真夜中は別の悪女






「どういうことなんだ…」
フリオニールは混乱していた。
何が起こったのか、さっぱりわからない。
皇帝マティウスの魂は地獄で滅び、長い戦争が終わり、彼の世界は平和になったはずだった。
それなのに、何故また戦場に呼び戻されなくてはならない?
これが悪夢なら、早く覚めてくれと強く願った。

しかし、フリオニールが一人で悩んでいた時間はそんなに長くなかった。
彼の持つ戦士の本能が、背後から向けられた殺気に反応した。
「…っ、誰だっ!?」
殺気を感じた方向に集中しながら、迂闊だったとフリオニールは思った。
まだ支給品袋の確認もしていない。今からでは間に合わないだろう。
フリオニールは敵からの攻撃を想定し、逃走の構えをとった。
しかし、その緊張感は次の瞬間に消えうせることとなった。

「待って、フリオニール…!――私よ!」
草陰から響いた女性の声は、フリオニールが最も聞き慣れている声に違いなかった。
フリオニールは驚いて目を凝らした。紫色の髪が視界に映る。
「マリア!?」
「フリオニール!」
二人はお互いに駆け寄り、再会を喜んで抱き合った。
先ほどの殺気は、ここにいるのが俺であることに気づかずに
警戒していたマリアのものだったのか、とフリオニールは思った。
「マリア。大丈夫だったか?」
「…………私は大丈夫よ」
マリアはフリオニールの腕の中で俯いたまま、少し間を空けて答えた。
それでフリオニールは、マリアが殺し合いという現実に怯えているのだと認識し、
初めて、あの黒い甲冑の男、主催者に強い怒りを感じた。
「マリア、会えて良かったよ。俺と一緒にあの男を倒す方法を考えよう。
 あの皇帝を倒した俺達なら出来るはずだ」
「でも…」
不安そうなマリアに、フリオニールは優しく笑ってみせた。
「大丈夫だ。お前は俺が守る。きっと上手くいくさ」
「……ええ。ありがとう、フリオニール」
マリアは、フリオニールの胸に顔を埋めた。
(マリアだけは、俺が命に代えてでも守ってやらなくては…)
フリオニールがそう決心したのと、
ズブリ、と肉を斬る音が彼の耳に届いたのは全く同時の出来事だった。

「マ……リア…?」
フリオニールは混乱していた。
何が起こったのか、さっぱりわからない。
不快な音と共に、胸に電流のような痛みが走って、
何だろうと思い胸を見てみれば、痛い筈だ。刀が胸を貫通しているじゃないか。
マリアの歪んだ笑顔を瞳に映しながら、フリオニールは血を吐き、倒れた。
これが悪夢なら、早く覚めてくれと強く願った。
「どうし…て……」
「フフフ、それはね、フリオニール」
フリオニールはぼやけた視界の中で、
甲高い笑い声をあげながら、姿を変化させていくマリアを見た。
いや、彼女はマリアなどではなかった。前にもこんなことがあった気がする。
「最初に会ったのがアンタでラッキーだったわ。簡単に引っかかってくれちゃって♪」
――ああ、そういうことだったのか。
全てを理解したとき、フリオニールは自分は何て馬鹿なのだろうかと後悔し、
それ以上は何も考えることができなくなり、全てが停止した。

「ん〜、でも、他の奴等を騙すにはやっぱり…」
蛇女がそう言ってなにかを詠唱すると、一瞬のうちに美しい王女の姿へと変化した。
「こっちの姿かしらね。どう思う?」
先ほど刺し殺した男に問いかけるが、もちろん男は何も答えない。
いかにもか弱そうな王女の姿をしたラミアクィーンは、男の死体をつまらなそうに蹴り飛ばすと、
ザックを奪い、どす黒い笑みを称えたまま森の奥へと消えていった。


「嫌…なんなの、いまの…」
男が息絶え、蛇女が変化するまでを、陰から見ていた少女がいた。
彼女の名はリディア。召喚士一族の生き残りだ。
突然知らない場所に連れてこられ、殺し合いをしろと命じられ、
――セシルが、改心したはずのゴルベーザに殺されて…。
そして今、島にテレポートさせられて、早々に人が死ぬところを見てしまった。
それに、あの蛇の姿をした魔物。人間に変身できるなんて…。

…どうしてこんなことになったんだろう。
セシルの首がゴルベーザによって吹き飛ばされるシーンが、何度も脳裏で再生された。
嫌だ。このままでは、何もかもが壊れていってしまう。
「…やだよ、帰りたいよ。助けてよ、セシルぅ……」
リディアは行き場のない気持ちを抱えたままその場に泣き崩れた。
【B-6/森/朝】
【ラミアクィーン@FF2】
 [状態]:ヒルダ(FF2)に変身中、いつでもリジェネ
 [装備]:陸奥守吉行@FF7、光のローブ@FF9
 [道具]:フリオニールの支給品(未確認)
 [行動方針]:ゲームに勝利する

【リディア@FF4】
 [状態]:重度の鬱。
 [装備]:不明
 [道具]:不明
 [行動方針]:不明

【フリオニール@FF2 死亡】
【残り96人】




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