謝罪






 成歩堂龍一は弁護士である。
 彼は小学校4年生の時、給食費の入った封筒を盗んだ犯人だと疑いをかけられた事があった。
 勿論彼は犯人ではなく冤罪だったのだが、成歩堂は真犯人だった人物を庇い何も言わなかった。
 今考えてみると、それが本当に正しい事だったのかはわからないが、その時の成歩堂はそれが正義だと思ったのだ。
 彼への判決は到底覆るようなものではなかったが、そこで彼を庇う者が現れた。
 それは、給食費を盗まれた被害者本人である御剣怜侍と、同じく同級生だった矢張政志だった。
 彼らの弁護により成歩堂は罪に問われる事はなくなり、その事件を境に成歩堂と御剣は親友となった。
 程なくして御剣は転校してしまうのだが、成歩堂は彼の事を忘れる事は無かった。

 時は過ぎ、成歩堂は大学の二回生の時、幼い頃に別れそれまで出会う事のなかった御剣の噂を聞くことになった。
 御剣は、彼が子供の頃に語っていた夢の弁護士とは逆、それも、被告を有罪にするためならば何でもやるという黒い噂の絶えない検事になっているという。
 成歩堂はその事に心を痛め、御剣に会うため、そして、幼き日の思い出を胸に弁護士になる事を決意した。
 その途中で冤罪をかけられ、殺人事件の加害者として扱われる事もあったが、後に師匠となる綾里千尋の弁護によって無罪となった。
 閑話休題。

 シェイクスピア役を目指していた、と成歩堂は弁護士を引退した後語るのだが、それは恐らく真実に近いものがあるだろう。
 彼は法学部の人間ではなく元々芸術学部の人間で、法律家を目指していた訳ではなかったのだ。
 御剣怜侍という男は、それ程までに成歩堂の人生に影響を与えた人間なのである。

 成歩堂は芸術学部を卒業後、司法試験に現役合格。
 その後、恩人でもあり師匠でもある綾里千尋が責任者の「綾里法律事務所」へ入所。
 しかし、所長である千尋が死亡した事から千尋の妹・綾里真宵と共に「成歩堂法律事務所」を設立し、
かつては親友だった御剣と敵……いや、ライバルとして幾度も法廷で戦ってきた。


 だが、ここは彼が本来戦うべき場所である法廷ではなく、殺し合いをするというための本当の意味での戦場だった。


(御剣……ぼくが今考えている事をやったら、お前は一体懲役何年を求刑するんだろうな?)

 成歩堂は、今この場にはいない……そして、元の世界に戻っても存在することの無いライバルに心の中で語りかけた。
 きっと彼は、眉間にしわを寄せながら険しい表情でこう言うのだろう。


   ――人を殺して幸せが得られるのならば、誰が検事などやるものか!


 御剣が今の自分を見たら何と言うかなど、成歩堂は容易に想像がついた。

(……――はは……笑えよ、御剣)

 成歩堂は、自分がこれからバトルロワイアルで起こすつもりの事件の弁護をする気は一切なかった。



 ガルーダは、自分の隣に座りながら無言で洞窟の入り口を見ている成歩堂を横目で眺めていた。
 拡声器を使用し、あえてとはいえ危険を自ら招き入れる事態を起こした自分と行動を共にすることは、それこそ問題に出すまでもなく正解……もとい、生存率を下げる事に繋がる。
 成歩堂も先ほど警告してきたようにそれは重々承知しているようだったが、拡声器を使用した今もなお、彼は逃げ出す事なく不敵に笑っている。
 マジックアカデミーで幾多の生徒の面倒を見てきたガルーダは、成歩堂のその豪胆ぶりに感心していた。
 ガルーダは、何かをするべき時に、何もせずにただ時が過ぎるのを待つという姿勢が嫌いだった。
 生徒にもその事を隠さず、テストの回答欄を白紙で提出する生徒には容赦なく叱責を飛ばしている。
 だが、バトルロワイアルという問題の答えはガルーダにもわからなかった。
 しかし、スポーツを担当しているガルーダだが、バトルロワイアルについての問題用紙を作成する事は可能だった。


 ――ジャンル……バトルロワイアル。


 問一、タイピング。

 殺し合い、バトルロワイアルを開催したと思われる人物の名前は


 ――偉出夫と呼ばれていた少年ですが、その目的は?


 問二、並び替え。

 偉出夫は、どのような方法で貴方達をこの会場へ集めたのか?

 □□□□□□□□


 問三、選択。

 バトルロワイアルから脱出するために、必要な事を全てあげよ。

 A、首輪を解除する。
 B、生き残るために戦う。
 C、首輪解除のための時間を稼ぐために人を殺す。
 D、最後の一人になる。


 最終問題、○×。

 ゲームに乗りますか?

 ○or×


 ……ガルーダは、自らの頭の中で作り出した問題用紙の問三と、最終問題にだけハッキリと答えた。
 その答えが合っているのかはわからないが、自分が採点をする立場だったならば正解を与えているだろう。
 ガルーダは成歩堂から目を離し、同じ様に洞窟の入り口を見ながらたくましい両腕を組み、空欄だらけの問題用紙を心の奥の引き出しに仕舞い込んで静かに座して待った。

 ――決して来る事の無い、二人の可愛い教え子達の事を。



     ・    ・    ・

「――ずずっ!……落ち着いた?」

 さくらは、まるで少年のように鼻をすすると、自らの胸の中で泣いている少女――英理子に優しく声をかけた。
 女の身でありながらストリートファイトという闘いの場に身を置いているとはいえ、さくらはまだ高校生にすぎない。
 殺し合い……それも、無残に複数箇所を突き刺され死亡している男の遺体を見た直後は、何よりもまず恐怖が先に立ち、ただ泣き叫ぶ事しか出来なかった。

 ――だが、さくらは英理子に出会う事が出来た。

 突然胸に飛び込み泣きじゃくるという、なんとも殺し合いという状況にそぐわない行動をしてしまったにも関わらず、英理子はさくらを優しく包み込み、安心させるように何度も何度も背中をさすり言葉をかけてくれた。
 おかげで恐怖は拭い去るとは言わないまでも緩和され、さくらは落ち着きを取り戻す事が出来たのだ。
 そして、冷静になったさくらは男の遺体があった事を思い出した。
 すぐにその場から離れなければならないという結論に至ったさくらは英理子の手を取って走り出した
 だが、その途中で英理子が涙を流しているのに気付いたさくらは足を止め、自らにしてくれたのと同じ様に彼女を抱きしめた。
 今度はこちらが慰めてあげる番だとさくらは思っていたのだ――が、
「……Yes。――Sakuraの方こそNo problem、大丈夫ですか?」
「え、えへへ……」

 英理子の手が背中に回され先ほどと同じ様に背中をさすられたら、止まったと思っていた涙が溢れてきてしまった。
 安心させようとしていたのに、また自分が泣いてしまっては駄目だと思ったものの、その涙は止まる事がなかった。
 しばらく二人して涙を流しあっていたのだが、先ほども泣いていたさくらの方が復帰は早かったようだ。

「――あぁ、駄目だなぁ〜……あたし。安心させてあげるつもりだったのに、一緒になって泣いちゃった」
 目元を赤くしたさくらは、二度も泣き顔を見られてしまったという気恥ずかしさからか笑いながら英理子に言った。
 その頬が朱に染まっていたのは、まだ目尻に涙が溜まって少し視界がボヤけていた英理子にもハッキリと見て取れた。

「NO、Skura。貴方は駄目なんかじゃない。だからPlease、そんな事を言わないで? 」

 英理子は、さくらが自分を勇気付けようとしてくれていたのがわかっていた。
 彼女が、あの――自分が殺した男の無残な姿の遺体を目撃してしまったのをさくら自身の口から聞いていた。
 本当ならば他人を思いやる余裕などないはずなのに、さくらは自分に胸を貸し、一緒に頑張ろうとまで言ってくれたのだ。

 ……自分は、もう救われない人間なのかもしれない。
 けれど、さくらは救われるべき人間だと英理子は思っていた。
 そんなさくらが自分を駄目だと言うのは、英理子の心が許さなかった。

「桐島さん……」

 さくらは、英理子の強い語調と、何故か懇願するような眼差しを受け止め、

「――エリーと呼んでちょうだい。それと、Sakuraに敬語を使われるのはnot my favorite。OK?」

 しばし考えた後、

「ぷ、ぷっ……ぷりーず、すぴーく……全部じゃぱにーず! あたし、んぁ〜……あい……いんぐりっしゅ、苦手デース!」

 とりあえず思っている事を口にした。
 さくらの、まるで頭上でヒヨコが飛び回っているのが見えるかのような困り顔を見て、英理子は思わず吹き出してしまった。
 英理子のその態度に少しムッとしたさくらも、思わずつられて笑い出した。

 闇夜の森に、二人の少女の笑い声が静かに響き渡る。

 まるで、ここがバトルロワイアルという殺し合いの場である事を忘れようとするかの様な笑い声を聞くものは、誰もいなかった。



 しばし笑い合った後、さくらと英理子はB-5、6の中間地点の洞窟――キノコダラーケ洞窟へと歩を進めていた。
 その足取りは、先刻に恐怖から逃げ出すために走った時とは比べ物にならない程力強かった。

 道中、二人は色々な事を話していた。
 色々な事といっても、戦いに関するものではなく、本当に些細な日常の出来事を。
 クラスメイトの話や、憧れている人間の話。どこの店のケーキが美味しいとか、オカルト研究の話など。
 ――二人の会話を聞いていた人間がいたならば、バトルロワイアルに関する話をするべき状況だろうと思うかもしれない。
 目的地の洞窟には、罠が待ち受けているかもしれないから対策を練っておくべきだと思うかもしれない。

 ……だが、今まで暮らしていた日常から突然殺し合いの場に招かれた彼女達の心は、一人の男の死をきっかけに折れそうになっていた。

 一方は、自分はそうするしかなかったにせよ他人の命を奪ってしまったという罪悪感。

 一方は、明確な殺意をもって他人を殺した人間が会場にいるということへの恐怖感。

 そんな折れそうだった二人の心は、日常というものを求めた。
 ヒビが入っていた二人の心の隙間に、膏薬のようにゆっくりと染み渡っていく他愛のない世間話は、彼女達にとっては必要なものだったのだ。
 そしてその会話は、さくらと英理子に間に友情というものをもたらしていた。
 きっと、彼女達は真の友人に……なれたに違いない。
 お互いが、かけがえのない存在に……なったに違いない。


 ……――英理子が人を殺したのでなければ。


「――それでさエリー。その人ったらロシア人なのに自己紹介が『アイ、アム、レッドサイクロン』って英語なんだよ?
 おっかしいよね〜! 勝った時は『ハラショー!』って、こ〜んな風に手を突き上げて――」

 さくらは気付かない。
 気付かないどころか、考えることすらしていなかった。
 隣を歩く英理子が――既に人を殺しているなどとは。

「…………」

 さくらが笑うたびに、英理子は徐々に――恐怖を感じるようになっていった。

(Sorry……Sakura……)

 英理子は既に、さくらに真実を話す勇気と機会を失っていた。
 今は笑っているさくらが、自分から逃げ出し、怯えた表情を向けてくるかも知れないと思うと怖くてたまらなかった。

「あっ! あれがキノコダラーケ洞窟じゃないかな!?」

 さくらは木々の間からのぞいている岩場を指差し、英理子に笑いかけた。

「……とにかく、近付いてみましょう」

 英理子もさくらに笑い返した。

(Sorry……Sorry……Sakura……Sorry……!!)


 ――英理子の心中で唱えられる『Sorry』の数を数える事は、既に不可能になっていた。


     ・    ・    ・

 出会いとは、互いの運命を左右するものである。
 それが何時であれ、何処であれ、必ずなんらかの影響を与えあうというものが出会いだ。
 その影響は、バトルロワイアルという状況においては非常に大きいと言って良いだろう。
 この二人の出会いは、一方にとっては大きな……とても大きな意味を持つ出会いとなった。

「貴方は……一体……!?」

 ハイラルの王女――ゼルダは、目の前に佇む青い法衣に身を包んだ男に戦慄を覚えていた。
 ゼルダは男から目を離さぬよう警戒しながら、後ろへゆっくりと下がっていった。
 素足のまま背後を確認せずに移動したため木の幹に躓きそうになるが、今、この場でそんな無防備な姿を晒してしまったら確実に自分の命の灯火は消し飛ばされてしまうだろう。
 ここに来るまでに無理をしたため、足の裏が絶えず痛みを訴えかけてきていたが、ゼルダはそれを無視していた。
 そうしなければ、さらなる痛みが自分を襲うことになる。いや、痛み所ではすまされないかもしれないのだから。

 ゼルダは感じとっていた。

「どうかしたのですか? 私は貴方に危害を加えるつもりはありませんよ」

 目の前で微笑む男が、暴君――ガノンドロフにも勝るとも劣らない……邪悪な存在である事を。

 ゼルダが普通の人間――立場などは関係のなく、“普通”の人間だったならば結果は違っていたかもしれない。
 だが、ゼルダはテレパシー能力を有していた……有してしまっていた。
 バトルロワイアルの会場に呼び出され、その力は制限されていたものの、その制限の上からでも悪意を感じとる事が出来る程に目の前の男の存在は異様だったのだ。

「…………」

 男は微笑んだまま無言で、ゆっくりとゼルダへと歩を進めていった。
 気圧されたゼルダは後ろへ下がろうとしたが、背後にあった巨木にその背を押しとどめられ、二人の距離は詰まっていくのみ。

「嗚呼、この出会いに感謝します」

 男は両手を広げながら、星の輝きすら届かない深い森の上部を仰ぎ見ながら謡うように言った。


「――神よ」


 男の名はレオポルド・ゲーニッツ。


 オロチ四天王と呼ばれる最高幹部の一人――吹き荒ぶ風のゲーニッツ。



 ゲーニッツは単なる殺し合いに乗るつもりなど毛頭なかった。
 甦った彼の目的はただ一つ、彼が仕えるべき存在であり、信奉する神――地球意思と呼ばれるオロチの復活である。
 ゲーニッツはそのための障害となるものは全て取り除くつもりでいた。

 主な障害は、『三種の神器』である二人の人間。

 草薙流古武術の継承者であり、『祓う者』――草薙京。

 八神流古武術の継承者であり、『封ずる者』――八神庵。

 かつて、オロチ復活の障害となる『三種の神器』を根絶やしにするべく、草薙、八神、そしてもう一人の神器に戦いを挑んだゲーニッツだが、あと一歩の所で敗れ命を落としてしまった。
 だが、ゲーニッツはこうしてこの場に立っている。
 再び命を得られたのならば、やるべき事は一つしかない。
 バトルロワイアルという状況を最大限に利用し、地球に巣くう害虫である人間の精神力を集めオロチを復活させるのだ。
 感情の昂ぶる時に精神力というのは高まるもの。
 それ故、ゲーニッツはその昂ぶりが最も大きくなる瞬間――悲劇を演出するために人々を集めようとしていたのだが、草薙、八神の両名以外にも注意しなければならないと思っていた人物がいたのだ。


 その人物の名は――ゼルダ。


 ゲーニッツは、己の幸運を神に感謝していた。

 拡声器を使った人物の所に辿り着く前に、目の前の女性に出会えた事を。
 そして、自分の支給品の中に、誤字だらけながらも参加者の情報が書いてある名簿が入っていた事を。
 誤字があろうと、そこには見過ごせない情報が記載されていた。
 それに関して、危険人物に印をつけた冥は触れなかったが、ゲーニッツは注目したのだ。
 名簿に記載されていた情報はこうだった。

 ゼルダ。

 神の力にエラばれしハブラレの皇女。
 ハラヒレに親交してきたザンツにやむなく投降し、囚われの実となる。
 愛等の胃のためか週番まで藻服のようなロープを羽織っている。
 品詞のミドナに自信の力を与えるが、ラスクではガロンドノフに憑依され、リングに襲い掛かることになる。
 その後、光の八を使って友にガロンドノフと戦い、これを倒した。

 ゲーニッツが目を止めたのは次の単語。


 『神の力』、『憑依』……――そして――『光の八』。


 ただの誤字である可能性もあったが、偶然が三つ重なっているのならばそれは必然であると疑うべきだ。
 ここまでオロチと、そして、三種の神器と関わりがありそうな人物をゲーニッツは見過ごすわけにはいかなかった。

「私の名はレオポルド・ゲーニッツ。少々お話をよろしいですか?――ゼルダ皇女」

 ゲーニッツは考えていた。

 オロチの依り代として利用できそうならば生かす。

 この会場に欠けている草薙、八神の他の三種の神器――八咫の代わりを果たすのならば始末する。

 ……と。



 ゼルダは、ゲーニッツが自分の名前を知っている事に恐怖を覚えた。
 しかも、ゲーニッツは自分に関して更に何かを知っているような態度。

「貴方は、この戦いに関してどう思いますか?」

 口元は笑っているが目は全く笑っていないゲーニッツの歪な顔を見ながら、ゼルダはこの場を離れるための方法を考えていた。
 そして、恐らくこの場に居るという事はあの放送も聞いていたのだろうとも思っていた。

 つまり、ただ逃げるだけでなく、この男――ゲーニッツよりも早く洞窟に辿り着かなければいけないということだ。
 手を取り合い、この状況を打破しようと宣言をした者に危険が迫っていると告げなければならないのだ。
 自分が逃げ出せば、きっとこの男は洞窟に居る者達にその邪悪な牙を向けるに違いない。
 ……それは、ゲーニッツから放たれる空気が物語っていた。
 とにかく、なんとか考えるための時間を稼がなくてはならないとゼルダは考え、口を開いた。

「――私に……戦う意思はありません」
「ふむ」
「私は、このバトルロワイアルという不毛な争いを止めたいのです」

 ゼルダは、時間を稼ぐためとは言え自らの偽らざる本心を告げた。

「貴方にはそれが出来る、と?」

 ゲーニッツはゼルダのその言葉を聞くと足を止め、思案するように顎に左手をやり髭を弄びはじめた。

 その様子を見たゼルダは、ほんのかすかに説得が可能なのかもしれないと思ってしまった。
 ゲーニッツという男は気配こそ邪悪であるが、話の通じない相手ではなさそうだと考えてしまった。


 ――それが、ゼルダの運命を決定した。


「私一人ではこの争いを止める事は叶わないでしょう。けれど、『力を合わせれば』必ず道は――」


「――ああ、もう結構ですよ。ゼルダ皇女」


「……えっ?」


 何が結構なのか、というゼルダの疑問が発せられる事はなかった。
 いや、もしゼルダがその言葉を発する事が出来たとしても、簡単にかき消されてしまっていただろう。


 ――吹き荒ぶ風によって。



 ゲーニッツが取った行動は、傍目には攻撃とは思えないものだった。
 彼は左手を顎に当ててその場から動かず、右手を掲げて親指と中指をパチリとはじいただけ。
 それだけの事なのに、ゼルダの体は荒れ狂う――超小規模な竜巻に包まれた。

「っ〜〜〜!?」

 ゼルダは、その身に何が起こっているのかを正確に把握出来なかった。
 分ることは、自分の周囲を取り囲み、その体を切り刻んでくるものはゲーニッツが起こしたものだという事のみ。
 本当ならばゼルダのたおやかな体など即座に吹き飛ばしてしまうような強風だが、その邪悪な風は獲物を捕らえた獣のように容赦なく、執拗なまでに、その体を切り裂いていく。
 彼女の体から流れ出た血は地面に落ちることはなく風に乗り……竜巻を徐々に紅く染め上げていった。
 ゼルダは目を開こうとするも、舞い上がった土埃が眼球に入る事を体が無意識に拒否しているため見る事は無かった。

 ――ゲーニッツの……本当に残念そうな、哀れみの顔を。

「……とても残念なのですが、貴方はオロチ復活の障害となる可能性が非常に大きい」

 ゲーニッツの語る言葉は、風に阻まれゼルダに届くことは無い。
 しかし、それを十分に理解している上でゲーニッツはゼルダに語りかけているのだ。
 それはまるで祝福をするかの様な口調であり、手にかけようとしている相手に向ける態度ではなかった。

「なので、ここで貴方には退場して貰う事にします。……――ですが、悲しむ必要は一切ありません!」

 ゲーニッツは何かをあがめるかのように両腕を天に向かって広げ、一際大きな声を上げた。

「貴方のその想いは、オロチ復活のための糧となってくれるでしょう」

 ゲーニッツは口調だけでなく、その表情をも祝福するような歓喜のものに変えた。

 その表情はとても穏やかで、邪悪すぎて――最早、純粋と言っても過言ではないものだった。

「それでは――……」


 ゲーニッツは、風の中で切り刻まれているゼルダに対し深々と礼を取った後、


「――お別れです」


 別れの言葉を告げた。


     ・    ・    ・


 ――ごめんなさい、リンク。

 貴方に全てを背負わせてしまうことになるかもしれません。

 ――ごめんなさい、声の主。

 力及ばず、貴方に危険を知らせることが出来ませんでした。

 ――ごめんなさい、ハッサン。

 約束を守れず、優しい貴方の心に負担を強いてしまいます。


 私はどれだけ謝れば良いか分りませんが――ごめんなさい。


 ごめんなさい……わたしは――



 そのドレスを自身の血で真っ赤に染め上げたハイラルの王女は、謝罪の言葉を残しながら事切れた。
 彼女の言葉が届いたのかは、今はまだわからない。




【ゼルダ@ゼルダの伝説シリーズ 死亡】
【残り53人】



     ・    ・    ・

 キノコダラーケ洞窟にて、放送を聞いた者が現れるのを待っていた二人に変化が訪れた。
 二人と言っても、突然立ち上がったガルーダに対して成歩堂が反応をしたという連鎖的なものだったが。
 それまで口を開くことなく、ただ座していたガルーダが立ち上がったことで成歩堂は気付いた。

 何者かがこの洞窟を訪れたのだ、と。

 ガルーダは成歩堂に一度だけ軽く視線を向けた。
 それを見た成歩堂はコクリと頷くと腰を上げ、洞窟の入り口までの距離の中間にガルーダが位置する場所まで後ろにさがった。
 そして一拍おかれた後、ガルーダは演説するように――


「これからぁ……じゅぎょ〜うを開始するッ!!」


 ――始業の挨拶をした。

 さすがにこれには成歩堂も面食らった。
 今は洞窟に訪れた人間と、可能な限り友好的に接触をする事が第一目標のはずだ。
 何故ならば、訪れた人間はガルーダが呼びかけた生徒ではないのだから。
 ガルーダの教え子ならば、多少は様子を見るかもしれないがひとまずは姿を現すはず。
 つまり、姿を現さなかった時点で彼の生徒という可能性はほぼ無くなる、という訳だ。

「じゅ、授業……?」

 なのに、トンチンカンな事にガルーダは授業を開始すると言ったのだ。
 それに対し、成歩堂が疑問の声を上げるのは当然のことだろう。


「私語は慎めぇいッ!」


 だが、ガルーダは成歩堂に何故そんなことを言い出したのかを説明するつもりはないようだ。
 以前、その咆哮で火山の噴火を吹き飛ばしたという噂が立つ程の、マジックアカデミー随一の熱血教師の一喝を受け、成歩堂は慌てて口を両手で塞ぎ押し黙った。
 成歩堂は不条理さを感じたものの、とりあえずは彼の授業を聞く事に決めた。
 その授業がどんな効果を及ぼすのかが見てみたいという好奇心からではない。
 単純に、これ以上口をはさんでもロクな事にはならなさそうだと彼の直感が告げていたからだった。
 だが、続くガルーダの言葉には成歩堂は、


「諸君ッ! オレの名はガルーダぁ! 担当するジャンルは――スポーツだ!」


『待った!』


 ツッコミを入れざるを得なかった。

「早速質問か! よぅし、その調子だ!」

「貴方の証言、担当するジャンルはスポーツという事実は本件とは何の関係もありません!」

     ・    ・    ・

 洞窟の外の茂みで中の様子を伺おうとしていたさくらと英理子は、このバトルロワイアルという場で聞くだろうとは思っていなかった単語を聞いて目を丸くした。
 当然、姿を隠していたのに洞窟の中の人物が自分たちに気付いた事、そして、いきなり呼びかけてきた事にも驚かされた。
 放送を行った人物がマジックアカデミー学園の教員であるという事も、その放送内容からわかっていた。
 けれど、

「……授業、って」

 相手が誰であるかもわからない。
 ましてや、この殺し合いに乗っているかもしれない相手が来たのかもしれない状況で“授業”を始められるとは思ってもいなかった。
 先ほどのつぶやきは、どちらがしたものかはわからないが、ここまでの道中で、学校の話をしていたことも手伝ったのだろう。
 さくらと英理子の表情からは警戒の色が少し薄れてきていた。
 とりあえず、他に放送を聞いた人物が来るのを洞窟の外で待ってみようと二人は決めていたのだが、洞窟の中から聞こえてくる、恐らくこちらと同じ二人だろう――のやり取りを聞き、その方針を変更しても良いかもしれないという考えが二人に芽生え始めた。


  「関係が無いという事はぁ――断じてなぁい!」
「ぼくは、とりあえずは“授業”という言葉は通しました! けれど、ここに至ってスポーツはないでしょう!?」
「ケア〜〜〜〜〜〜ッ!! よ〜く聞けぬぁるほどぅ!!」
「ガルーダさん! せめて“なるほど”と呼ぶ事を要求します!」
「ぬぁるほどぅ! 貴様がスポーツを馬鹿にする発言をしたのはぁ――ゆぅうううるせんッ!!」
「異議あり! ぼくはスポーツを馬鹿にしたのではなく、状況を考えて欲しいという意図で先ほどの発言をしたんです!」
「成る程! ならば、貴様もスポーツを愛していると言う訳だな、ぬぁるほどぅ!?」
「だから、せめて“なるほど”と――」


 止まることの無い、洞窟内から聞こえてくる子供のような言い合い。
 声から察するに、二人共成人した男性。
 一方はまだ若いと思えるような、良く通る声。そして、もう一方の声――放送で聞いた声の主だろう――は、響くような重低音。
 そんな大の大人が、やれ呼び方だのやれスポーツだのと、言い方は悪くなるがとてもみっともない言い争いをしているのだ。
 ――さくらと英理子は互いに顔を見合わせ、

「「…………ぷっ」」

 ここに来るまで緊張していたのが損だったと言わんばかりに吹きだした。

     ・    ・    ・

 成歩堂とガルーダの言い争い……もとい、口ゲンカは止まることが無いように思えていたが、終わりは唐突に告げられた。

「大体ですね、こんな話をぼくと貴方が今する理由は一つも――」


「授業ぉ――終了ッ!!」


「……はい?」

 ガルーダが、成歩堂の言葉を遮るようにして放った言葉は成歩堂ではなく、茂みからゆっくりと顔を出した二人――さくらと英理子に向けて言った言葉だった。
 成歩堂は、まだ名前も知らない二人の少女の表情を見て、ガルーダが授業と宣言し自分と口ゲンカを“演じてみせた”理由を悟った。

(成る程ね……そういう事だったのか)

 成歩堂は弁護士であり、言葉の応酬に関してはプロ中のプロだ。
 だから、途中からガルーダがあえて話の論点をズラしている事に気付いていた。
 それが何のためなのかは先程までわからなかったが、何か考えがあっての事だろうとそれに乗っていたのだ。

「さあ、ぬぁるほどぅ! オレは既に名乗っている。次は貴様の番だ!」
「待った! ぼくをそう呼んでいたのは、あえてじゃなかったんですか!?」
「な〜にを言っとるか。――早くしろ、ぬぁるほどぅ」
「…………」

 流石に成歩堂は疲れた表情を見せたが、これ以上相手を待たせる訳にもいかないと判断し、二人の少女に向けて自己紹介をした。

「ぼくは、成歩堂龍一。職業は弁護士をやってるんだ。
 ……まあ、詳しい話はお互い自己紹介が済んでから、って事で良いかな?」

 相手に警戒されないように、成歩堂は可能な限り柔和な笑みを浮かべながら言った。
 それを聞いていた片一方の、どこにでもありそうなデザインの白と青を基調としたセーラー服の少女が一歩前に出て、ガルーダの方をチラリと見た。
 成歩堂もガルーダもその視線に気付いたが、あえて何も尋ねず少女が何かを言うのを待った。
 そして、少女が言った言葉は、成歩堂にとっては予測の範囲内のものだった。


「……――あの〜…………鳥?」


 ガルーダはそれを聞いて、何を当然の事を聞いているのだと言いたげに首をかしげ、成歩堂は苦笑をしながら肩をすくめた。
 そんな質問を突然したさくらの後ろでは、英理子が少々慌てたようにさくらの服の裾を引っ張っていた。


     ・    ・    ・

 洞窟を少し中に入った所で、四人は自己紹介をすませ、お互いの簡単な情報を交換し合っていた。
 先程のように入り口付近で話しても良かったのだが、そこにはまだ成歩堂の吐瀉物が放置されている。
 男だけならば少々臭いが気になる程で済むかもしれないが、さすがに少女もいるのにそんな場所で話し込む訳にもいかなかった、という訳だ。
 さくらと英理子は今がそんな事を気にしている状況ではないとわかっていたし、成歩堂も自分が少し――情け無いと思われるのは承知していた。
 しかし、ガルーダが洞窟の中に入る事を提案し、それに反対する理由は三人には無かったので少しだけ移動をした。

 本当に入り口付近を移動したくなかったのは、提案をしたガルーダ本人だけ。
 何故ならば、彼の大事な生徒はまだ姿を現していないのだから。
 だが、ガルーダには自らの声を聞き、ここに集まってきたさくらと英理子の二人を危険に晒してはいけないという義務感があった。
 それに、聞いた年齢では自分が教えているマジックアカデミーの生徒達と変わらぬ年齢。
 ならば、教師として将来のある若者を守らなければいけない。
 そのためには、例え自らの感情を少々犠牲にすることになろうとも……。

「……――なるほど。どうやら、思っていたよりもこの問題の回答を出すのは困難なようだ」

 ガルーダが、誰に言うでも無く重々しく告げた。
 それは、それぞれが別の世界の住人であることがわかったために出た結論だった。

 主催者――偉出夫は、異世界に干渉するだけの力を持っている。
 そして、その異世界の力すらも抑える事が出来る。

 これだけならば、脱出する方法を考えるだけで事足りる。
 しかし、その脱出をする上で忘れてはならないのが、
それぞれに付けられたゲームへの参加を恐怖を煽ることによって強制させる力を持った――首輪の存在だった。

 『強い腕力や魔法でも外れない頑丈な不思議な首輪』

 これさえなければ、という思いが一人を除いた皆の心に落ちていた。
 そう、顎に手を当てて黙考している一人――


(……待て、何かひっかかる)


   ――成歩堂龍一を除いて。



「……やっぱり、どうしようもないのかな」

 希望に胸を膨らませながらここまで辿り着いたさくらにとって、首輪という現実を突きつけられるのは非常に堪えた。
 道中の会話で、彼女が快活な性格だと知っていた英理子は、膝を抱えて丸まったさくらを案じ、少し空けていた距離を無くすためにくっつくように隣に移動した。

「Sakura。元気をだして……?」

 何と言って良いのかは英理子にもわからなかったが、今の英理子にはこうする事しか出来なかった。
 さくらはそんな英理子に対して笑みを返したが、それはどことなく弱々しいものだった。
 洞窟内が、一瞬の静寂に包まれた。
 そして、ガルーダがひとまず首輪については保留にしようと嘴を開こうとした瞬間、


『待った!』


「!?」

 静寂を打ち払うかのような成歩堂の声が洞窟に響き渡った。
 突然の事にさくらと英理子は体をビクリとすくませ、ガルーダは何かあったのかと目で成歩堂に問いかけた。
 その視線を受け、成歩堂は頷き――ここにいない『偉出夫へのゆさぶり』を開始した。

「彼――偉出夫の首輪への説明は……」

 これ以上首輪について何を論じる必要があるのだろうか、という感情が三人に生まれた。
 だが、三人は続く成歩堂の言葉を聞いて驚いた。


「……――首輪の解除は可能だという可能性が含まれています!」


「えっ!?」
「What!?」
「ど〜いう事だ!? ぬぁるほどぅ!」

 三人が驚くのを見、成歩堂はニヤリと笑いながら己の推論を述べていった。

「確かに、彼はこう言いました。この首輪は――」

 成歩堂は、自らの首にはめられた首輪を軽く触りながら言った。

「――『強い腕力』や――『魔法』で“も”……外れない、と」

 その表情は、相手の証言を突き崩す時の……法廷に立つ弁護士、成歩堂のそれだった。


「……――けれど、本当にはずせないのらならば――こんな回りくどい言い方をしなくても良いはずだ!」


 成歩堂の言わんとしていることがイマイチ理解出来なかったさくらは、その思いを正直に言った。

「え〜っと……どういうこと……?」

 それは、他の二人も思っていたことであり、三人はその視線を成歩堂に集中させた。



「あくまでも可能性の話ですが……考えてみる価値はあると思います」


「……まず、彼が言った解除の可能性の一つ――『強い腕力』について。

 これは恐らく、何か物理的な手段で破壊することは不可能だ、という意味でしょう。
 その後に続く、『頑丈な』という言葉からも、破壊して首輪をはずすという方法は忘れた方が良いです。
 何故ならば、物理的な衝撃でこの首輪が爆発しないとも限りませんから」


「……次に、もう一つの可能性――『魔法』に関してです。

 僕は魔法については詳しいことはわかりませんが……恐らく、この首輪には魔法に反応する性質があると考えて良いと思います。
 そうでなければ、わざわざ魔法を使うなと注意をする必要がない。
 彼の目的は虐殺ではなく……真意はわかりませんがバトルロワイアルをやらせるというものですから当然の予防措置です」


「……――けれど、解除の可能性を持った力はまだ残されています。
 『強い腕力』――破壊力でもなく……『魔法』――超常の力でもない……」

 成歩堂はそこで一度言葉を切り、ガルーダ、さくら、英理子の顔を順番に見た後、視線を最初の位置に戻し、言った。


「――『科学』という、非常に“現実”の可能性が!」


「Why? 確かにその通りかもしれないけれど……どうしてそこまで言い切れるの?」
「……これは推論なので、絶対とは言い切れません。
 けれど、首輪が解除出来ないのならば不可解な点が多いんです」
「不可解だとぉう?」

「はい。先程も言った通り、首輪の説明だけが妙に回りくどかった理由は何でしょうか?」

「それは……この首輪が、あたし達に殺し合いを強制させるものだから、しっかり説明しなきゃ……って事じゃないかな?」


『くらえっ!』


「ならば、『首輪は絶対にはずせない』と言うはずだ!」


「ぼく達への強制力を持つ首輪が、それこそ絶対的なものであると思わせるために!」



 成歩堂の推論には、重大な欠陥が三つある。

 一つ目は、首輪の説明に関する事が全て偉出夫の罠だ、という可能性が考慮されていないという事。
 二つ目は、首輪が本当にはずせるにせよ、偉出夫が首輪についての説明で何故はずせる可能性がある様な言い方をしたのかという事。
 三つ目は、科学の力ではずせるにせよ、この首輪をはずすだけの科学力がこの会場に存在しているのかという事。

 他にも細かな部分で粗のある推論だが、どうやらそれを聞いていた三人は納得したようだった。
 成歩堂は、止まりそうだった三人の足を奮い立たせたのだ。

 さくらは目を輝かせ、英理子の手を取り希望に目を輝かせていた。
 英理子もそれに戸惑いながらも、その表情には光がさしてきていた。
 ガルーダも一度頷いた後、ディ・パックにしまっていた地図を広げて何やら思案を開始していた。

 そして、成歩堂は不敵に笑いながら――


(――すまない……御剣)


 ――心の中で、ライバルである御剣に謝っていた。

 成歩堂は自分の推論が穴だらけで、なんの役にも立たないかもしれないという事を承知していた。
 だが、あえてその可能性には触れず、三人が足を動かし続けるように誘導したのだ。
 それは、自分が最後の一人になり、このゲームを無かった事にするため。
 偉出夫の弱みを握った自分が、彼に願いを叶えさせるため。
 その達成のために彼らを利用する事が可能になるよう、信用を得ようとして何の証拠もない論を真実であるかの様に展開したのだ。

 成歩堂は、以前御剣に対し言った言葉を思い出していた。

 ――証拠もなくそんな事言っちゃ……駄目だぞ、御剣!

 御剣は、その言葉に対して「うむ、すまない」と返した。
 成歩堂は、これから自分がする事は、果たして本当に正しいものなのだろうかという疑問を押さえ込もうとしたが、どうも上手く出来ずにいた。


 だから成歩堂は、ただ――謝り続けた。


     ・    ・    ・

「――それで……本当にここに残るんですか?」
「ああ、勿論だ。何故なら、ここにはオレの生徒がまだ来ていないからな」

 あれから四人で話し合った結果、成歩堂、さくら、英理子の三人が科学技術に関して何かがある可能性が高そうな場所、ミラクルタウンを目指すこととなった。
 そしてガルーダはと言うと、先程の様に生徒を待つと主張してここを動こうとはしなかった。
 成歩堂は、ガルーダの力をある程度はあてにしていたためなんとか説得しようとしたが、彼の決心は変わらなかった。

(同行者が女の子二人になっちゃったか……けど、これ以上ここに居ると危険だ)

 ここに現れたのが、協力的な人間――さくらと英理子だった事を幸いだったと思うべきかと成歩堂は考える事にした。
 一人で移動するよりも、確実に生存率はあがるだろう。
 聞いた話だと、彼女達二人はただの女子高生ではないらしいが、どこまで信じていいのかが良くわからなかった。
 そんな成歩堂の真意を知らずに、さくらと英理子はガルーダにしばしの別れの挨拶をしていた。

「それじゃあ、絶対に首輪の解除方法を見つけて戻ってきますね!」
「Mr.Garuda。貴方の教え子――ShalonとAloeを見つけたら、必ずMr.Garudaの事を伝えておきます」

 始めはガルーダが人間ではない事に戸惑っていた二人だったが、今では彼が信頼に値する人物だと悟ったのか、その態度はまるで親しい教師に接する生徒の態度のそれだった。
 ガルーダはそんな二人に対し、

「無理だけは絶対にするな」

 とだけ、短く言った。
 その顔は心なしか綻んでいる様に見えたが、まだあたりは暗かったため二人はハッキリとそれを確認する事が出来なかった。

「……ガルーダさん、色々とお世話になりました。――二人共、そろそろ移動しよう」

 成歩堂はガルーダに礼を言い、二人に出発を促すと、洞窟の入り口に背を向けて歩き出した。
 こうでもしないと、夜が完全に明けるまで二人はここに留まりそうだったから。
 それを見たさくらは慌てて英理子の手を取り、成歩堂の後を追って走り出した。

「それじゃっ、行ってきます! 先生!」
「Sakura!?」

 ……そんな三人の後ろ姿が見えなくなるまで、ガルーダは洞窟の入り口で彼らを見送っていた。


「……――先生、か」


 ガルーダは待ち続ける。

   もうここに来ることはない、シャロンとアロエを。

 そして、ここで新たに出来た生徒達を。



【B-5/キノコダラーケ洞窟/一日目/黎明】
【ガルーダ@クイズマジックアカデミー】
[状態]:健康
[装備]:拡声器@現実世界
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1
[思考]
基本: 協力して共に脱出策を計る
1:洞窟で待機し、弱者の保護をする。
2:ゲームに乗った人間には容赦はしない。子供、若者であれば可能な限り説得をする。
3:一定の時間が経っても誰も来なければ、再度放送をする。

※洞窟の入り口付近に成歩堂の嘔吐物が放置されています。




【B-5/森/一日目/黎明】
【成歩堂龍一@逆転裁判】
[状態]:健康
[装備]:スナイパーCR 7/7@ファイナルファンタジー7、予備の銃弾×7、マテリア@ファイナルファンタジー7
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:主催者の弱みを探りつつ、最後の一人となって願い(参加者全員の蘇生+日常への帰還)を叶える。
1:生き残る事を優先する。
2:イデオに関連する証拠(弱み)を探る。
3:イデオに人を甦らせる力があるのか確証が欲しい→一度死んだ人間に会えれば確証になる
4:狩魔冥には出来れば会いたくない。

[備考]
逆転裁判2よりの参加です(御剣と再会する前)
スナイパーCRにマテリアをはめ込みました。マテリアの効果は不明です。後の書き手さんにお任せします。  


【春日野さくら@ストリートファイター】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ハイレグアーマー、確認済不明支給品(0?2個)
[思考]
基本方針:みんなで無事生きて帰る!主催者をぶん殴ってやる!
1:エリー(桐島英理子)と行動を共にする。
2:首輪の解除方法を得る。
3:成歩堂龍一と行動を共にする。
4:リュウと合流する。
5:水無月響子、鑑恭介と合流する。
6:戦いが避けられない場合は頑張って戦う。

※ルイージを殺害した犯人が桐島英理子だとまったく気がついていません。

私立ジャスティス学園キャラと面識があります。
豪鬼を警戒していますが、面識はありません。


【桐島英理子@女神異聞録ペルソナ】
[状態]:健康・精神的疲労(小)
[装備]:誘惑の剣、光のドレス(ドラゴンクエストシリーズ)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0?1、血まみれの桐島英理子の制服
[思考]
基本方針:大切な人に逢えるように、また、夢をかなえられるように生き残る。
1:自分が人を殺したと、さくらに知られたくない。
2:春日野さくらと行動を共にする。
3:春日野さくらにルイージを殺したことを話せない。
4:気丈な態度だが、いつどうなるかわからない。
5;少々男性不信かも?


※この三名はミラクルタウンを目指す予定でいます。



     ・    ・    ・

 希望を胸に灯し、歩き出した少女。

 その胸に明かす事の出来ない秘密を持った少女。

 皆のために己を殺す決意をした青年。

 今はただ、待ち続けると決めた鳥人。


 そんな四人を――


「……――ふむ。――私はどう動くべきなのでしょうか……神よ」


 ――風は、既にとらえていた。




【B-5/森/一日目/黎明】
【レオポルド・ゲーニッツ@THE KING OF FIGHTERSシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ラストエリクサー@FINAL FANTASYシリーズ、参加者リスト、基本支給品一式
[思考]
基本:オロチを復活させる。
1:多くの精神力を集めるために人を多く集めたい。
2:レオナ・ハイデルンとの接触。オロチの依り代としたい。(レオナが死ねば他の者で代用する)
3:殺し合いには乗らない。しかし草薙京、八神庵は消しておきたい。
4:第一放送後、ディバイン教会で狩魔冥と合流する。
5:赤根沢玲子・宮本明と接触する機会があれば冥の元に連れていく。
[備考]:
参戦時期は'96で死亡後
参加者リストは名前だけでなく、参加者全員のことが詳しく書いてありますが残念ながら誤字だらけのようです。
参加者リストに狩魔冥の独断で危険人物には印が付けてあります。誰に印がついているかは後の書き手さんに任せます。
赤根沢玲子、宮本明を狭間偉出夫の知人だと思っています。
オロチの器の条件などは不明ですが、特殊な血が混じっているものなら器にできる?


※ゲーニッツのこれからの行動は、次のオロチ、もとい書き手さんに任せます。



※ゼルダの死体は、B-5とC-5の中間地点にあります。



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