「いきなり最初からこういうオチかー!!」






天を突くように聳える大樹があった。
周囲をとりまく森林の木々とは比べ物にもならず、その森が深くさえなければ恐らく遠くからも目立つだろう。
さらに世界樹と銘打っているだけあってか、幹がちょっとした岩山のように険しいながらもそこらのくぼみに足をかけ、上へと昇れるようになっている。
そして今現在もこの世界樹登頂に挑戦する一人の少女がいた。

「うぅ……よい、しょ!」
金髪のおさげを揺らしながら足場によじ登り、人一人ほどのスペースしかないそこにそっと腰をかける。
そこから下を除けば、自分がここに呼ばれたスタート地点の大地が小さく見えた。
さらに周りを見渡すと月明かりに照らされる森林が遠くまで広がっているのがみえる。

「へー、この森ってこんなに広いんだ……」
地図で見るだけでも広いことは十二分に理解できていたが、実際に見てみるとやはり違う印象がある。
その光景に感心と共に不安を覚え、彼女――ビアンカは支給された杖を握り締めた。

幼馴染の少年、リュカと共に幽霊退治から帰ってきて、虐められていたネコを無事に助け出しその日はぐっすりと眠りについたはずだ。
しかし目が覚めたらそこにふかふかのベッドと宿屋の一室は見当たらず、たくさんの人がひしめき合う知らない部屋。
混乱しているうちに不思議な少年が現れ、どこかの王子だという男が殺され、そして……

思い出すだけでも、魔法がつかえるからとて実質は幼い少女に過ぎないビアンカにはこたえる出来事だった。
それでも幽霊退治に赴いたときのような勇気をかろうじてふるいたつ。
「リュカもリュカのお父さんもいるんだもん、きっと何とかなるはずよ!」

デイパックから取り出した、いやに強力な効果を持つらしい杖を片手にビアンカはやがて驚くほど巨大な樹に出会った。
あの幽霊城をも凌ぐ高さを誇る巨大樹を見て感嘆するとともに、一つある考えが浮かぶ。
「……あの樹に昇ったら、ここがどれだけ広いか分かるかも」
確かに大きい樹ではあるが、よくよく見てみればそこらじゅうに手足をかけられそうなくぼみがたくさんある。
これなら頂上までとはいかずとも、途中まで昇ってしまえばあたりの様子が把握できあるかもしれない。

さすがに空が暗いうえ、森の中であるため地上に誰がいるかまでを確認することは出来ないだろうが、やってみる価値はある――

こうして大樹相手に孤軍奮闘したビアンカはやがて辺りが見渡せる高さまで昇りつめたのだ。



「それじゃ、そろそろ降りようかな……よく考えてみれば、降りるときが一番怖そうね」
うっかり下を見てしまうと立ちくらみして転落してしまいそうだったので、後ろをむいてそっと足を降ろす。
そこまで高い位置には来てないがそれでも落ちてしまえばひとたまりもあるまい。
一歩一歩、確実にくぼみに足をかける。そして半分ほど降りたその時に悲劇は起こった。

「きゃっ! ……あ、あぶっ!!」
くぼみに足をかけそこない、思わず片手を離してしまったのだ。
なんとかもう片方の手で幹を掴んで転落は避けることが出来たのは幸いだった。
しかしというのも一時のことであろう。いくら少女の身体といえど、それを片手で支えるのには限界がある。
おまけに木登りのおかげで体力は失われているのだ。

「も、も……だめ……い、いやぁぁぁぁぁ!!」
必死に体勢を立て直そうとするも、右手の力だけでは十秒も持たなかった。
とうとう最後の支柱を失ったビアンカは、そのまままっさかさまに落ちてゆく――


どすん!



「ぁぁああああ………あ、あれ……?」
しかし落下は長く続かず、少し風を切った後に柔らかい衝撃を受けただけで終わった。
どうやら地上に近い高さまで降りていたらしい。そのことに気付いてほっと胸を撫で下ろした。

「おい、安心するのはいいが助けてやったんだから感謝したらどうだ」
その直後、無愛想な声が上から聞こえて思わず飛び跳ねる。
そういえば自らの無事のことばかりを気にしていたが、この不自然な体勢に温かい感触は地面に落ちた時のそれであるはずがない。
見上げると不機嫌そうな銀髪の青年がビアンカを見下ろしている。
つまりはこの青年が、落ちてくるビアンカを目撃して受け止めてくれた、ということなのだろう。

「あっ! た、助けてくれてありがとう、ございます」
抱き上げられながらも首と言葉でそっと礼の意を告げる。
いくら地上近くまで降りていたとはいえ、受け止めてもらえなかったらただではすまなかったに違いあるまい。

「こんな状況で木登りなんでどうかしてるぜ、お嬢ちゃん。自分から狙ってくれと言ってるようなもので……」
ぶっきらぼうに言葉を返しながら青年のほうも少女を降ろそうとしてくれて、

むにゅ。

「……で…………むっ?」
「え…………」

それは不幸な事故であった。
単刀直入に言ってしまえばビアンカの成長前の胸に、その青年の手がタッチしてしまったという寸法である。
もちろん彼にロリコンの気があったとかそういうわけではなく単に手が滑っただけであるのだが。
おまけに落下途中にどこかしらにひっかけたのかビアンカの服がところどころ裂けているため第三者が目にすれば余計に誤解を生みそうな光景が出来上がったのであった。

「ひゃあぁぁぁ!? ヘ、ヘンタイ!!」
助けてくれたことに対する感謝とか、その辺の穏やかな気分や雰囲気などが一瞬で吹き飛んだ。
「ち、違う! ワザとじゃないぞ、誰が好き好んでガキの身体を! っていうか俺はヘンタイじゃない、闇の魔導士シェゾ・ウィグィィだ!!」
さらに青年もといシェゾはその気が欠片もないことをしめすようにビアンカから飛びのく。
しかし焦る気持ちが放った次の一言でさらに台無しになった。

「だいたい俺が欲しいのはアルル(の力)だ、アルル(の力)が欲しいだけだ! お前(の力)には興味が無い!」
「アルル……? って、確か!! や、やっぱりヘンタイなの!?」
運が悪いことにビアンカが名簿を見た時に、そのアルルの名前も目に映っていたのである。
おまけにいつも通りの言葉足らず、致命的であった。

「だ、だっからちが〜〜〜〜〜〜〜う!!!」
巨大樹の根元にシェゾの悲痛な叫びが響く。
この後誤解がちゃんと解けるのかどうか。そして次こそは言葉をきちんと補えるのかは未だ不明である。

【C-3/世界樹ノッポール前/一日目/深夜】
【ビアンカ@ドラゴンクエストX】
[状態]:健康
[装備]:うみなりのつえ@ドラゴンクエストY
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
1:ヘ、ヘンタイ!?
2:リュカ、パパスと合流する
3:ここから脱出したい
※幼少期からの参戦です。

【シェゾ・ウィグィィ@ぷよぷよシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
1:ヘンタイじゃなーい!!
2:この少女をどうするか……?
3:殺し合いに乗るつもりは無い



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