バトロワモンスター庵
「ハナダの洞窟の試練……な訳ないか」
民家の椅子に腰掛けながらため息をつく帽子の少年。
殺し合い、確かにあの学生風の人は言った。
ポケモンバトルも相手を殺すつもりでやってるわけじゃない。
なんだってこんな面倒に巻き込まれたのか思い当たる節すらない。
もう一度ため息をついた時に、ドアがゆっくりと動いたのだ。
あわてて椅子から飛び退こうとして足を滑らせてしまい、椅子ごと後ろに倒れこみ頭を強く打ってしまったのだ。
意識を取り戻したのは民家のベッドの上、隣には長髪の女性が立っている。
それに気がつきあわてて飛び起き、怯えの表情を浮かべる少年。
「あ、まだ動いちゃ駄目よ。怪我はしてないみたいだけど数分倒れてたんだから」
しかし、少年が想像していた展開とは違い、その女性は優しく声をかけてくれた。
「あ、あの……」
「ん、あ、いきなり入ってゴメンね。まさか人がいるなんて思ってなかったからさ。
ビックリさせちゃったね……あ、私はティファ、君は?」
「あ……イマクニ、です」
女性の微笑に対し少年は、どこか恥ずかしそうに名乗った。
「へぇー、それでイマクニ君はそのポケモンマスターっていうのを目指してポケモンっていうのを集めてたの?」
「あ、はい。ポケモンマスターっていろいろ定義が変わってくるんですけど。ポケモンバトルも強い、ポケモンの知識も豊富。
ポケモンはしっかり全種類所持……っていうのがマスターの定義かなあって。それでハナダの洞窟ってところであるポケモンを探してたんですけど……」
「そこでこの場所に来ちゃった……と」
はい、と小さくつぶやきベッドの上でティファから差し出されたコーヒーを持ちながら、イマクニは項垂れる。
溜息をつくイマクニに釣られて、ティファの口からも溜息が漏れる。
「そっか……でもやっぱりあたしは許せないな。イマクニ君みたいな人たちでも誰も彼も集めて殺し合いさせるだなんて間違ってるよ。
それに――」
「――――ォォォォォオオオオ!!」
ティファの言葉は咆哮にかき消された。二人そろってドアの方を向くが誰もいない。
「イマクニ君。あたしが外の様子見るから、ここでじっとしてて」
何かを言いかけたイマクニの口をそっとティファは塞いだ。
「あたし、こう見えても強いんだから。危なかったらすぐ戻るし……ね?」
そういってティファは颯爽と民家から飛び出した。
自分も後を追おうと思ったが、打った頭がズキズキと痛む。
イマクニは二つの事柄で、頭を抱えることになった。
「オォォォォ、キョォォォオオオ……オォォ、オ……ロチ? キョオ、キョオオオオオ!!」
赤髪の青年、八神庵。
口からは煙にも似た息を吐き、目は焦点というものを失い。
彼は二つの名前を叫ぶ。「キョウ」と「オロチ」の二つの名を。
庵はあの時、オロチの手により体内に潜むオロチの血を覚醒させられた。
660年前、庵の先祖が結んだオロチとの血の契約。
その血はもちろん庵の中にも流れている、故にオロチは庵を利用し京とちづるを殺害させようと目論んだのだ。
しかし、オロチの血が全て庵の自我を支配しているわけではなかった。
微かに残された庵の自我が、あの時オロチへと力を向かわせることに成功したのだ。
だが、オロチの血の支配はそれだけでは終わらなかった。
狭間が庵を呼び寄せたのはそう、その瞬間。
庵がオロチへと飛び掛るギリギリの瞬間に呼び寄せたのだ。
唯一の救いは庵の自我が微かに残っていること。
だが、オロチの血の暴走を止めるにはそれでは弱すぎた。
ルール説明中、狭間がいかに庵を押さえつけていたのかは不明だ。
殺し合いを潤滑に進行させるため、庵を殺戮兵器とも呼べるオロチの血による暴走状態で呼び寄せたのは事実。
そして、牙はこの地で――――
「キョウ、キョオ、キョオオオオオオオオオオオ!!」
剥かれた。
「さっきの声はあなたなの?」
庵の背後で、声がする。
長髪の女性がファイティングポーズを取り、こちらを向いている。
「キョウ……キョウ……ドコ…………ダ」
庵が小さく呟くが、目の前の女性は警戒を解かない。
庵の行動を見守るように女性は眉一つ動かさない。
「キョウ! キョウ! キョオオオオオオオオ!!」
そして、庵は女性に飛び掛った。
「くっ……強いわね」
襲撃者か何かだろうかとは踏んでいたが、ここまで強力な襲撃者だとは思っていなかった。
ティファが想像したよりも赤髪の青年の動きは人とは思えないほど早かった。
鋭さこそないが、その速度を生かし手数を増やしていること。
そして、その一つ一つに強大な力が込められていること。
防御に努めているとはいえ、庵の攻撃力がそれを上回っていたようでわき腹、胸、足、頬など微かに裂傷が出来ていること。
持久戦に持ち込めばこちらがやられる、そう思ったのだ。
一撃一撃を全力で振るっているように見えるにもかかわらず、疲労する素振りがないのはおそらく本能か何かに身を任せているのだろう。
本能に任せた動きというのは強力な分、隙が生まれやすい。
つまり、その一転の隙をつく事ができれば……?
「はあっ!」
そこまで思考を終えたティファが身を翻し攻勢へと出る。
ティファが繰り出した蹴りに対して青年が取ったのは攻撃。
目には目を、歯に歯はをというわけなのだろうか。それとも防御するという考えがないのだろうか?
蹴りこそあたったものの、腹部に強烈なカウンターパンチを貰ってしまった。
「がッ……は」
今までよりも強烈なダメージ。ティファから体力を奪っていくには十分すぎる一撃。
ティファは一度距離をとることにし、青年が弱点を見せるタイミングを伺った。
しかし、そんな余裕すらも与えてくれるほど甘くはなかった。
青年は素手で遠距離へと攻撃する術を持っていることなど、ティファは考えもしなかった。
一つのうなり声と共に、青年の腕から蒼炎が発せられる。
その炎は目を見張る速度で地を這い、ティファへと肉薄していく。
直感的に危機を感じたティファは炎が放たれる瞬間に駆け出し、炎が当たる瞬間に大きく地を蹴り空中へと舞った。
そのまま攻撃へと転じるべく、ティファは青年へ向かい鋭く足を突き出した!
イマクニはやはりじっとしていることは出来なかった。
先ほどから何度か聞こえる叫び声、あの女性はきっと苦戦しているに違いない。
デイパックの中から出てきたのは一本の棒、それいがいはとてもじゃないが扱える気がしなかった。
わずかでもいい、力になるために自分も闘わなければならないと心の中で思った。
ベッドから抜け出して急いで駆け出しドアを蹴飛ばす形で開け、外に出た。
そこで、見た。
ティファが、赤髪の青年に蹴りを入れようとしているところを。
見た。
青年がその蹴りに対し取った行動を。
見た。
蒼い炎に焼かれるティファを。
見た。
そこから後は、ただ見るしか出来なかった。
振り絞った勇気も目の前の殺意に対してはちっぽけなものだった。
見るだけしか出来なかった。
「がっ……くうっ!!」
炎に焼かれ、受身が取るのがギリギリだったティファに容赦なく襲い掛かる青年。
「はうっ……きゃっ、あっ、がはっ」
胸倉を掴み、ティファを放り投げたと同時に右手で切り裂き裏拳を打ち込む。
続き様に二度振り上げられる拳。一発は腹部に、もう一発は顎を突き抜けて。
想像を絶する速度の連撃でティファが倒れこむ様を、イマクニはやはり見るしか出来なかった。
しかし想像を絶するのは此処からである。
青年は、倒れるティファの傍に座り込んだのだ。
手を伸ばし、ティファの胸を――――
裂いた。
一度、二度、三度と声すら出せなくなりつつあるティファを裂き続けた。
一瞬だけ青年がこっちを向いたような気がしたとき、イマクニの体は完全に固まった。
しかし、同じようにイマクニを見ていたティファが振り絞るような声でイマクニへと叫ぶ。
「に……にげ、て!!」
その声が最後に聞いたティファの声だった。
青年は両手で作ったハンマーをティファの体に向かい幾度となく振り下ろした。
最後に火柱が立ち、上半身がほぼ真っ赤に染まり焼け焦げた何かが目に入った。
「キョウ……キョウ、キョォォォォォォオオオ!!」
そして、青年はイマクニへと向かってくる。
ティファの最後の叫びもむなしく、イマクニはただそこに立つしか出来なかったのだ。
向かい来る青年が、自分の息の根を止めるのを待っているように。
ただ、そこに立つしか出来なかった…………
はずだった。
青年は違う方向へとその顔を向けている、イマクニなど最初から眼中になかったように。
理由は一つである、第三勢力。ある人物の乱入があったからだ。
「……ったく、人様ぶっ殺していい気になってんじゃねーよオラ」
その人物は、まるで悪魔のような体をしていた。
「おい、お前。邪魔だからさっさと逃げろよ」
悪魔のような外見をしていても、心はそうでもないのかもしれない。
しかし、イマクニはその瞬間にチャンスを得ることが出来た。
悪魔のような人物が青年をひきつけるがために投げつけたものはモンスターボール。
スイッチが押されていないようで中のモンスターは出てきてはいなかった。
悪魔のような人物は使い方が分かっていなかったようだ。
これがあれば、自分も少しは闘える。力になることが出来る。
そういった気持ちを込めながら、ボールに手を伸ばした。
「そうだ……僕は、逃げる」
第三勢力、宮本明は目の前の青年に対して挑発を繰り出す。
「あたりのヤローぶっ殺していくっつーんなら容赦しねえぜ……もっとももうその気見てえだけどな」
手には釘バット、武器がある分こちらが有利だと踏んでいるのだろうか?
しかし、青年の様子が先ほどとは違う。
そう、先ほどよりも殺気と狂気が増していく気すらする。
「キョウ、キョウ! キョウ! キョォォォォォオオオオ!!」
宮本明は気がつくことはなかった。
自分のヘアスタイル、頭に巻いたバンダナ。それが青年が探している草薙京という人物と共通しているということを。
判断力の落ちた今の青年には、京に類する者を殺す。そうすれば京も死ぬ。
そんな思考に成り下がっているのだ。
先ほどよりも速いスピードで明へと飛び掛っていく青年。
青年へと打ち向かおうとするアキラ。しかし、青年よりももっと素早い何かが同じタイミングで差し迫ってくる――!!
「お兄さん! 乗って!!」
それは、先ほどまで立ち尽くしていた少年が悪魔のようなものに跨りながらこちらへと手を伸ばしている。
「あぁ? アイツぶちのめさなきゃいけね――」
「いいから早く!」
別人のような剣幕で迫る少年の要求に対し、明は従わざるをえなかった。
青年がこちらへと攻撃を仕掛けると同時に、明は鳥のような悪魔に跨り終えた!
ほぼ同時に、鳥のような悪魔は恐ろしい速度で走り始めた。
そんじょそこらのバイクでは太刀打ちできない、車の領域の速度を悠々と出した。
「僕は逃げる、あの人もそういってくれたし貴方もそういってくれた。
だから今は逃げる。でも僕はアイツを許さない――許しちゃいけない!」
駆け出した鳥の上で少年はそう言った。
明は感じた。立ち尽くしていたときとは違うはっきりとした意思を。
【D-1 カンコドリビレッジ 一日目 深夜】
【宮本明@真女神転生if...】
[状態]:健康
[装備]:釘バット@FINAL FANTASY7
[道具]:アテナのCD@THE KING OF FIGHTERSシリーズ、基本支給品一式
[思考]
基本:ハザマをブッ倒す
1:八神庵から逃げる(?)
[備考]:
※参戦時期は不明、肉体はアモンに乗っ取られた後のようです。
【イマクニ(主人公)@ポケットモンスター赤・緑】
[状態]:健康
[装備]:ひのきのぼう@ドラゴンクエスト5、モンスターボール(ドードー)@ポケットモンスター赤・緑
[道具]:確認済み支給品(0〜2、イマクニには扱えそうにない)基本支給品一式
[思考]
基本:あまり考えていない
1:今は八神庵から逃げる
2:八神庵を倒す
[備考]:
※参戦時期はクリア後、ハナダの洞窟に向かうあたりです。
「グゥ…………ガァァァ」
自らを上回る速度で、京は目の前から消え去った。
「キョウ、キョオオオオ!!」
庵は駆けだす、京を殺すために。
京ではない京を殺すために。
今の庵には、ただそれだけ。
それだけの理由しかなかった。
【ティファ・ロックハート 死亡】
【残り69人】
【D-1 カンコドリビレッジ 一日目 深夜】
【八神庵@THE KING OF FIGHTERSシリーズ】
[状態]:暴走状態、腹部に裂傷、全身にダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(1〜3)、基本支給品一式
[思考]
基本:????
1:京(明)を殺す
2:オロチを殺す……?
[備考]:
※参戦時期は正規ED(三種の神器チームED)の最中、オロチに体内の血を覚醒させられオロチに飛び掛る直前です。
※ティファのデイパック(不明支給品(1〜2)入り)が放置されています
※庵とイマクニ&明は結構離れています。 追いつくことは難しいと思われます。
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