カリスマの苦悩
「…………ったく、冗談じゃねえぞ」
冷たい地面に座りこみ、僅かに乱れる息を整えながら己の不幸を嘆く。
少年の名は伊沢マサキ。『路上のカリスマ』とストリートで名をはせている実力者だ。
出発は五十音順、幸いにも自分の出発順は早かった。
まずは安全な場所の確保しようと、後続の人間が軍監島に散らばる前に無人の廃墟を全力で走りぬいた。
そびえ立つ廃墟、駆けながら横目に見る無人の街は現実感の無い不気味さを感じさせた。
そして、入り組んだ道のりだったにもかかわらず、10分程度で島の南西端にまでたどり着いてしまった。
この軍監島は思った以上に小さい、こんな事ではすぐさま島中に人が散らばり誰かに出会うことだろう。
落ち着ける時間は僅かだ、その間に自身の状況を整理する。
まず、どうしてこんな事になったのか思い返してみる。
「………えっと、確か」
ヤバい事にショーゴが首突っ込んだとかいう話で。
それを止めるためユウがショウゴを追おうとした。
オレはたまたまその場に居合わせただけだ。
ただ、そのヤバい事ってに悪い予感がしたので、ユウに付き添い共にショウゴの後を追った。
そして気が付けばこれだ、予感は大当たりだった訳だ。
「……オレはただの付き添いだぞ」
最悪だと吐き洩らしながら、首もとの異物に触れる。
その冷たい感触にゾッとする。
この島から逃げ出せば爆発この首輪はする。
こんなものが自分の命を握ってるだなんて悪い冗談だ。
ふと後方を見れば広がる大海。
激しく荒れ狂う波が、逃げ場は無いぞと、そう告げていた。
次に体育館に集まった面子を思い返して見る。
明らかに一般人じゃないゴツい奴等がゴロゴロいる中に見覚えのある人間がいくらかいた。
「……確かあれは、プロレスのグレート巽だよな」
他にもボクシングの日本チャンプ、それどころか世界チャンピオンもいた。
更に巨大な空手会館の館長。総合に出場しているプロの格闘家。あと相撲取りもいたか?
そしてなにより、鬼のようなあの男。
躊躇いも無く人を殺した残虐性。
それに常識外のあの脚力。
その全てが人間のものではなかった。
自分とて空手もかじった、ボクシングではインターハイ出場経験もある。
路上での実戦経験なんて腐るほどだ。
だが、ハッキリいってこれは、素人でどうこうなるレベルではない。
戦うなどと言う選択肢は無いだろう。ならば逃げるしかない。
逃げる。何処へだ?
周りは海に囲まれている。
何よりこの島から離れれば首輪に仕掛けられた爆弾が爆発する。
戦えばほぼ間違いなく死ぬ。逃げだしても首輪が爆発して死ぬ。
逃げ場など無かった。
完全な八方塞に考えは堂々を巡る。
その間にも時間は残酷に流れを止めない。
そろそろ参加者全員が体育館を離れ、島中を動き始める頃だろう。
脱出の方法はまだ分からない。
分からない以上、これ以上考えても無駄だろう。
まずはユウとショウゴを見つけ出そう。
そう思い至り、さっさと思考を切り替え重い腰を上げる。
「くそッ。とっととユウとショウゴを回収して、こんな島からおさらばしてやる」
そう吐き捨て、つい先ほど走りぬけた道をゆっくりと歩き始めた。
【軍監島南西端近く】
【伊沢マサキ@ホーリーランド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:1.ユウとショウゴを見つける。
2.なるべく戦闘は避ける。
3.この島から脱出する。
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