「Mr.カラテ」
時は黎明。普段であればこの薄暗い時分に目を覚まし、弟子たちと肉体を鍛える特訓を開始する頃合いだ。
(ユリが訓練を怠っていないといいんだがな)
寝起きの悪い娘はタクマが布団から無理に引きずりださないと目を覚まさない。まったく困った弟子だ。
名簿を見る限り、息子に弟子の一人であるロバートもこちらに呼び出されているようだ。
そうすれば一体誰が娘を起こし、朝の訓練をさせるのか。
そんな物思いに耽りながら、日頃の日課であるランニングをしていた所だった。
小柄な中年の男性に声を掛けられたのは。
赤い作業着は窮屈げに彼のふくよかな身体を包んでいた。
作業着と同色の赤い帽子から覗かせ愛嬌のある瞳がタクマをじっと見上げている。
まだ些か警戒しているのか、一定の距離を保ったままであるが、彼は話をしたいと持ちかけてきた。
タクマはそれに頷くことで答えた。
赤い作業着の男はそれを肯定として受け入れ、ありがとうと一言付け加えて話し始めた。
「−−−−−−−−−…」
この言葉に対して、再びタクマは頷いた。
「無論、殺し合いなど許される行為ではない。そして、こんな馬鹿げたことを止めるのは我々大人の役割だ。」
タクマの言葉を聞き、赤い作業着の男性の表情がぱっと明るくなる。
彼もまたタクマの言葉と同じことを考えていたからだ。
男性は、帽子を被り直しながら歩みを進め、タクマとの距離を詰めてきた。
彼は『マリオ』と名乗り、タクマの名を尋ねてきた。タクマは少し間を置いて答えた。
「私は……そうだな。私のことはMr.カラテ、と呼んでくれ」
マリオが手を差し出してきた。タクマことMr.カラテは彼の手を握りしめ、二人は熱い握手を交わすのだった。
◆
Mr.カラテ。
天狗の面を身につけた不敗、正体不明の格闘家。
その真の正体は娘のユリを人質に取られ、Mr.ビッグと名乗る男の手駒として利用された、タクマの仮初めの姿。
(わしは、何をしているのだ)
タクマはかつて、不幸な事故により何より愛していた妻ロネットを奪われた。
事故というには余りに不審なもの……。これは、誰かに仕組まれたものだ。
敗北を知らず、『無敵の龍』と呼ばれたタクマは他の格闘家たちから尊敬の念を持たれることも多ければ、疎みの目で見られることも当然多かった。
そう。妻を死に至らしめた原因は他者によるものだったのだ……そう考えた彼の怒りは炎の如く身を焦がし、まだ若かった彼を突き動かした。
まだ幼い子供たちへは短い書き置きだけを残し、タクマは家を飛び出した。……その後、彼はそのまま失踪した。
ロネットを奪った仇を見つけ出し、制裁を加える……そのはずだった。
しかし、彼が家を空け数年。Mr.ビッグを名乗る男に娘ユリを誘拐され、彼の元に無敗の格闘家『Mr.カラテ』として従うことを強いられた。
結果、守るべき対象であったユリにもまた恐怖に打ち震える日々を強いるようになってしまった。
あの時、家を空けなければ。
もっと早く、ロネットの仇の捜索を打ち切っていれば……
後悔の念だけで娘を救い出すこともできず、サウスタウンで信念もなく拳を振るうしかない日々。
しかし、ついに『無敵の龍』は打ち破られる日が来た。
彼を破ったのは息子、リョウ・サカザキと彼の好敵手であるロバート・ガルシア。
かつては優しさの余り極限流を習うことを嫌っていたはずの息子。誰よりも頼りなかったあの少年が、自らを超えていったのだ。
後にリョウが妹であるユリに不自由ない生活をさせたい。その一心でお金をかき集めていたという話を聞く。
お金を稼ぐためにリョウが身を投じた場所……それはストリートファイトであった。
妹のために。その一心であの誰より争いを嫌った少年は戦い続けた。かつての父の呼び名『無敵の龍』とまで呼ばれるほどに成長してみせたのだ。
それでも尚、力に奢れることはなく、真っすぐで優しい心を持ち続ける……息子は立派に育ってくれていた。
その話を聞いた当時、タクマはその両目から滝のような涙を流し、太い声を震わせて、漢泣きをしたという。
タクマは息子の姿に心を打たれ、自らの不甲斐なさを嘆き、そして今までになく極限流空手という自らが生み出した武術に感謝をした。
極限流はまず、自らが置き去りにしてきた大切な子を守ってくれた。
息子に超えられることの歯痒さ、それを上回る喜びをこうして与えてくれた。
そして、何より子供の尊さを教えてくれたのだ。
その日からタクマはロネットの事件を追いかけることをやめた。
勿論、ロネットを奪った仇を許したわけではない。
しかし、タクマは気がついたのだ。憎む力を別の場所に向ければ違う世界が見えるのだと言うことに。
◆
「憎しみに囚われ、狭い世界しか見ていなかったMr.カラテは極限流によって救われたのだ。
あの少年も極限流空手を学べばきっと、間違えを正すことができる。わしがそうできたようにな。」
タクマは自らの真の目的についてマリオに語っていた。
殺し合いには乗らない。その上で少年と対話し、拳を交え、そして更正させたい。
奪われた二人の青年の命の重みを背負わせる。そして、その重みに決して負けない心の強さを育む。
彼の両親が彼にしてやれなかったことを、タクマは彼に教えようとしていた。
『極限流空手』という自らが築き上げた教科書を使い、自らの信念と経験の元に。
「……あの少年には罪はない。あの少年もまた……弱い心に取り憑かれた哀れな者に過ぎんのではないか。」
(そう、リョウやユリも親の勝手に振り回された子に違いないのだ。私はあの少年のような子を生み出していたかもしれ得ぬ。)
タクマの口頭は立派なものだった。しかし、マリオの心中は複雑に渦巻く。
たしかに少年には同情の余地があるのかもしれない。しかし……マリオは素直には頷けないのであった。
彼の熱く燃える正義感が、無惨に兄弟の命を奪った行為を許し、受け入れることを拒んでいるのだ。
そこで、マリオはある問いかけをした。
もし、彼は自らの息子や愛弟子がこの殺し合いの舞台で他者に命を奪われていたとしても、彼を許せるのだろうか。
妻を亡くした時も相当無念だったろう。
だがしかし、今回は元凶もはっきりしている。
彼の大切な人を殺した人物もこの名簿の中に描かれている70名の他存在しなければ、そもそもの原因は間違えなくあの少年だ。
それであっても彼と向き合い、そして更正させる……そんなことが可能なのか、と。
帽子を深々と被り直し、マリオは極力柔らかい調子を取り繕いながらそう尋ねたのだ。
タクマは無限バンダナから覗かせた眉間の皺を深く作ると、静かに答えた。
「わしは息子とロバートのことを信じておる。極限流空手を身につけた奴らじゃ、そう簡単にはやられはせん。
だが……万が一…」
自分を超えていった息子やそれに並ぶ実力を持つロバートは並大抵の格闘家にやられることはないだろう。
だが、それを上回る格闘家が存在するなら、もしだまし討ちにあったなら、毒を盛られたなら。
不快な想像が頭を過り、冷や汗で背がじわりと湿る。
「息子……リョウやロバートがやられたのであれば尚更、わしは使命を全うせねばならんだろう。
あやつらはわしの持ちうる限りの技術を叩き込んだわしの生きた証であり、そして最も愛すべき対象だ。
わしはロネットを失ったあの日のように、リョウやロバートの仇……この殺し合いの場……元凶である少年を憎まないという保証はない。
だが、憎しみは憎しみしか産まん。失われた命を救う手は1つ。あの少年を更正することだ。
我が息子たち……愛弟子の命を直接でないにしろ、殺すきっかけとなったその罪は重い。
それをわからせること、それこそがわしの使命……」
タクマは瞼を綴じ、愛しい我が子と愛弟子の姿を思い浮かべた。勿論、死んでほしいわけではない。
親より先に逝くことほどの親不孝はないのだ。
だが、それでも彼は偉出夫に復讐の刃を向けることもできなければ、心から憎み切ることはできないだろう。
彼の決心は強く固められていたのだ。
マリオは彼をみて、悲しげに微笑んだ。
ああ、彼は本当に強い人……まさにMr.カラテの名に相応しい。
彼なら、あのどうしようもない少年を変えることができるのかもしれない。マリオは僅かな希望を心に宿した。
だが、彼の心にはどうしても纏わり付いて離れない一つの存在があった。
それは血を分け合った一人の弟だ。
兄であるマリオより背丈こそ高いのだが、気が弱く、奥手で引っ込み思案な所のある。しかし誰よりも人一倍心優しいたった一人の肉親である弟。
小柄な彼は手を自分の頭一つ上辺りに突き出し、ひらひらと手を泳がせた。
「ふむ……緑色の帽子と作業着をきた背の高い男か……見ていないな。何せ、マリオ殿がここにきて初めて接触した人物だからな。」
タクマは腕を組むと残念そうに答える。
マリオもまたがっくりと肩を落とした。
「ああ。力になれなくてすまんな。」
首を左右に振り、否定の念を伝えると、マリオは前方に構える木製の橋を指差した。
橋を越えればリップルタウンの外へ出る。ほの暗い先には木々が茂っているようだ。
「そうか、行くんだな……。わしはもう少しこの街に残り、人を探してみよう。ルイージ殿と会ったら貴殿のことを話しておく。」
ありがとう、とリップルタウンを後にしようとするマリオをタクマが引き止めた。
「ああ、あとマリオ殿」
なんだい。
「中々、腕に見込みがありそうだ。弟殿が見つかったらどうだ?一緒にやってみないか?」
バンダナに隠れた口元が豪快に歪められた。
(ボクは弱いからね)
いい所はたくさんもっているのに、自信のもてないでいる弟の姿をマリオは思い出し、
「マンマミーヤ!」
と、前向きな検討も兼ねて返答を返した。
橋を渡るマリオの背をタクマことMr.カラテが見守っている。
橋を半分渡りきったくらいだろうか。何か思い出したかのようにマリオが振り返った。
「−−−−−−−−−−−−−。」
◆
タクマ・サカザキ……か。
橋を渡り、一人歩み始めたマリオは先ほど出会ったMr.カラテと名乗った巨漢について考えを巡らせていた。
マリオがあの時、進んでタクマに声をかけたのには理由がある。
支給品に含まれていた双眼鏡をマリオは覗き込んで考えていた。
あの完成された肉体、鋭い眼光、気迫など……傍目から見ても彼がタダモノではないとマリオは悟る。
彼が善き人なのか、そうでないのか。マリオは判断し兼ねていた。
幸い、距離も開いている関係で男性はマリオに気がついていない様子であった。
逃げるか?
いやはや、話しかけるか?
大きく膨らんだ自らのお腹を平手で叩くと、柔らかい肉がぷるんと波打った。
−−もし、あの人が殺し合いに乗った人物なら、戦闘は避けられないだろう。でも、自分にはさっき食べたスーパーキノコがある!−−−
スーパーキノコ。
マリオがいた世界ではこの赤い傘に白斑点という毒物のようなキノコを口に含むと、みるみる内に力が沸き上がり、さらには身体までも大きくしてしまうという非常に協力なキノコであった。
ここではさすがに巨大化こそできないものの、通常より力が沸き、頭も冴え、機敏に動けるようになる効果があったようだ。
もし戦いになっても、一定期間であれば力一杯戦える。
キノコは複数もっているものの、数には限りがある。
戦闘が避けられないのであれば早ければ早いほうがいい……。
そう考えたマリオはタクマに駆け寄ると、さっと手を上げて挨拶してみせたのだ。
それもいらぬ杞憂で終わったのだが…
だが、杞憂でよかったとマリオは胸を撫で下ろした。
彼が善い人でよかった。
先は悪いことを聞いてしまったな……。
マリオは太い眉を八の字に曲げ、息子や弟子の死について語る際のタクマのバツの悪そうな表情を思い浮かべた。
あの少年を許せる自信は正直マリオにはなかった。
増してや自分の肉親である弟のルイージがこんな所で命を落としていたら……彼ももう中年の男性だが、前途には明るい未来が控えている。
こんな所で死なせるわけにはいかない。
それは他の人にも言えることだ。
リョウ・サカザキにロバート・ガルシア……タクマの息子や弟子もまた、同様だ。
マリオは思った。Mr.カラテを名乗るあの壮年の男性。彼の悲しむ顔は見たくない、彼の決意を曲げさせるようなことはしたくないと。
マリオは短い足を必死に動かし、森へ紛れてゆく。
一人でも多くの人たちを救うため。心に、その瞳に燃えたぎる炎を映して。
【A-6/一日目/黎明】
【マリオ@マリオシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1、双眼鏡、スーパーキノコ(2/3)
[思考]
基本:殺し合いを阻止する。断じて許してはならない
1:誰一人として死なせたくない(正当防衛については仕方がない)
2:ルイージを死なせない。共に生き延びる
3:偉出夫の更正は可能なのかどうか考える
4:リョウ、ロバートに出会ったらタクマについて話し、協力を申し出る
5:クッパを危険視 一度接触の必要性あり
*スーパーキノコの効果により一時的に能力が飛躍しています。持続時間は不明ですが、そう長時間は持たないようです。
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タクマことMr.カラテは日頃の日課である、型の練習をしていた。
拳を打ち、天を蹴り上げ、流れるような身のこなしはまさに達人の動きそのものだった。
ただ、その姿は不審者そのものである。
顔の半分は妙なバンダナで隠しているというのに、上半身はすっ裸の、体格のいいおじさんが相手もいないのに空手の練習をしている。
しかもここではとある重大な事件が起きているというのに。
そんな彼の姿を捕えてしまった天才検事、狩魔冥は途方に暮れていた。
彼女は今ここで起きている無差別殺人、その主犯であるイデオを有罪にするために証拠を収集せねばならない。
そのためにはまず人の多い場所で聞き込みをし、証言を得ようと……考えていた矢先に出会ったのがこの男である。
彼に話を聞こうと早足で近づく……途中、彼女はある言葉を思い浮かべていた。
『自分が選ばれた人間だとは思わないことです。死は平等に訪れます。少しの油断が貴方の命の灯火を消してしまうこととなる。
見た所、貴方は戦いとは無縁の場所にいたようだ。
ここには血肉に飢えた沢山の戦鬼が紛れているのはもうご存知でしょう。
貴方はただの人…それをお忘れなきよう。そして神に見放されないように祈りなさい。……また会いましょう』
ぴたりと冥の足が止まった。
(この男が殺し合いに乗っていない、というたしかな証拠はない……)
そんな冥の思考とは裏腹に男は冥に気がついたようだ。彼は拳を突き出した姿勢のまま、こちらを振り返ってきた。
咄嗟に冥は両腕を抱え、後ずさる。
「……何をしているの?答えなさい」
声が上ずっていることが恥ずかしく、冥はたまらず頬を赤らめた。いつもならこんな調子ではないのに。
男はじっと冥を見つめると、一歩こちらに踏み出してくる。
「答えなさい!聞こえないの!?」
「ほお……なかなかいい身体付き……!」
「!!!!」
その男はあろうことか鼻息荒く、指をせわしなく動かしながら、迫真の表情でにじりにじりと寄ってくるのだ。
悲鳴さえ上げそうになるのは堪えるも、冥は堪らず身を強張らせ……そして、
「フケツでヒレツ!」 ビシンッ! 1HIT!!
「フラチでウワキなマヌケで!」バシンッ! 2HIT!!
「フヌケてニヤけて気持ち悪い!!」 バスンッ! 3HIT!!
「近づかないで!!」ボスーンッ!シュパーンッ!! 4HIT!! 5HIT!!! 6HIT!! 7HIT!!
『うごぁーーーーー!!!!』
鞭を、奮った。
「ふむ、中々いい腕を持ってらっしゃる。」
「………」
冥の鞭は男 −-彼は自らをMr.カラテと名乗った−- の身体を打ったが、彼は戦いのプロ。そう大きなダメージはなかったようだ。
彼の言い分はこうだ。
尋問開始
『息子……いや、リョウはそろそろ妻までは行かぬとも、妻の候補となる女性を側に置いてもよい歳なのだ。
父親……いや、私が言うのも難だが、心優しく、勇敢で、強い。しかし、不器用な男でな……
そこでだ、このMr.カラテが手助けをしてやらねばならん。
あの少年の更正も必要だが、この場に集められた中にはきっとリョウに相応しいオナゴ…我が流派の名を継ぐ子を産むに相応しい女性がいる。
そんな予感がしていたのだ……
その鞭さばきもそうだが、その強い意志を感じさせる風貌、格闘家をも撥ね除ける強い気迫、なにより検事にしておくには惜しいその健康的なぼd』
『待った!!』
証言は一度すべて聞いてから尋問をするのが一般なのだが、堪らず冥は止めに入った。
「もういい、証人。Mr.カラテ……貴方はイデオを有罪にするための決定的な証拠とは成り得ないということだけはわかったわ。
そもそも……」
ビシッと鞭で地を叩き、冥はMr.カラテを見据えた。
「Mr.カラテ、という人物はここには存在しないはずよ。理由は簡単。何故なら、この名簿に名前が載っていないからよ。」
びくりっとMr.カラテの肩が震える。冥は先ほどとは打って変わった得意げな微笑みを浮かべ、タクマに言い放った。
「貴方の本当の名前、当ててあげる…。そうでしょ?……ユウグマ・サキザキ!!!」
「……!」
ビクーン!!!!!
「ふふ。どうしてバレたのかって顔をしているわね。頭に叩き込んだ参加者リストのデータが教えてくれたわ……。
『タ熊・サキザキ リュウ・サキザキの乳で、サイキョー流格闘術の双紙社。
息子のリュウに負けるまでは無配であり、その強さから「喪的の龍」とよばれた。
かつて、ミスターBidに娘を遊回され、やむなく彼に下害ミスターカラテを名乗っていた。
その際に息子リュウと弟子ロパートとの戦いの結果、乳の古傷が広らき、一度はサイキョー階から身を飛こうと考えた……』」
タクマは正直戸惑っていた。
たしかに冥は自分のことを言い当てているのだから……しかし、幾分間違っている。
自分の名前はユウグマではなく、タクマであるし、自らが教えている流儀は『サイキョー流』なんてダサい名前ではなく、『極限流空手』だし、
その他もろもろ……
だが、今は訂正の必要もあるまい。タクマは軽く受け流すことにした。
「いかにも。わしの本来の名前はMr.カラテではない。
だが、この場ではこの名前を通すことにしている。ここでは、Mr.カラテと呼んでほしい。」
「理由を聞かせなさい。なぜ渋々語っていたはずの名で自らを語るのか。」
「まず一点は……息子に、ばれたくないのだ。息子には過去に迷惑をかけてしまった。
だからせめて、気を使わせなくないのだ。嫁だけはこのかり染めの姿で見つけよう……そう考えていた。」
「……それこそ余計なお世話じゃない。」
ほんの数時間でこの話を二度することになるとは思わなかったが……タクマは朧げに考えながら口を開いた。
「………そして、何よりも……」
そして、彼は再び過去の自分『Mr.カラテ』について冥に語った。しかし、彼女はマリオとはまた違うリアクションを返してきた。
「ふん……馬鹿馬鹿しいわ」
ひたすらに、呆れ返っていた。
それもそのはずだ。
彼女の目的は彼とは真逆の方向へと向いていたのだから。
「つい数時間前に起きた殺人、覚えてるわよね?彼は二人の人間を直接手にかけたのよ。
さらに首輪とこの舞台を用意し、私たちに殺し合いを要求する……。これによってまた被害は拡大する恐れがあるわ。
計画性の伴った残虐かつ悪質極まりないS級の犯罪者。それがイデオよ。
こんな人間に極刑を与えなくて何が司法かしら?
必ず私があの男を処刑台に立たせる。貴方の格闘ごっこなんかで変われるほど、イデオは甘い人間じゃない。」
『格闘ごっこ』
この言葉はタクマの心に重く響いた。
怒りではない。ただ、この若い娘には極限流の……心身を鍛えることの意義が通じていないのだと、ただ愕然とした。
だが、これでタクマは退くわけにはいかなかったのだ。
「だが、彼はまだ若い。彼はただ教わる機会がなかったのだ……間違えを正してくれる家族や、仲間が必要だったのだ。
人は誰でも過ちを犯す。ただ、彼が犯した過ちは大きすぎる。
だからこそ、わしは彼に『極限流空手』という行為を通じて仲間を持ち、わしが家族になってやろう……そう考えたのだ。」
「甘すぎる!彼はしかるべき刑罰を受けるべきよ。私が必ず……」
「君もまだ若い。当然、わしは君のような若者がこのような場所で尽きていいとは考えておらん。
ここにいる者で力を合わせ、殺し合いなど起きさせないことが第一だ。
すべて終わってからでも構わん。だがその後……少しでいい。あの偉出夫という少年を救い出す手だてを君も考えてみてほしい。
君は正しい。きっと、恵まれた家庭で育ったのだろうな。
だからこそ、あの少年を労る心を……少しでも持ってほしいんじゃ。彼はやり直せる。間違いない。」
(狩魔は完璧を持って、よしとする)
この男が何を言っているのかがよくわからない。
言っている意味はわかる。だが、何故そんなことを考えついたのかがさっぱり理解できなかった。
何故、あんな人間を救おうとするんだろうか。
見ず知らずの、しかも人殺しの少年を何故庇う必要がある?
理解できない。したくない。
しかし、狩魔は完璧を持ってよしとする。このまま、納得してたまるものか。
「やり直せるわけがない!!もう、私だって……」
だが、反論の言葉は彼女らしくないほど頼りないものとなった。
つい先ほど、行き着いた一つの可能性。
ここは死人が集められていて、こんな馬鹿げたゲームを強要されているのではないかという可能性。
自分が死んでしまっているというなら、もう、あの少年を法廷に連れていくことだってできないかもしれないのに。
「私だって?」
Mr.カラテが復唱してきた。
だが、こんな根拠のない推理、人に話すのも馬鹿馬鹿しかった。
死人が何故、死を怖がる必要がある。そもそも死んでしまったら人生は終わりだ。
こうやって、人と話して、馬鹿馬鹿しい論議をして……そんなことができるはずがない。
「いいえ、こっちの話。……もうこれ以上話をしても無駄ね。
あの少年はどうしようもない。もう極刑にするしかないって証拠を見つけて、貴方に突きつけてあげるわ。
それまでに精々、楽しい更正スケジュールの設計でもしてなさい、Mr.カラテ。」
さようなら、と手を振り街に入っていこうとする冥の背から、
「待つんだ」
というMr.カラテの制止の声がした。
だが、冥はあえて早足で進んでゆく。
一人で考える時間が欲しかった。
ゲーニッツの信仰についてのこと、
成歩堂龍一の安否についてのこと、
Mr.カラテの話したこと、
イデオのこと、
そして、何より自分自身のこと。
(結局、何も整理できてない。イデオを有罪にするにしたって、本当は一体何をすればいいのか検討だってつかない!)
「待つんだ」
Mr.カラテが冥を制止しようと、右肩を掴んだ。
そこには冥を不安に陥れた元凶である弾丸が埋め込まれた傷口があった。
「!!」
瞬間、痛みが身体を走り、反射的に声を上げてタクマを突き飛ばしていた。
「す、すまん。大丈夫か?」
「ほっといてって言ってるでしょ!?私は貴方の子供の嫁になるつもりなんてない!!」
そういうつもりでは、とタクマは言葉を紡ごうとした時、新たな声がそこに加わった。
「お取り込み中の所、失礼する」
そこに立っていたのは金のウェーブがかった長髪を持つ男。暗い基調のサングラスで目元が隠れており、その真の表情を読み取ることはできない。
「私はレーツェル・ファインシュメッカー。細かい質問は今はなしだ。一つだけ約束をして頂きたい。」
両手を上げ、敵意がないことを伝えると、間髪入れずにレーツェルと名乗った男は続ける。
「ケガ人を連れている。彼を病院に連れていきたい。道中、我々には手を出さないでほしい。それだけお願いしたかった。」
「無論。そんな卑怯なことはせん。さあ、早く行きなさい。」
「感謝する。」
突然名乗りを上げた男に、それをあっさり信用してしまう男。冥は納得がいかない様子で二人を交互に見合わせた。
(レーツェル・ファインシュメッカー……たしか…)
リストの彼の情報を引き出そうと冥は思考を始める。しかし、
「な……!なんたることだ!!!!!!」
Mr.カラテの一際大きな声によって、それは遮られた。
レーツェルは民家の影にその怪我人を隠し、姿を現したようだった。
その距離は幾分離れておらず、タクマと冥の会話の内容までは把握できなくとも二人の会話する様子を観察し、危険な人物か否かをレーツェルは判断したのであろう。
彼が肩を貸す形で立ち上がったそのケガ人……橙色の縒れた道着、獅子のように立てられた金色の髪を持った逞しい肉体をもった若者……。
彼こそ、タクマの息子…リョウ・サカザキであったのだ。
「リョウ、リョウ!!!」
Mr.カラテは鬼のような形相でレーツェルの肩を借りたまま気を失った息子に駆け寄り、レーツェルから?ぎ取るようにして息子を背に担ぎ、
「ちょっと!」
制止の声も聞かずに病院の院内へ彼は走っていった。
【C-8・メデカル病院内/一日目/黎明】
【タクマ・サカザキ@龍虎の拳シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:無限バンダナ@メタルギアソリッドシリーズ
[道具]:基本支給品一式、
[思考]
基本:主催者の少年(偉出夫)に極限流空手を学ばせて更正させる
1:リョウ!!?
2:リョウの怪我の治療をする
3:見処のある人物を極限流空手の門下にする
4:ルイージと出会った場合、マリオの無事を伝える。
4:出来れば息子の嫁に相応しい人物を探す。(今の所有力な候補は狩魔冥。)
【リョウ・サカザキ@龍虎の拳シリーズ】
[状態]:気絶中、全身に重度の打撲、体力・気力の消耗大。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、未確認支給品(0〜3個)
[思考]
基本:この殺し合いを止め、偉出夫を倒す
1:……豪鬼……
2:力無き者を拳で守り抜く
※極限流と豪鬼の流派に似ている部分がある事を、不思議に思っています
※龍虎の拳外伝終了後からの参戦です
※最初の広場での玲子の呟きから、偉出夫の名を知りました。
タクマの動揺に目を奪われていた二人だが、しばらくの間の後、先に動いたのはレーツェルだった。
「……どうやら顔見知りだったようだな。私も行こう。」
彼はそう冥に伝えると、軽やかに走り出し、病院内に姿を消していった。
「………。」
まだレーツェルの証言を聞いていなかった。
あの倒れたケガ人……リョウと呼んでいたか。記憶している名前とは違うが、ユウグマの息子だろうか。
Mr.カラテからはイデオを有罪にするための有意義な証言を得られなかった以上、可能性があるなら別の証言も聞いておきたい。
(これも完璧な証拠のためよ。)
冥もまた一息つくと、静まり返った病院に足を運んでゆく。
ー実際は、一人になるのが怖かった。そんな理由もあったが、冥は自らそれを認めようとはしなかったー……。
【C-8・メデカル病院内/一日目/黎明】
【レーツェル・ファインシュメイカー@スーパーロボット大戦シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:デザートイーグル(4/6)
[道具]:基本支給品一式、デザートイーグルの弾(30発)確認済み支給品(0〜2個)
[思考]
基本:殺し合いを止める
1:覆面の男(タクマ)の後を追い、リョウの怪我の治療をする。
2:一段落したら覆面の男(タクマ)、リョウと情報を交換したい。
3:豪鬼に対して若干の恐れ
※OGs第二部終了後からの参戦です
【狩魔冥@逆転裁判シリーズ】
[状態]:健康、右肩に狙撃された跡(治療済)
[装備]:ウィップの鞭@THE KING OF FIGHTERS、タップスアン@真女神転生if
[道具]:ストリキニーネ入りのマニキュア@逆転裁判、あきらのヘルメット@私立ジャスティス学園シリーズ
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、イデオを法廷に連れ込み裁判にかける。
1:ユウグマ(タクマ)とレーツェルの後を追い、尋問する。
2:赤根沢玲子・宮本明と接触、イデオについて尋問する。
3:イデオの裁判のときに、イデオの犯罪を「完璧に立証」するための証拠品を集めておく
4:レオナ・ハイデルンを保護する。
5:第一放送後、ディバイン教会に向かいゲーニッツと合流する。
6:成歩堂龍一と合流したい(表向きには会いたがる素振りはみせない)
[備考]:
※参戦時期は逆転裁判2の第4話、狙撃され、病院で手術を施された後です。
※タクマのことを夕熊(ユウグマ)と勘違いしています。
※このゲームは死後の人間が集められているのではないかと薄々考え始めています。
※参加者リストを暗記しました。誤字・脱字などの関係で若干ズレが生じているものの、大間かに参加者全員の情報を把握しています。
※赤根沢玲子、宮本明を狭間偉出夫の知人だと確信しています。
※レオナ・ハイデルンとレオポルド・ゲーニッツは友人同士だと思っています。
※草薙京、八神庵を危険な人物だと認識しました。
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