあの青年はわしが由花子ちゃんを襲ったと思っているらしいしのう。
 あのまま由花子ちゃんと側にいたらあの青年が危ない。なんとか説得してこちら側につれて来れないだろうか?)

由花子は考える。

(ふぅ、なんとかこの金髪のおかげで助かった。今のコオウケンとか言うのはスタンドかしら?だとしたら厄介ね。
あたしのラブ・デラックスは近距離型。アイツのはさっきの攻撃を見て大体遠〜中距離型かしら。
そんな遠くからの攻撃だって防げないわけじゃないけど、髪が痛んじゃうじゃない!それだけは避けないと。
早めに殺さなくちゃ。でもその前にあのジジイをラブ・デラックスで絞め殺さなきゃ気が治まらないッ!
そのためにはラブ・デラックスの射程内まで近づかなくちゃッ!
……あの金髪吹き飛ばしすぎなんだよ。ジジイのあとで必ず殺すッ!!)

リョウは考える。

(あの老人先ほどまでとは全然違うな。あの禍々しい気はどこへいった?
こちらの様子を伺っているのか?それとも隙を見せて油断させ、俺たちを殺そうとしているのだろうか?
どちらにしろこの娘もあの老人も死なせるわけには行かない。説得できればいいのだが。
しかしあのような達人ばかりならいっその事一試合してもいいかもしれん。そのほうが自分の修行になるかも)

そして吹き飛ばされたアヌビス神はというと、

「あー、誰か拾ってくれねえかな。まあ、誰もこんな場所こねえよなあ」

武家屋敷の屋根に突き刺さっていた。

「月がきれいだなぁー。あ、流れ星みっけ」

【A-6/武家屋敷周辺/深夜】

 【武藤双六@遊戯王】
 [状態]:かなり体力消耗
 [装備]:素手
 [道具]:デイパック、支給品一式
 [思考]
  1:リョウに戦闘の意思が無いことを伝え由花子から離す
  2:由花子を説得。出来なければ逃走
  3:吹っ飛んでしまったアヌビス神を探す
  4:絶対に生きて帰る

   【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 第三部:スターダスト・クルセイダーズ】
 [現在の持ち主]:無し
 [状態]:武家屋敷の屋根に深々と突き刺さってる
 [思考]
  1:月が綺麗だなぁー、こういう日には人を切るに限る
  2:誰か拾ってくれ
  3:双六が来てくれることも少しは期待してる
  4:なんでさっきは操れなかったんだろう?でも最終的に操れたからいい
  5:DIO様の役に立ちたい。いなければどうしよう
 [備考]
  ※アヌビス神の能力は制限されています
  ※アヌビス神の能力の触れた相手を操る能力は戦闘限定になっています。また操られていても意識を失いません
  ※アヌビス神は持ち主に逆らえません(アヌビス神は無自覚)
  ※アヌビス神は自分がバトロワの支給品にされていることを知りません。気づいたら道のど真ん中で落ちていました

 【リョウ・サカザキ@THE KING OF FIGHTERS】
 [状態]:ほぼ無傷、髪の一部分に血液が付着
 [装備]:無し
 [道具]:デイパック、支給品一式
 [思考]
  1:双六を説得する。出来れば試合してみたい
  2:由花子を守る
  3:ゲームに乗った悪人が相手では覇王翔吼拳を使わざるを得ない!でも殺さない
  4:敵であろうと味方であろうと自分の目の前で人を殺さない
  5:髪を洗いたい
  6:主催者に対する激しい怒り
  7:主催者の倒し、タケシの仇を取る
 [備考]
  ※リョウはこのロワの参加者の大半は自分のような格闘家だと思っています
  ※リョウはタケシの名前を知りません

 【山岸 由花子@ジョジョの奇妙な冒険 第四部:ダイヤモンドは砕けない】
 [状態]:プッツン、精神体力ともに消耗
 [装備]:素手
 [道具]:なし
 [思考]
  1:康一を探しだして守る。居なかった場合は優勝して彼に会いにいく
  2:目の前の二人を殺す(双六優先)
  3:邪魔するヤツは皆殺し
 [備考]
  ※リョウ・サカザキをスタンド使いだと思ってます
  ※由花子の支給品一式の入ったデイパックはA-6の武家屋敷周辺に落ちています
  ※由花子は広瀬康一が参加していないことを知りません。が居なかったときのことも一応考えて行動しているようです



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