犬と死体と亀の王
「しかしこのワガハイが娘と小男ごときを取り逃がすとは……」
エリアE-3。
アロエとサスケを見失い、森の中に一人残されたクッパは忌々しげに呟く。
それもそのはずである。タケシの決死の一撃で多少のダメージを負い、
それに加えて煙幕を使われたとはいえ、通常の彼であれば、少なくともアロエは殺せていたのだ。
タケシがアロエと遭遇する前に。
サスケがアロエを助ける前に。
クッパは逃げ惑うアロエに追い付き、アロエを殺せていたはずだった。
しかし。
「何故……瞬間移動が使えんのだ……!? 体の動きも鈍いし、どうなっておる!」
クッパの持つ能力の一つ、瞬間移動。
長距離の移動は不可能とはいえ、今回アロエらを追うには最適であったその能力は、
バトルロワイアル。
その狂った殺し合いを円滑に進行する為に、
狭間偉出夫がクッパを含む大多数の参加者に課した、身体能力・特殊能力の制限により封じられていた。
「まさか、ワガハイの力が封じられている……? ええい、そんな事が有り得てたまるか!」
クッパは即座にその可能性に思い至ったが、だがしかしその可能性を否定するために、宙に飛び上がる。
何人たりとも、自分の体に宿る絶大な力を抑えるなどできるはずが無いと言わんばかりに。
せして数秒後、重力に従ってクッパの巨体は地面に着地する。が、
本来ならば起こるはずの地割れは僅かにもできず、ただ微かに地面が揺れるのみ。
その結果に、確かに自分の力に制限がかかっていることを認め、クッパは更に苛立ちを募らせる。
「これもキサマの仕業か、狭間偉出夫!」
大魔王である自分にこのような真似が可能なのは、
自分をここに連れてきたあの男以外にはいないと思考し、クッパは夜空に向けて叫ぶ。
「キサマは何を考えておるのだ! ここにはヤツもいるのだぞ!
こんな情けないコンディションで、ヤツとの決着など付けられるか!」
何処にいるのかもわからない主催者に向けて、クッパは声を荒らげる。
彼の部下が目にすれば泡を吹いて卒倒しそうな剣幕であったが、
怒鳴ったからといって何がどうなるわけでも無く、無論クッパにかけられた制限が解けるはずも無い。
無論その事はクッパも理解していたが、だからといって素直に制限を受け入れることなど彼にはできなかった。
この殺し合いに参加しているのは、彼の永遠の好敵手なのだから。
◆ ◆ ◆
ヤツ。
赤い帽子と立派なヒゲがトレードマークのあの男、マリオ。
ワガハイが初めてピーチを拐ったあの日から、ワガハイとマリオは常に争い続けてきた。
ある時はワガハイに奪われたピーチ城の屋上で。
ある時は煮え滾る溶岩の上で。
ある時は絵の中の世界で。
ある時は水の都で。
ある時は南国で。ある時はカートレースで。ある時はテニスで。ある時は野球で。
ある時はゴルフで。ある時はバスケで。ある時はサッカーで。ある時はゲームで。
そういえば、ワガハイを差し置いて世界征服を企む痴れ者を成敗するために、ヤツを配下にしたことも一度だけあったな。
あの時共に旅をしたわたあめもどきは、達者でやっているだろうか。
「……しかし、随分と長い付き合いになったものだ」
初めてヤツがワガハイの前に現れたときは、軽く捻ってやるつもりだったが。
まさかはっきりと決着がつかないまま、今日に至るとは思ってもいなかった。
傍から見ればただのお遊びに見えるような、スポーツの試合であろうと、ワガハイ達は真剣だった。
常に全力で、ワガハイとマリオはぶつかってきた。
だが、今のこの状況はどうだ。
あの男に力を封じられて全力は出せず、それに加えて山ほどいる邪魔者。
ヤツのことだ。足手まといになりそうな弱者も見捨てずに、あの男への対抗策でも探していることだろう。
普段のヤツであれば、どんな強者が相手であろうと、マリオが敗北するなど考えられん。
「……だが、ワガハイの力に制限がかかっているのであれば、ヤツにかかっている可能性もあるのではないか?」
マリオの能力で特筆すべきは、あのジャンプ力。
自分の身長の数倍の高さまで平然と跳躍する姿は、とても人間業とは思えない。
そしてそのジャンプから繰り出される踏みつけは、一撃でワガハイの部下達を地に沈める。恐ろしい威力だ。
ワガハイの瞬間移動や地割れが封じられている以上、ヤツの身体能力もある程度制限されていたりするのではないか?
「……もしそうならばマズイな。 一対一ならばまだしも、絡め手を使われたり、そうでなくとも弱者をかばったりすれば……」
……ワガハイと決着をつける前に、殺られてしまうかもしれん。
「ええい、そんな終わり方、認めてたまるか! ヤツを殺してよいのはワガハイだけだ!
ヤツを殺した者は、地の果てまでも追いかけて、欠片も残さずこの世から消し去ってくれるわ!」
けれど、実際問題どうすればいいのか。
たしかにマリオとは決着をつけたい。
だが、それが最後の戦いになる以上、お互いに万全の状態で戦うのが望ましい。
次の戦いは、無いのだから。
そんな事を考えながら森の中を歩いていると、ようやく目的の地へと辿り着くことができた。
目の前には、人間の死体が転がっている。
先刻、ワガハイに殺された男の死体だ。
ワガハイの自慢の爪で胸を裂かれ、盛大に血を噴き出して倒れた死体。
「……まあ、こんな華の無い男の死体なんぞに用は無いのだが。 おっ、あったぞ」
死体から少し離れたところに、一つのディパックが放置されている。
十中八九、この死体の持ち物だろう。このディパックこそが、ワガハイが探していたブツだった。
先程あの男は、このディパックの中からトゲゾー甲羅を出していた。恐らくは参加者にランダムで支給される武器なのだろう。
なのでワガハイのディパックにも何か入っているかと期待して開けてみれば、
残念なことに細い剣が一本のみ。腹が立ったのでここに来る間に捨ててしまったわ。
青色の鞘をしたその剣はそれなりに上等な物だったのだろうが、人間サイズのためワガハイには扱いずらい。
あの剣を使うぐらいならば、この両手の爪で戦った方がまだ効率的だ。
「……まあ、そんなわけでこやつのディパックに何か無いかと探しに来たのだが。 さて、何かあるか……」
できればもう一つ二つトゲゾー甲羅があればいいのだが。
そんな淡い期待をしながらディパックの中に手を突っ込む。さて、何があるか……。
む?何かあったな。
固くて丸い……?お、鎖が付いている。
ふむ、モーニングスター的な物だろうか。悪くない。少なくとも剣よりはマシだろう。
とりあえずそう判断し、武器を出すためと手をディパックから抜こうとした瞬間、
がぶっ!
ワガハイの手を、何かが『噛んだ』。
「ぬおっ……! な、なんだ!?」
突然手に走った鋭い痛みに慌てて手を引き抜き、ワガハイの右手から離れようとしない『それ』を左手で無理矢理剥ぎ取る。
あ、危うく右手を噛み千切られるところだったわ……!一体何が入っていたというのだ……。
そして、息を荒げながらゆっくりと視線を向けた先にあった物は
「わんわんっ!」
「ワンワンだと!?」
◆ ◆ ◆
「ほれ、取ってこい!」
「わんわんっ!」
「よしよし、よくできたな。さすがはワガハイのペットだ! それ、次だ!取ってこい!」
「わんわんっ!」
数分後。
ワガハイ達は、戯れていた。
ワガハイが遠くへ骨を放り、ワンワンがその骨を拾ってきて、渡された骨をまた遠くへ放る。その繰り返し。
……無論、ただ遊んでいるわけでは無いぞ?
こやつがワガハイにどれだけ忠実に動くか試しているのだ。
ワンワンは元来狂暴な性格をしている。
もしこやつがワガハイに逆らうようならば、二つ目のディパックにずっと引っ込んでいてしまうつもりだった。
「まあ、そんな心配も杞憂だったわけだがな……それ、次だ!」
「わんわんっ!」
また、ワガハイが投げた骨を取りにいくワンワン。主人の命に逆らわない、実にいいワンワンだ。
なお、今投げてる骨はそこの死体から頂戴した物だが、何、気にすることはない。
あやつと出会ったのも、随分と前の話になる。
あまりに狂暴なために、とある塔に幽閉されていた一匹のワンワン。それを救い出したのが、このワガハイである。
それ以来あやつはワガハイの武器として、ペットとして、存分に活躍してくれた。いやはや、実に懐かしい。
「では久しぶりにやるか、ワンワン」
「わんわんっ!」
戻ってきたワンワンから骨を受け取ると、ワンワンの鎖を握る。遊びはこれで終わりだ。
手を振り上げ、ワンワンの鎖を頭上で回転させ、勢いを付けたところで――目標の木に向けて、放つ。
鋼鉄で作られたワンワンの体が木にぶち当たり、メキメキッという音とともに、木が折れて地面に倒れこむ。パーフェクトだ。
「勘は鈍っていないようだな、ワンワン」
「わんわんっ!」
ワガハイの言葉に、ワンワンは実に嬉しそうに返事をする。……可愛いヤツめ。
こやつとならば、どんな相手であろうと敵では無い。マリオであろうと、あの男であろうと、まだ見ぬ強敵であろうと、だ。
「では行くぞワンワン! ワガハイ達の望みは優勝のみ! 必ずや帰還して、銀河を我等の手に収めるのだ!」
「わんわんっ!」
次の獲物を求めて、ワガハイ達は歩き出した。
◆ ◆ ◆
そして。
ワンワンのおかげで、決心もついた。
参加者で無いワンワンがここにいる、ということは、現在我がクッパ軍団はあの狭間偉出夫の手中にある、ということだろう。
なんせトップのワガハイがこのザマなのだ。ワガハイの配下達が無事である、という保証など無い。
この殺し合いの運営は、とても一人ではできない。
参加者の監視や参加者一人一人に配る支給品の選定など、するべき事を挙げていけばキリが無い。
我がクッパ軍団には、そんな仕事に割り振れる人材がごまんといる。
このワンワンの他にも、ワガハイの配下がこの殺し合いの渦中にいるのかもしれない。
ならば、助けなくてはならないだろう。
ワガハイは決してよき王では無いが、それでもワガハイは王なのだ。
「王は臣を守り、臣に王は守られる。
ヤツラを守ってよいのも、ヤツラに守られてよいのも、この世界でただ一人ワガハイだけだ。
狭間偉出夫よ、キサマでは器が足りんわ」
マリオと全力で闘えない?それがどうした。
それならばあの男の力を奪ってから、蘇らせて再度決着をつけるだけだ。今度は全力でな。
ここから先は容赦などせん。
ワガハイの前に現れたなら、誰であろうと、血祭りに上げてやろう。
そして、最後にはあの男も殺してやる。肉片一つ残さず、念入りにだ。
……まあ、ここから脱出する方法か、あの男を倒す術を知っているヤツがいれば、特別にクッパ軍団に入れてやってもいいが。
「わんわんっ!」
おい、今は喋るな。せっかくワガハイがシリアスに決めたんだから……。
「わんわんっ!」
「………………」
【E-3/一日目/黎明】
【クッパ@マリオシリーズ】
[状態]:甲羅にダメージ
[装備]:ワンワン@スーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品一式×2、タケシの骨@ポケットモンスター
[思考]
基本方針:優勝して主催者の力を奪う。その際、配下も助ける
1:参加者は全員殺す
2:ただし狭間を倒す方法、脱出の方法を知っている相手ならばクッパ軍団に入れてもいいかもしれない
3:マリオと決着をつける
※スーパーマリオギャラクシーからの参戦です
※制限に気付きました
※炎を吐く以外の特殊能力は制限されています
※クッパ軍団が、狭間の下で働かされていると考えています
※マスターソード@ゼルダの伝説が、E-3に捨てられています
※タケシの死体(それなりに損傷)が、E-3に放置されています
【ワンワン@スーパーマリオRPG】
クッパがブッキータワーから救出したワンワンで、クッパ専用武器。
主な攻撃は噛みつき、体当たり、クッパが振り回してモーニングスター的な使い方も可能。
クッパによく懐いています。
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