セカンドステージ
鳴海清隆。
この殺し合いの主催者を語るには、色々な言葉があるだろう。
たとえば「天才」。
何をやらせても天下一品、頭脳明晰でピアノの才能もとんでもなく卓越したものだった。
たとえば「神」。
とある呪いに縛られた子ども達の中でも大きな存在として君臨し、「悪魔」と呼ばれた男を殺した。
少年は、少なくとも他人よりは清隆について知っていると思っている。
かつては一つ屋根の下で暮らしていた兄弟のことを忘れられる筈もないし、自分のことを生まれながらの敗北者、兄貴の劣化コピーと自虐したことも数えきれない。
しかし、まさかこんなゲームを主催するとは思っていなかった。
少年、鳴海歩は深い溜め息をついてこめかみに手をやり、嘆くように壁に凭れる。
「兄貴……!」
自分のしてきたことがすべて清隆の掌の内だということも知っていた。
そのくらいでなければ拍子抜けだとも思っていたし、まだ何か仕掛けてきたとしても不自然ではない。
だが――さすがに今回ばかりは、歩の予想の範疇を超えていた。
五十以上の人間を集めて殺し合わせるゲームなんて、如何に頭の切れる彼でも想像できる筈がない。
清隆に歯向かったあの金髪が「消滅」したことへの説明もつかない。
優勝の賞品、「神の座」も何のことを指しているのか分からない。
常識の範疇を超えすぎていて、分からないことだらけだった。
「……乗るわけには、いかない。それだけはできない」
論外である。
呪われた子ども達「ブレード・チルドレン」を救うと宣言した自分がどうして彼らを殺せるのか。
会場で確認出来たのは二人、竹内理緒と浅月香介だけだった。
特に理緒は清隆を大分慕っていたようだし、ショックも大きいだろう。
変な気を起こさないでいてくれることを祈るのみだった。
彼らのことを憂いながら、更なる情報を求めて参加者名簿に視線を落とす。
日本人から外国人まで、中には人間と思えない名前もちらほらあったーーそして、彼の知り合いの名前も数人発見できた。
浅月香介、高町亮子、竹内理緒、カノン・ヒルベルト。
そして、自身の相棒といっても過言ではない人物が、ひとり。
「……どういうことだか」
カノン・ヒルベルト。
彼の名前がここにあることは、本来有り得ない。
彼は一度歩たちの敵に回り、化け物じみた身体能力を披露した強敵である。
しかし、彼は「悪魔」のクローン―――ミズシロ火澄に殺害された筈。
狂言と切り捨てるのは容易いことだが、何せ相手は「あの」鳴海清隆だ。
カノン・ヒルベルトは自身の知る存在であると、歩は端的に理解し、認めた。
「そろそろ行くか……さて」
本当に何気ない、注意しなければ見逃してしまいかねない然り気無さで、彼はディパックからそれを引き抜いた。
そして、部屋の陰、丁度視覚となっていて歩からは見えない一点に、銃口を向ける。
大分慣れ親しんだ銃の感覚を手に感じながら、怯えの色を見せない声色で毅然と言い放った。
「そこに隠れてる奴、出てきな。撃たれたくなきゃとっとと出てくるのをオススメするぞ」
しん、と当たり前の静寂が訪れる。
が、歩は自分の錯覚であると疑うことなく、銃を向けたままもう一度口を開く。
「テンカウントして出てこなかったら敵と判断する。行くぞ、いーち、にー………」
「ああ、分かった分かった。降参だ」
がさごそと音を立てて、深い溜め息を吐きながら一人の少年が姿を現した。
人相ははっきり言って悪く、無精髭が目立つ。
学生服がこれほどミスマッチな人間も珍しいのではないか、と歩は思う。
「俺は川田章吾。悪いな、ちょっと見張らせて貰ってたぜ」
にやり、と野生的な笑顔で告げる少年――川田は、その両手にマシンガンを持っていた。
歩の持つ短銃より遥かに大きく無骨なシルエット。もしもこの距離で引き金を引かれれば、ものの十秒としない内に鳴海歩は肉の塊に還ることだろう。
それをしないのは、彼の言葉が嘘ではないことを裏付けていた。
歩は彼の言葉を聞くと静かに銃を下ろし、柔和な微笑みを浮かべて言った。
「こっちこそ手荒な真似をして悪かった。俺は鳴海歩。さっき言った通り、乗っちゃいない」
「そうか、まあよろしく頼むぜ、鳴海。それにしても、どうして俺が隠れていることに気付けたんだ? こう言うのもあれだが、そっちからは見えない場所の筈だ」
「あー、それか。……ハッタリだよ、実はな」
事もなさげに吐き出された真実に、川田は思わず呆然となってしまう。
「万一だ。万一のことを考えて片っ端から死角にこれを仕掛けていけば、安全だろ」
「ははぁ、そういうことか。お前、なかなかいい性格してるな」
「こんな状況だ、安全にも気を遣いたくなるさ」
実際のところ、鳴海歩は命のやり取りには慣れている。
直接誰かを殺めたことこそないものの、自身の命を狙われたこともある――それをその都度乗り越えてきたのだ。嫌でも慣れるというものである。
しかし、あそこまで明確な「異能」が関わってくるとならば、話は大分変わってくるのだ。
超能力者、魔術師、幽霊、妖怪――歩の見たこともないような存在が闊歩する可能性だってある。
余裕綽々な態度では万が一も有り得ると、彼はあの「セレモニー」から端的な理解を示した。
「それに、そういうことを言い出したらお前も同じだろう、川田」
「……なんだって?」
「ーーお前は、初めてじゃない。このバトルロワイアルってゲームを一回経験している。違うか?」
心中を見透かすように、歩は川田の瞳を正面から見据えた。
川田は言葉にこそ出さなかったが、一瞬顔面の皮膚を引き攣らせた。
それで、自白としては十分だ。
やがて観念したかのように川田は話始める。
「鳴海。お前の言う通りだよ、俺は「経験者」だ。……ただし、一度じゃない。二度、だな」
川田章吾という少年は、ひどくツイていなかった。
ランダムに選抜された学校のクラスで、最後の一人の生き残りを決めさせる「プログラム」。
鳴海清隆のバトルロワイアル、そのアーキタイプと言っても過言ではない狂ったゲームである。
川田は他のクラスメイト全ての屍の上に、優勝を獲得した。
そしてもう一度。新たに転入した中学校で、またも「プログラム」に選ばれたのだ。
しかし、二度目の「プログラム」で、川田章吾は二人の仲間を得る。今回のバトルロワイアルにも参加者として巻き込まれている、七原秋也と中川典子。
何度か険悪な雰囲気になったこともあるし、殺戮マシーンと化した天才、桐山和雄との交戦では一方間違えば全滅のおそれだって十二分にあった。
そんな危機を乗り越えて、川田と七原たちは「プログラム」を生き延びることが出来たのだ。
「――で、だな。ここから先は俺にもよく分からん話だ。笑い飛ばしてくれても構わない」
……生き延びられたのは、七原と中川の二人だけである。
当の川田はといえば、桐山との一戦で負った銃創が原因となり、一人命を落とした。
まるで眠りに落ちるような満ち足りた気分で目を閉じて、眠りから覚めるように目を開くと、あの「セレモニー」の真っ只中だった。
さすがに、混乱した。
鳴海清隆の行った不可思議な所業にも瞠目したが、あのホールで、やっとの思いで殺した筈の桐山和雄の姿を発見した時には、頭がおかしくなるかと思った。
単刀直入に言えば、川田章吾は既に死んでいるのである。
「いや、俺は信じない訳じゃないぞ。川田、お前がもたらした情報は俺にとってなかなか大きい」
「……どういうことだ? まさかお前もなのか、鳴海っ」
「まさか。俺の知り合いの一人、殺された筈の奴が、名簿に載っていたんだ。疑問に思ってはいたけど、これで確信になったよ――主催陣営は、とんでもない力を持っている」
歩が語ったのは、主催の鳴海清隆、そして少なからず存在するだろう協力者の持つ不可思議な力。
確実に存在するのは「存在に干渉する力」と「死者を蘇らせる力」。
場合によっては「空間を作る力」や「時間を操る」なんて現実から更に乖離したものもあるだろう。
普段ならば一笑に付す類の話だが、今回ばかりは川田も納得するしかなかった。
「なら、「神の座」とかいうふざけた賞品も?」
「多分、本当の話だろうな。神ってのはさすがに誇張だと思うけど――鳴海清隆なら、やりかねない」
「鳴海清隆、ね。……あいつ、おにいちゃんの身内なんだろう?」
「ああ」
「そいじゃあ、鳴海。ひとまず同盟関係と行こうか」
「異存はない。よろしく頼む」
「こっちは七原秋也、中川典子の捜索を第一に行動したい」
「了解。俺は「ブレード・チルドレン」――浅月香介、高町亮子、竹内理緒、カノン・ヒルベルト、あとお下げの女一人を探したい。ま、ぼちぼち探していくとしよう」
笑みを交わしあって、二人の少年は行動を開始した。
【F-1 洋館/未明】
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
【装備:グロック17@現実】
【所持品:支給品一式、ランダム支給品×2】
【状態:健康】
【スタンス:「ゲーム」の破壊】
【思考・行動】
1:川田と協力して互いの知り合いを探していく
【備考】
※自身がクローンであると知った直後からの参加です
※川田章吾から「プログラム」について聞きました
【川田章吾@バトルロワイアル】
【装備:RP-46軽機関銃@現実】
【所持品:支給品一式、ランダム支給品×2】
【状態:(キャラの身体的な事)】
【スタンス:鳴海清隆の打倒】
【思考・行動】
1:鳴海と協力して互いの知り合いを探していく
2:桐山和雄には最大限の警戒を。見つけ次第殺害する
【備考】
※死亡後からの参加です
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