仲間・絶望・決意






「ちょっといいかしら。貴方達もこの事件に巻き込まれたのよね?」


サスケ達が眼鏡をかけた長身の女に声をかけられたのは、クッパとの邂逅から暫く経ってからのことだった。


「落ち着いて聞いて頂戴。私はこの殺し合いに乗るつもりはないわ」
「安心してほしいでござる。拙者もそなたと同じ考えでござる」
「よかったわ。そちらの子は? 眠っているの? それとも……」
「彼女は気絶しているだけでござる。今はこの子を休ませていたところでござる」
「一体何があったの?」
「実は……」

サスケが事情を一通り説明すると女、水無月響子は頷いた。
響子がサスケと気を失ったままのアロエの傍に腰を下ろす。

「事情はわかったわ。そんな事があったのね」
「響子さんは、誰かに会ったでござるか?」
「いいえ。貴方達が初めてよ。今は仲間になってくれる人を探していたところなの」
「まことか!?」
「協力してくれる?」
「拙者は歓迎するでござる。この子も目を覚ましたらきっと喜んでくれるでござろう」
「ありがとう。一人じゃないって思ったらやる気が出てきたわ」

響子が微笑む。その笑顔には隠しきれない疲労が見受けられる。
響子は荷物袋から水筒を取り出した。


「それは?」
「支給されたものよ。貴方達は持ってないのかしら」
「そのようなものは見当たらないでござる」
「そう。ならやっぱり私だけに支給されたものなのでしょうね」

慣れた手つきで響子がキャップに水筒の中の飲み物を注ぐ。
意外と深いキャップに透明な液体がなみなみと注がれた。

「こんなものを支給品にするなんて、彼奴は何を考えてるのでござろうか……」
「でも案外この水筒も馬鹿に出来ないのよ? 今から役に立つんですもの」
「役に立つ?」
「ええ。これさえ飲めば彼女は救われるわ。飲ませてあげて」

水筒に注がれた飲み物は、異様な匂いもなく、見た限り何の変哲もない水のようだ。
響子の様子を窺う限りでは飲めば回復するという薬的な作用があるのかもしれない。

「貴重な飲み物、かたじけないでござる」

アロエの口を開き、液体を注ぎ込む。横たわるアロエの顎を上に向かせるとなんとか飲んでくれたようだ。

「お礼なんていいのよ。貴方も飲まない?」
「いや。拙者はまだこの通りピンピンしているでござる。この状態でかのような貴重なものを飲ませて頂くわけにもいかぬ」
「そう……。なら、サスケ君には悪いけれど、私が先に飲んじゃってもいいかしら?」
「元々それは響子さんのものでござる。好きに飲むでござる」
「有難う。実を言うと私もちょっと疲れちゃってたのよね」

響子が水筒からまたそれを注ぎ、自らの口に含む。

響子が「疲れたから」と言いながら飲んでいるぐらいだ。
これを飲めばきっと力が湧き、すぐに元気になるに違いない。



サスケが抱いていたその希望は脆く打ち砕かれることになった。




ゴボッ、と音を立ててアロエの口からどす黒い血が溢れ出した。
それを合図に、手足を痙攣させながらアロエは意識の戻らないまま大量の血を吐き続ける。


「!?」


サスケは信じられなかった。



これは元気が出る水ではなかったのか?
響子が「これを飲めば救われる」といったのは嘘だったのか?
何故アロエがこんなことになってしまったのか?

疑問が頭の中で渦巻く。
しかし今は考えるより先にアロエを助ける方が先だ。

「しっかりするでござる!!」


アロエを抱きかかえ、サスケが必死に吐血を止めようとする。

間もなく吐血が止んだが、同時にアロエ自身の生命活動も止まってしまった。

友との再会を果たすどころか、目を覚ますこともないまま、何もわからぬまま呆気なく彼女は命を落としてしまったのだ。

再びその明るい笑顔を見せることのないまま。


「こ、こんなの嘘でござる! 目を覚ますでござる!!」

佐助がアロエの体を揺さぶるが、力なく魂の抜け殻が揺れるだけだった。
アロエの支給品・ピンチデラッキーも突然の悲劇には対処できなかったのだ。

守ろうとしたのに守ってやれなかった……こんなことになるなんて気づいてやれなかった……サスケは自分を悔いた。

アロエを死に至らしめたもの。考えられるものはひとつしかない。
響子が持っていた水筒の中身だ。
響子はきっと自分を騙し、まだ幼いアロエを殺したのだ。

「貴様! 騙したでござるか!?」

強い憎しみを抱きながら響子の方へと振り向いたサスケは再び強い衝撃に襲われた。


「騙してないわ……」

響子もまた口元から血を吐き、ぐったりと倒れこんでいた。

響子の言葉は偽りではない。
響子は誰も騙してなどいなかった。
仲間を探しているというのも嘘ではなかった。

「私は……一緒に死んでくれる人を……さが、し……」


彼女は最初から共に死んでくれる仲間を探していたのだ。

この殺し合いに巻き込まれた響子。
確かに彼女は日常生活に戻り、恋人や生徒に恵まれた平穏な日々を送ることを望んでいた。
しかし、人を殺してまで自分だけ幸せになっていいのか?
そんな自分を恋人の英雄や学園の生徒たちは今まで通りに愛してくれるのか?
どの道をたどっても自分はもう二度と幸せにはなれないのではないか?

絶望に囚われるうちに響子は、自ら死を選ぶことでしか、この絶望から救われる方法はないと考えるようになってしまっていた。

彼女は優しすぎた。だから壊れてしまったのだ。

だが一人で死のうとしたら、きっと途中で甘えてやめてしまうかもしれない。
だからこそ仲間を探し、共に支給品である毒物で自殺しようと決めたのだった。

「拙者は歓迎するでござる。この子も目を覚ましたらきっと喜んでくれるでござろう」
そのサスケの言葉を、響子は自殺に対する合意だと捉えてしまっていたのだ。

これ以上の絶望に囚われる前に、合意してくれたこの少年と少女と共に永遠の眠りにつこう。

誰かを殺して自分だけが生き残るよりも、誰かに殺されるよりも、人間の心を失くすよりも先にこうした方がきっと幸せに違いない。

それが響子の選択だった。



それをサスケに最後まで伝えることの出来ないまま、響子は事切れた。



「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

二人の魂の抜け殻を前に、サスケの叫びが虚しく響く。


何でアロエが死ななければならなかったのか?
何が響子をそこまでの絶望に追いやったのか?
二人を死なせずに済む方法があったのではないか?

自分は何もできなかった……。

カラクリ忍者として作られたサスケ。
但しその心は人と同じように出来ている。
いや、人間そのものの、人間よりも熱く澄んだ心を持っている。

人に作られたカラクリ人形とは言えども、深い怒りや悲しみを抱くこともあれば、絶望だってする。

しかし今は絶望なんてしたくなかった。負けたくはなかった。
これ以上辛い思いをしないためにも、自分が負けずに戦うしかない。
幸いここには盟友もいる。彼ならきっと自分と共に闘ってくれるはずだ。

それにここで自分まで打ち負かされたら、幼い少女と絶望に押しつぶされた女性の死が無駄になってしまう。
彼女たちの死を無駄にしないためにも、自分は何としても生きなくてはならない。
どんなつらい運命が自分を待ってようとも、絶望せず、最期の時まで戦って生きていくことにきっと意味があるはずだ。



そう信じてサスケは立ち上がった。



【E-2/一日目/深夜】
【サスケ@がんばれゴエモン】
[状態]:精神疲労・中
[装備]:らいじんのヤリ@ドラゴンクエストX
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]
1:絶望なんてしたくない
2:ゴエモンを探す
3:主催者を倒し、ここから脱出


【アロエ@クイズマジックアカデミー 死亡】
【水無月響子@私立ジャスティス学園シリーズ 死亡】
【残り55人】


アロエの支給品一式、響子の基本支給品一式及び毒物入りの水筒@現実(残量:少)をサスケが所持するかは現時点では不明です



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