紅白、異界の土地で白黒忍者に会う
深い闇に包まれた森の中。満足に前も見えぬ暗闇の中で、闇に紛れて颯爽と移動する一つの影があった。
その影はまるで猿のように木と木の間に飛び移り、そして空を翔ける燕のような速さで移動していた。
しばらく森を駆け抜けた影は木から飛び退くと音も経てずに地面へと着地した。
木の間から漏れてくる月光が影を照らし、若い男の姿が露わになる。
奇妙な男だった。東洋風と思しき袴と鎖帷子を着込み、肩にはそれとは不釣合いなデイパックを背負っている。
そして白い髪に血色の悪い肌と紅い瞳を持った顔は明らかに東洋系のものではなく、無駄な筋肉がついていない細身のその体を見ると病気持ちにも見えかねない。
このアンバランスな男、名はチップと言った。
「ちっ、それにしても胸糞が悪いぜ」
チップは飛び回って流れ出た汗を拭うと、背後にある大木へと回し蹴りを叩き込んだ。
イライラの原因はいくつかあったが、一番は自らをゲームのプレイヤーと言った男――偉出夫だ。
自分と同じくらいか少しばかり下の歳であろう青年。自身を安全圏に置いて、殺し合いを強要させてそれを見て楽しむ。人の命を弄ぶ偉出夫の行為。
チップはそれが酷く気に入らなかった。
「DAMN! 思い出したらまたイラついてきやがったぜ」
回し蹴りを喰らわせた大木に向かって、さらに連続で上段、中段、下段と順番に蹴りを放つ。
チップの足技によって揺れた木からは幾つもの木の葉が、チップを包み込むように舞い落ちる。
だがそれでもチップの偉出夫に対する怒りは収まらない。
使い慣れた得物も取られ、さらにいつ爆発するかもわからない首輪を付けられて殺し合いをさせられている。
ここまでくれば、短気であるこの男が怒らないわけがない。
チップは肩のデイパックを乱暴に下ろすと、中にしまわれていた支給品を取り出した。それはチップの背よりも二周り小さいくらいの、大きな手裏剣だ。
彼は手裏剣を片手で持つと、先ほど蹴りをくれてやった大木に向かい合う。そして印を結び、姿勢を低くする。
アルファッブレイド
「一の太刀、 縮 地!」
チップの全身が文字通り霞んで消える。チップの体は大木へと一直線に、まるで獲物を狩る鳥のように真っ直ぐに進み、すれ違いざまに大木を斬り払った。
大木の後ろ側にチップは現れ、地に手をついて慣性のついた体にブレーキをかける。そしてチップが止まるのと同時に、大木は音を立てて真っ二つになった。
「悪くねぇ。使わせてもらうぜ」
少し笑いながら、チップは右手に持った巨大な手裏剣、風魔手裏剣を月光にかざした。
「師匠、見ててくれよ。俺が必ずあのモヤシ野郎をぶっつぶしてやる!」
憂さ晴らしが済んだチップは、斬った大木を一瞥すると、これからの行動を考え始める。
最終目的は今の宣言通り。偉出夫の元へと辿り着き顔面に一撃を叩き込む。だがそれは困難を極める道だということもチップも気づいていた。
首輪がある以上、偉出夫のところへと直接向かうのは好ましくない。
チップのスピードと技術なら恐らく偉出夫に感づかれる前に偉出夫を抹殺することも可能かも知れない。
だが首輪がその行動を抑止させる。しかも相手の実力は未知数、迂闊に攻めて返り討ちにあうのは、いくらチップでもごめんだった。
(となると、こいつをどうにかして外さないと意味ねぇのか……)
殺し合いに乗って優勝を目指す、という道も存在する。
だが散々苛立たされた偉出夫の考えたゲームに乗って人を殺す。チップにとっては考えただけでも反吐が出そうな話だ。
それに優勝したからといって解放される見込みもない。
つまりチップに残された道は一つ。なんとかして首輪を外し、偉出夫を倒す。それだけだった。
方針を決め終えたチップはまた夜の闇に紛れて移動を開始する。木と木の間を素早く飛び移りながら、袂に入れておいた支給品の地図を取り出した。
(目指すなら研究所だな。ここに行けば首輪をどうにかできる奴も集まってくんだろ)
右手のほうに高く聳え立つ山――キラーマウンテンを確認すると、地図を袂にしまい直した。
こうして一人の忍者が、打倒主催に燃えて動き出すのだった……。
「……はぁ、どこまで続くのよこの森は」
白と紅の巫女服を纏った少女――博麗霊夢は、デイパックの中に入っていたブーメランを振り回しながら歩いていた。
なぜそんなものを振り回しているかと言えば、他にこれといった武器がなかったので仕方なく装備していたのと
長く続く森にいい加減飽き飽きしてきたので手慰みに振っているだけである。
(いつもなら飛べばすぐに森なんて抜けるのに……。なんだって飛ぶだけであんなに疲れるのよ)
最初、霊夢は飛んで森を一気に抜けようと考えていた。
だがそれを実行しようと飛び立つと、いつもは全くない疲労感が彼女を襲った。
初めのうちは無視して飛ぼうとしていたのだが、思ったより激しい体力の消耗により慌てて霊夢は飛ぶのを止めて、こうして徒歩で森を抜けようとしているのである。
「全く、なんなのよここは。殺し合いとか言われるし、スペルカードは全部取られてるし、能力はまともに扱えないし……。
今回は変な事件に巻き込まれちゃったわね」
思わず愚痴をこぼし、ゆっくりとした歩調で彼女は月光で僅かに照らされた道を歩きながらそう思った。
幻想郷ではない場所で、幻想郷とは関係ない者の手によって開かれた殺しの宴。
だが愚痴をこぼしていたのとは裏腹に、彼女はこの狂気のパーティーに強制参加させられたことについてはあまり気にも留めていないようだった。
(まっ、巻き込まれちゃったものは仕方ない。なんとかなるでしょ)
それは幾多の事件を解決してきた博麗の巫女としての自信なのか、はたまた深く物事を考えていないだけなのか。どちらにしろ、根拠の全くない自信でしかないのだが。
(とにかくこんな物騒なものは早く外したいわね)
首輪を指で弄りながらそこまで考えて、霊夢はあることに気がついた。さっきまで手に持っていたブーメランが忽然とその姿を消していたのだ。
「あら? いつの間にかすっぽ抜けてたのかしら」
キョロキョロと辺りを見渡す彼女だったが、この鬱葱と茂った木々の中をブーメランは器用にすり抜けてしまったらしい。どこにも見当たらなかった。
(どうしよう。一応唯一の武器だしなー)
無くしたブーメランを捜すか捜すまいかを決めあぐねていると、突如背後の木の枝が大きく揺れた。
音に驚いて霊夢は振り向くと、そこには白髪の男――チップが立っていた。
霊夢は警戒してゆっくりと後退りしながら距離を取るが、チップはそれを片手を挙げて静止させる。
「待てジャパニーズ。テメェに少し聞きたいことが……」
「……あっ」
喋り始めるチップを凝視していた霊夢だったが、突然何かに気づいたようにチップの背後を指差した。
チップも背後から迫る気配を感じて、それに釣られるように振り返った。
「なんだ? 一体何があるって――」
それが災いした。
さっき霊夢の手から離れたブーメランは、奇跡的に木にぶつかることなく、進み、回転し、速度を増し、そして今霊夢の元へ
と帰ってきていたのである。
そのブーメランが、今まさにチップの振り返った目と鼻の先に存在した。
文字通り眼前に迫った凶弾を相手には、ボムも、バーストも、昇竜も、全てが意味を成さない。
チップは抗う術もなく、顔面でその凶器を受けた。
――ピチューン
「シッショーッ!!!」
【チップ・ザナフ@ギルティギアシリーズ シッショー確認】
「……これって、私のせい?」
足元に落ちたブーメランと、それによって気絶して倒れたチップを交互に見つめながら、霊夢は大きく溜め息を吐いた。
「ほうっておくわけにもいかないわよね……」
霊夢はチップの元に近づくと、チップの様子を確認して介抱を始める。
確認したところ、どうやら目立った外傷もない。気絶も浅いようで、すぐにでも回復するだろう。
(先行きが不安になってきたわ……)
先ほどの根拠の無い自信はどこへやら。介抱を続けながら霊夢はこれからのことを考えて、頭を抱えたくなってきた。
【C-5/一日目/深夜】
【チップ・ザナフ@ギルティギアシリーズ】
[状態]:額に打撲(軽傷)、疲労(少)、気絶
[装備]:風魔手裏剣@FFZ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本方針:打倒偉出夫を目指して行動する
1:何が起きたんだ……?
2:発見したジャパニーズ(霊夢)と話したい
3:首輪を外す方法を探しに研究所へと向かう
【C-5/一日目/深夜】
【博麗霊夢@東方project】
[状態]:健康、疲労(少)
[装備]:ブーメラン@ゼルダの伝説シリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(戦闘の役に立ちそうなものは無し)
[思考]
基本方針:今回の事件を解決する
1:目の前の男(チップ)を介抱する
2:森から出たい
3:出来ればお札やスペルカードを取り返したい
※能力の制限に気がつきました
※空を飛ぶ程度の能力は飛んでいると疲労が溜まっていきます
※名簿は確認していません
※アイテム
【風魔手裏剣@FFZ】
原作ではユフィの装備武器。
攻+64 命中+113 早+10 クリティカル率+2
マテリア穴もあるのでマテリアがあれば装備可能。
【ブーメラン@ゼルダの伝説】
ゼルダの伝説シリーズおなじみの装備。
相手の動きを止めたり攻撃したり遠いものを取ったりと用途は広い。
ただ霊夢がそこまで器用に扱えるかどうかは不明。
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