氷のエンペラー






窓から城内に入る月明かりが妙に妖しげに輝いている。
その光は城内の一つの影を照らし出していた。
角のついた髪飾りに、全身を黄金の鎧で身に纏うその影は、
凛々しくもありミステリアスな雰囲気を出しており、夜空の月とこれ以上ない程似合っていた。

「私をこのような舞台に招待するとは…パラメキア皇帝であるこの私を…」

影の正体は世界征服を目論むパラメキア帝国皇帝“マティウス”。
彼は魔界から魔物を呼び出し、強大な軍事力と異形の力で、世界中を戦火の渦に巻き込み、世界征服を達成するはずだった。
世界征服まで後一歩というところで、帝国への復讐者達の手により、皇帝の野望は潰え、その身もろとも消滅してしまったのだ。
そんな彼が長いような短いような、一瞬か無限かの時を越えた先にあったのが、この殺し合いの場であった。

どうやって生き返っただとか、どうやって連れて来られただとかはどうでもいい。レイズやテレポの類だろう。
問題は何故この私が、この場に呼ばれているということだ。
既に朽ちたこの身に何の意味があるという。
いや、そうか…もしかしたら死者、死者を闘わせているのか?だとすると此処は地獄…死後の世界だということになる。
しかし……、かつて私も地獄に堕ちたことはあるが、此処とはまた違う。むしろもっと禍々しい所だった。
とにかくこれはあくまで仮定の話だ。此処が地獄かどうかなんてどうでもいい。

玉座に肘をつき、マティウスは淡々と思考を続ける。

とにかく今はこの私が生き残り、優勝するプロセスを考えておく必要がある。
せっかく再び手にした命を無駄に使いたくはないからな。
どうせなら参加者達を皆殺しにし、今一度この私が世界を征服してやろう!
私の野望はまだ終えてはいない。

微笑を浮かべる皇帝の姿は氷のように冷たい。
この男の奥底にある黒い野望はまだ消えてはいなかった。
むしろ逆だった。
皇帝は同じようなミスは二度としない。
それが彼の信念である。
彼は以前よりさらに冷静・冷酷・冷血さを増幅させた皇帝としてこの地に甦ったのだ。



この殺し合いで生き残るためには知力も必要だ。
強力な腕力だけでは勝利を手にすることは出来ない。
わざわざ私が積極的に参加者を減らす必要はない。
血気盛んな愚か者達が勝手に潰し合ってくれるだろう。
それで半数以上消えてくれればありがたいのだが…現実はそんなに甘くはない。序盤で死ぬのは弱者が多いのだから。
この城に踏み込んで来る者もいるだろう、もしかしたら既にこの城内に侵入しているかもしれん。
まぁ、その時はその時で返り討ちにすればいいことなのだが…
徒党で攻めてくる可能性もある。
いかに私といえど、複数を相手にするのは厄介、それに面倒だ。

マティウスはその冷艶な表情で坦々と続ける。
彼は何にも動じず、非常に落ち着いているように見える。
しかし、もし第三者がこの場にいるとしたなら、その者の瞳にはどう映るのだろうか。
華奢な優男として見えただろうか、否、おそらく残忍で非情な者として映ることだろう。

そうだ、此処に踏み込んで来る者を私の手駒としよう。
若干、力の衰えを感じるが、私の力を使えば洗脳など容易いことだ。
その者に護衛と邪魔者の始末を任せるとするか。
私がわざわざ手を汚す必要もあるまい。
できればそれなりの実力を備える者が好ましいな。強すぎるというのも厄介だ。
おっと、その前に相手の情報を全て吐き出させておく必要がある。
情報の収集も当面の目標か。
それに、この首輪…いづれ取り外したいが、果たしてそんなことが可能なのだろうか……

マティウスは視線を下の首輪に移し、鬱陶しそうに手を掛ける。
この首輪が殺し合いの根本を握っていると言っても過言ではないだろう。
首輪が参加者にかす制限は非常に大きい。
首輪に内蔵された小型爆弾、それは定められた禁止エリア内に入ることで作動する。
殺し合いを円滑に進める為のシステムだ。
マティウスは勿論、他の参加者達にも知らされていないことだが、中には盗聴器も含まれている。
参加者達の思想、思惑、行動内容は全て主催者に伝わってくる。
そして先程マティウスが感じた疑問。
力の制限
それも首輪が為せる技だ。特殊な力が首輪に付与されていて、参加者達の能力を制限するが、それは個人によって異なる。
無理矢理はずそうとすれば即座に爆発。
マティウスもそれを承知の上で、首輪を外す方法を模索しているのだ。

首輪に関しては今は保留でいいだろう。
先足急ぐ必要はない。優秀な科学者、又は発明者を待てばいいことだ。

一通りの考察を終え、マティウスは一段落といった様子で、手を前に組む。

とりあえず日の入り、六時間後の第一放送までは此処を拠城にしておこう。
フフフ、この舞台の主催者よ。私をこの場に呼んだことを感謝しよう。
貴様のおかげで、私が再び世界を手中に収めることが出来るのだからな。
もっとも最後には貴様にも死んでもらうことになるがな。


「場所が何処だろうと関係ない…」

「【皇帝】はこのマティウスだ!依然変わりなく!!」


【H-5・ミラクスキャッスル内玉座/一日目/深夜】
【こうてい(マティウス)@ファイナルファンタジー2】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(未確認)
[思考]
基本方針:第一放送までは待機
1:優秀な手駒を手に入れる
2:情報の収集
3:首輪を外したい



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