信じる心〜きみがくれたもの〜






G-8の海辺にある海の家ガビーンにバーバラはいた。
「アルル、遅いな…。何してるんだろう」
バーバラは手元のレーダーを見つめながら呟いた。
そしてアルルと出会った時のことを思い出していた。

アルルは魔導師の少女だった。大魔法使いの血を引くバーバラとはその点でも通じるものがあった。
武器や防具が支給品として入っていなくてがっかりしていたバーバラに優しく話しかけてくれたアルル。
「仲間を集めてここから一緒に脱出しよう!」と言ってくれた彼女の笑顔の明るさにバーバラは勇気をもらっていた。
純粋で明るいアルルとバーバラが仲良くなるのに時間はかからなかった。
バーバラにとってアルルは出会ったばかりだけど信じられる大切な仲間だった。
仲間がいる。それだけでバーバラの心強さは何倍にも増した。

そんなアルルがまだ帰ってこない。
彼女は今、ある少女に交渉を持ちかけている途中なのだろう。
レーダーに映っていた、バーバラのまだ知らない少女に…。
その少女はバーバラやアルルと同年代か、少し下の年代の金髪の美少女だった。
アルルを除けば今一番バーバラの近くにいるらしい。
バーバラが知る少女の情報はそれだけだった。
名前も知らなかった。

「ねえバーバラ。この子も仲間になってくれそうじゃないかな?」
アルルがレーダーに映し出された顔写真を指さしていたのをバーバラは思い出していた。
「うん。なってくれればいいけど…」
「ボクが行ってくるよ。この子と話し合ってくる」
「アルル、あたしも行く!」
「ダメだよ。バーバラは武器持ってないんだからここで待ってて」
「でも…」
「大丈夫。すぐに戻ってくるから」
「必ず戻ってきてね」
「わかってるよ!出来ればこの子と一緒に戻ってくるから!」
「うん!」
海の家を離れ、海辺へと駆けて行くときの明るいアルルの笑顔。
バーバラはあの笑顔を信じてここで待つことにした。
でも今はなんでアルルについて行かなかったのだろうという気持ちの方が強くなっていた。
自分は魔法が使えるのだから武器なんてなくても戦力になったはずだ。
「もしも」のときのためにアルルについていくべきだったのだとバーバラは悔やんでいた。

アルルがバーバラと離れてから一時間も経つ。さすがに遅すぎる。
手元のレーダーには、アルルと少女の顔写真が同じ位置に表示されている。
残り人数も変わらない。
それでも…それだからこそバーバラは心配だった。

バーバラは海の家を飛び出し、アルルと少女のもとへと走り出していた。
「アルル…お願い!無事でいて!!」

バーバラの願いは届かなかった。
海辺の端へと辿りついたバーバラが見たものは満身創痍で少女を睨みつけるアルルの姿だった。
少女の名前はシャロンと言うが、バーバラとアルルは知らなかった。
アルルの武器だったナイフは無残にも折れて使い物にならなくなっていた。
血だらけになった手をかざし、アルルが呪文を詠唱する。
「アイスストーム!」
「だから無駄だと言っているじゃないですか。しつこいですわよ!」
シャロンの目の前でアルルの呪文がかき消される。
相手も魔法の熟練者らしくアルルの呪文が大して効かないようだ。

「アルル!!」
「…その声は、バーバラ!?」
アルルが振り返る。バーバラは泣きそうになるのを我慢しながら呪文詠唱の構えに入った。
「あら。お仲間が来たようですわね」
少しだけ息を切らせたシャロンめがけてバーバラは炎を放った。
「メラミ!!」
アルルの呪文と同じくそれはシャロンによってかき消された。
「効かない…」
バーバラが愕然とする。
「やはりグルだけあって行動パターンも同じですのね」
「グルですって!?」
「ええ。甘い言葉で誘惑して、二人でグルになって私を騙して殺そうとしてるんでしょう?」
「バカ言わないでよ!アルルとあたしを何だと思ってるのよ!!」
バーバラがシャロンに飛びかかるが、簡単に回避された。
「そんなに熱くなるなんて。あなたも騙されてるだけじゃないんですの?」
「違う!アルルはそんな人じゃない!!」
「一人しか帰れないというルールを忘れて、会ったばかりの人間を信用するなんておバカさんのすることですわよ!!」
シャロンがバーバラめがけて呪文を唱える。
バーバラは目を閉じて覚悟を決めていた。しかしいつまでも痛みは襲ってこなかった。
その代わりバーバラをかばったアルルが血の滲んでいる腹部を押さえていた。
「……くぅっ…」
アルルが苦しそうに呻く。
「アルル!待って!!今ベホマズンをかけるから!!」
「ありがとう。でも、回復魔法、かけなくて平気だよ」
「ちっとも平気じゃないよ!このままだとアルルが死んじゃう!!」
「ボクは平気。それよりバーバラに大切なお願いがあるんだ」
「何!?」
「バーバラ。きみは早くここから逃げて」
「逃げられるわけないじゃん!アルル、何言ってるの!?」
「いいから逃げて!!」
「アルルを置いて逃げられるわけないじゃん!!」
「せめてキミだけでも助かってほしいんだ!」
「やだ!一緒に生きて帰ろうって約束したじゃん!!」
「ごめんね………バーバラ」

アルルはバーバラにキメラの翼を投げつける。
「アルルーーーーーっ!」
叫び声と一緒にバーバラの姿がかき消されていった…。

「バーバラ。ごめんね。約束、守れなくて…」
アルルの口から血が漏れる。まともに立っていられるだけでも奇跡に近い状態だった。
「でも、ボクは、約束は守れなくても…君だけは守りたかったんだ……」
出会ってからの時間はすごく短いけどアルルにとって、バーバラは大事な友達だった。
そしてアルルは何よりも友達を大事にする人間だった。そう。自分の身よりも…。

「貴方もしつこい人ね!これで最期にしてあげますわ!」
シャロンが呪文を詠唱する。しかしその呪文がアルルに届くことはなかった。
「………ジュゲムっっ!!!」
アルルは自分の最期の力を振り絞って、大爆発を巻き起こす呪文・ジュゲムを唱えたからだ。
アルルとシャロン、そして周囲一帯は轟音を立てて爆発した…。

バーバラがキメラの翼の力で海の家に戻った瞬間、海の方から爆音がした。
「今の音…アルルは無事なの………?」
バーバラがレーダーをじっと見つめるが、手元のレーダーからは、アルルとシャロンを示す光は消えていた………。
「一緒に生きて帰るって約束したじゃん…アルルのうそつき…」
レーダーに涙がこぼれおちた。
バーバラは泣いた。レーダーを抱きかかえたままひたすら泣きながらアルルの死を悼んだ。
アルルの死はショックだが、バーバラは絶望なんてしなかった。
大事な友達であるアルルの死を絶対に無駄にしないためにも、バーバラは生きることを決意した。
そしてアルルのように信じられる人間を見つけたいと思った。
それがアルルに対する最大の弔いとなることを信じて………。


【G-8・海の家ガビーン内/一日目/深夜】
【バーバラ@ドラゴンクエスト6】
[状態]:HPは満タン・MPは9割。
[装備]:自前の服
[道具]:基本支給品一式、探知機(同じエリア内のキャラの顔写真が表示出来るタイプ。壊れやすい。)、エーテルドライ
[思考]
基本方針:アルルの死を無駄にしたくない
1:今はアルルの死がショックだけどがんばる
2:なるべく人を信じるようにしたい

【G-8・海辺/一日目/深夜】
【アルル・ナジャ@ぷよぷよシリーズ 死亡】
【シャロン@クイズマジックアカデミー 死亡】
【残り62人】


※遺体と支給品はアルルの呪文による大爆発で消滅しました。



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