タバサの誤算
誰もいない平原を金髪をおかっぱにした少女が歩いている。
黄緑色をしたリボンを二つ結んでおり、時々それを気にしながら
草原を歩いている。あどけなさと気品と、本来同居しないだろう
二つの形質を併せもっている。顔色からは不安と困惑が窺える。
自分の身に振りかかった困難をどう乗り越えたものか思案をしているようにも見える。
なぜ齢十にも満たぬような稚児が一人でここを歩いているのか。
話は少し前まで遡る……
まだ若い、というより幼い彼女はグランバニアという国の王女である。
彼女は、数奇な運命に翻弄される父、そして母、双子の兄と共に旅をしていた。
ある新宗教の信仰の対象と為っていた母を救い出した後、世界を闇で覆いつくそうとする
ものと戦う為に、異世界に赴こうとしたとき。喪失感と落下感とに襲われて、
王女は意識を失った。
次に目を覚ましたとき、彼女はどこともわからぬ城の大広間にいた。
周りには不安げに様子を見ている数十人もの女性たち。
王女の母と同じくらいのものも、それより若い者もいた。
髪も瞳の色も様々で、肌や服もそれぞれ違う。まるで人種の博覧会のようだった。
身の上にふりかかった出来事を忘れてしまったかのように辺りを見回していると、
王女の母――ビアンカの姿を発見した。再会を喜ぶ暇も一緒に冒険をしていた家族、
仲間達を探す暇もなく、それからすぐに状況は動き始める。
――そして。過激なアトラクションが始まった。
特徴的な黄緑のリボンを触りながら、歩み続ける。
これは彼女が考え事をするときの癖だった。リリスと名乗った紫色の髪の少女に
突っかかっていった少女の名前と顔つきに見覚えがあったのだ。
妖精の国、そして天空城でみた肖像画。あるいは英雄譚。
サントハイムの王女アリーナ。かつて世界を救った導かれしものたちの一人……
歴史の中の人物である筈だった。遠い過去の話である筈だった。
それがなぜ……?
そこまで考えて、不意に頭の中でアリーナの嬌態がフラッシュバックした。
少女の白かった頬が赤く染まる。アリーナの媚態が始まってすぐに、
ビアンカによって目が塞がれたが、子供の旺盛な好奇心をとめる事はできなかった。
そもそも、艶のある声まで止める事はできないのだ。
この年頃の少女の多聞に漏れず、王女も耳年増であった。
賄い達がこっそり教えてくれた艶話。図書室の隅に隠されている秘本。
そして、グランバニア王家に伝わる伝説の財宝エッチな下着。
こっそりと父と母の房事を覗いたことさえある。
だから、今目の前のおてんば姫を襲っている行為がどんな物なのかも
自覚していた。無論、見るのは初めてであったが……
それからすぐに再び意識を失い、目覚めたら一人で平原にいた。
傍らには何かの骨で作られたような、表面がつるつるとした小さな棒が落ちていた。
朱で何か印のような物が彫られている。これが支給品ということらしい。
とりあえず拾い上げる。それは「点棒」という麻雀に使う道具だったのだが、
麻雀がない世界の人間にはわかるはずもなかった。
平原は、どこまでもどこまでも広がっている。
見渡す限り人がいない。雲の流れる青い空を見ていると、
この空が作り物なのかどうか判断ができなくなってくる。
他の参加者がこのアトラクションをどう理解しているか、納得したか
わからなかったが、王女はなんとかして誰かに会いたいと思った。
自分のような子供なら標的にはならないだろう、だから安心して話せるだろう。
そしてできるなら皆で協力して、こんな遊びをやめさせるんだ――
きっと、尊敬する父や母ならそうするだろうから。
邪悪を憎み平和を愛するグランバニア王家の血筋は、
たしかに王女に受け継がれていた。
だが、彼女は知らなかった。生理を迎える前の子供に欲情する種類の人種が居る事を。
それは自分の世界の埒外のことで、想像すらした事はないであろう。
そして少女は気づけなかった。茂みに隠れ、自分が来るのを待ち伏せていた人間がいた事に。
どちらも彼女に罪は無い。だが、手痛い誤算であることには違いなかった。
ある意味では、グランバニア王女は参加者の中で最も不幸な女性だったかも知れない。
彼女が初めに会った人間が、よりにもよって子供に性欲をもてあます類の「男」で
あったことである……
肩を地面に押し付けられ、口元を手で塞がれる。悲鳴を挙げる事もできず、
金髪の少女は組み伏せられた。その瞳にバンダナをつけた長髪の男が写る。
逆光になっていて表情をうかがい知る事はできない。
両の耳もとに荒い息がかかる。バンダナの男は真正面にいて
角度から耳に息を吹きかける事は出来ないはずだった。
首を向けられず、目だけを左右に向ける。
青と赤――奇しくも、王女と双子の兄のトレードマークの色と同じだった――の竜が
そこには鎮座していた。ぱっくりと口を開けてざらついた舌を出し入れしていた……
名前 タバサ(主人公の娘)【ドラクエ5】
行動目的 なんとか窮地を脱出したい
所持品 点棒(スーチーパイ)
現在位置 アリアハン西の平原
名前 アシュトン・アンカース 【スターオーシャン】
行動目的 不明
所持品 なし
現在位置 アリアハン西の平原
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