憑いた道化






「待てぇぇぇぇぇ!!」
「そんな事言われて待つ人なんかいないわ!!」

アリアハンの街で、リアラはビッケに追い掛け回されていた。
わけもわからず降り立った街で海賊風の男に追われる、これは非常に運の悪いことだ。
しかし嘆く暇も無い。追いかけられているのだからなんとかするしかない。どうする、どうすればいい。
そして彼女が到達した答えは、相手を晶術でなんとかすることだった。

晶術、それはリアラの世界で使われる術の名称だ。アリアハンでは「呪文」と表現するのが適当だろう。
規模の小さいものから大きなものまでその差は千差万別。
だが発動のためには一瞬動きを止めなければならない。詠唱の為の隙ができるのだ。

だが彼女はやるしかなかった。
多少のリスクを背負ってでも、必ず。

だがふと後ろを振り返るとビッケが、いない。
もしかすると脇道に隠れたのかもしれない。これはまずい事になる。
自分は先程この世界に来たばかりで地の利は無い。
だがあの男の方はどうか。もしかすると自分の遥か前にここに到着していたとしたら……。

そう考えた瞬間、彼女は意を決して晶術の力を解放しようと詠唱を始めた。

「氷結は終焉、せめて刹那にて砕……っ!!」

だが、それは途中で止められることとなる。
すぐ隣の酒場らしき建物の影からビッケが姿を現したのだ。
そしてビッケは確実にリアラの顔を殴った。当然ショックで詠唱が止まる。

「……ぅ…っ……痛………」
「さぁ、観念しろ……終わりだ」

だが、終わりではなかった。
ビッケは油断して気づいていなかった。
背後に、人影があったのを。
その人影が、ビッケの後頭部目掛けて大きな石を振りかぶったのも。


ビッケは頭から血を流しながら倒れた。
恐らくは死んでいないだろうが、確実に暫くの間は意識を失っているだろう。

リアラは、誰が助けてくれたのだろうか、と乱入者を見た。
その乱入者は静かに微笑んでいる。高貴なカリスマ性をも持ち合わせているような、紳士の様な男だった。

「大丈夫ですか?襲われていたようなので、つい手を出してしまいましたが……」
「いえ……助かりました、本当にありがとうございます」
「おっと、紹介が遅れました。私の名はデール。ただの気弱な男です」

静かな微笑を湛えながら、静かに男はそう名乗った。
そしてリアラは彼に礼を言うが……その足は、デールから逃げようとしている。
だがそれを察したのか優しく諭すように、そして安心させるようにデールは話し始めた。

「私はここに連れてこられはしましたが……ですが、わたしはまだこの奇妙な出来事に納得していません。
 何故女性を襲わねばならないのか、それが不思議でなりません。ですから、女性を一人でも護りたい…そう思っているのです」

礼儀正しいその口調から、悪意は微塵も感じられない様に思える。
リアラは安心して、デールに近づいた。相変わらず彼は微笑んでいる。

「そういえば…先程殴られてしまったのでは?この建物に入って、何か手当てできる物を探しましょう」
「え?あ…ありがとうございます。あ、私も名乗っていなかったですね。私は、リアラと言います……」
「リアラ……良いお名前ですね」

そして2人は、建物……ルイーダの酒場へと入っていった。

「困ったな、見つからない」

デールはごそごそとカウンター席で救急箱などを探していたデールは、そう呟いた。
リアラは椅子に座り、それをじっと見る。
殴られた箇所が痛むのだが、それを正直に言わずじっと見ていた。

「仕方ありませんね……では2階に行きましょうか、もしかしたら見つかるかもしれないですし」
「わかりました。あの、デールさん。その……言いにくいんですけど…喉が……」
遠慮しているのか、もじもじとリアラはそう言った。
最後ははっきりと聞き取れなかったが、デールはそれを察していたのか透き通った飲料水を彼女の前に出した。

「わかっていますよ。あれ程走られていたのですから」

リアラは、デールの思いやりに感謝しながら水を一気に飲み干した。
そしてそのまま導かれるように2階へと上っていった。



相変わらずがさごそと探すデール。まだ見つからないらしい。
そしてまた同じようにリアラは見つめている。だが、今回は少し勝手が違っていた。
疲労の所為か眠い。しかしここに連れてこられる前はしっかりと寝ていたはずなのだが。
次第にゆっくりとゆっくりと、睡魔に誘われていった。そしてそれを見て、デールが微笑んだ。

「おや、もうでしたか。かなり早いんですね」
もう?何がもうなのだろうか。リアラはもう殆ど動かない脳で言葉の意味をつかもうとする。
「実は先程救急箱ではなく睡眠薬が見つかりまして……いやぁ、しかしよく効いているものだ」
睡眠薬…そうか、だから私は…こうして……え?すい眠やく?
「あのお水は美味しかったでしょう?……おやすみなさい、リアラ嬢。後で、楽しみましょうね」
うそ……なん………で…すいみん…やくを、わたし……に………―――――――


「さぁ、壊してみるか?」

デールは、何か不思議な言葉を口にした。
気持ち良さそうに寝息を立てるリアラを見下ろして。

そして、デールは右手を伸ばし―――――


どれくらい眠っていただろうか。ゆっくりと、リアラは覚醒した。
だがまだボーッとする。自分が直前まで何をしていたのか思い出せない。
だがそれを必死に思い出そうと、リアラは頑張っていた。

そうだ、確かデールさんから渡された水を飲んで、眠くなって、それが睡眠薬入りで……。

『後で、楽しみましょうね』

思い出した。
そして自分は無防備にも寝てしまい、そして今こうして目を覚ましたのだと。
リアラは、未だボーッとする視界で辺りを見回した。
そして、あることに気づく。

自分の身に着けていたものが、散乱している。
あのお気に入りの服も、靴も、下着すらも。しかも衣類や下着類は破けてしまっている。靴は無事だが。
何故か冷静なまま、急いで服を取ろうとする。だが、動けなかった。それに…口にも奇妙な違和感が……。
色々な違和感に気が付いた瞬間、彼女の冷静さは露と消えた。

「むぐぅ……っ!!」

「助けて!!」と叫んだはずだった。だが声が出ない。
そしてリアラのくぐもった声と吐息が響く部屋の中に、人影が現れた。

そう、それはあのデール。大きな鏡を持って、2階に上ってきたのだ。

「おはようございます。いやぁ、しかしこれを持ってくるのに苦労しましたよ」
くすくすと笑いながらそう言うデール。そして鏡をリアラの前に立てかけた。
「起きたばかりでよく状況が飲み込めないでしょう?見せてあげますよ、リアラ嬢」

前に置かれた鏡には、一糸纏わぬ姿で椅子に縛られ、猿轡まで噛まされているリアラの姿が写っていた。


「んんぐぅ〜〜〜〜〜!!」
「では解説をさせて頂きますと、先程言いました通り私はここの1階で睡眠薬を見つけました」

呻き混乱するリアラをよそに、デールが爽やかな笑顔で説明を始めた。

「とりあえず最初からあなたを襲おうと考えていたわけですし……これは好都合でした。
 早速あなたを眠らせ、そしてあなたの支給品を見るとロープだったではありませんか!――――そこで思いつきました。
 あなたに呪文を使わせるわけにはいかない。ならば口を塞いで、唱えられなくすれば良い。その為の布などどこにでもある」
「んぐぅ!むうッ!!」
「まぁまぁ、不平を言うのは後でお願いします。まぁそんなこんなで私はあなたに襲うことに決めました。宜しく。
 ああそうだ、リアラ嬢には猿轡を噛ませていますが……口の中には何が入っていると思いますか?」
「………っ!?」
「ヒントは、あれです」

無理矢理首を曲げられ、視界を左に変えられる。
そこには自分が先程までつけていた下着があった。もうぼろぼろで見る影も無いが。
だが、何かが足りない。そうあ、下着というのは2つで1つだ。それが一つ足りない。
あそこにあるのは自分の胸に当てるブラ。じゃあ無いのは……。

「わかりましたか?あなたの口の中で唾液に塗れている物……それは……」
リアラは気づいてしまった。

…それは、私が穿いていた、パ――――――

「んんぅ!むぐぅ!ぅぅ……うぅう……」
「嫌ですか?嫌でしょうね、哀れですもの」

吐き出そうとするが、だが当然無理な話。口が無理矢理咥えている布が口を開く事を許さない。
そして遂にリアラは泣いてしまった。現状を、自分の不甲斐無さを、運命を恨んだ。

リアラは逃げたかった。だがそれはできない。
手足を縛られ、更には椅子にまで縛り付けられている彼女の白く細い体ではどうしようもない。
それでも必死にもがくが、体の一部に赤いロープの痕が出来上がるだけだった。
そして疲労し、前を見ると……卑猥な姿でそこにいる自分の姿が嫌でも目に映る。

そしてデールが近づいてくる。
「ふーっ……ふーっ……」
今の彼女は吐息を漏らす事しか出来ない。怖い。動けない。逃げたい。できない。怖い。
「さて、どこが好きですか?…直々に教えてくださいね」
そう言うとデールはリアラの首筋にキスをした。


そう、これが合図。


デールはまずはリアラの胸に手をつけた。まだ小さいその房を、優しく揉み解す。
その彼の手の動きにリアラは心底不快感を露わにした。
こんな事は、彼女が愛している人間にすらされたことが無い。ましてや、無理矢理他人がこんなことをしている。
「んんっ…ぐ……むう………」
抗議の叫びを上げようとするが結局猿轡に邪魔され、できない。
「…もう少し悦んで頂けると思ったのですが……胸はお嫌いでしたか」
相手がそう言うが、それはリアラにとっては意味の無い言葉だ。自分にとってはこの状況こそ「嫌い」なことなのだから。

だが自分のその叫びが相手に伝わることもなく、そのままデールは続ける。
そして暫くしたところで、彼はリアラの両脚を左右に広げた。そこには濡れてもいない、そして毛も生え揃っていない可愛らしい割れ目があった。
これでデールは確信した。彼女はこういった体験をした事がない。そしてこういう事への悦びを知らない。

「こういうものは慣れです、一朝一夕で知るなどということは有り得ません……ですが、できるかぎり教えてあげますよ」

そう言ってデールは自分の何本かの指を舐めると、彼女のその可愛らしい割れ目へ……そっと、指を滑らせた。
そしてその中で静かに、だが激しく、だがとても優しく指を動かした。

「むぐんんっ!?んっ!!んふぅ―――――っ!!!!」

その時、リアラは心の中で新たなものを知った。


嫌だ、変なのが入ってる…背中がぞくぞくする……。
でも、嫌だって言ったけど…嫌じゃないかもしれない。
でもこれは何?これはどういう事?これは私は知らない。知らない、知らない、知らない!


彼女の心の叫びがどういう主張だったのかは、彼女にしかわからない。
だがわかる事は…デールが彼女の秘所に指を入れた瞬間、彼女がくぐもった大きな叫びを出し、大きく仰け反る様に動いたこと。
そして彼女の秘所から、彼女の生んだ愛液が流れ出したこと。

それを見て、デールはいつものように微笑んだ。
「そう、これでいいんですよリアラ嬢。よくできました、偉いですね」
そしてそう言い、彼女の頭を愛情込めて撫でた後……。

また、今度は指ではなく「舌」を滑り込ませた。

「ん゛っ!ん゛んっ!!ぅあ、んううぅうっ!!………あうぁ………むふぅ…ふぁ……っ!ふみゅう……」

自分の恥ずかしい所への、侵入。
それによってリアラは、静かに壊れだす。


嫌だ、変に、変になっちゃう…おかしいよ私……。
ごめんカイル…私はもうあなたには会えない……。
こんな変なわたしをみせたくない。再かいなんてできるはずない。
こんなのいや。こんなへん態みたいなの、もういや、いや、いや、いや、いや、いやぁ…。
ごめんねかいる、さよなら………かいるぅ―――――――――ずっと……だいすきぃ…………。

彼女はそのまま、やめた。色々なことを、やめた。

今の状況を呪うこと。
脳で考えること。
相手の行動に抵抗すること。
今されていることを「嫌だ」と認識すること。
不快だと叫ぶこと。
相手を憎むこと。

それらを全てやめ、受け入れた。
否……受け入れるしかなかった。

「んっ、んっんっ…ふむぅ……ふぁ…むうぁ……」

「ふぁ…あふぅ……むぐうううぅ〜〜〜!」

「ふうぁっ!んんーっ……ふぅううぅ………」

こうしてくぐもった喘ぎ声を出せば良い。
目の前の鏡で、自分の狂っている姿、淫猥で卑猥で変で最悪な自分を見つめれば良い。
そして最後に男の人のあれを、自分の中に入れてもらえば良い。
そして自分は何も考えず、カイルにさよならを言えずに、淫猥な快感の頂点に辿り着いて、蝙蝠に囲まれ消えてしまえば良い。

彼女は、無気力のままそうした覚悟を決めた。
そして最後に……大粒の涙をとてもとても沢山流し、泣いた。

「むぐうっ…んんぅ……ぅうっ………んん……ぅぅ……」

くぐもった泣き声が、部屋に響いた。
そして何度目の涙が床に落ちた頃だろうか、デールは急に一連の行動を止め…彼女を縛っている椅子のロープを解いた。
リアラが虚ろな瞳でデールを見ると、彼はまだ微笑んでいた。

そして椅子の縄は解かれた。未だ手足は縛られ、猿轡を噛まされてはいるが。
「まぁ…こんな所で良いでしょう。満足ですよ。それに、こんなに飲み込みの早いあなたを殺すのは惜しい」
「ぅむん…ふ………」
なんで?とリアラは呻き声で尋ねた。だが相手にそれが伝わろうが関係ない。その証拠に、相手は勝手に喋りだす。

「見たでしょう?見せしめを。目の前であれを見るのはきついですから……。
 という事で、あなたが快感の最高点に達する前に……やめてあげますよ」
そう言ってデールは、彼女の体を…俗に言う「お姫様抱っこ」で抱え、1階に下った。
そして1階の部屋の床に、そのままリアラを下ろした。
何をしているのかがわからないという様に、虚ろな目をデールに向ける彼女を見てまたデールは微笑んだ。

「そのまま叫び声を上げるのも良いでしょう。運良く自分の存在が、良い人に見つかることを祈ってくださいね。
 あれですよ、"放置"ってやつです。あなたと私はここでお別れです。頑張って、自分をアピールしてくださいね」
そう言ってデールはリアラを置いて、酒場から出て行った。
置いていかれたリアラの虚ろな瞳は、入り口から見える外の景色を写していた。
そしてデールはその足でもう一度ビッケに会い……もう一度岩で彼を撲り、とどめをさした。

一人の男が起こした悲劇は、そっと静かに幕を閉じた。

 名前 リアラ 【TOD2】
 行動目的 放置される
 所持品 ロープ
 現在位置 アリアハン ルイーダの酒場1階で放置
 備考 ロープで手足を縛られ、布で猿轡を噛まされています

 名前 デール 【DQ5】
 行動目的 新たな獲物を探す
 所持品 睡眠薬(沢山)
 現在位置 アリアハンの街のどこかを散策中

【ビッケ(FF1) 脱落】



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