人として、V.I.P.として






納得がいかん。何故この様な場所で、この様な殺し合いゲーム等が行われねばならぬのだ。
社会とは時としてそのようなものだが、やはり一人の人間のエゴで多くの人間の未来が奪われるなどということはあってはならん。
しかも動機が「己の快楽追求のため」というのだから尚更許し難い。


あの男、確か名は狭間偉出夫だったな。
全国の高校二年生を対象とした模試で、一点差で俺を打ち負かした全国トップの成績の持ち主だ。
顔も名前も、模試の成績表と共に添付されていた顔写真付の成績優秀者一覧表に掲載されていたから間違いあるまい。
軽子坂学園に在籍しているはずなのに学校指定の制服じゃないのが妙に引っ掛かるが……。


「なんでこいつ、こんなどんよりした顔してるのぉ〜?
 全国ナンバーワンってことで写真と名前載せてもらってんだからぁ、もっと笑えばいいのに勿体無いよねぇ〜」
と学友の綾瀬優香が、例の成績優秀者一覧表を見ながら言っていたものだ。

「でもさぁ〜アヤセ思うんだけどぉ、南条もさぁ〜一位の人に負けず劣らずムスッてしてるよねぇ?
 おっさん臭い顔が余計おっさん臭く見えるっていうかぁ〜?
 桐島ぐらいバッチリキメ顔で写ったらどうなの〜みたいな」
とも彼女は言っていたが。

俺がやや険しい顔で載っているのは、第一に一点差でナンバーワンを逃したことへ対する自戒の精神の表れ、
第二に簡単に人の顔写真と実名を公表する某予備校のプライバシー保護に対する意識の欠如に対する呆れの表れ、
そして第三にカメラマンの腕が悪かっただけだ。あいつはそれを理解していない。


……おっと、話がそれたな。


たかが一点差、されど一点差。
俺の負けだという事実は揺るがない。それは認める。


が、やはりこの「殺し合いゲーム」だけは認められん!
何故あれ程までに優秀な能力を持ちながら、この様なふざけた真似をする?
この様な非人道的な方法をとるしか奴には出来ぬというのか?
そんな人間が将来俺と共に日本、否、世界を背負って立つ人間になるのかと思うと耐え難いものがある。


そういえば、狭間によって殺されたあの二人はカシュオーン国の王子と言ったか。
(恥ずかしながら、俺はカシュオーンという国を知らなかった。
 俺の記憶が確かならばそんな国は地球儀にも乗っていなかった気がするのだが……。)
彼らもまた、国の未来を担う人間だったのだろう。そう考えると実に居た堪れない気持ちになる。
同じV.I.P.として彼らの冥福と、カシュオーン国の発展を祈らずにはいられない。


……ふむ……待てよ。V.I.P.……だと?


俺の学友の中では唯一この場にいる桐島英理子。
彼女は非常に容姿端麗であり、俺には一歩及ばないが成績優秀な才媛であり、これまた俺には一歩及ばないが家柄も申し分ない。
考えてみれば彼女もV.I.P.候補なのかもしれない。
(余談だが、成績優秀者一覧の写真を見たという某大手芸能事務所が彼女をスカウトをしたことがあった。
 桐島自身と彼女のご両親はというと、大学合格まで返事を待ってほしい……と返事したようだ。
 約一名、「エリーちゃん芸能界にスカウトされてたっしょ! 俺様もスカウトされたかったんスけど!!
 つうか芸能人デビューの道が用意されてると聞いたら俺様も模試頑張ったし!
 エリーちゃん、その名刺貸して! 今から俺様、その事務所行ってくる!」と言いながら桐島から名刺を無理矢理奪い、
 無謀にも事務所に突撃した痴れ者がいたが、その後あいつがどうなったかは知らん)


成程……もしかしたら狭間は各国からV.I.P.及びV.I.P.候補を集め、ナンバーワンの座を奪おうとする者全てを抹殺しようとしているのか?
こんな卑怯な方法で奴は世界一の座を勝ち取ろうというのか!?
それなら奴がこのような行動に出たのも合点がいくが……。

いかん、実にいかん。
そんな形での世界一の座は、世界一の男となる予定の俺が許さん!
真のナンバーワンは人々を制圧してなるものではない。
人々に支持されてこそ、人々を生かしてこそ真のナンバーワンだ。
罪なき人間の殺戮により無理やり勝ち取る栄光など、真の栄光ではない。

よって俺は敢えて狭間の推奨する様な犯罪行為には荷担しない。
正当防衛以外では武力を用いないつもりだ。


しかし一人でいては、心身の危機に晒されやすいのも事実だ。
まずは信用のおける仲間探しから始めねばな。
桐島は聰明な女性だ。きっと俺の意見に賛同してくれるだろう。

あとは……。

カシュオーン国の人間と近しいと思われる、あの印度人らしき青年はどうだ?
何故西洋系と推測されるカシュオーン国の人間と、印度人と推測される人間が親しいのかはよくわからんが。
……大切な知人を失った経験のある者だったら、狭間の考えがいかに愚かなものか理解してくれているはずだ。

眼鏡をかけた軽子坂学園の女子が狭間をやけに悲しそうに見つめていたのも妙に気になるな。
恋人や友人、可能性は低いが肉親だとしたら、普通はあんなところに呼び出さないはずだが。
…………狭間の根性の歪みを見る限り、「普通」という言葉は通用しないのかもしれん。


兎に角、これ以上迷ったり悩んでいても仕方あるまい。
今は冷静さを取り戻し、支給品を確認し、ひたすら仲間を集め、この異常事態の鎮圧を目指すしか道はない。
他の者が健全な精神を持った、V.I.P.の名に恥じない人間であることを期待する。


天国の山岡、見守っていてくれ。

俺は絶対に屈しない。

そして必ずや生きて帰り、正々堂々と己の実力で世界一の男となってやる!


【H-6/ドーデカ屋敷/一日目/深夜】
【南条圭@女神異聞録ペルソナ】
[状態]:健康
[装備]:まだ未確認
[道具]:まだ未確認
[思考]
基本:ゲームには乗らず、異常事態の鎮圧と生還を目指す。
1:自分の意見に賛同してくれる仲間を探す。
2:その前にとりあえず支給品の確認。
[備考]
南条圭は、このゲームキャラロワイアルに出ている人物全てをV.I.P.及び未来のV.I.P.候補だと思い込んでいます。



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