魔法と河童と爆弾男
「うう……頭が痛い……」
私達の目前で彼が気絶してから早一時間。
呻き声を上げながら、ようやく彼が目を覚ました。
覚醒したてでまだ状況を把握しきれていないのか、
しきりに首を回しては、きょろきょろと辺りを見回している。
とりあえず、呻き声の内容から判断するに、言語は私やシグとそう変わりはないようだ。
ならば、コミュニケーションに問題は無いだろう。
……まあ、明らかに幻想郷とは異なる文化圏の住人であるシグや、どう見ても人間では無いであろう目の前の彼と、
どうしてこうも簡単に言葉が通じるのか、疑問を抱かないわけでは無いのだが、
何故かその辺りの事を気にしても仕方が無い気がしてくる。むしろ気にしたら負けな気すらする。
幻想郷に迷いこんだ外来人が、普通に幻想郷の言葉を使用しているのと似たようなものかもしれないし。
別に言葉をが通じる事で不都合が生じるわけでも無し、ひとまずは思考の隅に置いておくことにしよう。
彼と、目が合う。
そう、今考えるべきことは他にある。
余計な考え事を頭から締め出す。今はただ、目の前で頭を摩り続ける彼を、見極めなくてはいけない。
彼が、私達に害を為す存在なのか、否か。
しっかりと、見極めなくては。
「目が覚めたか。体は大丈夫か?」
「大丈夫じゃない……頭がズキズキ痛い。……というか君は誰?」
「私は河城にとり。君と同じく、あの人間にここに連れてこられたのさ。
そこの遺跡の入口であなたが気を失って倒れていたから、仲間とここまで運んできたのよ」
「倒れていた……?」
腕を組んで、うんうん唸り始める。
まさか、何故自分が気絶していたのか忘れている……?
思い返せば、あの時、彼の脳天に落石が会心の一撃していた。
いつか、頭部に強い衝撃を受けると、
そのショックで怪我の直前の記憶を失う事がある、とは聞いた事があるが、もしかしたらそれだろうか。
私達を油断させる為にわざとそんな振る舞いをしているという可能性は……無いな、うん。
彼を見る限り本当に解っていない様だし、大体あの落石を綺麗に頭に喰らう様を見た後だと、
彼がこの殺し合いに乗っているとはどうしても思い難い。
まあ、それでも遺跡を爆破したのは十中八九彼だろうから、その理由についてはきちんと聞いておかなくてはいけないのだが。
「君は落石を頭に受けて気絶していたのさ。……えーと」
そう言えばまだ名前を聞いていなかった。
私が言い淀んだのに気付いて、名も知らぬ彼が助け舟を出す。
「僕は白ボン。ボンバーマンだよ」
そう、彼は私に名乗った。
白ボンなる名前は確か名簿で見た記憶がある。まあ後々確認はしておくべきだろうが。
しかし。
……『ぼんばーまん』?
名乗ってくれたのは嬉しいが、自己紹介に意味の通じない単語を混ぜるのは如何な物だろうか。
ぼんばーまん。聞き慣れない言葉だ。少なくとも幻想郷では聞いた事が無い。
『人間』や『河童』、『吸血鬼』に『天狗』と同じように、種族の名称なのだろうか。
それとも、『医者』や『巫女』、『新聞記者』や『メイド長』の様に職業名か……?
まあ、白ボンに尋ねればいいだけの話か。
「白ボン、『ぼんばーまん』とは……?」
「え、ボンバーマンを知らないの?」
皆目見当もつかないと答える私に、白ボンが『ぼんばーまん』とやらについての説明を始める。
それは、『ぼんばーまん』についての話でありながら、同時に彼、白ボン本人についての話でもあった。
彼が、機械仕掛のロボットであること。
産み出されてから、同じくボンバーマンの仲間と共に、
プロフェッサー・バグラーや凶悪ボンバー五人衆といった巨悪と、戦い続けて来たこと。
私には理論が理解できなかったが、体内で爆弾を生産できること。
ファイヤーアップやボムアップ、ローラーシューズ等の部品で自らを改造できるが、
それらはどうやら私達をここに集めたあの男に没収されてしまっているようだ、ということ。
彼の世界では、それらの部品は壁の中等に隠されていたので、
この場でもそうではないかとつい思っていたら、爆弾の爆発による遺跡の崩落に巻き込まれてしまったということ。
「――こんな所かな。ひとまず要点だけ掻い摘んで話したけど、大丈夫?」
「説明どうも。……ロボットか、幻想郷の外にはそんな技術まであるなんてね」
外の世界の科学は進んでいるとは常々聞き及んでいたけれど、まさかそこまで発達していたとは。
白ボンのような感情豊かなロボットを完成させているなんて、想像もしていなかった。
私達河童の技術は進んでいると思っていたけれど、
所詮は幻想郷の中においての話、井の中の河童、大海をなんとやらだったわけだ。
私達の限界、光学迷彩スーツとはレベルが違い過ぎる。私達河童の完全な敗北だ。
かくなる上は白ボンを分解して、そのテクノロジーの真相を……!
「ちょ、にとり、目が怖いよ!いきなりどうしたのさ!」
「あ、悪かったわね。つい考え事に集中しすぎちゃって」
危ない危ない。もう少しで私のエンジニア魂に火が付く所だった。
今はそんな事をしていられる状況では無いというのに。
……しかし、爆弾、ねえ。
「ねえ白ボン。今、爆弾を出せる?できれば実際に目にしておきたいんだけど」
彼の話自体は納得したけれど、やはり、爆弾を作り出すなんて、一度見ておかない事には半信半疑だ。
そう正直に言うと、気分を害した様子も無く、白ボンは快く応じてくれた。
「じゃあ、いくよ……えいっ!」
「凄い…………!」
もう、凄いとしか言いようが無い。
彼がベルトの辺りに手を当てたと思うったら、次の瞬間、彼の手には人間の頭大の爆弾があった。
な…何を言っているのかわからないと思うけれど、私にも何が起きたのかわからない。頭がどうにかなりそうだ。
トリックだとか超能力だとか、そんなチャチなものでは断じてない。
高度に発達した科学は、魔法と見分けがつかない。そんな言葉の片鱗を味わった……。
最早私に理解できるのは、彼の能力……
差詰、幻想郷風に言えば『爆弾を無限に生成する程度の能力』とでも言ったところだろうか。
その能力が、紛れもない本物である、というそれだけだ。
さらに彼の補足説明によれば、今は大した威力では無いし、一度に一つしか出せないが、先程言った部品、
『ファイヤーアップ』があれば威力は上昇するし、
『ボムアップ』があれば同時に複数の爆弾を作り出せるらしい。
ふむ、多少抜けている所もあるが、正義感があり、実力も十分。もう彼以上の人材は望めまい。
我が盟友を守るため、必要な力。彼なら申し分無いだろう。
「白ボン、私達はこの殺し合いを止めたい。そのために、私達にその力を貸してくれないか?」
「もちろんさにとり!こんな殺し合い、絶対に許しちゃおけない!
絶対にあの男を倒して、帰るんだ、皆の元に!」
私の言葉に、二つ返事で返す白ボン。
その返事を聞いて、私はこの場に連れてこられてから感じていなかった、実に晴れ晴れとした気持ちを感じていた……。
だから気が付かなかった。
この世界に、そんな簡単にうまくいく話なんて無いってことに。
「……で、白ボン。そうこう言ってる間に爆弾の導火線がどんどん短くなっているのだけど」
「あ、本当だ。危ない危ない。森に投げると火事になりかね無いし……ここは上かな?」
私の指摘で爆発が迫っている事に気が付き、白ボンは上空に爆弾を放り投げる。
爆弾は空中に放物線を描きつつゆっくりと上昇し、ピークに達した所で……
B O M B !!
思わず「たーまーやー」とでも言ってしまいそうになったが、流石にそれは自重する。
爆音と爆風と共に、一瞬だけ辺りが明るくなり、すぐに元の暗く静寂に包まれた世界に戻る。
お疲れ様、と私が言うと、白ボンは静かに笑った。
「ふう……で、にとり、これからどうするの?」
「シグって仲間に、見張りを頼んであるんだ。とりあえず呼ばないと」
白ボンが危険人物である可能性もあったため、あえてシグは少し離れた場所に居てもらった。
私が声を上げればすぐに戻って来れるような、絶妙な距離をおいて。
「え?シグってそこにいる子?」
「…………はい?」
白ボンが私の背後を指差す。
まさかと思いながら振り向けば、たしかにシグはそこに居た。
「何かあるまで戻ってこないって話じゃ……」
たしかにそうシグには言っておいたのだが。
もしかしたら、他の参加者が接近して来たのだろうか?
「そうじゃなくてねー。にとりに言われた通りに向こうにいたら、
こっちから花火みたいな音がして、なにかが爆発してたから、なにかあったのかなって」
「ああ、さっきのボムか。僕が投げたんだよ、あれ」
「へえー。じゃあもう一回やってー。アンコール、アンコールー」
ああ成程、爆発を見て、何かあったのかと思って戻ってきたのか。
そりゃ勘違いするのも無理無いや。こんな暗い中で爆発があれば目立ちもするだろうし。
………………………………………………………………………
………………………………………………………………あれ?
何故だろう。なんだかとてつもなく嫌な予感がする。
☆
「アンコール、アンコールってばー」
「だから僕のボムは花火じゃないんだって……」
どうしたものだろう。
突然現れたシグという少年が、執拗にアンコールを要求してくる。
にとりの仲間だから悪い人間では無いのだろうけれど、このしつこさは尋常じゃ無い。
もういっその事、アンコールに応えてもう一発ぐらいやってあげた方が楽かもしれない。
別にボムは減るもんじゃないしね。
「わかった。ただしもう一度だけだよ?」
「おおー」
「見逃さないように、よく見「やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」…………」
突然、辺りににとりの怒号が響き渡った。
あまりにいきなりのことに、硬直する僕とシグ。
「な、なにが……?」
「後にして。とにかく今は、場所を変えないと……!」
恐る恐る理由を尋ねるも、突っぱねられる。
考える間も無く、とにかくこの場から離れようと走るにとりを、追走する僕とシグ。
見れば、シグにも何故にとりが怒ったのか、見当もついていないのだろうか、複雑な表情をしている。
一体、何があったのだろう……?
「はあ、はあ……!」
森を全力づ走り抜けながら、後ろに二人が付いてきていることを確認する。
迂濶だった。
白ボンの持つ、『爆弾を無限に生成する程度の能力(仮)』。
それなりに広範囲にダメージを与える爆弾を、一度に一つとはいえ、それこそ無限に産み出す事ができる。
この上なく強力な能力だ――が、その能力には一つの穴があった。
一つにして、とても巨大な、奈落まで続く落とし穴。
何故気が付かなかったのだろう。
この能力は、いかんせん目立ち過ぎるのだ。
殺し合いに乗った人間がそこかしこにいるこの場所では、それは余りにも致命的。
爆発そのもの、爆発音、放つ光、煙等々、近くに他の参加者がいれば、それらに気が付かないはずが無いじゃないか。
現に今にも、今まで私達がいた場所に殺し合いに乗った参加者が向かっているかもしれないのだ。
最悪これから先、この能力を使う度に移動する必要すらあるかもしれない。
『爆弾を無限に生成する程度の能力(仮)』。
「あまりにも……扱い辛すぎる……!」
私が吐き捨てたその言葉は、誰の耳にも届きはしない。
【F-7/森/一日目/深夜】
【シグ@ぷよぷよシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:モンスターボール(中身不明)@ポケットモンスター、不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]:
1:にとりを追う
2:アンコール、アンコール
3:アルル達を探す
【川城にとり@東方project】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3(武器はなし)、基本支給品一式
[思考]:
1:とにかく今の場所から離れる2:白ボン、シグと協力して脱出
【白ボン@スーパーボンバーマン3】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]:
1:にとりを追う
2:主催者を倒してゲーム脱出
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