TIME TO COME(Ver.SO)
私は見た。
決して言葉では言い表せぬ、おぞましき悪意の塊を。
それが絶望的な闇を纏い、全てを覆い尽くす様を。
破滅の未来のヴィジョンを。
それが私個人の未来なのか、全ての存在の未来なのかは分からない。
だがこの未来は、未来を覆う闇は……必ず、必ず取り除かねばならない。
そう、必ず――――……。
■
――――……。
(…………僕は、確か……ソーサリーグローブの調査を行っていて、それで……)
――――…………。
(……ラクールで、武具大会に出場して……ディアスと決勝で戦って……)
――――……み、…………か?
(そして……駄目だ。思い出せない。僕は、負けたんだろうか……それに、ここは……?)
――――…君、大……う…ぶか?
(……ん? 誰か、居るのか……?)
少年、クロード・C・ケニーは朦朧とした意識の中、誰かが自分の話し掛けてきている事に気が付いた。
自分が武具大会で敗れたのだとしたら、係の人間がこちらの意識を確かめているのかも知れない。
(返事をしないと……)
未だ眠っている頭を振って強引に意識を覚醒させ、目の前の男に声をかけようとしたところで、クロードはふと彼に違和感を覚えた。
何も彼のウェーブのかかった紫色の前髪で顔面の右半分を隠しているという怪しげなヘアースタイルに疑問を持った訳ではない。
彼の着ている服……独特の光沢を放ち、体のラインにぴったりと合わせられたパイロットスーツは、
連邦に所属していない未開惑星であるエクスペルの人間が身につけられるものではない筈だ。
それに、この部屋……コンクリートのビルの一室のように見えるこの部屋もまた、あの未開惑星では絶対にありえないものだ。
「あの、貴方は……」
「『貴方はこの殺し合いという名のゲームに参加し、僕を殺すつもりはないのですか?』……とでも、聞くつもりかね?」
「…………殺し合い?」
ひとまずこの状況に対する説明を聞こうと男へ言葉をかけるが、その言葉を遮り帰ってきた言葉は予想だにしないものだった。
本当に予想もしていなかった言葉が唐突に飛び出してきたため、思わずぽかんと口を開けてしまう。
「いえ、あの……僕が聞きたいのはそんな事ではなくて、武具大会の決勝戦は…………じゃなくて!
貴方は一体どこの星の……あぁいや星、と言うか国、というか……」
何とか当初の疑問の答えを聞き出そうとするものの、
寝起きの頭に少々強烈な刺激が加えられた事もあってしどろもどろになってしまう。
「……どうやら少し混乱しているようだな。君は覚えていないか?
ほんの数十分前に起こった惨劇を」
「惨劇……?」
「そうだ。一人の少年が私達に殺し合いのゲームを課し、
二人の青年を私達の首に取り付いている物と同じ首輪の爆弾で無残に殺害した、あの……」
「――…………ッ!」
少年。
殺し合い。
二人の青年。
首輪。
そうだ、確かに……確かにそれらには覚えがあった。ぼんやりとした意識の中でではあったが、自分は確かにそれを目撃していた。
混濁した意識の中であったが故に、それらは夢だと思っていたのだが……そうでは無かったという事か。
今の状況がその夢の続きかもしれないとも思ったが、それにしてはリアリティがありすぎる。
だが、だとするならば……新たな疑問が浮かび上がる。
「どうやら、今現在の状況を理解できたようだな」
「えぇ。しかし……だとするならば、ここは一体何処だというんですか?
ここはどう考えてもエクスペル……今まで僕の居た未開惑星ではありません」
「未開惑星?」
「……あっ」
オウム返しに返す男を見て、クロードは思わず迂闊な自分を殴りつけたくなった。
未開惑星への干渉は条約によって固く禁じられている。つまり今のクロードの行動は自分から「犯罪者です」と名乗り出たようなものだ。
相手からの悪い印象は避けられない……というよりも、現在の状況を考えるとそれだけで済む筈も無い。
最悪危険人物とみなして問答無用で襲い掛かってくるかもしれない。
だが、男の口から出た言葉はこれまたクロードの予想を大きく外れるものだった。
「未開惑星、という事は……君は複数の惑星間で活動する組織に所属する人間だという事か?」
「え? …………え、えぇ。僕は地球連邦軍少尉、クロード・C・ケニーです」
「……地球連邦軍だと?」
男の突然の質問に思わず素直に自らの所属と姓名を明らかにしたが、
その答えによって彼の声色は険しい物に変化してしまった。
「……では続けて質問したい。
新西暦、メテオ3、アイドネウス島、パーソナルトルーパー、アーマードモジュール、
ディバイン・クルセイダーズ、エアロゲイター、ノイエDC、インスペクター、アインスト。
…………これらの中で、聞いたことのある単語はあるか?」
「え?」
訳の分からない単語を次々と出す男の意図を読むことが出来ずに思わず声を出してしまったが、
すぐさま首を振り「全く知らない」という事を伝える。
そのクロードの様子を見た男は暫くの間考え込んでいたが、やがて何かに得心したかのように頷き、口を開いた。
「……そういえば、まだ私の所属を明かしていなかったな。
私はギリアム・イェーガー少佐。地球連邦軍の情報部に所属している」
「情報部? それじゃあ、さっきの単語は……」
「いや、残念ながら先程並べた単語は君の思っているようなものではない筈だ。
”私の知る”地球連邦軍内……どころか、一部の物にいたっては民間人にも知られているごく一般的な用語だ」
「……え?」
「『新西暦』は私達の使用している年号、『メテオ3』は『アイドネウス島』に落下し、地球外知的生命体の存在を知らしめた隕石。
『パーソナルトルーパー』及び『アーマードモジュール』はそれぞれが軍で採用されている人型機動兵器の呼称であり、
『ディバイン・クルセイダーズ』は……」
「ち、ちょっと待ってください!!
僕は新西暦なんて年号は聞いたことがありませんし、
それに人型の機動兵器が実用化されているだなんて話、どこの惑星でも…………いや、待てよ……?」
唐突に見知らぬ用語を解説し始めるギリアムに驚き、クロードは思わず待ったをかける。
が、この時クロードの頭に一つの考えが浮かんだ。可能性としては非常に低いが、決してありえなくは無い話だ。
そして自らの閃きが正解であるか否かをギリアムへ問うべく口を開く。
「もしかして……僕の知る地球と、貴方の知る地球とは全く別の惑星ではないのですか?」
「何?」
「そして、貴方の知る地球は惑星間での交流・活動を行っていない。
だから僕が惑星間で活動を行っている地球連邦軍に所属すると聞いたとき、
貴方はそれぞれの知る地球が偶然名前が一致した別の惑星である可能性に気付き、
それを確かめるべく、貴方の知る地球に関するキーワードを僕に聞かせた……そうなんでしょう?」
「……なるほど。見事な推理だ。だが、私はそれと別にもう一つの可能性についても考えていた」
「もう一つの可能性……ですか?」
「そう。同一の惑星である筈でありながら、異なる技術、歴史を持っている二つの地球……。
つまり、これらは平行世界である……とね」
「平行……つまり、パラレルワールドという事ですか? それはいくら何でも……」
「いや、あくまで可能性の一つとして挙げてみただけの事だ。確信しているという訳ではないさ。
……いずれにせよ、私達はお互いに異郷の住人であるという事はまず間違いないだろう」
ギリアムの唱える平行世界説には多少面食らったが、互いに全く知らぬ星の出身同士であるという事は間違いないだろう。
となると――――……いや、ちょっと待て。そうなると、明らかに不自然な点が浮かび上がってくる。
「ちょっと待ってください。それならば、あの少年は一体どうやって僕達をこの場所に?
複数の惑星から、それも連邦も認知していない惑星から人間をかき集めるだなんて、個人ではとても――」
「その通りだ、クロード。おそらく、今回の件はあの少年の単独犯ではない。
彼の背後には明確な目的を持った強大なバックが控えていると見るべきだろう」
「だとするなら、その目的とは一体……」
「……それは分からん。だが、これ程大それた事をして参加者を集めているのだ。
ただの殺し合いを望んでいるという訳ではないだろう」
成る程、ギリアムの言うことには一理ある。
この「ゲーム」とやらを行っているのが何者であろうと、わざわざ複数の惑星からその参加者を集める必要は無い。
ただの道楽、或いは見世物とするならば同じ惑星、いや同じ国から集めてしまっても問題無い筈。
おそらく今回の参加者はあらかじめ「目的」に沿った基準の下に振るいにかけられ、それに合格した者がこの場へ連れて来られているのだろう。
しかし、この場でこれ以上その事について考え、考察を交わしてももう収穫はありそうにない。
お互いの持つ情報が絶対的に不足しているし、
何よりこうやって二人の参加者が殺し合いを行わず、考察を行っていると言うのに首輪が爆発するような気配はまるで見られない。
つまり、主催側にとってこの場での考察は、現時点では参加者達の何ら意味の無い足掻きに過ぎないという事なのだろう。
(そうだとするならば、僕はこれからどうすれば……)
無論、殺し合いに参加し自らの為に他の参加者を殺害するつもりは無い。
だが、だからと言って他に取る事の出来る選択肢が存在するのだろうか……?
クロードは自らの最悪の状況を打開するための一手が思い浮かばず、無意識のうちに顔を手で覆い、黙り込む。
しかし、絶望で顔を染めつつあった彼へと手を差し出す男が居た。
「ともかく、ここでじっとしている訳にもいかん。我々も行くとしよう」
「行くって……何処へですか?」
「無論この「ゲーム」の外への道……バトルロワイアルからの脱出法を探しに、だ」
その男は目の前の少年の絶望を払拭すべく、数々の絶望的な状況を掻い潜ってきた戦士の笑みを浮かべる。
「このバトルロワイアルが単なる殺人ゲームでないのならば、
我々がその道へと至るヒントがこのフィールド内に隠されている可能性もある。万に一つか、億に一つの可能性ではあるがな」
「…………分の悪い賭けですね」
「だが、そうであったとしても賭けねばならぬ時もある……そうだろう?」
「……そうかも、しれません」
「ならば共に行こう。今がその時だ」
そして少年は自らの顔面を覆っていた手を外し、差し出された手を握り締める。
「よろしく頼むぞ、クロード」
「こちらこそ、ギリアム少佐」
■
――この地エクスペル
脅威に襲われ民苦しむ時
異国の服をまといし勇者現れん……
彼の者光の剣を構え
人々を救いたもう……
【G-4/ミラクルタウン・ビル街/一日目/深夜】
【クロード・C・ケニー@スターオーシャン2nd】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(1〜3個)
[思考]
基本:バトルロワイアルから脱出する術を探す
1:ギリアムと共に行動。
[備考]
参加者は複数の惑星から集められている、と考えています。
平行世界から参加者が集められている可能性については半信半疑です。
【ギリアム・イェーガー@スーパーロボット大戦OGs】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(1〜3個)
[思考]
基本:バトルロワイアルから脱出する術を探す
1:周囲の探索、他の参加者との接触。
[備考]
参加者は平行世界から集められている、或いは複数の惑星から集められていると考えています。
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