Giri meets Boy
頭が痛い。体中の血が熱を持って逆流する。呼吸すらまともに出来なくなる程の息苦しさが襲ってくる。
徐々に体を支えることさえできなくなっていく。視界がゆがんでいく。灼熱のような痛みが込み上げてくる。
意識は朦朧とし始めているのに、何故か封印していたはずの記憶だけが鮮明にフラッシュバックする。
血まみれのパパ。血まみれのママ。血のにおい。血だまりに転がる誕生日プレゼント。血の味。笑う牧師。血の感触。
そして買ってもらったばかりのドレスを血に染める少女。パパとママを殺した……あの子は……。
「あの子は……私だ……」
そして、少女の意識は途切れた。
☆
「おねえ……! ……ゃん……!」
誰かに頬を叩かれたところで、やっとレオナ・ハイデルンは意識を取り戻した。
泉の近くで気を失ってしまったらしい。
こんな場所で倒れるなんて、今生きていることが奇跡に近いぐらいだ。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「あなたは……?」
猫のような耳が生えた少年がまん丸い瞳でレオナを見つめている。
18歳の少女ながらも、傭兵として世界を見てきたレオナが初めて見る人種の少年だった。
彼は正当な人間なのだろうか? それとも自分が幻覚を見ているだけなのだろうか?
しかし、よくよく考えてみたら、自分も正当な人間とは言い難いのだから、
目の前の少年が正当な人間だろうとそうでなかろうとどうだってよかった。
「やだなー! そっちから名前を名乗るのがジョーシキであり礼儀でしょ!? お姉ちゃん、僕よりも大人なのにそんなこともわからないの?」
「……ごめんなさい。私はレオナ。レオナ・ハイデルン」
苗字は、本当の苗字ではない。本当の苗字は思い出せないし、今更思い出してもどうにもならない。
猫耳を生やしふんぞり返る少年は、レオナが名乗ると少しだけ機嫌を良くしたようだ。
「へー。お姉ちゃん、レオナっていうんだ。なんだか僕の名前と似てるかも。僕はレオン・D・S・ゲーステ。覚えておいてよね」
「レオン……ね。わかったわ」
「でもよかった。僕がレオナお姉ちゃんを見つけた時、ぐったりしてて死んでるのかと思ったから」
「……」
「あ、そ、その、べ、別に勘違いしないで! 僕が殺したと思われたら嫌だからね!」
「……勘違い? 何を?」
「ど、どうだっていいじゃないか!」
レオンがそっぽを向くが、レオナには何が何だかさっぱり理解できないのだった。
「それよりあなた、もし私を助けて、逆に襲われたらどうするつもりだったの?」
「! そ、それなら心配無用さ。僕だってちゃんと武器持ってるんだから!!」
レオンが武器を取り出す。小柄なレオンには不釣り合いな剣だった。
「無闇に武器を見せびらかさないことね。奪われる可能性だってあるんだから」
「でもその忠告を僕にしてくれたってことは、レオナお姉ちゃんは僕から武器を取らないってことだよね?」
「…………」
黙り込むレオナ。レオンは少し震えた声で、レオナに訊ねた。
「レオナお姉ちゃん。お姉ちゃんは、人殺しするの? あんなバカ男の言うこと聞くの?」
「……わからない」
「わからないってことは、もしかしたらあのバカ男の言いなりになるかもってこと?」
「……あいつの言いなりになるつもりはないわ」
「ならよかった! あんな奴の言いなりになんてならなくていいよ! ましてや人殺しなんて野蛮だし、意味無いよね!」
「ただ……人を殺さない保証は出来ない……」
「え……? それって正当防衛ってこと……? それともあのバカ男をやっつけるってこと……?」
レオナはそれには答えなかった。いや、答えようがなかった。
自らの身に課せられた血の呪い。そして血の暴走。それをこの幼いレオンに話したところで何になるのだろう。
最後はレオナ自身が血を制御できるかどうか……そこにかかっているのだ。
そして、さっきのフラッシュバックと突然の卒倒を考えても、血の宿命に打ち勝てる保証はない。
かつて格闘大会で見た赤毛の男・八神庵のように。そして8年前、自分の10歳の誕生日に自分が親を殺めたように。
きっと自分は最期は狂い、自我もないままに、誰かを殺し、そして誰かに殺されていくのだろう。
それを受け入れる気はさらさらないが、それが自分の運命なのだろうとレオナは思った。
「助けてくれてありがとう。それじゃ……私行くから」
レオナが荷物を持ち、無表情で立ち上がる。レオナの態度を見たレオンは不満げに頬を膨らませ、両手を拡げて通せんぼのポーズをとる。
「ま、待ってよレオナお姉ちゃん! 一人で行くつもり?」
「…………」
身長差は40センチほどある。レオナが無理やりどかそうとすれば、簡単にどかせられるだろう。
しかし、彼女はそうしなかった。彼女を見つめるレオンのまん丸い瞳があまりにも真剣だったからかもしれない。
「単独行動なんてお互い危険だよ!」
「私と一緒にいることで、あなたが危険に晒される可能性もあるわ」
「でも、一人でいるよりは危険の回避率も上がると思うよ。レオナお姉ちゃん、『三人寄れば文殊の知恵』って言葉知らないの?」
「あなたと私、足したところで二人よ。三人ではない」
「そういうこと言いたいんじゃなくて、ああ、もう、どうせだから、僕もついて行ってあげるって言ってるの!」
「だから言ってるでしょ? 危険だって」
「一人でいるよりはマシだよ。いーい? 助けてやった恩人の言うことを素直に聞くって言うのも、ジョーシキだし礼儀なんだからね!」
「……勝手にすればいいわ」
「なんだよ! 素直じゃないなー! じゃあ、勝手にするよ。このレオン様が勝手についてってあげるんだから感謝してよね!」
レオナの言葉を前向きに受け取ったのだろう。一瞬だけレオンが子供らしい笑顔を見せるが、それをかき消すように、
わざとらしく咳ばらいをし、生意気さにあふれた声でそう言った。
レオナは感謝の意こそ示さなかったものの、レオンが付いてくることには異を唱えなかった。
☆
レオナはまだ知らなかった。
この運命の地に、自らの血を覚醒させ、最愛の両親をレオナに殺めさせた、あの牧師がいることを。
自らと同じく、血の呪縛にとらわれた男・八神庵が血の呪いにより、すでに人を殺める獣と化していることを。
そしてこの先、レオナ本人が。
彼女の隣にいる少年・レオンが。
また彼女らと出会う人々がどのような運命をたどるのか。
レオナはまだ何も知らなかったのだ。
【B-1/一日目/深夜】
【レオナ・ハイデルン@ザ・キングオブファイターズ】
[状態]:健康状態はまずまず。但しいつ血の暴走が起こるか分からない不安定な状態。
[装備]:???
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜3(未確認)
[思考]
基本方針:「……わからない」
1:狭間の言いなりにはならない(つもり)
2:なるべく血の暴走を食い止める(つもり)
3:レオンを勝手にさせる
【レオン・D・S・ゲーステ@スターオーシャン2nd】
[状態]:健康状態・精神状態共に良好。
[装備]:オブシダンソード@ロマンシングサガ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(未確認)
[思考]
基本方針:野蛮な殺し合いはせず、打開策を考える
1:狭間の言いなりにはならない
2:単独行動はしない
3:レオナについて行く
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