されど戦に魅入られし人は絶えず
誰しも何の兆候も報告も無く、それこそ夢では無いのか?といえる様な唐突の目覚めから、
見知らぬ少年にこれまた唐突に「殺し合いをしなさい」と言われればどう思うだろうか?
少なくともまっとうな常識思考を持つ者ならば「ふざけるな」「何を言っているコイツ?」
「誰だお前は?」「ココはどこだ?」等々の言葉と困惑、不安が飛び交うのは当然であろう。
最悪、全く事態が飲み込めず呆然とするのも間違いではない。
…その中で…Gパン、十字架の印が施された黒いシャツと、その上に白いジャケットを羽織っているラフな服装と、
武芸に精通しているのであろう、服の上からも見て取れる鍛え込まれた肉体をした涼やかなマスクの青年は、
少しずれた思考をしていた。曰く――――「また拉致られたのか?」と。
デカイ退屈しのぎ…と彼が今までその身を置き続けていた格闘の祭典は、
少なくとも一般常識を覆す者達が溢れかえる場である。世界最高レベルのファイター、各々たる
裏社会を支配する帝王、そして異能なる存在etcが集う壮絶な戦場。
格闘技、種族、職業、武器、罪科問わずただ「強い」という道理のみが全てを
押し通す、ある種最ともこの世で豊潤な血が流れる狂宴場と言われても過言ではない。
故に、裏で何をしているか分かったものではない悪意有る主催者が、優れた参加者達を兵器利用等の為に
一斉に拉致しようなどと企むのもあながち否定はできないのだ。事実、激戦後の
瀕死状態だったとはいえ一度、この青年は敵…「ネスツ」と呼ばれる犯罪組織の手に落ちた。
…が。
正直、彼は今意識を失う直前の記憶を覚えていない。かつて誘拐された「ネスツ」の
記憶は覚えているというのに、である。一通りの闘いの因縁に終止符を打った後、また
訪れるであろう新たな敵との来訪を何処か心に留めながら、休息と武者修行を兼ね旅をしていたのが
今現在、青年の最とも新しい記憶。だがその最中の…此処に連れて来られる前の記憶が
まるで無いのだ。まるでテレビの編集の様に過程を都合良くカットされたかの如く。
訳の分からぬ場、見知らぬ人間…。いくら非常識的な人生を送っているとはいえ
この異常事態。青年は流石に深刻に考えた。
武力行使による誘拐?ガスによる強制睡眠?
あいにく、ちょっとやそっとの武力で鎮圧される程、ヤワな生き方もしていない。
そういった手合いの刺客を返り討ちにした事も少なくも無くば、銃の一丁二丁、
自身の技、表の式すら使わずとも切り抜ける自信もある。
1800年という永き歴史を持つ武術家の男として生を受け、幼少期より徹定的な英才教育の下、
十五で父を越え、十八で日本の格闘界を制し、そして世界最高峰の戦士が集うといわれる
格闘大会「KOF」で永き時、闘いに明け暮れ…宿命の怨敵、地球意思オロチを苦闘しつつも
打ち倒したこの青年―――――――炎を操る草薙流古武術伝承者にして、
格闘の天才児、草薙京は二十歳にしてそれだけの成長を遂げていた。
その彼をして何も気取れさせずに、今この様な状況へと陥れさせる。
自らの迂闊さと同時に、今の非常識さに、流石に京といえども些か戸惑いを隠せないでいた。
(…どうなってやがる…?)
渦巻くのはまずその疑問一点張り。
ただ分かるのは、眼前に衆目達の眼前に突如現れ、殺し合いを
強要させてようとしている少年が、全てを知っているのであろうという事のみ。
分からないのなら聞く。シンプルな答えだ。そして…
「……で、てめえはどんなゲームがしたいっていうんだ? 格闘ゲームごっこなら得意だぜ」
鼻につく態度が癪に障ったのか、つい挑発的な態度を取ったが…
流石にそんな感情を持つ余裕を持てるのはそこまでだった。
後は語らずとも分かるであろう惨劇が一つ。果敢に少年に挑み散った兄と思わしき
男の首が一つ飛び、弟と思わしき一人の男が狂い、恐怖に捉われた挙句、矢張り狂いながら
最後の生を己が肉の破裂音で終える。半ば呆然とその悪夢の光景を見続けていた草薙京が
浮かべる感情は何で在っただろうか。恐怖?動揺?命乞いの台詞の思案?否…
「テメエ…!!」
ただ、純然と激昂した。
最早喜怒哀楽の内、怒り以外に余分な情を回す暇など無い。そう言わんばかりの表情で。
血が、肉が、魂が激情に包まれ、血を噴出さんばかりの力で握り締める拳。
その拳の周囲から浮かぶ陽炎…。吐き出す言葉とそれに乗せる黒い感情ですらも
足りないといわんばかりにただ轟々と、深く、黒く、そして熱く…
京の掌から炎が、生まれた。
傲岸不遜で口が悪く斜に構えた性格で有る為か、それが災いして在学中も
ユキや真吾以外の者達とは溝を作り、孤独に生きている事が多い男である。が、それは
単に不器用の表れなのであろう。人の命を無碍に弄ぶ程、分別のつかない人間では無い。
草薙京とは、結局の所己のルールを根本に持っている男であった。
故に許せなかったのだろう。同意による闘いの果てによる死ならばまだ
多少の妥協は出来る。だが、ただ一方的に強制させ、あまつさえ自分だけの都合…
『気に入らない』、ただそれだけの一方的な虐殺を皮肉交じりで行えるこの少年が。
今この時だけは戸惑いも恐怖も、死の淵に立たされる常で有る状況も忘れていた。
『目の前の馬鹿をぶっ飛ばす!』 考えていたのは、ただ、それだけ。
無謀と勇気は紙一重とはいうが、普段の京ならば想像をつかせぬ選択である後者を、
愚直にも彼は選んだ。自らに訪れる最悪の未来に最とも近き選択を…。
この炎を消すのは水では無い。在るとすれば、この拳で苦悶にのたうちまわる
あの少年が吐き散らす血反吐の海。着込んだ白ジャケットがはためき、
十字架を思わせる印が施された黒シャツはその輪郭を歪ませながら荒れ狂う溶岩の如く風に靡く。
そして…
弐百拾二式・琴月 陽――――
獣の如き勢いで駆け出す足は最早止まらない。残る予備動作は
眼前の少年の腹部へ放つ渾身の肘撃ち、そして余りの腕で掴み上げ…
考える暇無く爆炎で消し去るのみ。息をするのと同義な程、使い古した技を
打ち込もうとする草薙の疾拳は…
「燃えろっ―――「ィィィィィィィィャァァァァァ!!!」」
「「!?」」
バチィッ!!
「「ぐわっ…」」
反対方向から愚直な程、弾丸の如きスピードで飛び出してきた
銀髪の青年との激突により沈静された。
(どうやらガッツ有る馬鹿はもう一人居たらしい。)
まっとうとは程遠い人生と、人とは程遠い種族、人と悪魔のハーフである半魔として
生を受け、家族を殺した悪魔達への復讐の為、便利屋…今は悪魔狩人だが―――として
裏街道を幼少期より生き続ける男はそう思う。まるで今まで自らが
浴び続けた血かと思わせる様な、それでいてどこか品格を漂わせる様な…つまり真っ赤で
派手な赤いコートを着た銀髪の青年――――名はダンテと言った。
彼は今、支給されたデイパックも漁らず、何の行動も起こそうともせず、ただ闇夜の
虚空に映る満月を眺め続けながら先刻の出来事の思案に些か耽っていた…。
自分とは正反対な白いジャケットを着た恐らく日本人であろうと思われる青年。
その青年との唐突過ぎる衝突からの出会い…沈静、そして気づけばココに今居る自分…。
…なるほどな。
雀の涙程度とはいえ、少し冷えた頭の中で分かった事は
どうやら意図せずに、互いが互いを助け合ったという事。
―――――――――――――――
時を遡れば――――――ダンテもまた、草薙京とほぼ同じ境遇で有った。
兄・バージルが蘇らせた、人界と魔界を繋げる漆黒のバベルたる象徴…『デメンニグル』。
そこでの壮絶な死闘の果て兄の死という、最後の家族との永遠の別れを似ってして、
その事件と魂の決着にケリを着けたのが数ヶ月前。
その後、最後に生きる復讐者として…そして終生まで人知れず人界を守り続けてきた、
英雄であり父でもある魔剣士・スパーダの魂を受け継ぐ者として、
個人事務所『デビルメイクライ』を建て悪魔狩人としての人生を歩み始めたのだ。
(…だというのに、何でこんな事になっちまってるんだ?)
当たり前といえば当たり前だが、悪魔狩人とて、唐突に呼び出されれば
驚愕の表情を浮かべながらそう思うのも無理はないだろう。自身の愛剣リべリオンはおろか、
母の形見のアミュレット、フォースエッジにエボニー&アイボリーも懐から
姿を消していたのも更にその反応を助長させる要因となった。
(泣かす筈が、まさか誰とも分からぬ奴に今泣かされる羽目になるとはな…)
どこかのワープエリアに踏み込んだ覚えも無ければそんな力の反応も特には、
自身の気配を辿る限りでは見当たらなかった筈。
だというのに、この意味不明な現状は何なのだろう。辺りを見渡せば、狭い部屋に
これまた無駄に多い様々な者達。困惑する者。冷静に辺りを見渡す者。
何故か眠り続けている者。(やたら前髪長くて真っ赤だった気がする。)
どうやら自分自身と同じく、唐突にここに呼び出されて来た者達なのだろうか。
千差万別の反応を見せるとはいえ、その反応基準は一様にして皆、同じだからである。
だが、その自分と同じ境遇におかれている者達の姿格行はまさしく千差万別といって良い程
滅茶苦茶であった。全てという訳では無いが、大まかにいた身近な輩を挙げると、
背に甲羅をつけた巨体の生き物やら、神父の様な中年男性、かと思えば小さな子供や
若さ特有の健全な色気を醸し出している、見目麗しい少女などなど…。まさかその視点の遥か先、
人々に遮られた死角の一点に死別した筈の兄が居るのだが、
そんな皮肉誰が分かろうか。
「もしここがダンスホールで、招待されたってんなら遠慮無く誘うんだがな。」
少し遠目に居る金髪の黒い制服を着た少女を見ながら呟く。こんな混沌下に置こうが、
普段のふざけた調子を崩さないのは生来の軽さと芯の強さゆえか…とはいえ、
事態が呑み込めないという事から、
切り離せない困惑が心の片隅に根付いて居る事に変わりは無い。
「今事務所の机で、足放り出しながら眠ってる俺のユーモア溢れる夢ってオチなら
まだ笑って済ませれるが…まぁ、道の無い扉はただの壁だしな。
退屈だが暫く様子見って所か。」
そんなこんなで、今後の行動方針を決めあぐねいて居る内に、そのきっかけは訪れた。
ついでに、夢では無いという認識も。むしろ夢で在って欲しいと願う
悪夢を現実に持ち込んだ、真の『邪悪』――――。
「いやだあああぁぁぁあぁぁっあああぁあぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「…悪戯ならもっと趣向凝らす事をお勧めするね。」
下水の汚物の方がまだ綺麗に見えるぜ、と最後に付け足し忌々しげに呟く。
人の皮を被った悪魔の様な人間の少年が、命乞いをする人間を虫けらの様に殺す。
まるでゲーム上の気に入らない内容をリセットするかの如く。
「(親父が見たら、一体どんな想い馳せるだろうな…)」
『愛に目覚めた悪魔』今は亡き父・スパーダの顔をこの狂騒下、ふと脳裏に掠めさせながらダンテは思う。
守るべき愛する存在が、その愛する存在同士を争わせる。裏社会で人間の闇という物は見慣れている上、
先のデメンニグルの発端もスパーダの力を欲した人間が起こした出来事…。ゆえに、
所詮一方的な善など存在しない事くらいは分かっている。そう思う為に、
人間全てを博愛の目で見れる程甘い生き方など出来ないのだ…が、『殺し合い』など
というここまで醜い闇を見せ付けられたのは初めてかもしれない。故に…
――――――これ以上親父が命を賭けて守った魂を穢すな。
ただ、純然と激昂した。
イカれたパーティーですらない、それにも劣る上等な料理に蜂蜜をぶちまけるかの様な
このゲテモノ披露会。生と死の駆け引き?知った事じゃない。首輪?全部砕いてやるよ――――。
人は人でも、悪魔へと魂を売った人間に寛容になれる程優しくも無い。
右手を引き、左手を前に向け、そして…
素手では有るがダンテの主力技、疾走する赤き弾丸スティンガーは放たれた。
弾丸の如きスピードで滑走し、突き出される超高速の貫手。先ずは少年の胸板、
肉、骨、そして心臓、全てを突き破り終えた後その威力の反動として腕も千切れ飛ぶ…
少なくとも生身の、特異な能力も持たない唯のひ弱な人間ならばその結末が容易に浮かんだであろう。
悪魔の、それもスパーダの血を受け継ぐ
ダンテの身体能力は元々のポテンシャルからして桁外れているのだから。だが…
「ィィィィィィィィャァァァァァ 「 燃えろぉっ!!!」」
「「!?」」
バチィッ!!
「「ぐわっ…」」
反対方向から愚直な程、ダンテ同様突っ込んで来た白いジャケットを来た青年の
激突によりそれは沈静された
その後、否が応でも冷静さを幾分取り戻したダンテは、結局何の解決も見出せず
ゲームの盤上の駒として敷かれる羽目となった。剣呑な雰囲気を纏いつつ、それでいて優位に立っている
安心ゆえか、ゴミを見るかの様な無慈悲な目で勝手に喋り続ける人間の少年。
自分と、先程の青年に殺意を持ってして襲われようとしていた事は幸いにも
気付かれなかったのであろうか?距離が離れていたのと、初動からの終了。たまたま少年の死角で
行われていたという事。人混みに紛れていた為向こうも把握しきれて
いなかった事…等の幸運が重なり…しかしそれでもおかしい。あんな残虐な真似を
衆目に最とも晒される場でやらかしておいて、それでも無謀に向かおうとする者とて、居ないとも
言い切れないであろう。先程殺された王子?に自分や、あの青年の様に…。
大体、多少の枷をつけようがあの人間の少年の命を奪う事は自身には容易い。
自分は頭や首など切られても死なないのだから。
だというのに首輪以外の拘束も無く…あれだけの人数を人知れず呼び出すなどという
大道芸をやらかしておきながら最後の詰めが甘過ぎる…。
「…」
ため息を一つつき、らしくない、と苛立つ頭を軽く振りながらこんがらがり始めてる
思考のネジをひとまず締め直す。
知るのはまさにこのゲームを開いた神のみ。それだけだ。
分かるのはそんな突発的な暗殺劇を繰り広げながら何のお咎めも無くココに居るという事。
(つまり…どう足掻いても優位性が揺るがない状況だったからこそ、
あんな雄弁と語らい続けれたたって事か?)
あの手の自分とは正反対な、叩けば直ぐにヒビが入るであろう繊細そうな人間が、
あんな場で何の安全の保障も無く一人立つ訳が無い。
往々にして権力などの看板の力に隠れ、安全圏から舞台の様子を優雅に伺いほくそえむ
卑劣者は必ず懐に何か持つ。
そう考えるならば、先程の行為は勢いだけの失策だったかもしれない、と改めて思った。
激情だけで動いたのではない。…普段ならばまだ軽口叩きつつも事態の把握に勤めれるであろう。
が、夢ではないかと錯覚させる唐突な召集と殺し合いの強制。
挙句外見も中身も全く似てないとはいえども、あの少年の瞳に映る歪んだ光は…どこか力のみを
追い求めて堕ちた兄・バージルを思わせたからだ。
(…この手の奴は早目に止めねば必ず取り返しのつかない悲劇を必ず生み出す…。)
理屈も理性も取り払ったそんな感性に任せたのは、非常事態と本能の二つが交じり合った
故の性急な結論といえよう。
故に、その後の事などまるで考えていない。何せ、性根は小物だが
気付かない内に何十人もの人を此処へ呼び寄せるするだけの、得体の知れない力を持つ者である。
先程のスティンガーを放つ事の出来なくさせられる「何か」が訪れたら、首輪のみならず
その「何か」を自分に向けられるであろう。主催者に歯向かった反逆者として…。
故に、正反対の方向にも自身と同じ魂を持った者が居たのは幸いした。結論はおろか筋道すら分からない
状況下に置いて、互いの無謀な行動を助け合う事となったのだから。そして…
ガサ…
「…」
「…」
…向かい合う様にして、その同じガッツを持つ「勇敢なる馬鹿」草薙京は、ダンテの前に現れた。
今、ダンテ自身が瞳に移しているであろう、共通した感情を瞳に宿しながら。
「さっきは世話になったな。あんたのカミカゼアタックのお陰で、どうやら互い命拾いした様だ。」
「鉄砲みたいな突っ込んで来たあんたもな。…変な偶然も有ったもんだぜ。」
「お陰で忘れたくとも忘れられないだろ?出会い頭熱烈な抱擁なんだ、嫌な運命感じたぜ?」
「ああ、星が見える程の劇的な出会いだ…。お陰で今の今まで散々悪夢にうなされて起きたばっかだよ。」
「ハハ、打ち所が悪かったみたいだな。俺はそうでも無かったが…運が悪かったのはお互い様らしい。」
軽口の叩き合い、だがそれでいて互いに篭る殺気にも似た燻る感情は衰える事を知らない。
互いが互い、無謀な行動で合ったと認識し、悪運に助けられた事には感謝しつつも、
やはり心のどこかでは「仕留めるチャンス」を逃したという、割り切れないそんな感情が
ずるずる黒い影として引き攣り続けてるのだから。
もし殺されたのが、彼女のユキであったならば…興の無い事や面倒事にはとことん
手をかさない草薙京とて、そのifからなる脅威は嫌がおうにも琴線に触れる。
故に今溢れてる想いはそう直ぐ冷めれる事では無いのだろう。
「…さて、一つ聞きたいんだが…いや聞かずとも分かるか。このゲームには…」
「ああ?乗るも何もあのガキぶっ飛ばす事で頭が一杯だよ。」
聞く前より忌々しい…と分かる程の険しい面をした京をして、今更そんな事を
聞くのも野暮ではある。が…それでも形式上、聞かざるを得なかった。
「じゃあその為に手段やら方法やらも探すって事か。」
「面倒臭ぇ…そういう事はやりたい連中だけでやっとけとは言いたいが、そうでもしなきゃこの
訳わかんねぇ状況も、首輪もどうにかなるとは思えねぇしな。」
「だろうな。俺も同じだ。機械なんてのは銃の整備と音楽聞く以外に用になりたいとは…
ああ文明の利器バイクも忘れちゃいけないな。」
エレベーターより移動に役立つんだと、冗談なのか本気なのか良く分からない洒落を含めながら
ハハ、と一笑。…こんな状況下で無駄にテンションと余裕を持った野郎だと京は思う。
それが余計どこか癪に障ったのだろう。
「言いたい事は、それだけか?それじゃ俺はもう行くぜ…。」
そう言い残し、背後に置いてあるデイパックを背負おうと向かう京の肩に、ダンテの手が触れた。
「一人でどうにかなるとでも思ってるのか?」
「なる、ならないじゃなくてやるんだろ。一々打算しながら生きれる程人生ってのは退屈なもんなのか?」
「ソイツは同意だ…が、考え無しもどうかとは思うぜ。刺激を味わうってのは、
それに見合った力を持つ奴だけの特権だからな。」
飄々とした先程の雰囲気はどこか消え失せ、その瞳には…何か自分自身を試すかの様な
瞳が注がれている。そんなダンテの強い眼差しを受けながら、改めて苛立ちと、
回りくどい、という感情が京の心に僅かにもたげる。
「要するに何が言いたいんだよ?このゲームを止めたいのか、協力してもらいたいのか
ハッキリしねぇな。」
「止めるは止めるでも、まずは今のお前を、というのが正しいな。闇雲に暴れられて
犬死になんてのは出来れば避けてもらいたいんでね。」
勇敢なのは認めよう。誰かの為に泣けない悪魔などよりも、人の心は強く尊い…。故にこの男の「魂」に
惹かれる物はある。
「…そういや刺激を味わうのはそれに見合った力云々とかさっき言ってやがったな。つまり…」
だが想いだけで人は強くなれない。何故なら…。
「俺はアンタのお眼鏡に適っちゃいない、と?」
人は悪魔と違い、脆いのだから。
「…ああ、人間の出る幕じゃないんだよ。」
それは、自分の中に半分流れる人の血の否定…。だがこの男の強情そうな性格を考えれば
多少力尽くな言い分でなくば通りそうにない。
『人間の出る幕じゃない』――――化生が人間との圧倒的な格の差を
見せ付ける為の侮蔑の常套句。…この時のみならず、昔、同じ台詞を同業の女に
言った覚えがある…最とも、その時とこの時とでは
意味が違うが。そう、あの頃は半ば本気でそう思っていた。心臓、頭蓋、その他諸々
人間の体という物は多少の衝撃で運が悪ければ死んでしまう、そんな脆い種族だ。
そう、悪魔より格下の、ただ守られるだけの弱い存在…。
だがそれと同時に、ダンテは見た。それでも尚、圧倒的不利な状況下に置きながら
全く引かない彼女の「人の魂」の強さを。…思えば、それがスパーダの血を受け継ぐ
決意を更に色濃くしたのかもしれない。
今のこの人間の青年の瞳は、感情的な所といい意思の強さといいやはり似ている。
彼女と同じく、怯えず闘う者の目だ…。
故に、草薙京同様、激昂していながらも、心のどこかではこの男を死なすのは惜しい…
と抑止させようとしているのは…その高潔な魂を守りたいと思うが故なのだろう。
「引っ込んでろとは言わないが…暫くどっかで身を隠した方が良いぜ。…人間一人じゃ荷が重過ぎる。」
その言葉を聞き、感情的に殴り掛かってくるのだろうと何処かでは思っていた。
確かに体格は自分よりしっかりと鍛えこまれているのは分かる。
が、ちょっとやそっとの鍛錬で人の身が悪魔を越えれる道理も無い。故に、まずは大人しく…
野蛮だが、シンプルな武力的行使で大人しくさせようとしたのだ。そうさせといた方が、
余り好まないが自分の監視下に置ける。少なくとも、ダンテはそう思っていた。だが、
当の本人は…
「アンタが何者かは知らんが、人じゃなければ後は下賎な連中ってか?何様のつもりだよ。」
鼻で見下す様に彼を、笑った。そして…
「っ」
掴む手から突如感じる温度の違和感。人の体温が発するものじゃない―――そう感じた時、
京の全身は猛炎で包まれた。驚愕と共に手を引くダンテ。
「(人体発火…?)」
人は人でも只の人じゃない。あの白い制服を着た少年同様、何らかの力を使える者…?
「だったらお眼鏡に適う様にしてやろうか?ただし……高く付くぜ?」
「…熱い歓迎だな。」
だがどの道、こうなる事は目に見えていた。ただ、少し想定外、そして常識外だっただけ。
取る行動にやはり、変わりは無い。一触即発の状態で互い、向き合いながら…
「大して長い付き合いでも無いが……感動の再会っていうらしいぜ?こういうの。」
「らしいな」
両者、駆けた。
両者の拳が交じり合い、衝突音が静寂の空間に響き渡る。
「っ…」
衝撃に押し負け、大きく後退する京。
最初の勢いを制したのはやはりダンテで在った。やはり悪魔と人、そのポテンシャルの
差は覆しようが無い。
「(とはいえ、まともに打ち合えるか)」
先刻の猛炎の異能だけに頼っている訳ではない事を認識する。並みの人間なら
今の一撃到底耐え切れるものではないからだ。だが、それでも今の舞台においては
勝者のみが真理、感心する暇も無く体制を崩す京に追撃を仕掛ける。
「フンッ!!」
左右交互に放たれる強烈且つ素早いボディ。とっさに腕を交差させその連撃に耐え切る。
が、自身より幾分か細いあの肉体から繰り出される拳の重さに内心京の
焦りは隠せない。
「(何てパワーだ。…大門の攻撃食らってるみてぇだぜ…!)」
素手で地震を起こす、最強の柔道家でありかつてのチームメイトであった男を思い出しつつ、
京はその拳からの連撃を耐え切った。
「ハァッ!」
休む間も無く続け様に京の頭蓋に向け放たれるハイキック。
身を屈め紙一重で回避。その隙をつき攻撃に転じ―――
「シィァッ!!」
れなかった。あくまであれはわざと隙を晒す為の餌…。ハイキックの姿勢のまま、無理矢理蹴りを放った
足を瞬時、腹部まで折り曲げながら戻し…発弾。
まるで足が増えたかの如く、幾百もの蹴りの嵐が京の眼前にシャワーの様に降り注ぐ。
「(早ぇ…!!)」
強制的に防御に回らねばならざるを得ない。紙一重で回避し続けて行くが、やがてスピードは更に増し…
「ぐッ…!!」
一撃、胴に突き刺さった。とっさのガードで直撃は免れたものの、重くのしかかったその衝撃で後退し…
くの字に曲げ視界を地に向けた一瞬…その瞬間が完璧な隙で有ったという事を、ダンテの繰り出した
無慈悲な直蹴りの餌食となりながら京は認識した。
「確かに人間にしちゃやる方だな。」
遥か後方に吹き飛び倒れ付した京を眺めながら呟く。これだけの猛攻、少なくとも人間の
中で耐え忍べたのは現状、あの青年が初めてだ。賛辞の言葉を吐く気は無いが、
認めるだけの事はできる。だが、それでも限界はそこまで…。
「流石にあの一発喰らっちゃ暫くは…」
「野郎っ!!!」
「!!」
何の支障も無い、と言った風貌で向かってくる京。流石にこれはダンテも面食らった。
「りゃぁっ!!」
鞭の用にしなる蹴りをお返しとばかりに放つ。
「っと!」
片腕でガード。そのまま勢いを殺さず、
蹴りの軌道を変え、ダンテの頭蓋に放たれる踵落とし…ダンテは回避、反撃のストレートを
京に撃ち込む。が、これもまた紙一重で回避。
そのまま回避した体制を利用し、強烈な肘撃ちをカウンターにダンテへ放つ。
「(予想以上に…やるじゃねぇかっ…!)」
空いた手でかろうじてガード。特別な速さを持っている訳では無いが…攻撃の見切りや止む気配の無い連携。
急所への的確且つ豪胆な攻め…近接能力が半端無い…そう悟ったダンテはひとまず牽制の為、
距離を置こうとバックステップをする…そのタイミングと同時に、
「ボディがッ…」
鋭い踏み込みと共に繰り出された強烈なボディブロー。だが、既にバックステップへと
移行し始めていただけに、危なげにダンテの腹部を掠める程度で終わる。その隙をついて
攻撃に転じようとしたその瞬間…。
「ぐわっ!!」
鋭い悲鳴と共に、ダンテの全身が燃え上がった。
京を象徴する技の一つで有る「壱拾四式・荒噛み」……重い素手での直接攻撃は避けれたものの、
その二段構えである爆炎までには反応しきれなかったようだ。
「甘ぇぜっ…!!」
続け様に放たれる炎を纏った強烈なアッパーは的確に顎へ、そして浮かされた後に放たれた強烈な直蹴りを喰らい、錐揉み回転を
しつつ吹き飛ぶダンテ。見下していた訳ではないが、種族的には劣るであろう人間に、ここまでの猛攻を
食らわされたのは流石に予想外では有った。
「燃えろぉっ!!!」
挙句、起き上がり様に肘撃ちを喰らったかと思えば高々と宙吊りにされ、爆破されるなど誰が思おうか。
「安心しな、火力は抑えといたぜ。」
…立場まで覆されるとは何という皮肉。
ダンテの誤算は、人を気遣うが余り、眼前の相手を無意識に軽視していた事。
そもそも人間相手に体術で渡り合える相手が今まで居なかったというのも要因の一つに入るであろう。
精々まともに居たとしても同業のレディのみ…そのレディですら、重火器を中心とした戦法なのだ。
故に…魔具の一つも使わず炎を操り、その上自分より体術を上回る人間が居るというのは想定外。
それもその筈、草薙京とて只の格闘家ではない。代々、炎を操れる特殊な家系且つ
門外不出、1800年にも渡る長き歴史を持つ草薙流古武術の継承者であり、歴代通して
抜き出た天才でも有る。その言葉に、偽りも飾りも無い。そしてその拳を大いに振るうは、
万年波乱万丈な大激戦が展開される世界最高の格闘大会「KOF」…。いかにダンテが
スパーダという優れた魔の血を引き、裏街道で日々戦いに明け暮れていたとはいえ
その単純な質に差が有るのは否めない。無論、悪魔狩人として送る日々での場数の量は計り知れないが…
皮肉にも単純な卓越し切った人間戦をこなしきれないその穴を埋めるのはやはり難かったという事である。
純然たる格闘戦に置いて磨きぬかれた草薙京に、こと単純な体術勝負で遅れを取るのは些か仕方の無い事では有った。
その後、十数分に渡り繰り広げられる純然たる拳の勝負は、やはり目に見えて草薙京が有利に立つ。
空から迎え撃てば、炎に包まれながら飛び交う拳撃に弾き落とされ。真っ向から打ち合えば、絶妙な力加減で攻撃をさばかれ、
挙句、反撃を食らう。技で勝負と、素手で威力が落ちたとはいえ地を這う魔力の衝撃波ドライブを放てば
R・E・DKickなる放物線を描いた強烈な蹴りにより回避され、頭蓋に感じた鈍い衝撃と共に、
強制的に地面とキスをする羽目になる。
「(このジャパニーズボーイ、どれだけ技が豊富なんだよ)」
ダンテ自身もスタイルからして破天荒ではあるが、それは武器や魔具をして扱える条件の物などが多数有る。
故に、純然たる格闘技でここまで変則的かつ豊富な技にはどこか、客観的に見とれている自分も僅かながらいた事も否めなかった。
付け加えれば、京の技はまだこれで氷山の一角だと言う。
「(クレイジー…)」
押されているというのに、そんな危機感も焦燥も無く…青年は、ただ純粋に人の強さを喜んだ。
「…つまり、舐めてた事に変わりは無いって事か。」
「その上、まだ舐めてるだろ?」
事も無く、とまではいかないがあれだけの技を食らわせても尚平然と立ち続けるダンテのタフネスさには些か驚いたものの、
勝負に非常識はつきものである。今更このくらいでどうとも思う気も、油断も無い。そして…妥協も無い。
「素手の戦いだけが全てじゃねぇって…面がそう言ってるぜ?」
「……エスパーかい、ボーイ?」
確かに素手での戦いが全てでは無い、というよりダンテのスタイルは定まってない。剣に始まり三節棍、双剣、日本刀、
篭手、果てはギター、更には重火器etcと、とかく節操が無いのだ。兄・バージルの様に
一つの技能を磨くのではなく、状況に置いて最も
効率的に生きる為に様々な武器を扱う。幼少期から続く長き闘いで見出し、そして得た
処世術であり、豊富な「スタイリッシュ」さも兼ねたダンテらしい派手さと余裕さを見せたスタイル。とはいえ、
主武装はやはり剣で有る。それが無いというのはやはりリスクが大きい…。が、だ、拳を磨き上げる人種・格闘家には理解できないで
あろうこの蛇足な自身の道理、何故この青年は理解しているのであろうか…?それは少し興味深かった。
「別に…やられっ放しってのは好きな性分じゃねぇだろうなって思っただけさ。」
「…確かに、な。」
根が似ている、という事か。
「…ついでに、あんたのバックからはみ出てる剣も酷く悔しそうにしてる様に見えたしよ」
剣…という言葉を聞き、自身のディパックに視線を注ぐ。特にまだ手もつけずにいた筈のディパックだが…。
先刻までの激戦の拍子で開かれたのであろうか。「俺を使え」と主張せんばかりに雄々しくバックから突き出ている。
「…良いのか?」
「…最初はな、ただムカついてただけだったんだよ。」
十数分前までは、皺ばかり寄せていた京の表情は、無表情に語る。
「この糞ったれた今も、その上人を舐めた様な口を聞くアンタの態度にもな。」
自分も人の事は言えないくらいロクデナシでも有るが…と思いつつ。
「だがあんたと戦ってる内に、何かそんなのどうでも良くなっちまった。黒々してたのも、心の中のわだかまりも、
今やってるこの瞬間に、入り込む余地なんざやっぱ無ぇって。」
…成る程。とダンテは呟く。自身は格闘家なんて人種では無いが、それでも言わんとする事はおのずと見えたからだ。
「まずは、今居る目の前のとっておき…アンタと全力でやり合いたい。そう思っちまった、我ながら馬鹿だと思うが、
結局この馬鹿は、きっと死ぬまで逃げ続けず俺の中で燃え続けるんだろうよ。」
男2人、負けず嫌い…。その身に宿す魂が求めるものは…
『俺より強い奴に会いに行く』とは、良く言ったものである。
「大体人間の出る幕じゃねえとか大見栄切っといて大負けなんざ恥さらしも良い所だろう?そんな
全力出さないあんた倒して、一人馬鹿みたいに機嫌良くなる俺もまた、恥さらし以下になっちまう。」
「…少しは、燃えさせてくれよ。」
ようやく京の表情に、普段の挑発的な笑みが浮かんだ。人差し指に灯っていた炎に息を吹きかけ、ダンテの耳元を
通り抜けたその炎と熱風は、京なりの熱き願いにも見え…そして
「…分かった分かった。全く、悪魔どころかここに来てから、人間の方に泣かされっ放しだぜ。」
愉快そうに両手を叩きつつ、ディパックを蹴り上げるという器用な動作をしながらダンテは喋り続ける。
少し離れた場にディパックは落ち、その中に入っていた幅広の剣…『ブロンズソード』はダンテの右手にすっぽりと収まった。
「…行くぜぇ…!!」
両者の声に先刻までの険は無い。即ち…
「楽し過ぎて…狂っちまいそうだ!!」
本当の戦いは、始まった。
更に時は経ち、数十分…。周辺の焦げ付いた草葉と、地に深く抉られた無数の
切り傷が溢れるこの舞台に置いて…
「ハッ、ハッ…ハハッ…こういう喧嘩も悪く無いな!」
息を切らしながら、至る所、炎で焦げたコートを着た青年、…楽しさの余り笑い続けるダンテと、
「…チィッ…ハッ…まだだ、とは言いたいが、これ以上馬鹿やったら不味そうだよな。」
ダンテ同様、至る所に切り傷を浮かべつつ、息をあげながらも「もっとやらせろ!」と
言わんばかりの激情を押し殺してる京が居た。
会話の相違から始まった黒々しい感情入り混じるその激闘は、根付く純然たる闘争欲に置いて、
全て洗い流されたのだ。
「KOF…か。お前みたいなのが一杯居るんだったら、出ても悪い気はしないな。」
「…出るならいくらでも出ろよ。その代わり、全部俺が勝利かっさらっていくけどな。」
ダンテは、純粋に高め合う闘いという物を経験する事に慣れていなかった。ただ殺し、生き残る為に腕を磨いた
人生に置いて、ようやくまともに味わう事の出来た恍惚であろう。―――故に、京との全力の戦いに喜んだ。とはいえ…
全力とはいうものの、やはりどこかでこの盤上の危機感というものは無意識下に持っていたのであろうが。
魔人化、神技といった大技を使わずに繰り広げられた技と技の緊迫感溢れる血の決闘は、結局の所最後まで決着はつかず…
ただし、得られた者が多い戦いとなった。ひねくれ物同士とはいえ―――
「俺は…ダンテ、だ。お前は?」
「…草薙京だ。」
得た名を、絆と――――――
【E−7/一日目/深夜】
【草薙京 @KOFシリーズ】
[状態]:健康 体力消耗(小)服の至る所に極小の切り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(未確認)
[思考]
基本方針:主催者をブン殴る。
1:今後の方針を考える
2:ダンテと、情報の交換
3:まさか他にもこんな奴等が居るのか…?
4:熱いな、オイ…
※オロチ、ネスツ篇終了後から参戦
【E−7/一日目/深夜】
【ダンテ@デビルメイクライ】
[状態]:健康 体力消耗(小)全身至る所、やや焦げ付き
[装備]:ブロンズソード (ファイナルファンタジー2)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ(未確認)
[思考]
基本方針:ひとまず今考える
1:今後の方針を考える
2:草薙京と情報交換
3:こういう奴とはまた闘いたい
※デビルメイクライ3終了後より参戦
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