愛・戦士






詳しい座標はわからないが、ここはどうやら島の中央に聳える山の、北側中腹であることが伺える。
岩肌の露出した景色は、ティナの脳裏に荘厳なコルツ山を思い起こさせた。
雲の高さすらも超えるあちらに比べれば、この山の規模は幾分か小さいようではあるが。

山を登るか麓へ下りるか思案した後、ティナは山頂を目指すことにした。
ここから下山をするとなると必然的に島の北部へと向かうことになるのだが、地図を見る限り目ぼしいものは何もない。
人が集まるとなると最終的に行き着くところは、島に一つ存在する集落か、
この場所から薄らぼんやりとその姿を確認できる山頂の城、そのどちらかになるだろう。
そうなると、近くにある城を目指すのは最も利口な判断であるといえる。
登山はそれほど苦ではない。
城に行って何もなかったとしても、そこから集落を目指せばいいだろう。

翡翠を思わせる色の髪と、薄いマントを風に遊ばれながら、ティナは移動を始めた。
かつては一つにまとめられていた髪は、あの日から結ばれていない。
闘いが終わった日、自らの手で闘いを終わらせたあの日から。

魔法を司る神を倒し、神の力を吸収した宿敵をも殺した日、世界から「魔法の源の力」は消えた。
そして魔法と幻獣の存在は世界から失われてしまった。
父親から幻獣の血を継いでいるティナはこうして生きているが、
それは彼女が人間として大切なものを感じることができたから──彼女の父は、消える直前にそう告げた。
はたして父の言葉が真実だったのかどうかはわからない。
けれどティナは消えなかった。魔法と幻獣の力は失ったが、彼女は世界に残された。それだけが、事実だ。

そして、失われた力は──どういうわけか、ここに復活した。

先の城内で亡くなった黒服の女性は魔法を使っていたし、カオスなる異形の者からも禍々しい魔の力を感じた。
なによりティナは自身の内に力を感じ、試しに魔法を使用してみた。
結果、道端の雑草は見事に塵となった。

魔法の復活。

その表現は、正しいのだろうか。ティナは歩みを進めながら思考する。
世界から魔法が消えたと言っても、その後、彼女の記憶から魔法の呪文や詠唱に関する知識が消えた訳ではない。
消えたのは、魔法の源の力。と、彼女の仲間は言っていた。
そのことを全てティナがはっきりと理解しているかどうかといえば、答えは否。
ただわかる範囲で考えるならば、ここには魔法の源の力があると、そういう結論に達することになる。

ならばここは、一体、何処なのだろうか。当然ながら、そうういった疑問へと派生する。
滅んだ力の存在。見知らぬ島。
まるで、彼女の世界ではないかのような場所……──。

休息を挟みながら移動して、城まで目と鼻の先という所まで辿り着いた。
古めかしい城は、朝日を背後に、ひっそりと佇んでいる。
ここまで誰にも会わなかった事は幸運なのだろうか、それとも運がないのだろうか。

きっと「殺し合い」の舞台からは、逃げられないだろう。
こんな所で死ぬなんて考えたくはない。新しい家族の待つモブリズに帰りたい。
けれど無意味な死を重ねて掴んだ生にも、縋りたくはない。
自分はどうすればいいのか、考えてみたが答えは出なかった。

ティナは腰に携えた刀にそっと触れる。
──この武器を抜く事がなければいいのに。
小さく溜息を吐いた後、彼女は青い瞳に古城の姿を映した。

【K-8/岩山】

【ティナ@FF6】
[状態]:正常
[装備]:陸奥守@FF4
[道具]:支給品一式 確認済0〜2
 第一行動方針:城を探索
 第二行動方針:城に何も無ければ集落へ向かう
 基本行動方針:当惑中。乗りたくはないが死にたくもない



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