ART OF FIGHTING






ある男の話をしよう。
かつてMr.カラテを名乗った男の話を。彼が巻き込まれた戦いの話を。

彼は悩んでいた。夜風に吹かれながら、深い森の中で佇んでいた。
何故あの故少年は少年は殺し合いをさせようと言うのか。
彼には答えが見出だせない。拳の道に生きて来た彼には、解る由もない。
ただ、彼には思う所がある。あの少年は歪んでいるが、まだ引き返せる位置にいる。
自信はないが、確信はあった。
それは彼が積んだ経験が導き出した答えなのかも知れないし、幾多の修羅場をくぐった男の直感なのかも知れない。
ただ、少年を更正させる術がなんなのかは感覚的に解っていた。
彼が創設した極限流空手を学ばせれば、病んだ心身をまっとうな、健全な物に出来るという自信があった。
空手は肉体だけでなく精神の修練にもなるから、更正させるにはうってつけと言う訳だ。
実際に彼の息子も娘も、極限流空手を学びんで健やかに立派に成長している。
息子が妻帯していないのと、娘がお転婆なのがタマにキズだけど、それは別の問題なんだろう。
とにかく、彼――タクマ・サカザキはバトルロワイアルの主催者である少年を倒す、ではなく更正させようと考えていた。
老いて引退を考えていたけれども、彼にはまだまだ充分すぎる程の力がある。
肉体は老いたとは言っても、技は円熟されているし、充実した肉体がある。
もし、彼が本気を出せば宇宙にある人工衛星すらも落とせるだろう。それが可能なだけの修練に修練を重ねている。
ただ、問題があるとすれば、参加者名簿に存在した息子――リョウ・サカザキの名前だ。
いい歳をして、だとか年寄りの冷や水だなんて言われかねない。ただ、それだけを危惧していた。
いつものように天狗の面を被って変装すれば事は足りるのだけれども、生憎と今はそんな物を持ち合わせていない。
仕方なく、彼はデイパックを漁り何か無いかを探した。
めぼしいものは一つ。∞と書かれたバンダナだけだ。
そこで彼は考えた。ナウなヤング風に頭に付けるのではなくて、顔を覆う覆面として被れば自らの顔を隠せるのではないかと。
意を決して被って見ると、存外に悪くない。どちらかと言えば具合が良い。
少し呼吸はしにくいけれど、修練の一貫と考えれば問題ない、と考えた。
流石は空手の道を歩む男だ、と考えざるん得ない。彼は拳に命を懸ける事が出来る数少ない人間なんだ。

そして更に彼は考え続けた。
主催者である少年を更正――つまり、極限流空手で鍛え直すだけでなく、見処のある人物を極限流門下に加えようと。
更には、息子に見合う嫁を探そうと。
普通の人間ならばバトルロワイアルとう極限状況でそんな事を考えないだろうけど、彼は空手家だ。
行住座臥戦いに身を置く格闘家だ。普通の物差しでは計れない尺度の持ち主だ。
月が禍々しく輝き薄暗い森を照らす。
拳を握り自分の心身がかつてないほどに充実しているのを確認すると、あてどなく駆け出した。
先に何が待ち受けていようが道を貫くだけ。
闇に紛れていく彼の大きな背中が雄弁に物語っていた。


【C-8/一日目/深夜】
【タクマ・サカザキ@龍虎の拳シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:無限バンダナ@メタルギアソリッドシリーズ
[道具]:基本支給品一式、
[思考]
1:主催者の少年に極限流空手を学ばせて更正させる
2:見処のある人物を極限流空手の門下にする
3:出来れば息子の嫁に相応しい人物を探す



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