無題
ジタンは深い眠りから突然起こされたような強い不快感を覚えながらも強引に身体を起こした。
夜露の降りた桟橋の上に一人眠っていたようだ。霞がかった遠景を見ると海洋がありその周辺に
突き出た岩肌が露出した地形が広がっていた。
どうやら大陸の隅の方にいるらしい。ど真ん中よりはいいか、とジタンは考えた。
体を起こした時に節々が痛んだが、動くのに支障はない。
まだ完全に覚醒はしていない脳を目覚めさせるために頭を何度か自分の手で小突いた。
(ちくしょう、本当に始まったのかよ)
まさか殺し合いなんて信じられないという思いは未だに残っているが、あの惨劇の光景が作り物でなかった
ことはまず確実だった。ルールーと呼ばれた女の人が無残に殺され、あの化け物じみた奴がゲーム開始
を宣言し、今ここに自分たちが現れた。
どんな強力な魔法か何かを使ったかはわからないが、とにかく簡単に抜け出せるようなものではない
ことはあの時感じた威圧感でわかった。
マリリス、リッチ、クラーケン、ティアマット。
これらの四体の魔物がいたのもジタンにとって脅威だった。クジャとの最終決戦を迎える場所へ向かう
途中で出合った彼らは尋常ではない強敵だった。この連中を部下にしているカオスという怪物はやはり
クジャと同等かそれ以上の力を持っていると考えていいだろう。
殺しあわねば生き残れないゲーム。誰も乗らなければ全員の首輪が爆破される。
ジタンは歯噛みして自分の運命を呪った。
しかし、このままこうしていても始まらない。
橋の上をゆっくりと北へ歩みだし、まずは今後の方針を立てることにした。
まず同行者がいたほうがいいだろう。殺し合いに乗った参加者が達人であることを想定すると一人では
太刀打ちできない場合もあるだろう。
参加者が集合していたあの広間で全員の顔を見ることはできなかったが、よく知る仲間を確認することは
できた。
(ビビ……)
そういえば、とジタンは立ち止まり支給された品であるザックの中を覗いた。
参加者名簿が入っているはずだ、それを手に取り顔写真一人ひとり確認していく。
夜目も利くジタンは容易に内容を読み取ることができる。
「あった」
ビビの名前を確認できた。他の参加者も隅から隅まで見てみたが、残念ながら知り合いはいなかった。
いや、こんなゲームに招待されなかったことは幸運と捉えるべきだろう。
それだけに自分とよりによってビビが呼び寄せられたという事実が恨めしかった。
そして、ふと気になる名前もあった。
(ガーランド……?)
顔写真は鎧兜を身につけておりその素顔はわからなかった。
だが、ジタンの生みの親ともいうべきあのガーランドは確かに死んだはずである。
同じ名前の別人だろうと思い、そのことはこれ以上深くは考えなかった。
と、ジタンが名簿をたたんで再び歩みだそうとした時だった。
(何かいる)
靄の中、前方に人影が走るのが見えた。
その人影は自分に向かってくるものと感じたが、急に方向転換をして後退していった。
追うべきかジタンは判断に迷った。
恐らく橋を渡っていてこちらに気づいたから慌てて引き返したのだろう。
となるとゲームに乗った参加者とは考えにくい。戦闘能力のない者なら誰にも出会いたくないはずだ
そういう参加者なら会っておいて損はない。貴重な情報が手に入るかもしれないし、あるいは有益な
支給品をもっているかもしれない。
だが、そう思わせておいてどこかで待ち伏せしているという可能性もある。
どうするべきか、そう考えている間にも相手は遠ざかってしまう。
【T-14/橋の上】
【ジタン@FF9】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、マサムネ(ジタン仕様・まだザックの中)、不明の残り二つ
第一行動方針:北へ逃げていった参加者を追うか考え中
第二行動方針:ビビを探す
基本行動方針:ひとまずゲームには乗らない
※遠ざかっていく参加者が誰なのかは次の人に任せます
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