淫靡なアトラクションへのinvitation
――珠間瑠市 キスメット出版社『クーレスト』編集部――
この空間は時という概念が一切無くなることがある。
例えそれが深夜であってもだ。
『え、終電間に合わないの? アタシが今から車で迎えに行こうか?』
「サンクス、うらら! でも私なら平気。今日は編集部に泊まっていっちゃう」
親友の気遣いに女の顔が綻ぶ。多少の疲れが見受けられるものの、その声の響きは明るかった。
『本当に平気なのぉ?』
「勿論! 丁度書かなければならない原稿もあるしここにいれば遅刻の心配もないでしょ?」
『……オッケー。でも体壊すんじゃないわよぅ! いくら頑張ってもダウンしたら意味ないんだからね』
「ラジャー♪ お気遣い感謝!!」
携帯電話の電源を切り、女はまたパソコンのモニターとにらめっこをはじめる。
黒目がちの大きな瞳に映るのは文字、文字、文字……終わりを感じさせない文字の羅列のはずだったのだが……
「ハーイ! お仕事お疲れさま〜」
今までモニターを埋め尽していた文字の山は一瞬にして消え、代わりに紅い瞳の少女が現れた。
女は我が目を疑った。これは一種のノイローゼなのだろうか。それともパソコンが新手のウイルスか何かにかかったのだろうか。
いずれにしよ、疲れている頭では上手く考えがまとまるわけもなかった。
「…………どうしよう……パソコン叩けばなおるかしら?」
「やだっ、叩かないで!」
モニターから言葉が発せられる。
「…………!?」
「驚かせちゃってゴメンね、お姉サン」
モニターの中の少女が指を鳴らすと、甘く香る桃色の霧が辺りを包みこんだ。
それと同時にモニターの中にいたはずの少女は液晶画面を飛び出し、女の豊満な胸へと飛び込む。
「あ、あなた……」
「ふふっ。セクシーで頑張り屋のお姉サンを素敵な夢の世界へごあんな〜い♪」
「っ……」
少女から突然口付けられると、女の全身の力が抜けていった……。
「……たつ……や……くん……」
朦朧としていく意識の中、女が口にしたのはある少年の名。
しかしその声も虚しく、しなやかな身体はそのままバランスを失い、少女にしなだれかかる形となる。
「やったぁ! いっちょあがりぃっ♪」
無邪気な、ある種この異様な状況にはそぐわない微笑みを浮かべ、少女ははしゃぐ。
「それじゃお姉サン、また後でね!」
少女がそう囁くと腕の中の女は、手品の花のようにその姿を消された。
「えーっと、次はこのコだね。うわぁっ……すごく綺麗だぁっ!!」
本来の主がいなくなったはずのモニターには一人の美少女の画像が表示される。
少女はその画像を満足げに見つめるや否や、指をならした。室内の照明が一斉に消える。
そのまま、何事もなかったかのように少女は窓をすり抜け、夜の街へと文字通り羽ばたいていった。
「う〜ん、今日は忙しくなりそう」
この晩の月はいつもと異なり紅く妖しい光を帯びていた。
いよいよ始まるんだね……うーん、わくわくしちゃうっ!!
リリスね、この日のために頑張っていろんなコを集めたんだよ。
金髪のコに黒髪のコ、青い瞳のコに茶色い瞳のコ、経験豊富なお姉サマにまだ何も知らないお子ちゃま、綺麗なコに可愛いコ、活発なコに内気なコ……
一つだけハッキリしているのは、どのコもみんな食べちゃいたくなるぐらいに魅力的ってコトかな!?
そんな彼女たちが……あんなことやこんなことになっちゃうなんて……
ふふっ、楽しみだなあ!
あ、そろそろ彼女たちにゴアイサツしてこなくちゃ!!
折角のおもちゃ、じゃなくてお客様を待たせちゃ可哀想だもんね。
うふふふふ……あははははははっ……。
(わたし、どうしちゃったんだろう……)
麻宮アテナが目を覚ますと、そこは中世の城のような場所だった。
辺りはやや暗いが、なんとか認識は出来る。
大きなシャンデリアに、ふかふかの絨毯。眼前には王様しか座れなさそうな立派な椅子がある。
(昨日机に向かったところまでは覚えているんだけど)
修行、ボイストレーニング、テスト勉強……『日本一多忙な女子高生』も疲労には勝てなかったということなのだろうか?
(………………)
まだ寝惚けている頭をスッキリさせる意味も込め、もう一度辺りを見回す。
シャンデリア、絨毯、豪華な玉座、そしてたくさんの女。
「…………何、これ……………?!」
アテナは思わず叫んだ。
辺りをもう一度、そうもう一度だけ見回す。シャンデリア、絨毯、玉座、女、女、女、女、女…………。
人種も年齢も服装も全て異なる女たちが、空間内にまるでオブジェのように無数にちりばめられている。
共通して言えるのはどの女も美しく、そしてみんな眠っているということだけだ。
(これはルガールの仕業……? それとも…………)
「う〜ん……きょぉさまぁ……ん……」
考え込むアテナのすぐ隣からなんともお気楽な眠り姫の寝言が聞こえてくる。
「やだぁん……京さま……そんなこと……えへっ、えへへ……」
「起きて! 起きてください!!」
アテナは少女の体を強く揺さぶった。
「……ん…………」
少女の瞼がゆっくりと開く。そして第一声。
「ひどいママ! 今起こさなくたっていいじゃない!!」
元気のよすぎるその声に周囲の眠り姫も次々と目を覚ます。
愛する王子様による甘い口付けとは無縁の目覚めに眠り姫たちは戸惑いと驚きを隠せずにいる。
「なんやコレ? また地獄門の仕業かいな!」
「あ、新手のドッキリ? じゃないわよね……」
「ここは……どこなの……? 私たちがいた世界とはどこか違う……」
「どういうことなんだい! おい、あんたたち無事かい?」
「……あれ? ママは……?」
先程の声の主はぽかーんと口を開けたまま固まっている。
「あ、あの、落ち着いて聞いてください。私たちは、その、何者かに浚われたみたいです」
アテナは平静を装いながら目の前の、どこかで見たような学ラン姿の少女に説明をする。
「拉致ですか!?」
「ええ、はい、拉致だと思います」
「誰がなんのためにですか!?」
「ごめんなさい、わかりません……」
学ラン姿の少女の顔が見る見る内に歪んでいく。
「うわあああんっ、京様ーーーっ!!」
「こらこら、泣いてても王子様は助けに来ないよ?」
甘く可愛らしい声が頭上から響いた。そこにいた全員が一斉に声の方へと向く。
「本日は舞踏会へようこそいらっしゃいました。私はリリスと申します」
活発な印象のショートヘアに金色のティアラ、赤いドレスを身に纏った可憐な少女がふわりと空から舞い降りる。
「……なんてねっ。キャハハ!」
「あんたさっきの!」
「こんなところに私たちを連れてきてどうするつもり!?」
「てめえ! よくもアタシまで妙なことに巻き込みやがったな!!」
その姿に見覚えのある者も何人かいた。この場に浚われる直前、つまり現世で最後に見たのがこの少女の姿だったのだ。
「あなたが……やったのね?」
アテナも自らをリリスと名乗った少女に問いかける。
「みーんな人聞き悪いなぁ〜。リリスがせっかく素敵なアトラクションに招待してあげたっていうのに」
リリスが頬を膨らませる。
「あ、アトラクション?」
「そう。アトラクション! 今日は皆さんにイカせ合いをしてもらいま〜すっ!!」
はしゃぐ声にリリス以外の全員が言葉を失った。
「イカせ合いだーーーっ!?」
童話の世界から飛び出してきたかのような赤ずきんが、容姿にそぐわぬ声をあげる。
「そっ、イカせ合い! バレッタも興味あるでしょ?」
「お前バッカじゃねえの?! ここにいるのは女ばかり。それでどうやってヤルっつーんだよ!!」
赤ずきんバレッタのややピントのずれた発言に対し誰かが「そっちかよ」とボソっと呟く。
「おちんちんがないなは道具とテクでイカせ合えばいいじゃない? その辺はお役立ちアイテムを一人につき一つずつプレゼントしてあげるからご安心を♪
ふっふー、何が出るかはお楽しみ!!」
突飛すぎる発言に眉をひそめる者も少なからずいた。
むしろ今の状況で平然としている者を探す方が難しい。
「女のコ同士も悪くないものだよ。どうしても男とじゃなきゃイヤって人たちのために男も30人ぐらい用意しているけど……」
「男? やっぱり男もいんの?」
バレッタが問う。
「うん、そう男。可愛い女の子たちととにかくヤリたくて仕方がないパワー有り余るオオカミくんたち。
でもね、守ってもらおうとか考えちゃダメ!
彼らはみんなのコトを食べちゃう、わっるーいオオカミたちなの。だから、なんなら殺しちゃってもいいよ。正当防衛ってやつだね」
食べちゃうという言葉が強姦を意味しているということを、大体の者は理解していた。
しかし、強姦の恐怖よりも死の恐怖が勝る。
「殺す……? 私たちも殺されるかも知れないってこと……?」
「安心して! みんなは死なないよ。リリスが特別な力で守ってあげるから」
死の恐怖が薄れたとはいえ、強姦の恐怖が消えるわけもない。安堵の表情を浮かべる者は皆無といっても過言ではなかった。
「もー元気出してよー! 女の敵、オオカミくんを全滅させられたらご褒美として、ここから出れる人を二人に増やしてあげるからさ!」
「ここから出れる人……ってことはやっぱりここから出れない人もいるってこと?」
「ご名答! このアトラクションで一度でもイッちゃった弱くて淫乱な雌犬ちゃんは一生奴隷として奴隷収容所で頑張ってもらいま〜す!!
勿論、元の世界には戻れませーん!!」
辺り一面がざわつく。慟哭、怒号、悲鳴……それすらもリリスにとってはこのアトラクションを盛り上げるための心地良いBGMなのかもしれない。
「死ぬまで好きでもない沢山の男たちにボロ雑巾のように弄ばれる人生……それが嫌なら他のコを犠牲にしてでも頑張らなくちゃ。
また好きな人や家族や友達に会いたいでしょ?
自分の世界に帰って自由に遊んだり、美味しいもの食べたり、あったかいお布団で寝たいでしょ?
……幸せになりたいでしょ?
幸せへのチケットは一枚。頑張ってもペアチケットにしかならないの。
だから戦って! オンナの本性を剥き出しにして人間なりの幸せを奪い合って!!」
「ふざけないでよっ!」
うっとりとした眼差しで語るリリスの長台詞にかぶさるように凛とした声が響いた。
声の主は引き締まった身体つきとアプリコットブラウンの巻き毛が映える、健康的な美少女だった。
「アナタは確か、サントハイムのお姫様、アリーナちゃんだったよね。どうして怒ってるのかなあ?」
「どうしてですって? よくこんな人を踏みにじる様なふざけた真似出来るわね! あたしたちはあんたのオモチャになんかならない!!」
アリーナは強い意思を持った瞳でリリスを睨みつけ、つかつかとリリスの方へと歩みを進める。
だがリリスは少し不機嫌そうに目を細めただけで、特に動じてはいないようだ。
「……このアトラクションが不満ってこと?」
「当たり前でしょ! 早くあたしたちを元の世界に帰して。そうしないと本気で怒るわよ!?」
リリスめがけて、アリーナは勢い良く、拳をあげた……
はずだった。
「……!?」
アリーナは驚いた。リリスに打撃を与えられないばかりか、自らの身体が思うように動かなくなっている。
「もー、暴力的な女のコはモテないよ?!」
ふくれ面のリリスが指をパチンとならす。
その動作が、驚愕を含んだ新たなる衝撃を引き起こす。
「あ……あっ……」
アリーナは訳もわからぬまま快楽に捕われていた。若さに満ち溢れた肢体は熱を帯び、魂とは裏腹に刺激を求め始める。
衣服を自ら乱れさせ、右の手を豊満な乳房に、左の手を痛いほど敏感になっている秘部へとそれぞれ滑らせる。
「アリーナ!? 何してるの?」
「わからないっ、指がっ、指が止まらないよぉ……」
蜜に吸い付くかのようにアリーナの両手あわせて10本の指は彼女の敏感な箇所を攻める。
桃色の乳頭が潰され、引っ張られ、こね繰り回される。
まだ触れられたことすらないはずのない秘部が蜜に溢れ、指の動きを逃すまいと貪欲にうごめく。
「……あたしっ、こんな、こんなの……やだっ」
アリーナは涙を浮かべていた。
嫌なはずなのに、痛いはずなのに、鈍く鋭い快感から逃れられない。
「見ないで……見ないでぇっ……みんな、この指止めてぇっ、うぁっ、ああっあ、あんっ」
アリーナの意思を無視した指は愛撫をやめることなく、彼女を犯し続ける。特に秘部を飾る桃色の真珠を重点的になぶるのが、指の好みのようだ。
「アリーナしっかりして!! ……っ」
友人と思われる女性がアリーナに触れようとするが、特殊な結界により弾かれてしまう。
「あぅぁ、うぁっ、あ、あ、あぁぁ……ひあぁぁっ……」
友の声も虚しく、アリーナの理性が薄れ、声が獣じみてくる。薄れた理性に共鳴するかのごとく壊れた秘部はアリーナの涙のようにとめどなく蜜をだらだらと垂れ流していた。
そして勇敢なる姫のオナニーショーにもフィナーレがついに訪れた。
「助けて……やだ……やだぁっ、あぁっ、やぁっ……ぁ、ああああああんっ……!!!」
身体がびくびくと跳ね、極みの声をあげたその時、蝙蝠がアリーナを囲むようにしてどこからか舞い降りてきた。
そのまま無数の蝙蝠に包まれたアリーナの姿は消えた。
見ている側にとっては何が起きたかを即座に理解するのは難しかった。
「はーい、これでアリーナちゃんは奴隷第一号になりましたー♪」
リリスの声が乙女たちに地獄のような現実を思い知らせる。
「あんた……よくもアリーナをっ!」
華やかな顔立ちを先程のアリーナのように憤怒の色に染めた一人の舞姫が叫ぶ。
が、リリスを殴りかかろうとする彼女の動きは瓜二つの美女によって制止される。
「…………姉さん、待って」
「ミネア、なんでよ! なんで止めるのよ?」
「姉さんだって……さっきの……見たでしょ……?」
「っ!!」
褐色の肌が映える美しい姉妹は、お互いを抱き締めたまま言葉を失った。
二人の瞳からは涙が溢れそうになっていた。
「……これでわかってくれたよね?」
リリスが話しかけても誰も反応しない。
「みんなには今からリリスの術で移動してもらいます!」
それでもやはり反応はない。
「ちなみに、今から皆が行ってもらう場所はリリスの術で作り出した場所だから、脱出することはムリだよ! たぶん」
誰一人として言葉を発しなくなった広い部屋の中でリリスは話を続ける。
「ずーっと同じ場所じゃみんなも飽きちゃうだろうから24時間毎に景色を変えてあげる!」
リリスには乙女たちの心の声が聴こえていた。
「ムリに脱出しようとしたらアリーナちゃんみたいにお仕置きしちゃうよー!
お仕置きのバリエーションもリリスなりにいっぱい考えてるから、お仕置き大スキなコはわざと逃げようとしてもいいかもしれないねっ!!」
また誰かの「ふざけるな」という心の声が聴こえてくる。
「それとたま〜にリリスがみんなにお話してあげちゃうかも。 誰がイッちゃったかとか、リリスの好みのタイプとか聞きたくない?
聞きたくないって言われてもリリスが勝手に喋っちゃうけどね」
わざと感情を逆撫でするような言葉をつらつらと述べるリリス。
「あ、言い忘れた。オオカミ軍団の中にはアナタの知り合いもいるかも? いたらある意味超ラッキーだね!!
なんならその人が死んでもリリスが生き返らせてあげようか?
でも、せっかくだし、可愛い女のコ同士、禁断の愛を育むのもいいかな〜って思うんだよね。リリスは応援してるよ」
リリスは愉快でたまらなかった。乙女達の奥から流れてくる穢れなく、それでいて醜い本性が心地よかった。
ショーが始まったら、きっとこれ以上の快楽を味わえるのだろう。リリスは。
「それじゃ頑張ってね!! 合言葉は『愉しくイヤらしくイカせ合い』……ねっ」
「ちょっ……!!」
やっと抗議の声があがったのも無視して、リリスは強引に悲劇のヒロインたちを狂気と快楽の香りでむせ返る舞台へと送る。
「ちょーっと強引過ぎたかなぁ……ま、いっか!」
誰もいなくなった部屋に、愛らしい笑い声が響く。
――さあ、アブナイ官能戦闘劇のはじまり、はじまり――
【アリーナ(DQ4) 脱落】
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