黒い太陽






ユウナは名も無き祠で真摯な祈りを捧げていた。
吹き抜けの高い天井から光がこぼれ落ちて祠内は神秘的な力で溢れている。
ユウナは瞑目して死者の送り人となっていた。
ここがスピラでなかろうとも、ルールーの魂を送るにはスピラの礼でもって行うのが自然だった。
長いあいだ人が居た形跡のない埃っぽい質素な建物の中で、異界送りの儀礼は不足なく行われた。
これで悲しみの一つは安らぎに変わるはず。
失意の中でもユウナは気丈に自分の精神を正しく保とうとしていた。
せっかく救った世界に浸ることもできなくて、こんなに不条理に満ちた世界に否応なしに引きずり込まれた
不幸を呪おうとはしなかった。
最初はもちろん絶望したけれど。
姉のように慕っていたルールーがあんな風に死ぬなんて、悲劇を通り越して喜劇を見ているような気分を
味わった。もちろんそれが本物の惨劇であることは骨身に染みるほどわかった。
あのとき、惨劇の直前、駆け寄って言葉を紡いだ瞬間の出来事を思い起こせば嫌でも理解できてしまう。
本当は思い出したくなんてなかった。
あんな光景は絶対思い起こしたくない。
でもそう考えれば考えるほど心の中でリフレインが起こり、何度もあの瞬間が再生されてしまう。
ユウナは泣き出したくてしょうがなかった。
それでも今は泣いてる時じゃないとわかっていたからこそ、力強く立ち振る舞うしかなかった。
自分ひとりがこの世界にいるわけじゃない。仲間がいる。希望に彩られた仲間たちの姿が確かに
ここにはあった。
それがこの先を歩んで行こうとする意思の拠り所だった。

突如、光が遮られる。
ユウナは瞑目をやめて天を仰いだ。
高々とした天井は先ほどと違ってどんよりとした雲の下にいるように薄暗かった。
それが雲でなく、大きな灰色の点であって、それが人の形に変わることなど予想もできなかった。
灰色はその人物の性質を現すものであり、心を失った人形を意味するのか、あるいは善とも悪とも言い
切れない中立性を表すのか。
心地よさや爽やかさをその人物の前に立ったものは決して感じることはない。
奇妙に折れ曲がり何の値打ちもなさそうな剣の鞘を大事に背に抱える姿がその屈折した感じを物語る。
後ろを振り返ったユウナの前に立ちはだかった長身の男は、腰まで下ろされた長い銀色の髪が特徴的
だった。男は鬼気迫る殺気を出しているわけではなかったのに、ユウナはうろたえ戦慄した。
その瞳の色が生きている実感を与えない灰色に染まっていたからかもしれない。
どんな意思を持ってどんな言葉を出してくるのかまるで検討がつかない。
ただ恐ろしい感じがした。このまま対峙しているのはそれだけで神経をすり減らしてしまいそうだ。
ユウナはちらりと祠の入り口のほうを伺う。
走れば自分のほうが先に外に出られるかもしれない。でもそんな隙はあるのだろうか。
「死人のために祈ってやることなどない、敗者はそれだけで悪だからだ」
男が口を開いた。あるのかわからない感情をさらに押し殺したようなどす黒い響きを持っていた。
話し方も、その内容もそうだった。
ユウナは敢然と言葉を返した。
「そんなことはありません。死んだ人が負けただなんて言わないで!」
上ずっていたが、懸命に声を遠くまで届けようとした。
男が再び言う。
「死者、滅んだ者は悪ゆえに勝者が糧とすることを許される。私はこれを全てに押し広める。
 星はジェノバに破れ死滅してゆき、その悪をすべて吸い取って全宇宙から悪を消滅させる」

ユウナは呆然とし唇と唇の間から空気が洩らした。
――この人は何を言っているの
男は独りで喋り続け何か確信を得たかのように誇らしげに言った。
「そして悪のない宇宙には善なる光が輝き、昂然とこれを照らし続ける。完全たるジェノバは
 唯一の存在として永遠よりも長い時間、歴史をただ一人で重ねてゆく」
祠内に男の笑いが響き渡った。
天空よりも高く地の底よりも深いところへその声は染み渡っていく。
あまりに深淵よりの壮大希有な内容を乗せて。
男は今や灰色でなく黒い輝きを放っていた。暗黒はすべてを取り込み大きくなって全体を塗りつぶす。
ユウナは空恐ろしくなり寒気を感じて、出口へ駆け出した。
それを男が追ってくることはなかった。
逃亡は成功した、いや失敗したのだ。
男が竜巻を起こして祠自体を粉々に吹き飛ばしたから。
逃げるユウナは突風に押されて遠くまで弾き飛ばされた。
はずみで地面に激突し、額と肩と右腕を損傷した。それでも立ち上がり直も逃げようとした。
破片が飛び散る中、乱れた呼吸を押し通し額から流れた血で目が塞がれるのを防ぎながら懸命に身体を
前に押し続けた。
その先に見えた新たな人影を目標に、気力と精神が尽きることの無いように自分を励まし続けながら。


クラウドは見た。
竜巻が起こりその爆風ともに吹き飛ばされる人の姿を。
クラウドは感じた。
その人を竜巻の中心から冷ややかに見つめている視線を。

露骨なまでにその存在を自分は知っている。
誰よりも深く繋がる因縁の相手。
生きているはずのない、しかし、忘れるはずもない男の存在。
装備に慣れていない鎧盾が乾いた音を立てる。

【T-10/祠の近く/朝】

【セフィロス@FF7】
[状態]:正常 (精神はジェノバに侵食されている)
[装備]:折れ曲がった鞘
[道具]:支給品一式 ふういんのマテリア、不明品0〜1つ
 第一行動方針:ユウナを追う
 基本行動方針:主催者及び参加者は全員殺す

【ユウナ@FF10】
[状態]:額と肩と右腕に中程度の怪我、流血あり
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明の品1〜3個
 第一行動方針:前方の人影(クラウド)のもとへたどり着く
 第二行動方針:セフィロスからの逃亡
 基本行動方針:ゲームには乗らない

【クラウド@FF7】
[状態]:正常
[装備]:イージスの盾、魔力のシシャーク、ディフェンダー
[道具]:支給品一式
 第一行動方針:ユウナの元へ向かう
 第二行動方針:セフィロスと対決?
 基本行動方針:無駄な戦闘は避けるが、自己防衛のためなら戦う

※T-10の祠は破壊されました



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