『蛇は死して毒牙を残す』
隻眼の男がゆっくり歩いていた。
かつての栄光を置き去りにし、緩やかに死へと向かっていた。
歩みの一歩一歩が生命を削ぎ落とすが、男は前に進む事をやめない。
男は殺し合いに参加しようとは思っていない。自分が選択した戦いではないし、自分の生命が尽きようとしているのが解っている。
それ以前に、既に彼は公式的に死んでいる。否、大事な人を自らの手で殺めた時に死んでいたのかも知れない。
そもそも、彼が生きている事を知っているのは一握りの人間だけだ。
名簿を確認した所、その一握りの人間の一人が参加している。
そして、彼にとって息子とも言える人間も参加している。
彼ならば、この狂ったゲームを打破出来るだろう。
ザンジバーランドの様に、歪んだゲームを勝ち進むだろう。
背にしたデイパックが肩に食い込み、手に持った金属製のケースの重みは体力の消耗を早めていく。
ゼイ、ゼイと呼吸が荒くなり、汗が流れ落ち、視界が狭く、暗くなっていく。
「――ボス、俺はアンタに勝てなかった。だからこうして死に損なっている。――俺はここで終わる。でも息子ならどうにかしてくれるだろう」
男は崩れ落ちる様に倒れた。老いた身体がその衝撃で激しく軋む。しかし、老骨に鞭打って前に進む事を止めない。
だが、次第に意識が混濁し始めた。
「――なあ、ボス。俺は、俺たちは正しかったのか? 俺には解らない。真の愛国者のアンタが羨ましい。――俺には何もない」
アイパッチの裏にある潰れた眼から、一筋の涙が雫となって溢れる。
「――息子よ、スネークよ、後は任せる。すまんな、オセロット。――俺は、先に逝く」
老兵は――かつてビッグボスと称えられた男は、瞳を閉じて動かなくなった。
幾多の死地を潜り抜けた彼は、老衰という何人たりとも逃げられぬ死神によって、その生命を閉ざした。
傍らに、愛国者――パトリオットを残して。
【ネイキッド・スネーク(ビッグボス)@メタルギアソリッドシリーズ 死亡】
【残り58人】
※場所はC―3、遺体の傍らにランダム支給品パトリオットが落ちている
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