魔・算・衝
「皆何処にいるかなぁ」
導師は空を見る、その蒼さが逆に残酷に彼を襲う。
「これじゃあ俺一人じゃ生き残れる自信ないって」
己のジョブは導師、白き魔法を操り仲間をサポートするのがメインである。
攻撃手段といえばホーリーのみ、しかしそう何発も打てる物でもない。
「しかもよりによってこの姿の時に引いた武器がこれって言うのがなぁ。
他の皆が扱えることを祈るしかないなぁ」
とある国の名工が打ち上げたといわれる刀、正宗。
その長き身体はどんなものでも貫き切り倒す。
ちょっと振り回してみようと思い、忍者気分で刀を抜いてみたが。
片手で持つには到底無理な重さが襲い掛かる、両手で持っても持ち上げるのがやっと。
斬りかかる事などできるわけも無く、武器としては扱えそうにも無かった。
「やっぱ無理か、後は何があるかな?おっ、なんだコレは?」
足元が短いローブのような、それでも胴体部分は服のようにしっかりしていて。
申し訳程度に背中には羽がついている。
「コレを着るのか?」
唾を飲み、ゆっくりと袖を通してみる。
妙なフィット感、動きやすい。防御力はともかく、無いよりかはマシと言い聞かせ、とりあえずこの姿で歩くことにした。
「武器はこの木の枝だけか、せめて杖でいいから欲しいよなぁ」
ふと、無意識のうちに足が止まる。そのまま2、3歩ほど後ろずさった。
「最悪だな、こんな状況でさぁ」
殺気、肌に突き刺さるような殺気。この距離からでも分かるほど強烈。
視界の先の忍者の手には自分のザックにある正宗に勝らずとも劣らない名刀、村雨が握られている。
「やることは一つか」
もう2、3歩下がり、一気に後ろを振り向いて全力疾走、するはずだった。
逃げる先を読まれていた、既に逃げる先に立たれていた。
何度も方向転換をし、走リ出すが何度やっても目の前には忍者の姿があった。
逃げられない、絶対的な感覚がそこにあった。
「絶体絶命、かぁ」
手には木の棒、ザックにはまともに扱えない刀。
それでも、やるしかない。覚悟を決め、逃げ足を勇み足へと変える。
距離が縮まってきた頃に、飛んでくる手裏剣三枚。
身体を捩るがそのうち一枚が右手を掠めていく。
足元を狙い、スピード感に欠ける蹴りを足元へ繰り出す。
軽々と避けられ、おまけに反撃の拳まで貰ってしまった。
腹部から押し上げられる感覚が伝わり、体が中へと浮く。
更に手裏剣での容赦ない追い打ち、今度は確実に両手両足へ一枚ずつ刺さっていく
飛び上がる忍者、光る刀身、迫り来る死。
「ここまで、か」
全てを受け入れるようにその言葉を、小さく呟いた。
この世は全て必然で出来ている、成功も失敗も、生まれる場所も両親も、全て必然的に決まっていたこと。
それはすべてに同じ、誰の死であっても必然的に決まっている。
逆にいえば、これから先何が起こるかある程度は計算で求められるということだ。
必然を計算で予測する、可笑しな話だが確実だ。
「刀が振り下ろされる確率97%」
冷静に男と導師の目の前に進んでいく。
「刀を受け止める、若しくは回避行動に移る確率、約0.1247%」
男は只、黙々と数字と言葉を並べる。
「刀が振り下ろされるまで後約2秒」
その足にブレーキをかける、奇妙な手の動きと素早い口の動き。
刀が振り下ろされ、導師の体が忍者より下になった、正にそのとき。
「算術、ハイト3フレア!!」
ハイト、地面を0として忍者は丁度複雑な計算式で求められる「3」に居たのだ。
忍者に直撃する爆発、衝撃で地面に叩き付けられる。
「照準良し、引金を引いて当たる確率」
地面にたたきつけられた忍者がゆっくりと体を起こす。
「100%」
銃弾が瞬時に頭を貫いていく、再度地面に衝撃で後頭部を打ち付け、2度度動くことは無かった。
「あ、あの」
導師は助けてもらったモヒカンの男に話し掛ける。
「貴方が「ありがとう」を言う確率、97%」
「ありがとう……ってそこまで予測しなくったって」
少し導師が笑う、男はじっと導師の胸を見る。
「胸の部分を怪我しているようですが、算術の対象になれる位置に行けば私の力で回復することも出来ますが、どうしますか?」
「あー、いやいいよ。回復は俺の十八番だしさ」
何故か胸を隠すように男の方を向かないようにする導師。
「そうですか、私の名前はスティーヴンです。
この殺し合いから抜け出す公式を探し出しているのですが、よかったら協力してくれませんか?」
「お、そうか。じゃあ俺も喜んで協力させてもらうぜ!
俺はジーグって言うんだ、宜しくな!」
胸の押さえが離れた、胸の傷のあたりから白い包帯のような物が少しだけ見えてしまった。
「何故胸に包帯を…?」
「ああ、コレはだな。あの…ほらアレだアレ。
備えあれば憂い無しって言うアレだよ」
そんな事に耳を貸さずスティーヴンは己の理論をジーグに言い放つ。
「明らかに不自然すぎます、もし包帯を備えるならばどこか腰の当たりに隠し持っておくだとか。
その方が同じ面積でもたくさん持てます、第一胸に巻いているので使用時にいちいち外さなければ成りません。
しかも今みたいに胸部に攻撃を喰らった場合使い物にならなくなりますよ?
ですから私はもっと安全な………」
延々と語られる理論にピリピリしていたジーグは、助けてもらったことも忘れ大声で怒鳴りつける。
「あ"ー!もう!五月蝿ぇ!!いいか!耳の穴かっぽじって良く聞けよ!
そんでよく触れよこの野郎!」
触れ、という意味を理解する前に手を引っ張られる。
そのスティーヴンの手を自らの胸に押し付けるジーグ。
男にしては不自然なほど柔らかい感触が手に伝わってくる、まさか…?
「俺はなぁ!…女だ!」
周囲の木がざわめいた気がした、スティーヴンの耳に「女」という言葉がリフレインする。
「計算…不能」
なんと、そのまま白目をむいて倒れてしまった。
すべて必然を計算で求めてきた彼でも、あまりに予想できない展開。
「お、おい。どうしたんだよ、しっかりしろよ!」
スティーヴンの体を揺するジーグ、しかし反応が無い。
理論で生きてきた男の理論が、見事に崩れ去った様々な意味での歴史的瞬間だった。
【F−7/中央部/朝】
【スティーヴン@FFT(算術士)】
[状態]:気絶
[装備]:デスペナルティ
[道具]:定規、電卓
[行動方針]:ジーグに同行、仲間探し
[備考]:サポート【銃装備可能】、残りのアビリティは不明。
【ジーグ@FF3(導師)】
[状態]:腹部にダメージ。胸部、両手、両足負傷
[装備]:天使の白衣
[道具]:正宗
[行動方針]:スティーブンと同行、仲間探し
【ニンジャ@FF6 死亡】
手裏剣(13枚)と村雨はまだ回収していません。
【残り90人】
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