猛獣たちの饗宴






漆黒の闇の中佇む男が一人。
血を彷彿とさせる赤の軍服を身に纏い、頭部には骸骨の紋章をつけた帽子を被っていた。
その名はベガ。
彼はこの状況にかつてない程の怒りとそして喜びを感じていた。
秘密結社「シャドルー」の総帥として彼は兵器売買、麻薬取引、誘拐から要人暗殺までありとあらゆる悪に手を染めてきた。
しかし、そんな彼といえど殺し合いは初めてのことであった。
「あの小僧……よくもこの私を上から支配するとは…許さん、許さんぞ!!
頂点に立つ者は只一人、このベガ様だ!貴様にはこの私が直接手を下してやろう、しかし……」

ベガの表情が突如、満面の笑みへと変貌する。

「殺し合いというアイディアだけは誉めてやるぞ。私といえ殺し合いをするなど前代未聞の出来事。私を楽しませてくれる強者もいるかもしれん。
小僧ッ、貴様の始末はその後だ!全員なぶり殺しにしてからゆっくり相手をしてやる。
今はこの『バトルロワイアル』を盛大に愉しむとしよう!!フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

吼えた。ただただひたすら吼えた。
周囲のことなど微塵も気にせず、全身から蒼き闇と共に自分の感情を爆発させる彼の姿は、正に戦慄の魔人と言っても過言ではない。

「貴様はどうなんだ」
今まで荒々しく咆哮を上げていたベガは、ぴたりと笑うのを止め周囲の闇に呼びかける。
一瞬の静寂が辺りを支配する。
一呼吸間をおき後方の闇から現れたのは、褐色の肌に赤茶色の頭髪を有し、全身を黒の甲冑で身に纏い、背丈は2メートルをゆうに越える大男であった。
彼の名は―――――ガノンドロフ。
その眼差しは人を恐れ服させる威厳の力で満ちていた。

「誰だ貴様は?」
「我が名はベガ。全ての頂点に立つ者だ。ところで…貴様はこの『バトルロワイアル』を愉しんでいるのかな?」
「フンッ、下らん!だが、この俺の邪魔になるもの、全ての障害はこの拳で打ち砕く!あの『ハザマ』とかいう餓鬼も、此処に存在する全ての参加者も、無論貴様もだッ!!」
「フフフ、威勢のいい男だ。相手をしてやろう」

ー―――――――――――――――――――――賽は投げられた

先に行動を起こしたのはガノンドロフ。巨体を十二分に利用した重い拳をベガへと放つ。
ベガは余裕の表情でガードするがそれも束の間、既にガノンドロフの逆手からの裏拳が眼前へと迫っていた。
それをベガはギリギリのところで後ろへ避ける。
攻撃が当たらぬとわかったやいなや、ガノンドロフは自分の右手に紫炎を纏わせ、すぐさま突進。
紫の炎にベガは一瞬驚くが、それが結果としてベガの判断を遅らせることとなった。
ガノンドロフは紫炎をおびた腕でベガの首を掴み上げ、そのまま一気に地面へと振り下ろした。
「グッ…!」
地面に鈍い音が響き渡る。『炎獄握』と呼ばれるその技を直にくらったはずだが、ベガは無言で大地に伏していた。
「どうした、まさかこの程度で終わりだと言わせるなよ。」
返事はない。返事はないがガノンドロフには分かっていた。眼下の男がまだまだこの程度でくたばる男ではないことを。
「フフフ…フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
ベガが不敵な笑みを浮かべながら立ち上がる。
「貴様もサイコパワーを使うのか?」
「何だそれは?俺の力は全てを飲み込む闇と、そしてこの力のトライフォースよ!」
「その力、我がサイコパワーの糧としてくれよう!!」
再び先攻はガノンドロフ。ガノンドロフは先程の攻撃がまるで小手調べであるかのように、強力な拳を打ち込んでいく。
高速で迫る拳をベガは同様に高速の拳で立ち向かい、ある時は防御し、あるときは受け流し反撃の手を加える。
突然、シュッという音が聞こえたかと思うと、次の瞬間二人のハイキックが激しく交差し、さらに、両者は足を大きく踏み込み拳を放つ。
双方に繰り出した拳が鈍い音と共にぶつかり合い、その衝撃が互いの全身に伝わり、運動神経にストップをかける。

「「ぐっ……!!」」

一秒にも満たない硬直から一瞬早く目覚めたのはガノンドロフ。すぐさま強烈なローキックをベガへと蹴り出し、
それにより若干崩れたベガを素早く掴み、ジャイアントスウィングの要領で前へと向かって大きく投げ放つ。
ベガは即座に受身を取り、

「サイコクラッシャァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!」

全身にサイコパワーを纏い、低空飛行で眼前の敵目掛けて突進する。
相手の突進を前にガノンドロフは勇猛果敢に立ち尽くし、拳を強く握り、大きく溜めの構えをとる。

「ウウォォォォォォォッッハァァァァァァァッッッッッッッ!!」

暗黒の力を溜めて繰り出す『魔人拳』とサイコパワーを纏い突進する『サイコクラッシャー』が激突する。

「「ウオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッ!!!!!」」


周囲の木々が大きく振るえ、辺りには激しい音が轟く。
二人は互いに相手を打ち負かさんとばかりに全力を出し合う。
二人のパワーは互角に思えた。
しかし、ベガの心情は違っていた。ベガはガノンドロフの想像以上の力に驚いていた。
(こ、こいつ……!!)
結果、ベガは押し負け全身に強烈な痛みを味わうこととなった。
「ぐっ…!なるほど…確かにパワーはこの私を凌ぐほどだ…。だが闘争とは力が全てではないことを見せてやろう!ハァッ!!」
掛け声と共に驚異的な速度を保つ、鋭い拳が走る。
ガノンドロフは両手を交叉し、重い衝撃を感じながらもあっさりと受け止め、即座に反撃の拳を繰り出す。
が、それをベガは前方宙返りのようにヒョイとかわし、そのまま空中で前転するように両足を振り下ろし二連撃を加える。その一連の動作は『ダブルニープレス』と呼ばれる。
「ぬうっ!」
そこから、ベガは着地し、しゃがんだ状態から一気に強烈なアッパーを振り上げる。
「ぐっっ!!」
さらにアッパーの勢いを利用した、相応の力と速さを備えるミドルキックがガノンドロフを貫く。
「がはぁっっっ!!!」
繰り出される数々の攻撃を前に、ガノンドロフは始めて苦痛の表情を見せた。
「ククク、どうした?先程までの勢いは何処へ行った?」
素早く強靭な攻撃はさらに勢いを増していく。
「所詮、貴様は力が強いだけの只の『筋肉馬鹿』なのだぁぁぁぁ!」
ベガは再びダブルニープレスで攻め、そのまま流れるように着地状態からのアッパー、ミドルキック、そして再びダブルニープレス。
それをベガは何度も繰り返し、ガノンドロフの体力を削っていく。
「誰もこの『ダブルニープレス→しゃがみ中パンチ→立ち中キック→ダブルニープレス……』の無限コンボの前では太刀打ち不可能だ!フハハハハ!!」
「ぐううっっ…!」
矢継ぎ早のように放たれるコンボの前にガノンドロフは防戦一方、彼の肉体は悲鳴を上げていた。
いくら鋼の肉体を持つガノンドロフといえども数多の、そして強力な攻撃を受け続ければ、それは脆くなる。
「フハハハハ!中々楽しかったぞ、だが勝者は、頂点は常に一人!残念だが余興に付き合うのはここまでだぁ!死ねェェェェェイッッッ!!」
ベガが雄叫びを上げ、今までとは遥かに違う全力の拳を放つ。止めの一撃にはもってこい。ベガは勝利を確信した。
―――が、ベガは拳を放った瞬間、ガノンドロフがニヤリと笑っていたのを気づかなかった。
ガノンドロフは相手の攻撃を執拗に耐え続け、最後の一撃が来るのを待っていたのだ。
全力を出す瞬間の直前の「タメ」。ガノンドロフはその一瞬を突いた。



「掴まえたぁ!」
「何ィッ!!」
捕らえたのはベガの右腕。ガノンドロフはこれまでの痛みを力に変えてぶつけんとばかりに、渾身の力でストレートを叩き込んだ。
「ウウォォォォォォォッッハァァァァァァァッッッッッッッ!!」
ベガはガノンドロフの渾身のストレート「魔人拳」を咄嗟にあまっている左腕で防ごうとするが……
(まずいっ!この力は…!!)
相手の最強の必殺技を片手で防ぐなど当然出来ず……
「グワァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!」
勢いよく後方へと吹き飛ばされることとなった。
宙に浮くベガと共に幾本もの木々が砕け散る。ガノンドロフのパワーがどれほど強烈なものかを表した光景だった。
「グゥゥゥゥゥ…貴様ァッ…!」
地面から起き上がるベガの表情は以前の余裕に満ちた表情ではなく、苦痛と憎悪に満ちたものへと変貌していた。
「この私が……貴様のような筋肉馬鹿如きにィッ…!」
「ハァ…ハァ…」
両者既に満身創痍、二人が全身に受けているダメージは相当のものであろう。
熾烈な戦いに決着の時が近づいてきた。
「ッハァッッ!!」
先に動いたのはベガ。先程のように素早く高速な拳をガノンドロフの五体全てに目掛けて殴り放つ。
ガノンドロフも負けじと豪腕、剛健の鋼の肉体で応戦する。
両者が拳を出し合えば起こりうることは当然決まっており―――――

「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」」

ラッシュの応酬。
双方の拳が一発一発ぶつかり合うたびに、二人の拳に衝撃が走り、周囲には轟音が響き渡る。
力はガノンドロフが、速度はベガが上回り、それぞれの持てるパワーを最大限に発揮する。
互いに一歩も退かなかった。二人のパワーは全くの互角といっていいだろう。そのレベルは常人の域を遥かに超えている。
「フハハハハ!貴様がこれほどの力を持っていたとは予想外だったぞ!名をなんと言う?」
「俺の名は、ガノンドロフ!!この世の全てを支配する闇の魔王だ!」
「そうか、今から死にゆく貴様の名前を聞けてよかったぞ!」
「フンッ!この俺がお前如きに負けるわけなかろうッ!」
尚もラッシュの勢いはさらい増していく。
「このままでは一向に勝負が……」
「そう、つかない。ベガと言ったか…そろそろ潮時だ。このまま互いに死んでいってしまっては元も子もないからなぁ!フンっ!!」
ラッシュを中断させ、全身の力を解放するガノンドロフ。その力に若干ベガは後ろへとたじろぐ。
「ヌウッ!まだこんな力を……!」
ガノンドロフはその隙に、懐から「何か」を取り出し、それを自分の前方に向かって投げた。それは上半分が赤色、下半分が白色のボール状の形をしたものだった。
「いでよっ!ビリリダマ!!」
突然、中々から出てきたのは投げたボールとよく似た形状のもので、違う点は、ボールよりも遥かに大きく、上の部分に鋭い目がついていたということ。
ベガから見たら、さながらボールが巨大化したように見えていたことだろう。
「な、何だこれは!?」
「ビリリダマ、フラッシュだ!」
刹那―――辺りが光に包まれ、周囲の闇が一変して純白の空間へと変化する。
「これはっ!クソォォォ!」
ベガの視界が激しい光で遮られる。その瞳にガノンドロフの姿を捉えることは不可能だった。
光が弱まり、再び辺りが闇と化したときには、既にガノンドロフの姿は存在しなかった……



□■□
「逃げたか……腰抜け目。だが、あのままでは私も只では済まなかっただろう…
このベガ様がまさか、これほどまでに苦戦させられるとは……グッ、ガハァッッ…!
あの男、ガノンドロフの力…『トライフォース』といったか…。
その力も、それ以外の強者の力も全て必ずこのベガ様の手中に収めてやるぞ!
この私が頂点だ!それ以外の者は全て生贄にすぎん!フハハハハハハハハハハ!!」

【D-4/一日目/深夜】
【ベガ@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:全身に中度の疲労と損傷。残り体力5割を切る。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本方針:参加者全員なぶり殺しにし、ハザマを始末する。
1:ガノンドロフを殺し、トライフォースの力を手に入れる
2:強者と戦い、その力を手中に収める
3:体力を回復する

□■□
「よくやったぞビリリダマ、お前がいなければかなり危ないところまでいっていたぞ…
しかし、体の損傷が激しい…クッ、、、ベガ…俺と同等の力を持つ奴は初めてだ…貴様はこの俺が必ず殺してやるぞ!
他の参加者たちもあのように強い力を持っているのか…やっかいだな。だが、この俺の障害になるのなら叩き潰すまでだ!!
そして、リンク、ゼルダ…貴様らも着ているとはな…丁度いい機会だ、此処で他のトライフォースを根絶やしにし、
俺が此処に魔王として君臨するぞ!フハハハハハハハハハハハ!!」

【D-4/一日目/深夜】
【ガノンドロフ@ゼルダの伝説シリーズ】
[状態]:全身に中度の疲労と損傷。残り体力5割を切る。
[装備]:モンスターボール@ポケットモンスターシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(確認済み)
[思考]
基本方針:邪魔者全て皆殺し
1:トライフォースを根絶やしに魔王として君臨する。
2:ベガを殺す
3:体力を回復する


□■□
「遅かったか…」
先程まで、激しい戦いが繰り広げていた場所に一人の男が現れた。
オールバックにした銀髪と涼やかなマスクに、青を基調にしたコートがよく似合った風貌。
彼の名はバージル。
「激しい轟音と、激しい光を辿って来たが、既に戦闘は終了…」
周囲の激しい損害と、今も尚残っている血の匂い
「面白い、最高だ!どれほどの強者達が戦っていたというのだ……!まだ見ぬ強者がひしめくこの場を提供したお前に感謝しよう!
力こそがこの世の全て!俺の魂が言っている。―もっと力を!!」

【D-4/一日目/深夜】
【バージル@デビルメイクライシリーズ】
[状態]:健康 興奮
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本方針:強者と戦い、力を得る
1:ダンテと決着をつける

鎖が解かれた獣たちは爪を休めることはなく、さらなる牙を求めに奔走する。
血に飢え、肉を喰らい、力に酔いしれた猛獣たちの饗宴はまだ始まったばかりだ…
いったい、この地にどれほどの死体が埋もれ、どれほどの血の雨が降り注ぎ、どれほどの嘆きの涙が落ちるのだろうか……



【モンスターボール(ビリリダマ)@ポケットモンスターシリーズ】
[分類] ボールポケモン
[タイプ] でんき
[高さ] 0.5m
[重さ] 10.4kg
[特性] せいでんき/ぼうおん
[覚えている技]フラッシュ/????/????/????
[特徴]モンスターボールによく似た姿をしたポケモン。上下で紅白に分かれた球形をしている。目つきが鋭い。



前話   目次   次話