ばよえ〜ん遺跡ツアー






遺跡を形作る乾いた石を子供の足が踏みしめる。
柔らかい素材であるため目だった音はしないが、わずかな足音が遺跡の通路に響いていた。
やがて視界の遠くに暗い出口が見える。
そこをくぐりぬけると月明かりが少年の蒼い髪を照らした。

「んー…………」
友人を集めて月見でもしたくなるほど見事な満月だ。
先生に伝えるなりすればそれを兼ねてここらの遺跡見学でも計画するかもしれない。

だがそれが叶うはずもない、それ以前にそんなことしていられない状況にこの少年、シグはその身を置いているのだ。

目の前には比較的大きめな神の彫刻が建っている。どうやらここらの遺跡を象徴する存在のようだ。
杖というよりは傘のような長棒を持ち、何故かネコのお面を背負い、本人もネコの顔をしている。
どっちかっていうと神というよりは獣人の戦士といったいでたちで、おまけにやけに可愛らしいためお世辞にも神々しいとは言いがたい。
像の前の説明板によれば『魔王ニャゴキングと相討ちになり、神へと転生したピピピ神の像』と書かれている。
どちらも聞いたこともない名前だった。どのみちこの地に存在するあらゆる存在がニャゴキングもピピピ知るはずがないだろうし、少なくともこの空間においては実際に両者の存在に深い意味は無かった。

その説明を読み終えるとシグはどことなく途方に暮れたように、赤く硬化した右手で頭をぽりぽりと掻いた。
彼を知るものが見ればいつも通りのマイペースに見えるが一応彼は彼なりに困惑しているし恐怖もしている。

系図を辿れば分かるが、シグはプリンプ魔導学校に在籍する魔導師のタマゴのなかでは一風変わった存在である。
傍目に見てこんな死地においても崩れないぼんやり調もそのあたりに拠り所があるのだ。
とはいえ最近になって出た右目と右手の異常を除けば今のところは普通の人間とそう変わりはない。
むしろ一般的な魔導師に比べれば、サタンが興味を引きシェゾが力を欲しがるほど潜在的に秀でているところもあるのだ。

本人は殆ど無自覚な素質であったが。


この遺跡は観光名所になってるらしく丁寧にベンチも設置してあったのでシグはひとまずそこに腰掛けて荷物を見てみることにした。
食料や明かりに紛れた一枚の紙――参加者名簿に目が留まる。といよりそこに書かれていた名前が彼の目を引いた。
「アルルだー。それにカーバンクル……あ、あのヘンタイの人もいる」
見知った名前が、それも三人。おまけにいずれも異世界から飛ばされてきたという存在だ。

「……もしかして、ぷよ勝負が何か関係してるのかな……あ、ここってぷよがいないから違うや」
ひとまず頼れそうな友人の存在にほっとしたような、そんな友人が殺し合いなどという絶体絶命もいいとこな状況に置かれて心配なような複雑な心境が巡った。

まあそれはともかくこの件悩むのはそろそろ止めた方が良さそうだ。一応の目標を彼らとの合流に定めたシグは他の荷物を探り始める。
そして奇妙な紅白の玉を手に取り、なんとなく興味を覚えたシグが観察しようとした瞬間だった。

「やあ人間、こんな所で荷物に熱中してたら妖怪にとって食われるんじゃないか?」
背後から少女の声がかかる。思いがけない接触にシグは一瞬だけびくっと反応し、振り向き――

「誰ー?」
結局いつも通りに反応して相手を若干ずっこけさせた。





ところかわって、別の遺跡の内部。
ここにある一人の「ボンバーマン」が迷い込んでいた。
彼の外見は何とも形容しがたく、強いて言ってしまえば「宇宙人」といったところだろう。
実際に彼が住んでいる星には地球という名はなく、普通の人間から見れば宇宙人に違いはない。

「くそう、あの男……バグラーより何倍もタチが悪いぞ。絶対に許さない!」
拳をぐっと固め白い「ボンバーマン」、ことそのまま白ボンは決意を言葉にした。
だがその勇猛さも、男の異常極まりないな様子や二人の凄惨な死を思い出してあっという間に萎えてしまう。

「タチが悪い……から、許せないんだけど……それって、それだけ怖いってことなんだろうなあ……
ううう、勝てないなんて尻ごむつもりはないけどちょっと怖いかもしれない」
針金にピンポン玉がついたような両手で自分の身体を抱きしめぶるると震える。
これまでに何度か強敵と戦ってきた白ボンだが、彼とて勇猛果敢な勇者というわけでもない。
どちらかといえば人並みの恐怖心の方がやや強かったのだろうか。
さらに不安そうにベルトをぽんぽんとなでた。先程ここに迷い込んだときの、調子の変化に戸惑っているのだ。

「足が思うように動かなかったしなあ。バグラーの拠点に乗り込むためにあれだけパワーアップしたのに全部取り上げられてるみたいだ。
悪いヤツに出会わないうちにこの能力に慣れといた方がいいかなあ」
今度はベルトから何かを取り出すように手を動かした。
すると、今度は白ボンの手に導火線に火を灯した丸っこい爆弾がくっついていた。

「やっぱ遺跡を壊しちゃまずいかなあ?」
取り出しといてから後悔したようにぽつりと呟いてみる。
実際は歴史的な損害の問題ではない(そもそも即興の産物なので歴史なんかないのだが)のだがそのことは考えてないらしかった。
どちらにせよ取り出してしまったものは仕方ない。このままでは爆発に巻き込まれ、颯爽とあの世行きになりかねないだろう。
バトルじゃないんだからみそボンシステムなんかあるはずがない。
というわけで白ボンは遺跡の部屋のすみっこに爆弾を設置し、通路の方に逃げ込んだ。

と、この時彼の頭にちょっとした希望的観測みたいなものが浮かんだ。
「もしかして……この壁ってソフトブロックだったりしないかな?
だったらパワーアップアイテムがあるかも!」
そんな皮算用を胸に、出口へ急ごうとした足を止め爆風が来ない通路でそっと爆弾を行方を覗く。
数秒すると爆弾は普通の人間が一般的に想像したり認識してるようなものと比べれば小さめの爆音を響かせ炸裂した。
盛大に壁どころか部屋自体が大きく崩れる。どうやら考えたよりは結構脆い壁のようだった。

おまけに爆発は部屋を崩しただけでは飽き足らず、やけに冷や汗をそそらせる地響きを呼び寄せてしまったようである。
「……この地響きにこの揺れ……って、やっぱりもしかしたりするかな」
顔を引きつらせて白ボンは思わずそろそろと通路に戻ろうとする。その鈍い歩みも、天井が崩れその崩壊が通路にまで及んだ瞬間に急行に変貌した。
彼の爆破した所が遺跡の支柱か何かにあたる部位だったのか、そもそも遺跡自体が脆かったのかは分からないが、かなりの緊急事態であることに変わりはない。

「やっぱマズかったぁあぁあぁぁぁ〜〜〜〜!!!」

ちなみにパワーアップアイテムは埋まってなかったそうな。





遺跡に備え付けられたベンチに青髪の少年少女が並んで座っている。
先程シグにかかった声の主、河城にとりはシグの抜けた返事に戸惑いながらも、早々に敵意が無いことを述べた。
こんな状況だから疑われるかもしれないと勘ぐっていたが「そーなんだ」とあっさり信用されてしまったためににとりは再度ずっこけるハメとなった。

この少年、両目が色が違い片手が呪われているのか妙な状態になっている時点でどこかおかしいとは思っていた。
あっさりとした対応も、幼さゆえの純粋さとはきっと違うのだろう。これはむしろ彼の性格によるところが大きいのだ。

(私が河童……妖怪と言ってもちっとも警戒しないからな。やっぱり右手の呪い? と関係してるのかね、この調子は)
シグとの情報交換の最中、彼のペースに調子を狂わされながらにとりは苦笑した。

それにしても殺し合いなんてあの人間もけったいなことを考えたものだ。……いや、人間でない可能性もある。
紅い館の司書や独り大家族みたいに後天的に妖に成り代わった類だろうか。
そんなヤツが集めた人妖のなかにろぐでもないのがいるのは間違いない。
積極的に参加者を殺しにかかるヤツもいるだろうが、にとりが危惧しているのは別のタイプの悪性参加者だ。

他の参加者を上手く騙して盾や駒に使ったり、スキを見て頭数を減らしたりする姑息なタイプ。いわゆる古兎的な連中だ。
自分ならともかく、シグがそんなタイプの参加者に遭遇したらたちまちその毒牙にかかってしまうに違いあるまい。
ヘタをして彼の潜在能力を最悪な形で引き出されてしまったら大事どころじゃあるまい。
とりあえずは、ある意味時限爆弾ともいえるこの少年から目を離さない方がいい、とにとりは判断した。

「古来からの盟友を見捨てる訳にもいかないしね」
「んー、何か言った?」
「何でもないさ。ところでこのベルトだけど、」

シグに支給されたアイテムに自分なりの解釈を述べようとしたにとりは途中で言葉を切った。
小さな爆発音。続けて盛大な音を立て、像の向こう側の遺跡の一つが大きな音を立てて崩れ落ち始めた。
どうやら自分達以外の参加者がこの辺りにいるらしい。この様子では余り友好的な接触は期待できなさそうだ。

「いきなり建造物爆破か、血気盛んな奴もいたもんだね」
思わず身構えてしまうにとりを、シグが彼女と彼も聞き取ったらしい爆発音のした方角を不思議そうに見比べていた。

「もしかして危ない人かな」
「かもしれない」
支給されたものに迎撃につかえそうなものが無かったため丸腰で様子を伺い、かついつでも逃げ出せるように準備する。
本当なら光化学迷彩なんかを使うとこだが手持ちのブツはまるごと無くなってたので仕方ない。
それに水場が無いとはいえ能力の運用にさほど支障はないはずだ。

そして入り口が落石で塞がれる寸前、何者かの影が飛び出し、

「やった出口ハブッ!?」

最後の落石がその脳天に鈍い音を立てて激突した。
直撃といえど小さな塊だったため大した怪我はなかろうが、打ち所でも悪かったのか爆破犯容疑者はそのまま目をナルトにしてばったりと倒れた。


「……なんなんだ、あれ?」


【F-7/カオス遺跡・ピピピ神像付近/一日目/深夜】
【シグ@ぷよぷよシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:モンスターボール(中身不明)@ポケットモンスター、不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
1:気絶した人物が気になる
2:(なし崩し的に)にとりと行動
3:アルル達を探す

【河城にとり@東方project】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3(武器は無し)、基本支給品一式
[思考]
1:気絶した人物が気になる
2:シグに何となく興味。危険防止も兼ねて保護
3:異変の方は巫女任せ……とは行かないか

【白ボン@スーパーボンバーマン3】
[状態]:若干疲労、気絶
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
1:(気絶)
2:主催者を倒してゲーム脱出
3:でもちょっと怖いかも

※カオス遺跡の建造物の一部が倒壊しました。



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