『皇帝』
皇帝は苛立っていた。
私は確かに死んだ筈だ。反乱軍の――あの虫けらどもの手によって。
とは言え生き返ったことはさしたる問題ではない。私も一度、地獄から蘇っているのだから。
私を苛立たせているのは他でもない、神を名乗る、あのカオスという異形の存在だ。
奴は言った。私に、命令したのだ。殺し合え、と。最後の一人になるまで。
(この私が?)
皇帝たるこの私が、他者の手駒となり、流されるがままに殺し合いをするというのか?
「……認めん」
認めんぞ、カオスよ。私こそが支配者なのだ。そう簡単に貴様の思い通りになるほど、私は矮小な存在ではない!
私に命令していいのは、私だけなのだから!例え相手が、神であろうと!私は、抗ってみせる!
私は皇帝だ。皇帝は孤高ではない。兵を従えるのが皇帝である。ふむ、まずは部下を集めるとしようか。
いくら見せしめのように一人殺されたとして、それだけで恐怖におののき我を忘れ、このような殺し合いに身を投じる愚か者ばかりなのか?
そんな心の弱い者ばかりではないことを私は知っている。例えばあの虫けら――フリオニール、レオンハルト。
もはや奴らに個人的な恨みなど残ってはいない。今の私の憤怒は全てカオスにのみ、向けられているのだから。
奴らだけではない、他にもこの殺し合いに不満を持ち、脱出したいと思う者どもは少なくないはずだ。
そやつらを従え、何らかの手段を以て、必ずやカオスよ、貴様を討ち果たしてみせようぞ!
最後に笑うのは、この私だ!
「……と、いうことだ。デッシュと言ったか?私の部下にならんか」
――一番最初に出会ったのが積極的に殺し合いに乗った人間ではなかったのは俺の幸運だったんだろう。
剣も魔法も使えないとは言わないが、所詮俺は塔の管理人。生き残れるとは到底思えない。
だが、だからといって生を諦める訳にはいかない。生きて、生き残ってサリーナの元に戻る。
もうこれ以上、あいつに涙を流させるわけにはいかないんだ。
……だが、いくらなんでもいきなり「部下になれ」はないだろう。
そりゃ確かにあんたの言うとおり徒党を組んで抵抗すれば道は開けるかも、なんて気はしてくるけどな。
でもそれならせいぜい「仲間」と呼ぶべきじゃないのか?お前は何様だ。
不信の表情を色濃くしたデッシュに、皇帝は眉間に皺を寄せ不快感を顕にする。
「従わぬと言うのなら、死んでもらうだけだが」
デッシュの心臓が飛び跳ねる。目の前の男と戦ってどうなるかわからないほど自分の実力を過信してはいない。
「ま、待ってくれ。……わかったわかった、従うよ、あんたにさ」
ひとまずはこう答えるしかなかった。
「殊勝な心掛けだ。では行くぞ、デッシュよ」
「ど、どこに行く気だよ!?」
すぐさま歩き出した皇帝に狼狽えながらデッシュは呼び止める。
行くなら行くでいいから何処へ行くかちゃんと言って欲しいものだ。こいつ本当に傍若無人だな。
「地図を見るがいい。北に町があるだろう。……ここからでも、わずかに見えるか」
見上げた先に、朝の光に照らされてうっすらと建物が並んでいるのが分かる。そう遠くはないだろう。
「まずはあそこへ向かう。おそらくは建造物を目印に動く者が大半だろう。私のしもべと成り得る輩も、自ずと集まってくるということだ」
「だ、だけど、当然殺す気満々の奴も集まりやすいってことだろ?」
「そのような不届き者は、誅するまでだ」
どうもあんたは強いのかもしれないが……その自信はどこから来るんだ。
とはいえ逆らう気も起きない。デッシュはため息一つつくと、生返事もそこそこに、後を追った。
「……そういえば、あんたの名前は何て言うんだ?」
前を行く皇帝に向け、デッシュが切り出した。
「皇帝、と呼ぶがいい」
「……皇帝?」
幾らかの疑問は浮かんだが飲み込み、デッシュはそれ以上何も言わなかった。
(滑稽、だな)
我ながら思う。
私は既に打ち倒された身。元の世界に戻ったとしてもだ、私が君臨していた「帝国」はもう存在していないだろう。
私を皇帝と位置付けるものは最早何もない。何一つ残されてはいないのだ。
ここにいるのは、ただの一人の、人間でしかない。
だが、私は皇帝だ。皇帝なのだ。
全てを支配し、全てに畏怖され、全てが平伏す。
何もかもの頂点に君臨する者だけに名乗ることを許されたこの呼び名。
捨て去るわけにはいかぬ、この矜持。
無論、自称で終わるつもりは微塵もない。カオスを倒した暁には私が神となり、この世界を支配してやるとしよう。
――世界に皇帝は、私ひとりだ。
【S-19/草原/朝】
【皇帝@FF2】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明品三つ(確認済)
第一行動方針:町へ向かい、北へ
基本行動方針:配下(≠仲間)を増やし、カオスを打倒する。敵となる者には容赦しない
【デッシュ@FF3】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明品三つ(確認済)
第一行動方針:皇帝についていく
基本行動方針:生きて元の世界へ戻りたい
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