弱肉強食






次元の狭間に巣食う魔物―――名前が不明の為「リヴァイアサンに一蹴された奴」とでもしておこう。
実力はそこそこ、プライドの高さでは参加者中でもトップクラスの彼は。
現在、全力で逃走している最中だった。

逃げながら思考する。
(なんだ、なんだなんだ何なんだ一体奴は!わからん!理解できんっ!)
彼らの恐怖の発生源。それは―――

「待つアルよー!ワタシが責任を持って美味しく料理してあげるアルねー!」

食の探求者、クイナ・クゥエン。
ことの始まりはゲーム開始直後まで遡る。
ダークエルフの王、アストスと「リヴァイアサンに一蹴された人」はスタート地点が極めて近く、そのまま睨み合いとなった。
そこへ現れたのがクイナである。両者が睨み合っている中に割り込み、一言。
「くんくん……アナタ達、知らない匂いアルね。何かが根本的に違う匂いアルね」
「は?」
「何を言っておる、貴様」

「食の道を究める身としては逃せないチャンスアルよ!いただきますアルね!」

そう言うと、アストスへ突撃するクイナ。手には鋭いフォークが握られている。
「愚かな……焼け死ぬがいいわ!」
眼前にせまるクイナを見据えつつ、アストスは黒魔法の詠唱を開始する。
クイナとの距離が半分まで縮まった時、詠唱は完了する。
「ファイラ!」
ドドドドッ!と。
叫ぶと同時、多数の火柱がクイナの足元から出現する。
それは中心の標的を高熱で完膚なきまでに焼き焦がす!
……はずだった。
「アイヤー!熱っついアルねー!」
「!?」
クイナはその場で転げ回っていたが、それは転げ回るだけの余裕があるということでもある。
確かに『ファイラ』はクイナを捉えていたが、大したダメージは与えられていないようだった。
ならば。アストスは再び詠唱を開始する。
「炎には強いか……これはどうだ?」
「じたばたせずさっさと観念するアル!」
再突撃してきた、クイナとの距離が更に半分まで縮まる。
「サンダラ!」
バヂリバヂヂ!と。
直後に、詠唱という束縛から放たれた雷の雨が降り注ぐ。
一つ一つが数万ボルトという高圧電流の嵐は捉えしもの共を焼き尽くす!
ことはなかった。
「ビリビリきたアルねー!いいかげんしつこいアルよー!」
「! !? !! な、何故だ!?」
『サンダラ』は間違いなくクイナに直撃した。にもかかわらず、まるでこたえた様子がない。
狼狽するアストス。すでに敵は目の前まで迫ってきている。
何故、彼の魔法が通用しなかったのか―――答えは単純にも程があった。クイナの装備品もそれを手伝った。
大した威力が無かったからである。
「え、えええい!し、死ね!デ―――」
ザクリ。
唯一、アストスがクイナを葬り得る魔法は、腹に突き刺されたフォークで詠唱を断ち切られた。
「ぐ、う、ぐあああ!!」
「うーむ、やっぱり嗅いだことのない匂いアルね。一体……」
「い、一体?」

「……一体……どんな味がするか。とても楽しみアルな」

(味!?ま、まさか、こいつ、ワシを食b―――)

バクリ。
がぶがぶくちゃくちゃ。


――――しばらくお待ち下さい――――
――――しばらくお待ち下さい――――
――――しばらくお待ち下さい――――
そして、現在に至る。
「リヴァイアサンに(以下略)」の顔色は真っ青である。見てはいけないモノの一部始終を目撃したせいである。
もっとも、同じやりとりがあっても、彼クラスの実力があればアストスのように一方的にはならなかっただろうが。
(食われる。奴に捕まったら食われる。逃げないと逃げないと早く逃げないと―――!)
そんな彼の願いは、あっさりと、文字通り吹き飛ばされる。

突然出現した竜巻が彼を巻き込んだ。

「ああああああがああああぁぁぁあ!?」
青魔法『ツイスター』。使う度に威力は大きく変動する、巨大な竜巻を生み出す魔法。
「リヴァイア(以下略)」は訳もわからずきりもみ状態となり空高く放り出され―――
鈍い音と共に、地面に墜落した。
「ぐお、おおぉぉぉ……」
まともに体は動かない。畜生、動け。動け。動け!奴が来る。逃げろ!
「やっぱりこっちも嗅いだことのない匂いアルね」
(!!!!!)
クイナ・クゥエンがそこにいた。すぐ近くにいた。
そいつはとても幸せそうな顔を浮かべて―――

「では、いただきますアル」

(うわあああ嫌だやめろふざけるな助けて俺は死にt―――)

ガブリ。
ぐちゃり。がぶがぶ。


――――しばらくお待ち下さい――――
――――しばらくお待ち下さい――――
――――しばらくお待ち下さい――――
――――しばらくお待ち下さい――――
――――しばらくお待ち下さい――――
【D-6/道端/朝】

 【クイナ@FF9】
 [状態]:満腹
 [装備]:ニードルフォーク 月の腕輪
 [道具]:サントリーポーションの空き瓶12本
 [行動方針]:食の道を究める
 [備考]:『ラスロウ』『吸血』を習得

【アストス@FF1 死亡】
【リヴァイアサンに一蹴された奴@FF5 死亡】
【残り91人】




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