彼と彼女と緑の髭






地上で行われている殺戮など知ったことじゃないとばかりに、自分勝手に美しく輝く月の下。
クラウド・ストライフは、一人森を駆けていた。
何処に殺人鬼が潜んでいるとも知れない森の中を、無防備に走り回る。
基本的に慎重な性格をしている彼としては珍しいことだが、それも仕方の無いことかもしれない。

エアリス・ゲインズブールとティファ・ロックハート。
彼にとって何よりも大切な仲間が自分と同じ殺し合いに参加させられていて。

セフィロス。
彼にとって何よりも憎い仇敵が、彼女達と同じ殺し合いに参加しているのだから。

確かに死んだはずの彼女が、この殺し合いに参加させられている。
何かの冗談だと、思いたかった。
夢なら覚めてくれとも、願った。
けれど、クラウド自身、すでに彼女の姿を目にしていた。

最初の場所で。
狭間偉出夫が二人の兄弟を殺す光景に誰もが目を奪われていたあの瞬間に、
クラウドの眼差しはたしかにエアリスの姿を捉えていた。

よく手入れされた栗色の髪にピンク色のリボン。
聖母のように優しさに満ち溢れ、それでいて意思の強さを感じさせる二つの瞳。
永遠の別れとなったあの日と、全く変わらない彼女の姿が、そこにはあった。

そして、今に至る。

もう二度と、彼女を失いたくない。

彼女を守りきれなかった、あの時のような思いはもうしたくない。

その想いが、クラウドの身体を突き動かしていた。







  ■ ■





走り始めて三十分程が経過した頃。
ようやくクラウドは、『それ』を見つけた。

ランタンの、光である。

今回の殺し合いにおいて、食糧や名簿等と同様に全ての参加者に平等に支給されるアイテムの一つ、ランタン。
その灯りが、暗い森の一部を鮮やかに照らしていた。

なお、クラウド自身はランタンを使用していない。
ランタンから漏れる光で、他の参加者に位置を知らせるのを避けるためである。
ほぼ月明かりに頼る形となってはいるが、歴戦の戦士であるクラウドにとってはそれでも特に問題はなかった。
それはさておき。

近く木の枝に飛び乗って、クラウドは少しずつ灯りの元へ近付いていく。
幸いにして、灯りの主はそれほど周囲を警戒していないらしく、接近は容易であったが。
しかし。

(違った、か……)

物事がそうそううまく進むはずも無く。
樹上からクラウドが見下ろす人影は、彼の探し人の誰でもなかった。
性別は、男。
青いツナギ姿。
よく整えられた髭。
緑色の『L』と印の付いた帽子。

何一つとして、彼の仲間の特徴と一致していない。
多少の落胆を吐き出すように、溜め息を吐く。



  (まあ、違ったものは仕方ない。 それで、どうする? あの男と接触するか?)

視線は男から外さず、クラウドは思考する。
地図を確認した際から思っていたが、この会場はやたらと広い。
他の参加者とは、そうそう出会えるものではない。
ならば、ティファとエアリス、そしてセフィロスの情報を得るためには、
今回のチャンスを逃さずに、下の男から話を聞くべきだろう。
だが、この男が殺し合いに乗っていないなんて保証は、どこにもない。

全身に万勉無く付いた筋肉や、鋭い眼差しを見るに、男はそれなりの実力者だろう。
最悪戦闘になり、負傷でもすれば、今後の活動に支障が出る。

そうなれば、もう彼女達を守れない。

守りきれず――死んでいく。

それだけは、避けなくてはならない。

(接触するか、無視するか――どうするべきか)

どちらにせよ、あまり時間は無い。
男はその場に立ち止まっているわけでは無く、歩いている。
いつまでも、こうして樹上から様子を伺っているわけにもいかない。

そうこう考えているうちに、男は再び森の奥に消えていく。
迷いつつも――俺は、ひとまず男を追った。






【C-3/樹上/一日目/黎明】
【クラウド・ストライフ@ファイナルファンタジー7】
[状態]健康
[装備]無し
[道具]基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
1.エアリス・ティファとの合流。必ず守る
2.セフィロスは必ず殺す
3.銀髪の青年の言葉は半信半疑。エアリスに会って確認したい。
4.男と接触する?






  ■ ■





(あの子のディパックにいいものが入っていてよかった。これでクラウドやティファに会っても大丈夫ね)

足元に注意して夜の森を歩きつつ、私はそんなことを考える。

ついさっき、私は微妙に困った状況に陥っていた。
しばらく気が付かなかったけれど、私が殺した女の子の返り血が、服のあちこちに飛び散っていたのだ。
そんな格好では、他の誰かと会った時に警戒されてしまう。
それじゃ、私の計画が水の泡だ。

そんな私を助けてくれたのが、この不思議な帽子だった。
女の子のディパックから出てきた、不思議な帽子。
その帽子を被った途端、顔や体、そして服までがどんどん変化して、
変化が終わった時には、私の姿は最早別人になっていた。
きっと、クラウドやティファでも、この姿を見てまさか私だとは思わないだろう。
声だけは変わらないみたいだけど、まあ筆談とかでカバーすれば問題ないよね。

頭に、さっきの女の子の顔が浮かぶ。
名前も知らないけれど、純粋そうな子供だった。

あの子のディパックに帽子があったということは、
きっと、あの子が私を応援してくれているということだろう。

あの子は私に殺されたのに、なんて優しい子供なんだろう。

なら、その期待には応えないといけないよね。

(頑張らなくちゃ。私が、皆を救うんだから)

私が皆を救う。
私じゃなきゃ救えない。
決意を胸に、私は森を歩いていく。

次は誰を、殺すのかな?







【C-3/一日目/黎明】
【エアリス・ゲインズブール@ファイナルファンタジー7】
[状態]健康。数ヵ所に軽い傷
[装備]ルイージの帽子@スーパーマリオ64DS
[道具]むそうマサムネ@真・女神転生if…、海鳴りの杖、基本支給品一式×2、不明支給品0〜2
[思考]
1.優勝して、皆を生き返らせる
2.他の参加者を無差別に殺す



【ルイージの帽子@スーパーマリオ64DS】
被るとルイージになれる不思議な帽子。
強い衝撃を受けると取れてしまう。
基本的にスペックはルイージと同等になるが、『声』だけは変わらない。



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