悪を断つ剣
木々が生い茂る森の中。
そこには土を盛り上げた跡が二つと、ワインが一瓶その傍らに備えられていた。
それは、死に行った二人の男を弔う墓であった。
「……どうか、安らかに眠ってくれ」
男―――ゼンガー・ゾンボルトは、肩膝をつきその前で手を合わせている。
彼がこの見知らぬ土地へと飛ばされた後、真っ先に取った行動。
それは支給品の確認でも現在地の確認でもなく、彼等の墓を作る事であった。
―――この殺し合いを開いた少年に勇敢にも立ち向かい、その命を散らせた戦士スコット。
―――生死のやり取りとは無縁の場にいたであろう、兄を想う優しい青年ゴードン。
ゼンガーはあの時、彼等の死を間近で目にしていた。
彼等がどの様な思いを抱き死んでいったのかは、痛いほどに伝わった。
だから、こうして弔いたかったのだ。
「……すまんな。
全てが終わった時には、改めて弔わさせてくれ」
そこにあるべき遺体もなければ、名を示す墓標すらない簡素な墓。
本来ならば、もっと形が整った墓を作りたかった。
しかし、生憎ながら今は他にやるべき事がある。
―――お前達を死に追いやったあの男は、必ずやこの手で討つ。
二人の安息の為に、これ以上の犠牲を生まぬ為に。
ゼンガーは静かに目を閉じ、墓前で主催者の打倒を誓う。
その時……彼の耳に、草を掻き分ける足音が聞こえてくる。
こちらに近づいてはきているが、そこから殺意は微塵も感じられない。
「……僕も祈らせてもらえますか?」
「ああ……二人もきっと喜ぶだろう」
ゼンガーは静かに立ち上がり、足音の主へと振り返る。
まだ若い、恐らくはあの主催者と同年代であるだろう年頃の青年。
その身に纏った白い学生服を見る限り、学生なのは間違いないだろう。
彼はゼンガーに一礼をすると、墓の前で両の手を合わせ、静かに祈りを捧げた。
この行動からして、彼が殺し合いに乗っていないことは明らか。
そして彼自身も、ゼンガーの事を同様に判断していた。
「自己紹介が遅れました。
太陽学園風紀委員、鑑恭介です」
「地球連邦軍所属、ゼンガー・ゾンボルトだ」
「……地球連邦軍……」
青年―――鑑恭介は、ゼンガーの言葉を聞き疑問を覚える。
それも当然、彼は地球連邦軍なんて聞いたことが無かったからだ。
しかし、ゼンガーが嘘を言っているようにはとてもじゃないが見えない。
恭介は口元に手を当ててしばし考え込むが、そんな彼の胸中を察したのだろうか、ゼンガーが口を開いた。
「地球連邦軍など聞いたことが無い……そう思っているようだな」
「……ええ、その通りです」
「その割には妙に落ち着いているが……お互い、思うところは同じと言うわけか」
「どうやらその様ですね」
二人とも、自分達がどの様な状況に置かれているかは薄々感づいていた。
自分達でも気がつかぬ内に、あの広場へと集められた事。
その後に起きた、殺されたゴードンとミンウとのやり取りの中で出て来た魔法と言う単語―――これはルール説明でも口にされた。
恭介はここまでの一連の出来事に加え、自身の支給品の説明文により、何が起きているのかを把握できた。
そしてゼンガーは、自身の経験により確信に至っていた。
「平行世界か……殺し合いでさえなければ、悪くない体験なんだけどな」
主催者は平行世界に干渉し、この殺し合い―――バトルロワイアルの為に自分達を呼び集めた。
本来ならば決して出会う事の無かった者達を集め、その殺しあう様を楽しむ為に。
それは言うなれば、悪魔の所業。
断罪すべき悪……!
「恭介……あの男を討つ為に、力を貸してくれるな?」
「ええ、勿論です。
僕としても、あの男を許すわけにはいきません。
簡単な事では無いでしょうが……分の悪い賭けは嫌いじゃない」
「む……」
恭介の言葉を聞き、ゼンガーは少しばかり驚いた。
まさかその言葉を、それも同じ名を持つ者から聞くとは思わなかった。
これも、何かの縁という事だろうか。
「……フッ……」
「ゼンガーさん?」
「いや……今のお前と、全く同じ事を言った奴がいてな。
少し思い出しただけだ」
―――奴がこの場にがいたならば、きっと同じ事を言ったのだろうな。
ゼンガーは微笑を浮かべつつ、恭介へと手を差し出す。
恭介は彼の想いに応え、その手を握る。
共に抱くは、悪を断つという強き意思。
主催者をその手で討つべく……今、二人の胸中では炎が燃え上がっていた……!
「それでゼンガーさん、もう支給品は確認しましたか?」
「いや、全てを見たわけではない」
その後、恭介は話題を支給品へと移す。
既に恭介は自身の支給品を全て確認し終えていたのに対し、ゼンガーは一つしか確認できていなかった。
そしてその一つが何かというと、墓に備えられているワイン―――ロマネコンチである。
つい先ほど、何か墓に供えるものはないかとデイパックの中を探した結果、彼は真っ先にこれを見つけ出した。
下戸である彼にとって酒は無用の品物であるのに加え、何より供え物としては丁度いい品であった。
その為、ここに放置する事としたのだった。
「僕の方はこの二つだけです。
正直、あまり使えるとは言いがたいですがね」
恭介は軽く溜息をついた後、自分の支給品を見せる。
まず一つ目は、いのりの指輪という見た目には普通の指輪であった。
説明書によると、どうやらこれには魔力を回復する効果があるらしい。
だが、元々魔法などとは無縁の存在である恭介にとっては、単なる指輪でしかない。
ハッキリ言ってしまえば、外れ品である。
そしてもう一つの支給品も、このいのりの指輪程ではないにしろ、かなり使い勝手の悪い品であった。
「なんと……」
「……バスターソードと言うらしいです。
これだけ大きな武器なら、確かに攻撃力は望めるでしょうが……」
バスターソード。
二人の身の丈ほどはあるであろう巨大な大剣……もはや、鉄塊と呼んでも差し支えはないだろう。
よくもまあ、こんなものがデイパックの中に入っていたものである。
攻撃力は見るからに高そうではあるが、これも恭介にとっては当たり品とは言いがたい。
元々素手で闘う彼にとっては、剣は不要な代物。
それに加えて、この長さと重量である。
例えこの場に剣術の達人である彼の兄がいたとしても、とてもじゃないが扱えないだろう。
だが……
「……恭介。
この剣、俺に譲ってはもらえないか?」
ゼンガーは、そのバスターソードが欲しいと言ってきたのだ。
お荷物同然の支給品だとばかり思っていたのに、この反応である。
これには、恭介も面食らうしかない。
「それは構いませんが、この大きさですよ?
幾らなんでも、戦闘で使えるとは……」
「構わん」
ゼンガーは恭介の言葉を一蹴し、バスターソードを握った。
確かに彼の言うとおり、この剣は剣と呼ぶには巨大すぎる。
しかしゼンガーは、そんなこの剣を一目見て逆に気に入ったのだ。
その姿が、戦場で幾度と無く振るってきた愛刀―――斬艦刀に似通っているが為に。
「……」
一意専心。
バスターソードを構え、ゼンガーは精神を集中させる。
グルンガストやダイゼンガーを駆り、幾度となく戦場を潜り抜けてきた。
数多くの危機を、斬艦刀を振るい切り抜けてきた。
それが今……こうして、生身に置き換わっただけの事である。
常人ならば扱いに戸惑うであろうこの剣も、斬艦刀の要領でいけば十分に扱える。
問題など何一つ無い。
(もしかしたら……やれるのか……?)
恭介はその姿を見て、言葉を失った。
ゼンガーが剣術の心得がある者、それもかなりの熟練者である事は、その構えを見れば分かる。
そして何より、その全身から発せられているこの気迫。
期待と興奮が入り混じった熱い思いが、胸中に込み上げてくる。
―――彼ならば、もしかするとこの剣を振れるのではないだろうか。
「……聞くがいい、主催者よ!!」
ゼンガーは両の瞳を大きく見開き、宣言した。
この殺し合いを開いた主催者に対する、堂々たる宣戦布告。
同時に、バスターソードを真横へと構え、そして力強く前へと踏み込み……!
「我が名はゼンガー、ゼンガー・ゾンボルト!!
我こそは……!!」
―――斬!!
「悪を断つ剣なり!!」
目前の大木が、音を立てて倒れた。
これぞ、斬艦刀・一文字斬り。
数多くの敵を両断してきた、ゼンガーが誇る必殺の一撃……!
ゼンガーはその手で、バスターソードを振りぬいたのだ。
「恭介、礼を言おう。
お前の御蔭で、俺は剣を手にする事が出来た……これで戦えそうだ」
「……全く、十分すぎますよ」
感心を通り越して、呆れさえ覚えてしまう。
あの大剣をものの見事に使いこなし、おまけに主催者への宣戦布告までやってのけた。
その姿はまさしく漢……強い魂を持った侍である。
【A−3/一日目/深夜】
【ゼンガー・ゾンボルト@スーパーロボット大戦OGs】
[状態]:健康
[装備]:バスターソード@ファイナルファンタジー7
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2(未確認)
[思考]
基本方針:主催者をこの手で討つ。
1:一先ず、恭介と情報交換を行う。
2:主催者を打倒すべく、仲間を集める。
ゲームに乗った者には容赦はしない。
※OGs第二部終了後からの参戦です
※広場での出来事と自身の経験から、偉出夫が平行世界へと干渉できるのではないかと推測しています
※A-3に二つの簡素な墓を作りました。
その側にロマネコンチ@スターオーシャン2ndが供えられています
【鑑恭介@私立ジャスティス学園シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、いのりの指輪@ドラゴンクエスト5
[思考]
基本方針:主催者をこの手で討つ。
1:一先ず、ゼンガーと情報交換を行う。
2:主催者を打倒すべく、仲間を集める。
ゲームに乗った者には容赦はしない。
※私立ジャスティス学園終了後からの参戦です
※広場での出来事と魔法の存在、いのりの指輪の説明文から、偉出夫が平行世界へと干渉できるのではないかと推測しています
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