遭遇戦(自然公園)






 よもやこんな物を渡されるとは思っていなかった。
 その手には愛剣のシュラムではなく呪われた勇者の剣。
 油断すれば呪いによって自らの首を切り落としかねない。
 ただ殺し合いを告げられるのはよかった。
 面倒なことなど何一つ無い。
 敵を斬り続ければいいだけなのだ。
 そして最後には、
 しかし、この剣で戦い続けるのが自殺行為なのは明確だった。

 そうして感覚を研ぎ澄ませながら歩く真夜中の森の中、ようやく見つけたのは目の前には柄に入った剣を下げた二足歩行の猫。
 姿形などどうでもよかった。魔物など慣れている。
 これを逃す手は無い。
 男――シュラムの死神、ヴェガは手元の血生臭いマスターソードが収められた鞘を構えると、そのまま静かに猫に駆け寄った。
 さすがに人間相手とは勝手が違うらしく、相手はすぐにこちらを振り向く。
 猫は顔を引き付けながら、そのまま後ろに後退る。

「……オイラをキルしようっての?」
 ヴェガは無言で猫に近付く。
 掴んだマスターソードは既に抜きかけられつつあった。
「頼むよお、カンベンしてくれよお」
 ただ、猫は懇願した。
 尻尾を自分の腹に丸めて、その目には涙を浮かべてすらいる。
 それでも――ヴェガは決して容赦をしようなどしなかった。
「消えろ……」
 情けなど無必要だ。
 殺さなければ殺されてしまう。
 自分が愚かに騙されていたとか、殊に特殊な事情が無ければそれがヴェガの生きてきた世界の節理だった。
「エーン……許してよお」
 涙が猫の頬を伝う。
 絶望でどんどん猫の目が見開かれていく。
 ヴェガは剣を今にも抜かんと構えに入った。
「あ、……あう、う……」
 猫の腰も、顔もがくがく震えていた。
 避けなどしない。

 この初撃さえどうにかすれば剣が手に入る。
 短剣だろうとマンゴーシュだろうと、何だろうと構わない。
 とにかく、この呪われた剣から早く解放されることが重要だった。

 ――一撃だ。
 一撃で仕留めなければならない。
 それに――自分の腕を信じなければ刺客家業など出来る筈もない。
 ヴェガは、猫の首を跳ね飛ばす形で剣を正確に振り抜いた。

「!?」


 血が噴き出した。
 鮮血が地面の落ち葉を汚して、そして猫の身体にもその残滓が降りかかる。

 切り裂かれたのは、ヴェガの身体だった。
 マスターソードの呪いが解き放たれたのだ。
 猫の首と水平上にあった胸元からは熱がぼたぼたとこぼれ、そして全身の力もまた、そこから抜け落ちていく。
 明らかに内臓まで届いていて、致命的だった。

 何と言うことだ。
 あれだけ警戒しておきながら、そのたった一振りで呪いが牙を向いてしまった。
 それだけ自分の運が悪かったのか?

 いや――

 これは結果だ。
 結果として、自分はあの猫に負けたのだ。
 猫の魔物に。
 普段の、特にシュラムをもってすればこんな無樣な負け方はしなかっただろう。
 ――それにしてもこれは本当にひどすぎる。
 自分の使った武器の呪いで自滅だと?
 これは――本当に――

「ふっ……無様な……」

「……」
 人間の男の死体が目の前に転がる。
 一瞬、この猫の悪魔、ケットシーは目の前で何が起こったのか全く理解が出来なかった。
「……ケ」
しかしそれを理解した時。
未だに放たれる男の剣のただならぬ殺気に気付いた時に、ケットシーの口からは自然と笑みがこぼれていた。
「ケケケケケ! ウケルー!」

 先程の恐怖はもう存在していなかった。
 いきなり襲われた時にはどうなるかと思ったが、しかしこれはどうやら男が勝手に自爆しただけのようだ。
 ――男の剣によって。
「そうかー、この剣呪われてんじゃん! バカだあ!」
いくらなんでもこの呪いには気付いた筈だ。
 そしてそんな武器を使えばどんな結果になるのかも、容易に。

 当然の帰結として――男は死んだ。
 それほどこの剣の呪いは強烈だった。
 そう、何十、何百人も殺してきたような、 そんな異様な妖気をまとった剣。
 ――呪いの剣。
「あ!」

 そこでケットシーは、あることを思いついた。
 今回はこの剣に助けられたものの、この先またこの男のような者にまともな武器で襲われたのでは勝ち目が無い。
 最悪、もしも高位の悪魔などに出会ったらその瞬間ケットシーは跡形も無く消し飛ぶだろう。

 ならば――毎回この剣に助けてもらうのはどうだろうか?
 呪いは相当強力だ。
 相手を斬りつけたつもりが自分が斬られているのだから。

 後の旨味は、ケットシーに残ることになる。
「……そうかそうか、オイラって天才じゃん!」
 多分、ケットシーが生き残るにはこうした武器や道具を使いこなさなければならないのだ。
 つまり、早速それらアイテムを探しに出なければならない。
 剣と呪われた剣の二本だけでは心細かった。


 さて――何処に行こうか?



【B-3/自然公園/一日目深夜】
【ケットシー@真女神転生if...】
[状態]:実に健康
[装備]:?剣
[道具]:支給品一式×2、マスターソード(赤星)@ティアリングサーガ
[思考] 基本方針:生き残る
1:襲ってくる相手はマスターソードで自爆させる
2:他に武器が欲しい
[備考]
※マスターソードの呪いに気付きました

【ヴェガ@ティアリングサーガ 死亡確認】



前話   目次   次話