駆け引き
何の変哲もない草原を早歩きで、だがなるべく音をたてないようにロックは進む。
いや、この場合は戻ると言った方が正しいかもしれない。
さっき橋を渡ろうとしたのだが、それの丁度中心あたりにいたのだ。
尻尾の生えた何者かが。
(あれは人のような何か……なのか?)
疑問は尽きなかったが、とりあえずその場を離れることに決めた。
もし相手がゲーム――このふざけた殺し合いに乗っていればいろいろとまずいからだ。
ロックの支給品にはマインゴーシュが入っていた。
この短剣は盾の代わりに使え、敵の攻撃を回避しやすくなるが、あいにく攻撃力はからっきしなのだ。
次に爆弾のようなものが十個。ピンを取り、相手に向かって投げて使用するみたいだが、どうも特殊効果があるようだ。
『投げて』使用するのだから、使用方法にもよるが当然接近戦向きではない。こちらまで被害を受けてしまう。
最後は……宝石なのだろうか。形は爆弾と似ている。青い鉱石が内側に虹色の輝きを内包しているような感じだ。
見たことのない宝石だが、この場において、これははずれなのだろう。
蛇の女が最後に言っていたことが一瞬浮かんだが、気にしないでおこう。
道具はあまり良くなかったが、あの時はさらに場所も悪かった。
あのような開けた場所で、この武器で戦うのはなかなか厳しい。一対一となるのだから、爆弾も無理となる。
殺し合いには断固として乗らないが、この命を易々と狩らせる気も毛頭ない。だが支給品がこれでは……。
そこで、素直に後退することにした。
が。
――ついてきてやがる。
ちらりと後ろを見ると、慌てて隠れる気配。おそらくさっきのやつだろう。
他の参加者にも飛び道具が配られている可能性は高い。攻撃してこないのは持っていないだけか、ゲームに乗っていないか。
ちなみに参加者の多くは魔法を使える者も多いのだが、そのようなことを今のロックが知るはずもない。
ゲームに乗っていないのであれば仲間になってほしいが、確かめようとして攻撃されれば危険だ。
「…賭けてみるか」
後ろから見えないよう、袋からマインゴーシュを取り出し、握りしめた。
前を行く人物をジタンはこっそりと追尾する。しかし、ここは比較的開けた場所なので、おそらくばれているのだろう。
攻撃を仕掛けてこないのだから、やはりゲームには乗っていない可能性が高い。
(あとはきっかけさえあればなあ)
僅かに感じるもどかしさに、ジタンは歯噛みする
相手はおそらくこちらを警戒している。それは当然の反応だが、このままでは平行線だ。
と。相手がふい、と崖を曲がった。見失わないように慌てて追いかけようとして、はたと気づく。
かすかに響いていた草を踏む音が、ぱたりと止んでしまった。それはつまり。
(待ち伏せだな)
「……おい」
自分のものではない、よく通る声が聞こえてきた。ジタンは何も言わず続きを促す。
「俺はゲームに乗っていない。でも、殺されるつもりもないんだ」
キン、と金属音がした。武器を岩か何かに打ちつけたのだろう。
「俺はジタン。俺もゲームには乗ってねえんだ。お前と戦うつもりは最初からないよ」
「そうか……もしそうなら、悪いが袋と武器を置いてくれないか?それで信用する」
これを聞き、マサムネの柄を袋の口から出し、そのまま前方に放り投げる。これで相手側にも見えるはずだ。
つづけて崖から出て、相手に姿を見せた。両手を上げ、もう何も持っていないことを示す。
バンダナを頭につけた青年は、少しばかり驚いた表情を見せたが、手に持っている短刀を自分に突き刺すようなことはしなかった。
彼はほっと溜息をついたあと、短刀をこちらの足元に投げ、袋を落とす。
「俺はロック。悪かったな、疑ったりして」
前に差し出される彼の手を、笑顔を見せながら握り返した。
【T-12/草原】
【ジタン@FF9】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、マサムネ(ジタン仕様・まだザックの中)、不明の残り二つ
第一行動方針:ロックと共に行動
第二行動方針:ビビを探す
基本行動方針:ひとまずゲームには乗らない
【ロック@FF6】
[状態]:正常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、マインゴーシュ、スモークボム10個、人工破魔石
第一行動方針:ジタンと共に行動
基本行動方針:ゲームには乗らない。マーダーには抵抗
前話
目次
次話