究極パラディウス






なぜ死んだはずの己がここにこうして存在しているのか。
なぜ三闘神の力を吸収した己が死んだがゆえに滅びたであろう魔法が使えるのか。
なぜゲームなどと称してこのような殺し合わせを行っているのか。

不明なことは多々あれど、ケフカ・パラッツォはそれらの理由に対して特に興味を抱くことはなかった。
貰えるんだったら物だろうと力だろうと命だろうと、遠慮なく貰っちゃう。
そしてゼンブをハカイをする。人も世界も、あの自称神様も。

「──なにしてるんだっ!」

不意に響いた声は明らかに己へと向けられといるが、ケフカは構わずに紡いでいた詠唱を完成させた。
魔力が集まり、手にした杖によって更に濃くなり、目に見える白い光となって天より降り注ぐ。
目標はそこの草っ原に転がっている、きな臭い塊。
ケフカによって唱えられたホーリーは、その塊──人へと向かって直撃した。

自身に浮遊魔法のレビテトと加速魔法のヘイストをかけて
逃げる標的へ下級魔法を放つ生ぬるいイージーモードなシューティングで遊んでいたが
あまりのツマラナさにそのうち飽きてフレア一発お見舞いして撃沈させた相手が、ソレだ。
まぁそもそも金髪をモヒカンなんぞにしていた相手が悪い。
なにせケフカがこの世で最も嫌いな髪型だ。一回死んでるけど。

それはそれとして、さすがに標的が予想外の貧弱だったとはいえ、
フレア一発くらいでは全身火傷程度にしかできないのは当然だろう。
なので先程の、追加オーダーのホーリー。

「やめろ!」

ようやっと間合いまで踏み込んできた新しい獲物は銀髪の少年だった。
おおかた下級魔法の乱発音を聞いて遠路はるばる訪れてくだすったのだろう御苦労様。
さて、その少年は紫の兜と衣服を身にまとい、片手には剣を構えている。
この兜がなかなかのセンスで、先端に白いフサフサをあしらった、
玉葱だかニンニクだか球根だかのような形をしていた。
最初のインスピレーションを尊重して少年を玉葱小僧と名付けることにしたケフカは、
実に気だるそうな様子で奇妙な化粧に彩られた唇を動かした。

「あぁハイハイハイ、言われなくてもやめてやりますヨ。もう終わったしィ〜」

剣先をケフカへと向けたまま、玉葱小僧の視線は倒れてるモヒカン男へと向けられる。
皮膚は魔法により損傷しているが、はたして命は──残っていた。
指先が微かに動いたのを玉葱小僧は捉えただろう。
ケフカも見逃さなかったが、殺した覚えはないので気にはしなかった。
ただし非常に危険な状態だ。すぐに処置を施せば助けられるかもしれない。
と、玉葱小僧の表情が如実に語っていた。なんとかは口ほどになんとやら、というやつだ。

玉葱小僧はアメジストの瞳をケフカへと戻す、と同時に地面を蹴って踏み込んでいた。
素早い。
しかしレビテト・ヘイスト持続中のケフカは少年の一太刀をひらりとしなやかに回避した。

「ワーオ、おっかない」
「ふざけるな。こんなこと許さないぞ!」
「なあぁーぜオマエに許されなきゃならんのだ」

玉葱小僧は跳躍し、横たわる人物を背後にかばうように位置取った。
ケフカは愉快そうな表情を隠しもせずに口を開く。

「オイオイ、僕ちんの相手なんかして余裕ぶっこいてますがね、悠長にしてたら後ろに生ゴミが出来上がっちゃいますヨ〜」

ケフカは空いている手の指をざわざわと動かした。
見ようによっては鍵盤をなぞっているかのような仕草にも見えるが、特に意味はない。ただの癖だ。
治療を焚きつけておきながら、ケフカは攻撃用の詠唱を紡ぐ。
下級魔法。威力は低いが、代わりに詠唱も短くて済む。一刹那が過ぎた頃には完成しているだろう。

「ちくしょう……覚えてろよ!」

瞬間を縫って、まるで小悪党が逃げる時のような台詞を玉葱小僧が吐く。
剣を携えたまま懐から何かを取り出し、その手を前方へと掲げた。
その姿を雷が射抜く!──はずだったが、雷鳴は風の中を虚しく轟いただけだった。

「んんんんー?」

ケフカは場の気配を探る。周囲には誰もいない。
そこにいた玉葱小僧と亡骸寸前のモヒカン男は綺麗サッパリ姿を消していた。
微力ながらケフカの放ったサンダーとは違う魔法の気配を感じる。
転移魔法のたぐいだな。と、ケフカは魔力の残り香で察した。
無詠唱で発動したのは、そういう効果のアイテムでも使用したからだろう。

ケフカは盛大に舌打ちをした。
自分に与えられた袋には杖と妙な力のある丸い石が入っていたから、
消費アイテムも与えられているとは思っていなかったのだ。

とはいえ、そんなことをいつまでも引きずるような性格ではない。
次の瞬間にはモヒカン男の忘れ物である袋へと興味が移っていた。

「……だが、玉葱は微塵切りだ」

 ※

一方、玉葱小僧──ことルーネスは、テレポストーンを使用して山の麓まで飛ばされていた。
役目を終えたテレポストーンは消滅している。無詠唱で済む代わりに使い捨てだ。
どうやら転移先は指定できず、なおかつあまり遠くには転移ない仕様らしい。
とはいえ、あの道化師のような魔導師から離れることが出来たので問題ない。

「しっかりしろ!」

ルーネスは傍らに、たまねぎ剣士にしか扱えないというオニオンソードを置き、
一緒に連れてきた全身に火傷を負った男へと声を掛ける。
ただれた皮膚が痛々しくて間近だと目を背けたくなるが、そうは言っていられない。
今すぐに治療を施さなければ。
そのために、貴重なアイテムを使ってまで道化師から逃げてきたのだ。
ルーネスは玉葱剣士のまま回復魔法の呪文を唱えた。
治療に限定すれば導師や賢者の方が適しているだろうが、あいにくジョブチェンジしている暇もない。

やわらかな光が火傷の男を包む。
カオスの言っていた通り、回復魔法の効果が弱まっているようだ。思っていた以上に効果が出ない。
普通のケアルガをもってしてでも難しい状態だというのに、この仕打ち。
ルーネスは歯軋りをし、再び詠唱をする──。

「……え、なんだって?」

聞き逃してしまいそうな弱さだが、息継ぎの合間に、ルーネスは男の声を聞いた。
思わず詠唱を中断してしまう。
男はうわごとのように呟いているが、聞き取り辛い。
ルーネスは息を殺して、耳を男の口元へと近づけた。

「コフ……ツニガ」
「?」
「……ワニダソ、モ」

喉に損傷があって喋れないのだろうか。聞いてみたが、何を言っているのか判らない。
ちゃんと言葉を聞くためにも、回復をしてあげなければ。

「頑張れ! 今治すからな!」

励まし、ルーネスは呪文を唱え続ける。
男がもうここに「いない」ことに気付くのは、今から数分も後のことだった。

 ※

ルーネスは泣きたいのを我慢して岩山を登っていた。
男の遺体は麓に残してきた。可哀想だが、放置するしかなかった。
全く知らない人なのに、あの男が亡くなってとんでもなく悲しい。
無理矢理殺し合いに参加させられたという、同属意識のようなものがあるのだろうか。
だってこんな所にいなければ、死ぬはずはなかったんだ。

あの道化師は許せない。人殺しめ、絶対に許さない。
……そんな風に憎しみの感情を持っている自分も、ルーネスはなんだか嫌だった。

いきなり見知らぬ屋内で見知らぬ人々と共に目覚めて、殺し合いをしろと言われて、
でも絶対に殺し合いになんか乗ってやるもんかと決意した自分がいたのだ。
なのにこうも簡単に、殺してやりたいなどと思ってしまうなんて。

自分は希望を持つ者として、クリスタルに選ばれた光の戦士の一人なのだ。
なのに、なんだ。今の自分にはクリスタルに貰った力を扱う資格すらないじゃないか。

少年は悔しさを噛み殺しながら、半ば逃げるように、黙々と足を動かし続けていた。


【アニキ@FF10 死亡】
【残り34人】



【J-9/岩山】

【ルーネス@FF3】
[状態]:たまねぎ剣士 憂鬱
[装備]:オニオンソード
[道具]:支給品一式
 第一行動方針:岩山を移動
 基本行動方針:殺し合いには参加しないけど、道化師は憎い


【H-9/平原】

【ケフカ@FF6】
[状態]:個人的には正常
[装備]:ガードロッド(マジカルのマテリア)
[道具]:支給品一式(*2)、アニキのアイテム1〜3
 第一行動方針:アイテムの確認
 第二行動方針:不愉快な玉葱小僧を微塵切り
 基本行動方針:ユカイにハカイ


※アニキの死体は【I-9/山の麓】に放置



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