白と緑の序章






白いローブを身に纏い、天を崇め、立ち尽くす青年がいた。
「どうしよう……」
かつてカオスの脅威より世界を救った四人。彼らは「光の戦士」と呼ばれた。
そんな光の戦士の一人。白魔導士のディスは、聞いているこちらが情けなくなるような声で呟いた。
この“どうしよう”には二つの意味合いがあった。
一つは、
(―――生き残るにはどうすればいいだろう?)
正直、こんなゲームには乗りたくない。一箇所に集められ、殺し合うなんて考えたくもない。
だからと言って何もしなければ殺されてしまうだろう。ゲームに「乗る」人間は確実に存在するのだ。
かつて共に旅をした仲間―――あの黒魔導士ならいいアイディアを出してくれるだろうが、今は一人だ。
そしてもう一つの心配は、
「こんなの、どう使えって言うんだよう……」
彼に与えられた支給品。どれも『自衛』で済ませるにはいささか強すぎるのだ。
青白い刀身で安々と硬い装甲でも切り裂いてしまう、究極の刃。アルテマウェポン。
風のカオス、ティアマットの影響で作られた迷宮。そこで見つけた記憶のある一品だ。
恐るべきことにこの剣は、刀技に疎い自分でも簡単に扱えてしまうのだ。もし達人が扱えば……。
まあ幸いにも、彼に適した武器であるハンマーが入っていたのでこれについては問題なかった。
ちなみに最後の支給品は、見たこともないモンスターの人形だった。再びザックに入れておいた。
(うーん。そうだなぁ……)
とりあえずウィズは、いるかどうかもわからない仲間を探すことにした。考えるより行動である。

そして、サボテンと遭遇した。


緑色の体をして、無数の棘を持ち、呆然と空を仰ぐサボテンがいた。
『どうしよう……』
かつてビーカネル砂漠から旅立った10人の戦士。彼らはサボテンダーの里を守る役目を負っていた。
そんな修行中の身であるトーメは、サボテンダー語で誰にも向けず言った。
彼自身もとっくに気づいていることだが、
(―――僕は果たして生き残れるだろうか?)
もちろん、彼は並みの人間よりは強い。そこらの魔物となどは比べるまでもない。何せ魔法を無効化するのだ。
にも関わらず、トーメを縛り付けるのは開幕直後の惨劇。明らかに強そうな人間が即座に殺された事実。
自分よりも強い(はず。と思う)人間があっさり死ぬような状況で―――どうしろというのだろうか。まるで生きた心地がしない。
ともかく、彼は参加者の一人。アイテムは支給されていた。
それは、
『……何だろう、これ?』
各地の遺跡や洞窟を荒らしていた彼だが、どれもよく解らないモノばかりだった。
“強さとはパラメータである”とか、妙に哲学的な言葉が刻まれている腕輪。
何故だろう、見つめているだけでこの場から一刻も早く立ち去りたくなる、変な短剣。
絶対に地面に接触せず、奇妙な反発力をもって浮遊を続ける、謎の鉱物。
全てが見知らぬものであったので、この得体の知れない装備品達には手を付けない事を決めた。
元々、彼は己の肉体と針で戦うことが得意だったので、別にすっぴんでも問題はない。
(あのスフィアハンターさんなら何とかしてくれる……かな)
とりあえずトーメは、あてもなく知り合いを探すことにした。一人では心細いにも程がある。

そして、白魔導士と遭遇した。


『「……」』
両者の間に沈黙が満ちる。
「……(さ、サボテン?モンスターもこのゲームに参加してるの?)」
『……(うわあ……知らない人だよ。どうしよう)』
しばらく沈黙が続いて、
『「あの……」』
まったく同時に発言する。再び沈黙。
「……(よ、よかった。ゲームには乗ってないみたいだ。何言ってるか解らないけど)」
『……(ゲームには乗ってない……のかな?)』
ややあって、白魔導士から口を開く。
「えっと……僕の名前はウィズって言います。ゲームには乗ってません。あなたは?」
『ぼ、僕はサボテンダー族のトーメです。ビーカネル出身です』
サボテンは素直に返答した。したのだが、
「―――? ……すみません、何言ってるか解りません」
ウィズにはサボテンダー語は範疇外だった。
『どうやって伝えればいいんだろう……? そうだ!』
すると、トーメは俊敏に飛び上がり―――
「う、うわああああああ!?」
全身から、無数の針を飛ばした。思わずウィズが大きく飛びずさる。
カカカカカカッ、と針が地面に突き刺さる。直後、トーメは地面に着地する。
「や、やるのか?」
『気づいて……くれるかな』
白魔導士はハンマーを構えるが、一行にサボテンは攻撃する気配がない。
それどころか、針を打ち込んだ辺りをぐるぐるぐるぐる回り始めた。
「……?」
ここで、ウィズは気づく。まったく見当違いの方向へ針が放たれている事に。
そして、針がなんらかの形をとっていることに。
そこには、

【トーメ】

そう、針で文字が描かれていた。
「……」
白魔導士は暫く沈黙した後、問いかける。
「もしかして、名前。トーメっていうの?」
問いかけられたサボテンは、頷く。
「このゲームに乗っていない。そうでしょ?」
再度、首を縦に振る。

ここに、コミニュケーションが成立した。
とてもここが殺し合いの会場とは思えない、そんなやりとりだった。

奇妙な二人連れが揃って歩いている。
片や、白魔導士は仲間を求めて。
片や、サボテンは頼れる知人を探して。
共に、ゲームに参加する気は無くて。
故に、状況を打破する未来があると信じて。
奇妙な二人連れは歩みを進める。
【F-2/南部平原/朝】

 【ウィズ(白魔導士)@FF1】
 [状態]:健康
 [装備]:ミスリルハンマー
 [道具]:アルテマウェポン こうていのフィギュア
 [行動方針]:トーメと共に仲間を探す。ゲームには乗らず、自衛に勤める。
 [備考]:フィギュアは強く握ると「少しはやるようだな」「身の程知らずの蛆虫が!」「死ね!」「ウボァー」等ランダムで喋ります

 【トーメ(サボテンダー)@FF10-2】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:アイアンデューク チキンナイフ 浮遊石
 [行動方針]:ウィズと共に知り合いを探す。ゲームには乗らない



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