「女子高生」
樹木にもたれ掛かる少女が一人。制服のスカートから覗かせた健康的な腿を投げ出し、彼女は不景気な顔で一人ごねていた。
「わけわかんないよ…どーなってんの?ほんとわけわかんなぁい…どうしよう…?どうしよ…!」
彼女、春日野さくらは頭を抱えた。
「あああ〜!!考えてたって仕方ないっ!!」
さくらは短く切り揃えた頭をくしゃくしゃ掻き乱すと勢いよく立ち上がった。
「やるっきゃないっしょ!考えるより動け、よ!さくら!!」
バシッと自らの頬を叩いてさくらは活を入れる。
恐怖に負けないように、あのひょろ男をぶん殴ってやるために。
「とはいったものの…どうしよ……。そうだ!まずは鞄ん中!何入ってんのかなあ〜っと」
デイパックを肩から降ろし、中を覗き込む。
まず手に取ったのは紙切れだ。
「参加者名簿、か……。」
さくらはその陳列された名前をひとつひとつ追っていく。
「水無月先生!恭介君!」
親友のひなた、夏の知人の名前が目に入る。
(水無月響子先生。私立ジャスティス学園の保健室の先生。どんな時も冷静で、見た目は冷たそうだけど実は優しくて。
折角、島津先生といい感じだったのに……こんな所に連れてこられるなんて…)
(鑑恭介君。親友の若葉ひなたの同級生だ。
クールで顔もかっこよくて頭もよくて華道もできて強くて……なんだけどちょっとナルシーなトコがあるって、わかばが言ってたっけ。
きっと恭介君ならこんな理不尽なゲームに立ち向かってくれる。力になってくれるはず。)
そして、
「……リュウ…?リュウさんだ!!」
落ち込んでいたさくらの顔が笑顔に変わっていく。
リュウ。
一目見た時から彼はさくらにとって特別な存在になった。
それは少女が異性に好意を抱く恋という感情に近い。だが、微妙に違う。恋というより強い憧れ。
実際、彼女はリュウに恋しているのかもしれない。
だが彼女の中の認識としてはテレビ管の向こうのアイドルに抱くような感情……ミーハー心というか、そういった気持ちのほうが勝っているのかもしれない。
なんにせよ彼女がストリートファイトの世界に飛び込むきっかけを作った彼の名前をさくらは見つけたのだ。
一瞬舞い上がったが、しばらくしてここがどんな場所なのか……さくらは思い出してしまった。
(リュウさんが……殺されちゃうかも……!)
リュウに続いて記入されている名前にまたさくらは絶望する。
(……ベガ……豪鬼………)
片や、世界征服を目論む魔人。
−リュウと出会ったのは彼とリュウの決闘に巻き込まれたのがきっかけだ。禍々しい力を秘めた恐ろしい男だとさくらは記憶している−
片や、修羅の道を極めた闘いの鬼。
-さくら自身は彼に遭遇したことはない。しかゥし、リュウから彼の危険性については聞いたことがあった。-
(出来れば会いたくない……)
きっと彼らはこの殺し合いに喜んで乗るであろうとさくらは踏んだ。
(どうしよ……人間離れしてる人が二人はいるってことだよね…)
せっかく名簿をみて元気がでてきたのに、また弱気に飲まれようとしている……。
さくらはぶんぶんと首を左右に振った。
(リュウさんと再会できればきっと大丈夫!リュウさん、待ってて!!)
他に何か使えるものは……とさくらはデイパックの中にさらに手を突っ込んだ。
「ん〜!」
手に当たるたしかな感触……ずっ!と勢いよくそれをデイバックから引き抜いた。
「こ……これはぁ!!!?」
胸を覆うであろうカップのような金属部分におまけのようにハイレグ水着風な布がビローンと伸びている。
これは着ると……刺激的だ。
「うはっ!やばいよこれ〜!着れないよ〜!!てゆうかなんでこんなん入ってんのッ!?」
静かな森にさくらの悲鳴が木霊する。
…
…
…
胸を守る部分をさくらは自らの胸に押し付けてみた。
………悲しいかな、随分サイズに余裕があるようだ。
「……おさめよ……」
他のデイバックの中身も一通り確認すると、さくらは歩き出す。
頭一杯に『あのひと』の背を思い描きながら……
-------
見通しの悪い森が続く。代わり映えのしない景色にさくらは頭をもたげる。
「ふう……」
小さくため息をつき、さらに歩みを進めていく。
特にあてもなく歩いていたさくらだが、ふと目についたものがあった。
暗闇の中なのでその正体ははっきりとはわからない。
だが、そのシルエットは人の形をしていた。その人物は足を投げ出して無防備に寝ているようだ。
(……まさか!?)
焦りを隠せず、慌ててさくらはその人影に駆け寄り、声を上げた。
「大丈夫ですか!!?」
「………っ!!!!!!!!」
間違えなく、その影の正体は人だった。
彼……中年くらいの男性だろうか。
胸から、目から、腕から、足から……いたる部分から赤黒い液体が吹き出しており、彼の身体は自身の血に浸っている。
周囲の草は黒く染まっており、まるで彼の周辺だけ暗闇に飲み込まれているようだった。
刃物を突きつけられたのであろう。両目は潰されてしまっており、赤く染まった端に白いものがはみ出ている。
彼は死んでいた。
現実が重く少女にのしかかる。思わずさくらは後退る。
「う……うわぁぁああああああああ!!!!!」
怖い。
さくらは怖かった。
口から無意識のうちに悲鳴が漏れ、気がついたら走り出していた。
(誰かが……誰かが殺した!!!殺したんだ!!!!)
恐怖で涙が滲み、視界もぼやけていく。
涙を拭う事も忘れて、さくらは無我夢中で走る。
(助けて……!リュウさん、助けて!!!!!怖いよ!あたし……あたし……)
(しに……しにたくない…ッ!!!)
どれくらい走っただろうか、喉が焼けるように痛い、足が縺れそうになる。
さくらは体力には自信はあったが、こんなに全力で走り続けたことはなかった。
だが、足を止めてしまうわけにはいかなかった。
怖い、怖い、怖い、怖い。
滲む視界の端に、黒い影が映る。
(人……人だ!!)
その人影はさくらの気配に気がついたのだろう、足を止めて振り返った。
さくらは一直線に駆けていく。
その人物は驚き、目を見開いた。
「うわぁぁぁあああん!!!!!!」
さくらはその胸に飛び込み、構わず泣き出した。
-------
桐島英理子は虚ろな表情で歩いていた。
(Naoya……)
愛しい彼、彼は英理子の心の中ではずっと笑顔のままだった。そして、優しく彼女にこう語りかけてくるのだ。
(エリーは悪くない。大丈夫。悪いのは……あの男だよ)
(Thank you……ありがとう………)
そして、彼は優しく英理子を抱きしめ、慰めるのだ。
彼女の頭の中では幸福な空想劇が繰り広げられている。だが、事実彼女は一人の人間を手に掛けてしまった。
その事実を真っ向から受け止めてしまえばきっと彼女の心は壊れてしまう。
少しでも、少しでもいい方向へ……。英理子は必死に思い込もうとしていた。
騒がしい足音。弾む荒い息。
英理子は唐突に現実に引き戻され……
振り返った。
「うわぁぁぁあああん!!!!!!」
その人影は迷う事なく英理子の胸に飛び込んできた。
反動で思わず倒れてしまいそうになったが、なんとか耐える。
(ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ)
口を覆う手袋ごしの男の手の感触、ブラウスの破られる音、自身の悲鳴、男の獣のような息づかい、熱を帯びた男の体温、紅潮した頬、狂気を宿したその瞳。
ぶすりと刃が肉に食い込む感覚、吹き出す血、慈悲を乞う男の目、涙、悲鳴。
生々しい記憶が一気に甦り、英理子は身を固くした。
しかし、幼い子供のような泣き声が聞こえてくると、硬直した英理子の身体が次第にほぐれていく。
おそるおそる、英理子はその人物に目を向けた。
その人物は白いセーラー服に青いスカート……制服を身につけている所から同年代の少女と思われた。
何があったのか、取り乱した様子でわんわんと泣きじゃくっているのだ。
(Oh……彼女もbe terrified……恐怖しているのね……)
英理子は彼女に心の底から同情した。自身も深い恐怖から強い悲しみに苦しめられていたのだから。
英理子は少女の背中を優しく摩る。まるで子供をあやすかのように。
「大丈夫……もう怖くありませんわ………」
-------
しばらく英理子はさくらを抱きしめていた。次第にさくらも落ち着きを取り戻し、英理子から離れた。
「ご……ごめんなさい……。あたし……あたし…」
「……謝ることなんてありませんわ……突然こんな所に連れてこられて……私も怖いですもの」
「ありがとうございます!えっと……」
「私は桐島英理子。あなたは?」
「あたしは春日野さくら。本当にありがとうございます…桐島さ……」
気の抜けきっていたさくらの顔に再び緊張が走る。
「いけない!ここにいたら!!!」
「え?」
英理子も驚愕と不安が入り交じったような、苦しげな表情になる。
「人が……死んでたの!!!ここにいたら危ない!!!!早く逃げよう!?」
さくらは英理子の手を取ると、慌てて走り出す。
「Stop!!一体……」
人が、死んでいた?
「死んでた……!!殺されてたんだよ!!!男の人が!!!!!ここにいたらあたしたちも危ないよ!!!桐島さん!!!!!」
英理子は気がついた。
彼女……さくらは見たのだ。あの男の亡骸を。英理子を穢そうとしたあの男を。
英理子が殺したあの男を……見られた。
気がつけば英理子はさくらに手を引かれて走っていた。
(話してしまおうか?NO、ダメ。そんなことをしてしまっては殺し合いに乗っていると疑われてしまう)
(でも、真実をすべて話せば?……いいえ、話せない。とても話せない……)
(why……?なぜ私は制服を捨てなかったの?)
走りながらぼんやりと考える。
返り血を浴び、さらに剣先まで拭き取るのに使われた制服。
その血塗れになった制服を英理子は咄嗟にデイパックに押し込んでいた。何故あそこで処分しなかったのだろう?そうすればこんな心配しなくてよかったのに。
そんな血痕に塗れた布きれを見つけられたら……どんな扱いを受けるか、想像は容易い。
さくらは後退り、怯えた目で英理子を見る。
(ひっ……人殺し!!)
(NO…!Sakura!違うの、これは……)
(どんな理由があるにせよ、君は人を殺したんだよ。エリー。)
(Naoya……!?)
そこには彼女の想い人が軽蔑のまなざしを向けていた。浴びせられる言葉も、視線も、氷のように冷たい。
(最低だ)
所詮ただの妄想にすぎない。
(私は……人を殺してしまった。どんな理由があるにせよ……殺してしまった……)
しかし、この自ら生み出した妄想は英理子の傷を抉るのには十分すぎた。
抑えようとしても堪えきれず、大粒の涙が頬を伝い、嗚咽が漏れる。
「桐島さん、さっきの放送聞いた?!……あれ」
走るペースが次第に遅くなる。
英理子が足を止めたわけではない。さくらが足を止めたのだ。
「桐島さん、泣いてるの…?」
英理子は涙を手の甲で拭うと、無理に笑顔を繕った。
「Sorry……。泣いてどうにかなることじゃないことはわかってるのに…」
「ノー!」
声を張り上げるとさくらは英理子の頭をグッと胸に押し付ける。
「泣いてもいいんだよ!あたしの胸でよかったら貸したげる!だから一緒にがんばろ!」
彼女も泣くのを堪えているのだろう、上ずった声で力強く英理子を抱きしめる。
さくらはとても暖かい。だが、さくらは何故英理子が涙したのか……その真の意味を理解していなかった。
だが、今は彼女の熱が心地よい。
英理子はそっとさくらの背に手を回した。
(Pleese God……どうか私たちを助けて)
【A-5/一日目/深夜】
【春日野さくら@ストリートファイター】
[状態]:走ったことによる軽い疲労(休めばすぐ回復する)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ハイレグアーマー、確認済不明支給品(0〜2個)
[思考]
基本方針:みんなで無事生きて帰る!主催者をぶん殴ってやる!
1:桐島英理子と行動を共にする。
2:放送の人(ガルーダ)に会いにいく?桐島さんに相談しよう
3:リュウと合流する。
4:水無月響子、鑑恭介と合流する。
5:戦いが避けられない場合は頑張って戦う。
※ガルーダの演説を聞きました。
※ルイージを殺害した犯人が桐島英理子だとまったく気がついていません。
私立ジャスティス学園キャラと面識があります。
豪鬼を警戒していますが、面識はありません。
【桐島英理子@女神異聞録ペルソナ】
[状態]:走ったことによる軽い疲労(休めばすぐ回復する)・精神的ダメージ中〜大
[装備]:誘惑の剣、光のドレス(ドラゴンクエストシリーズ)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1、血まみれの桐島英理子の制服
[思考]
基本方針:大切な人に逢えるように、また、夢をかなえられるように生き残る。
1:(自分が殺害者だとバレてしまったらどうしよう)
2:春日野さくらと行動を共にする。
3:春日野さくらにルイージを殺したことを話す?話さない?
4:泣き止まないと、前へ進まないと
5:(気丈な態度だが、精神的ダメージがやや大きいため、いつどうなるかわからない)
6;(多少男性不信かも?)
ペルソナの種類はエリーの最終ペルソナのミカエル(※ペルソナ1限定)だと思われる。
【ハイレグアーマー@女神転生シリーズ】
ハイレグ水着風の鎧。女性専用。
防御力はそこまで高くないようです。
前話
目次
次話